プロトコル・オブ・ヒューマニティ

著者 :
  • 早川書房
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感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152101785

作品紹介・あらすじ

身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーの護堂恒明は、事故で右足を失いAI制御の義足を身につける。彼は、人のダンスとロボットのダンスを分ける人間性の手続き(プロトコル)を表現しようとするが、待ち受けていたのは新たな地獄だった――。

感想・レビュー・書評

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  •  時代設定が2050年代でAI技術が発達していることを除くと、SF要素はあまりない。
     
     事故で右足を失った若いコンテンポラリーダンサーが主人公。彼はAI制御の義足を身につけることになる。彼の父は高名はダンサーであり、彼も父を追って身体表現の高みを目指していた。

     その父親が交通事故を起こし頚椎を痛め、同乗していた母は亡くなってしまう。さらに父親は認知症が出始め、一人で介護せざるを得なくなる。なにやら重苦しい展開になり、読み続つけるのがしんどくなった。自分も親の介護の経験があるので、主人公の気持ちが痛いほどわかるのだ。あとがきを読むと、作者も親の介護を経験したとのこと。

     主人公は親の介護に苦悩すると同時に、人のダンスとロボットのダンスを隔てる「人間性の手続き/プロトコル」を表現しようと苦悩する。SFというよりは、純文学の香りがする。
     
     ☆はあくまでSFとして読んだ評価です。第54回星雲賞、第44回SF大賞受賞作。

  • 熱、の一冊。

    人は何かを表現する時こんなにも熱を発するものなのか。

    時は近未来2050年。

    事故で片脚を失くした主人公がダンサーとしての再起をかけてAI制御の義足と共に人間性の表現を模索していく物語は明るさは皆無、容赦ない地獄の連続。

    認知症の父との関係は決して絵空事ではなく現実問題として心を殴打すると同時に、ダンス、対極にある父と息子、数々の融合がそれこそ言葉による"速度"と"距離"の熱で圧倒してきた。

    今、この想いを伝えたいという熱、それはAIと共存はできてもその部分は譲れない、人間だけが持ち得る権利だと思う。

  •  人間性とは何かを問うたSF。
     伝説的な舞踊家を父に持つ新進気鋭のダンサー護堂恒明は、事故で右足を失ってしまう。一時はダンスの夢をあきらめかけた恒明だったが、高度なAIを搭載した義足と出会ったことで、人とロボットによる新しいダンスを創造するプロジェクトに参加することになる。
     人間によるダンスとロボットによるダンスを分けているものは何か。おそらく人間にしか無い内面的な人間らしさを伝える手続き(プロトコル)が存在するはずで、それをロボットとも共有して再現したいと主張する友人のカンパニーに参加した恒明は、地獄のような特訓の日々に没頭する。
     そんな恒明を今度は、認知症になった父の介護という終わりのない絶望的な生活が待ち受ける。当初「ロボットのダンスに人間性が感じられない」と父からひどく指摘された恒明は、無意識のうちに”人間性”を何かすばらしい崇高なものとして追求していこうとしていたが、兄からも見放され独りで父の介護を背負わされて、人間性を少しずつ失っていく父の姿を目にしていくうちに、”人間性”への信頼が揺らいでゆく。

    ”介護とは、たぶん、人間性だと思っていたことをすこしずつ諦めてゆく過程なのだ。”(P.204)

     片足をなくした恒明のダンス表現へのストイックな探求、人間の動作を学習し極限まで近づこうとするAIの技術的な進歩、さらに作者自身の体験を反映したと思われる、認知症の父親の介護という非情な現実が並行して書かれているが、いずれにも「人間性」とは何かという重いテーマが通底している。
     恒明の育った家庭環境も含めて重苦しい話だが、途中で出会う永遠子の存在には恒明ならずとも心が救われる。ありきたりだが、人間を人間たらしめている”人間性”は、やはり他者との関係性の中で生まれているのだと実感する。

