ひとりの双子

  • 早川書房
3.88
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本棚登録 : 855
感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100900

作品紹介・あらすじ

アメリカ南部。小さな村を飛び出し、都会をめざす16歳の双子。より多くを望んだ姉は挫折とともに実家に出戻り、妹は出自の秘密に怯えながら裕福に暮らす。もう交わらないはずの2人の運命だったが――。アメリカで125万部突破、オバマ前大統領が薦める一冊

感想・レビュー・書評

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  • アメリカ南部、肌の色の薄い黒人ばかりが住む町マラード。16歳の双子、姉のデジレーと妹のステラは、母をひとり残して家を出た。14年後、姉デジレーは娘を連れて故郷に戻る。妹ステラはその何年も前にデジレーのもとから姿を消していた。いまは、白人として生きている。


    ー人種の問題ではなかった。ただ自分がなにものであるべきかを人に指図されることが気にくわなかったのだ。その意味ではケネディも母親と同じだった。ー

    ー“自分を探しに旅に出ました”と娘は書いていた。“元気にしてます。心配しないでください”
    ステラが何よりも引っかかったのは、そこに記された言葉だった。自分というのは、どこかへ行けば見つかるようなものではないー自分は自分でつくるものだろう。こんな人間になりたいと思ったら、自分でそういう自分をつくり上げるべきなのだ。ー


    いつも一緒だった双子の姉と妹、わかれた後のそれぞれの人生。その娘たち、ジュードとケネディ。そして、双子の母親アデル。
    自分が自分として生きること、暴力や差別から逃れることがなぜこんなにも困難なのだろうか。
    双子の姉デジレーの娘のジュード。彼女のひたむきさが強く印象に残っている。

  • 日本に生まれ育った人は、大抵見た目で人種を判断している。白人に見えれば白人だと思う。しかし人種というものに科学的根拠はなく、人間を人種で分けることは意味がないどころか危険なことだと考える人も増えている。アメリカでも現在はそうだろう。
    しかし、ほんの少し前まではそうではなかった。
    ジム・クロウ法(ワンドロップルール)により、一滴でも黒人の血が入れば、黒人と決まっていた。それがいかに個人や社会に浸透していて、人々を苦しめ、混乱させたかをリアルに感じられる物語だった。
    見た目はそっくり、ということは見た目はほぼ白人だった双子が一人は白人(に成りすました、と描かれる)、一人は黒人のまま生きる。それが、彼女たちだけでなく、子どもたちの人生にも影響していく。
    この小説が双子のデジレーとステラを描いただけだったらありきたりなものになったかもしれない。しかし、その子どもたちまでを描いたから、深みのあるものとなっている。一人は「タールベイビー」と呼ばれるほど黒く、一人はブロンドでスミレ色の瞳を持つ。この二人の人生が何度か交わるところが妙味となっている。
    黒人同士で色が薄い方が価値があると考える、なんて聞いたらバカバカしいと感じるかもしれない。しかし、じゃあ私たちの中にそういう感覚はないか?あるだろう。私たちだけでなく世界のあらゆる時と場所でも。そんな差別意識を炙り出す作品でもあった。

  • アメリカ南部のマラードは、白人のように色の白い黒人が住む町だった。地図にも載らないほど小さなその町に住む美しい双子の姉妹デジレーとステラは、16歳のとき町が記念日の行事に浮かれている間に二人で家出をする。決して戻ることはないと思っていたが数年後、姉のデジレーは幼い子どもを連れて町へ帰ってくる。その子はデジレーには似ず、黒い肌の娘だった。
    妹のステラは、白人として生きようと姉も過去の一切も捨て金持ちの白人男性と結婚していた。互いの今を知らずに、それぞれの場所で生きる双子だったが、その娘たちが偶然に出会う。

    アメリカ建国以降続く人種の問題だけでなく、性同一性障害やDVなど、さまざまな社会問題をバックボーンに双子のファミリーヒストリーとして展開していく。偶然性に頼るシーンもない訳では無いが、ドラマチックな展開だった。

  • 「色の薄い黒人たちが暮らす町」で生まれ育った双子の少女。
    自由を求め家出同然に都会に出る。
    「白人」として生きる2人の道はやがて分かれ、全く別の生き方を始めるー。
    黒人差別があまりにも染み付いてしまっているアメリカ。差別があらゆる場面で顔を出す。
    『ビラヴド』と比肩する傑作。

  • 静かな場所でゆっくり読みたい本。読後は読書を満喫したーという充足感に満たされた。
    白人と黒人の混血により、肌の色の薄い黒人一家に生まれたデジレーとステラの双子の半生を縦軸に、人種や貧富、性差といったテーマを横軸に自分らしく生きることとは?を鮮やかに描き出した作品だ。
    見た目がそっくりの双子だが、共に都会に出た後で姉は黒人と結婚し、肌の黒い娘と故郷に戻り、妹は白人と結婚して白人として裕福な生活を送る。全く異なる人生を歩む双子だが、やがて二人の娘を通して交錯し始める。
    明らかな人種差別や暴力の描写は多くないが、白人になりすますステラの場合は、一見恵まれた生活を送っていても、自分や父の悲惨な最期の記憶とともに忘れ去ったはずの黒人としての過去に恐れや苦悩を抱いている。
    明らかな暴力や差別の形をとるその水面下では、こうした断絶に苦しむ人々がいるのかもしれないと、そしてそれは今も複雑化して続いているのだろうと感じた。