  • コンテンポラリーダンスでの新星として未来を期待されている護堂恒明。彼を襲った悲劇。踊るために恒明が選択したAI義足。同じダンスカンパニー所属でロボット工学の会社を企業した谷口裕五の紹介で新しいダンスの道を開拓していく。
    時を同じくして振りかかる母の死、父の介護。 
    誰も成し遂げなかったダンスとAIとの融合、未知なる進化を模索する一方で、介護という生きる事の苦悩が平行していく。

    ダンスシーンの美しさも魅力。コンテンポラリーダンスに馴染みがなくても息遣いや飛び散る汗が見える気がする。

    「脳も臓器のひとつ」。そんなふうに考えたことがなかったから斬新だった。『速度』と『距離』そして『脳』、感情も緻密な数値であり膨大に集積されたそれは人間らしさを人間らしく表すものなのだと知った。
    偉大なるダンサー・護堂森は、父なんだと理解した恒明にシンクロした場面に苦しさと悔しさが押し寄せてきた。

  • 【読者モニターのゲラを読了】

    読み始めたときはAI義足とダンサーのコミュニケーションを描いた物語だと単純に思っていたが、想定外の怒涛の展開。コミュニケーションをとることの難しさが描かれていて、胸が苦しくなる場面が多々あるが、それゆえに現実としてあり得そうな話だと感じた。

    コンテンポラリーダンスとして、AI義足をつけたダンサーとロボットとの共演が試行錯誤の上でいったいどんなかたちで描かれるのか最後まで気になっていたが、クライマックスのダンスは緊張感があり、最高に惹きつけられるダイナミックな描写で、映像としても観てみたいと思えるダンスだった。

    人と人とのコミュニケーションがあまりにも身近に感じる内容で、惹きつけられ、普段SFを読まない人にも薦めたくなる小説だった。

    人と機械、人と人。いずれにしても、意思の疎通のためにはコミュニケーションは不可欠だと思う。人間性とは何かを問いかける『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』というタイトルからして秀逸だと思った。

  • ロボットとダンスをする話、と紹介を受けて読んでみた作品です
    しかしその、クライマックスに当たるロボットとのダンスのシーンが、本当に本当に凄まじかった
    該当のシーンに至るまでに辿った語り手の軌跡、苦悩、苦難、試行錯誤、があまりにも色々有りすぎた
    高度なAI制御のロボット工学の話、人体と義肢の工学も絡んだ上で、AIロボットはダンスを感じ、想像し、踊り、それは人間に対して感動を与え得るのか? という一大テーマがまずあって、そこへ絡むのが語り手の父親との相剋であり、障害でもあり、しかし導き手でもある複雑な関係性
    更にそこへ、ダンサーである語り手本人は事故により片足をAI制御機能のある義足に変えており、その足との折り合いの話もある
    人間のダンサーと、義足のメーカーエンジニアと、ロボットメーカーエンジニアと、ダンスカンパニーの主催者の新たな試みの公演は成功するのか? のチームものの話でもある
    更にそこへ語り手の父親の介護の問題、かかるカネの話、踊り手としてのままならなさ、恋人との関係、通じ合えない兄弟の溝、辛い日常の仕事、新しく始めた仕事…
    語り手の彼が考えて、取り組まなければいけないタスクのあまりの多さに読んでいてほんとに辛かった

    しかし終盤の父との共演、そしてカンパニーの公演のその瞬間瞬間は、それまで彼がぶつかって苦悩したことが思い出され報われるものだった
    すべてはこのためにあったのだ、この舞台のために! と圧巻のシーンだった
    ダンスによる人間とAIとのファーストコンタクトものと言えるのかも
    個人的に作中のこのシーンが好きだなあと思うのは、クライマックスよりも、ダンスを踊るためにしつけなければいけなかった義足が、アップデートによって、むしろ“踊りたがる”ようになってしまったところ
    義足に強く主体性があったりキャラ付けがあったりする話ではないけど、何だかすごく可愛いと思ってしまった
    父の介護に非協力的な兄は、読んでいて腹は立つものの、踊りという共通言語を持たない、コンタクトを取れない人間だって当然いるってことの象徴だったし、読み手である自分もコンテンポラリーダンスってよく分からないし積極的に観賞しようと思えない芸術なので、そこの気持ちは分からなくもない
    (もっと妄想すると、父と弟がダンスで通じ合える人間同士であることに疎外感があったりしたのではないか
    介護に非協力的だったのは、心や距離が遠いというよりは、ダンスで父を独占しているのに、介護費は分担させようとすることに腹立たしかったりして)

    あと、細かい話なんですが、上の兄弟のくせに親の面倒をみない、という長子に責任を負わせがちな罵りがなかったり、AI料理アプリやミールキットが一般的なところに何となく一番未来を感じました
    逆に言うと、その他の雰囲気にはそんなに2050年感は無いかも知れない パソコンとかスマホとか電子タバコはおそらく現在と変わらなそうだった

    そう言えば、この作者さんの作品は初めて読んだのですが、複雑に絡み合う要素がたくさんの話なのに、情報がスッと入ってくる、しかし語り手の苦悩やネガティブな感情をこれでもかと響かせてもくれる、でも、文体そのものに特徴がある読み味ではなく、印象的な一文となると不思議と思い出せない
    でも、それは悪い意味ではもちろんなく、語ることよりも、伝えること、情報伝達力に特化した作家さんなのかなと感じました

    あえて難癖をつけるとしたら
    女性のキャラが出来すぎてるいうか、面白味が無さすぎるのが気になります
    母親も恋人も慎ましく優しく理想的に支えてくれる存在で、しかも母親は亡くなる悲劇まで演出してくれるので、ちょっとモヤモヤした
    恋人は、踊らないが踊りを感じて見てくれる人で、語り手が誰より見て欲しい人で、母親は父親の心の支えでその喪失は認知症の悪化のきっかけだったのかも知れない
    だから“物語的に必要”感が強く見えて、面白くなく感じてしまう
    でもこの話は、何よりも“父と息子”の話だからそれでもいいのかな、いやでも気になるな…自分が女だから難癖つけてるだけかな、と締まりなく迷ってます

    と、そんなことを書いてて思い付いたんですが
    この話を女性が読むとしたら、作中でまさに死亡してしまう母親が自分だと思い込んで読んでみると面白いのかも知れない
    つまり、息子がダンスの稽古やバイトをめっちゃ頑張ったり、父親の介護を頑張ったりしてる
    夫はどんどん認知症が進んでしまう、息子に負担がめちゃくちゃかかっている、でも踊ることを止められない、手離せないその姿、父と息子が踊るシーンになったら号泣するな
    そして息子の晴れ舞台になると、もう目がパンパンになってしまうんだ

    ところで更なる余談なのですが、
    『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』を神林から借りたさわ子が「自分の息子と旦那だと思い込んで読むとめっちゃ面白いし泣くよ!」などと言ったら、(あいつの旦那と…息子…!!)って、しおりんがめっちゃモヤモヤすればいいなあと思ったりもしました