  • なんというかクラシックな、小説らしい小説、小説の善さみたいなものがつまった小説だった。
    色の白い黒人が白人になりすます「パッシング」という行為がキーとなるのだが、人種差別を描いた作品にしては、そこまで過酷な展開にならず(それでほっとするのがいいことなのかはわからないけど)、二組の母娘、それを取り巻く人々の喜びや悲しみ、希望や挫折が丁寧に描かれる。トランスジェンダーのリースとジュードの恋も、ステラとケネディのすれ違いながら求め合う母娘関係も、良かったなあ…。ザリガニの友廣純さんのしっとりとした訳が合っていた。
    終盤、ケネディから「自分を探しに旅に出ました」という絵葉書が届いて、ステラが「自分というのは、どこかへ行けば見つかるようなものではない―ー自分は自分でつくるものだろう。こんな人間になりたいと思ったら、自分でそういう自分をつくり上げるべきなのだ」って思うところが印象に残った。これは「そして、娘はすでにそうしていたのではなかったか?」と続くんだけど、ケネディだけじゃなくステラも、というかこの作品に登場する人たちはみんな、必死にそうやって生きていたんだよね。

  • 4.19/387
    『自分らしくいるために嘘をついた。
    それは、許されない罪なのか。

    アメリカ南部、肌の色の薄い黒人ばかりが住む小さな町。自由をもとめて、16歳の双子は都会をめざした。より多くを望んだ姉のデジレーは、失意のうちに都会を離れ、
    みなが自分を知る故郷に帰った。妹のステラは、その何年も前に、デジレーのもとから姿を消していた。いまは、誰も自分を知らない場所で、裕福に暮らしているという。白人になりすまして。

    いつもいっしょだった、よく似た2人は、分断された世界に生きる。だが、切れたように見えたつながりが、ふいに彼女たちの人生を揺さぶる。

    人種、貧富、性差――社会の束縛のなかで、懸命に生きる女性たちを描く感動長篇。』(ブックカバー解説より)


    冒頭
    『消えた双子のひとりがマラードの町に戻った朝、ルー・ルボンは一刻も早くそのニュースを知らせるべく、食堂へと駆け込んだ。このときのルーの慌てっぷりは、それから何年も経ったいまでも人々の記憶に残っている。』


    原書名:『The Vanishing Half』
    著者:ブリット・ベネット (Brit Bennett)
    訳者:友廣 純
    出版社 ‏: ‎早川書房
    単行本 ‏: ‎480ページ
    ISBN‏ : ‎9784152100900

  • 本作で「パッシング」(白人なりすまし行為)というものを初めて知る。そして比較的肌の色が白いことや教養を誇りとする黒人エリート集団がおり、選民意識をもって黒い同胞を蔑むが、白人視点では彼らも差別対象であることに変わり無いのが現実。ルーツの否定や自己欺瞞の必要性を感じさせる社会的土壌が丁寧な描写で伝えられる。

    人種やアイデンティティを深く掘り下げた物語と、解説で取り上げられたオバマ元大統領のリベラリズムの上滑り感の説明を読んで、オバマ後の分断の潮流を納得。そうか、リベラルな人たちはオバマを見ることで、下層に属する人々の過酷な実態を見ずに済むと思い違いしているゆえ、そんな欺瞞に対するカウンターがトランプだったのか。(いまさらの理解)

    そしてこれはアメリカに限った問題なのだろうか。日本で生まれ育って日本語を話すのに、見た目や親の出生で判断される人々の存在を思うと、他国の物語というだけでは割り切れない。また、自分がマジョリティであってもマイノリティであっても、差別する側になりかねないという加害性の内在を改めて思わされた。

    蛇足だが、さまざまな登場人物たちはどんな容姿イメージなのだろう…と調べたら、myCastというサイトでファン投票による理想のキャスティングリストがあり、アップされた俳優たちの写真で脳内キャスティングを楽しめたので、興味ある方はぜひチェックを。

  • 小さな町を出ていった双子のふたりの半生と、それぞれの娘たちの生きざまを静かな筆致で描いた物語です。彼女たちのその生きた旅路には、派手な事件やどんでん返しがあるわけではありません。ただ、目の前にあるさまざまな差別や偏見と対峙し、ひたすらに自分らしさをつかみとって、握りしめて、生きていこうとする姿だけが描かれています。そしてそれが、静かに確かに、胸を打つのです。

    今もなお黒人への差別はアメリカに根強く存在していることは遠い日本でもよく伝わるほどです。けれど時代を遡れば、それはむしろ区別とでもいうような、同じひととしてすらみなさないようなむごさを伴うものでした。そんな時代を生きぬいた彼女たち一人ひとりが直面した「当たり前」の厳しさが、あまりにも辛い、と感じました。

    自分らしくあるために、選んだこと、選ばなかったこと、あきらめたこと、つかみとろうとしたこと。それらの欠片すべてがあわさって、今の自分を形づくっている。

    心臓はただの拍動する臓器だけれども、無限の感情と行動を生む基礎となっているように、彼女たちが共通する「礎」を持っていても、無限の可能性と生き方が存在する。そしてそれを、この物語は温かく描き、それらを肯定している。苦しみもがきながら生きている人々へ寄りそう様なお話だと、そう思いました。

  • おもしろかった。黒人差別について、あまり詳しく考えたことも知ることもなかったから、こんなに差別が浸透していた過去の現実に、読んでいて刺激された。
    白人として扱われたい黒人、男性になりたい女性、ひとつの場所に留まりたくても留まらない人、逆に留まってしまう人。何者かになりたくてみんながもがいていて、人生の長い時間をかけて自分と向き合いながら、最終的に選んできた選択の上の運命とぶつかる過程が強くて綺麗だった。

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