    • 傘籤さん
      おおお、たけうちさん『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』読まれたんですね。お忙しい中noteも読書も感想もおつかれさまです。体調は大丈夫です...
      おおお、たけうちさん『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』読まれたんですね。お忙しい中noteも読書も感想もおつかれさまです。体調は大丈夫ですか?
      クライマックスの一連の流れと筆致は胸にきますよね。心と身体が乖離してしまい、その苦悩がにじみ出ているあの文章には作者の経験が反映されているのだと思います。
      父と弟がダンスで通じ合えていることに対する疎外感という点は汲み取れていない部分だったのでハッとしました。心の距離感かあ。ちょっと『モーメント・アーケード』に近い部分がありますね(あちらの感想もとても良かったです)。
      女性の描き方については、というか与えられた役割はやや記号的だと思います。そこの部分を複雑にしていたら物語的なストレスが大きくなりすぎる気はしますが、だからこそ少し惜しい気もしてしまいますね。もっと踏み込んでほしかったなと。でもなるほど、目線を変えるとそんな読み方もできるんですね。
      たけうちさんの評を読んで、テクノロジーの発達よりも倫理観の変化の方がこの先のSFではもしかしたら重要になるのかもな、とも思いました。
      そして最後は微百合な二次創作妄想笑笑。しおりんのうろたえる姿が目に浮かびます。
      自分にとって大事な本でしたので、たけうちさんの感想を読めて良かったです。ありがとうございました。
      2024/05/18
    • たけうちさん
      傘籤さん、コメント下さってありがとうございます
      傘籤さんの2022年のベスト本として挙げられており、かつこの度日本SF大賞を受賞された今作、...
      傘籤さん、コメント下さってありがとうございます
      傘籤さんの2022年のベスト本として挙げられており、かつこの度日本SF大賞を受賞された今作、今こそ読まねばと思いました
      本文にも書いてしまいましたが、様々な要素がクライマックスの舞台と親子のダンスに集約されていく、そしてダンスのシーンの情景が臨場感を持って感じられる描写、素晴らしいです
      自分が付けてしまった難癖ですが、傘籤さんがおっしゃる通り、母と恋人に癖のある人格を乗せてしまうと、物語のストレス値が上がりますよね
      (じゃあ最初から出さなければよいのでは? と考えてみると、あまりにも殺伐とした話になってしまうから、仕方ないのか…と考えて、でもやっぱりモヤモヤしたりしてます)
      倫理観の変化やとりわけLGBTQ+への配慮などは、ここ20年ほどで急速に進んだことですよね、それこそスマホやITインフラの普及と同じ程に世の中を変えたものかも知れない(あくまで日本の片隅で思うことですが)
      今回のこのブクログ感想は、思ったことをほとんど箇条書きに近い状態で書き出してしまったもので、文章としての流れなど拙すぎますが、
      「この本は傘籤さんに貸してもらった」つもりで読んだものなので、とにかく感想をお伝えしたくて書きました ですので、楽しんで頂けたならほっとしました
      『モーメント・アーケード』も、とても素敵な作品でした!
      あちらもご紹介ありがとうございます
      さわ子としおりんの小ネタまで言及して下さってうれしいです…もうちょっと会話劇としてふくらませたかったんですが、旦那と息子がもういる上に死亡してるさわ子を想像して虚無に襲われるしおりん可愛いな…と思ったので、小ネタメモのまま書いてしまいました!
      2024/05/18
  • 人間性を表すプロトコルとは何か。AIとのダンスを通して描かれる。人と人の繋がり、その先にある生と死を感じさせながらその大きな疑問に迫っていく。

  • 恐ろしくも真面目な愛の物語。AIとの共生と理解を謳いながら、真実は理解されない人と人とのプロトコルである。父の介護の場面は涙した。

  • 事故で義足になったコンテンポラリーダンサーのお話。2050年くらいのちょっと先の将来の話で、SFにジャンルされてるけど、あくまで現在の延長としての現実的な世界観として受け入れられる。途中ちょいと都合のいい展開に読み進めるのを躊躇したものの、クライマックスに向けてのダンスの描写は素晴らしかった。

  • 主人公の声が聞こえた。身近な人の声ではないから、誰の声なんだろう(普段はメディア化されたものを先に見てしっくり来た場合でもないと、声がはっきり聞こえることはないから不思議な感覚だ)
    キャラがたっている物語も好きだけれど、そうではなくて人が描かれているように感じた。

    ダンスを観に行きたくなった。これまでより少し深く感じることができそう。

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著者プロフィール

「戦略拠点32098 楽園」にて第6回スニーカー大賞金賞を受賞。同レーベルにて「円環少女」シリーズ(角川書店)を刊行。「あなたのための物語」(早川書房)が第30回日本SF大賞と第41回星雲賞に、「allo,toi,toi」が第42回星雲賞短編部門にそれぞれノミネートされた。

「2018年 『BEATLESS 上』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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