なぜ今、仏教なのか――瞑想・マインドフルネス・悟りの科学

制作 : 福岡 伸一  魚川 祐司 
  • 早川書房
4.06
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本棚登録 : 199
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097866

作品紹介・あらすじ

瞑想合宿に参加した科学ジャーナリストは、「マインドフルネス」の驚くべき効能と、ブッダの奥深い教えに出会う。いまこそ仏教が必要だ! 福岡伸一氏が推薦する、珠玉のニューヨーク・タイムズ・ベストセラー。解説/魚川祐司(『仏教思想のゼロポイント』)

感想・レビュー・書評

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  • 新刊で購入して5年。積ん読の山から発せられる無言の圧に耐えるという苦行に我慢できず、ついに下山をいただいた。

    著者のロバート・ライトは、いくつもの大学で授業ももつ、著名な科学ジャーナリスト。ライトは冒頭で「ことわり」として、本書は仏教を扱うが、仏教の輪廻その他のスーパーナチュラルな側面は取り上げないと宣言する。仏教、特に瞑想やマインドフルネスを、現代科学、心理学、哲学の範疇で検証するのだと述べる。そして、映画『マトリックス』でネオが赤い薬を飲む場面を挙げ、マトリックスから抜け出し、世界を新たな目で見るための「赤い薬」に仏教がなり得るという。

    執筆にあたり、ライトは論文を頭で理解するだけでなく、自ら瞑想合宿に参加もしている。ここでの体験を巧みに織り交ぜることで、科学的な検証を体験が補完して、本書の説得力が増している。

    個人的におもしろかったのは、仏教の「無我」についての論考。ライトはこれを心理学の「心のモジュール仮説」を用いて説明し、現代心理学の知見からみても妥当であると結論する。さらに、科学的なエビデンスを挙げつつ、「自己」の否定、物事の「本性」の否定へと論は展開していく。いわゆる仏教の「無色」の検証である。キリスト教文化の西欧からこんな書籍が出て、かつベストセラーになるのは驚き。そしてライトは「世界のありとあらゆる意味は、私たちが世界に押し付けている」という考えに至るのである。こうした考えはニヒリズムに直結しないかと疑問がわくが、ライトはそこも慎重に先回りして否定する。

    ライトは自然選択説や進化心理学に立つ論者として知られる。かつては有効だった感覚や反応が、現代社会では不適合となり、それが不快や苦しみの元になっている、瞑想はそれを抑える一助になる、と彼は言う。本書はGoogleやApple等、西欧のビジネスシーンでも注目される、仏教を「スキル」としてみるアプローチに近い。しかし、東洋で生まれた仏教と「西洋的な仏教」の架け橋のような書籍にも思える。またいつか読み返してみたい。

  • この本は、超絶面白かった。人生で何回も何回も読むと思う。
    いわゆる「宗教の本」ではない。科学的、進化論的視点から、仏教の考え方を解していくという内容。そこには、人間は意外と動物的な生き物であり、欲求を追い求め続けることから逃れられない姿が見えて来る。
    今、SNSの普及で他人と自分を24時間比べてしまう世界だけれど、なぜ比べてしまうのか?優位性を競ってしまうのか?それは、人間が「自己」に強く執着してしまうからだ、だとしたらどうすれば自己を手放せるのか?、というような内容だった。
    とっても面白いから、あんまり敬遠せずに色んな人に読んで欲しい。

  • とっつきにくいスピリチュアルな内容と思うなかれ。また意識高い系とも異なり、あなたに自己変革を強く訴えることもないので安心してほしい。
    この本では仏教を”人間が進化の過程で獲得してきた感情・感覚の働きのうち、現代で生きることの妨げになる部分への対処法”のようにとらえている。

    超自然的な力や形而上学的説明をのぞいたあくまで実践の道としての仏教であり、また瞑想による実証的効果を謳うものとは異なりより理論的に人間の脳の構造・働きのメカニズムの観点からアプローチしている。
    東洋の思想を西洋的な科学的アプローチをしているところが面白く、仏教の現代的な意義に迫るのに非常に重要な観点だと思う。

    また、著者は気性の激しさを自負しており、瞑想に向かないタイプの人間だと言うだけあって仏教的な素養のない読者に近い視点で語ってくれる。また著者は瞑想をある程度の期間実践してきた人であり、また仏教を修めた高名な仏教者へのインタビューも豊富であるがゆえに実践をおろそかにした視点に陥らないようになっている。


    読み進めるうちに自然の仕組みに従うのではなく人の知によって自然(自身の身体も含む)を正しく把握しときに改変することでより良い世界を目指すこの姿勢はまさに啓蒙主義的だと思ったが、最後の「用語について」で述べられていた。悟りの英訳にEnlightenmentがあるのか。
    類時点もある一方、近代の思想を超越して確固たる個人とその意思という概念と真っ向から対立するのが面白い。

    無我について:
    あくまで実践のための方便として解釈し、形而上学的な問題にはあまり深入りしていない。無我とはコントロールできないものを認め対象の自己同一化を避けることといえる。
    これは西洋近代哲学の出発点である命題と関係する点でもある。「思考はみずからを思考する」という表現をされるが、考えている自分は本当に自分なのか、考えさせられている自分を誤認していないか。

    脳の構造として、各モジュールが主導権を”争い”、”勝った”ものが感覚に作用し、行動を決定する部分がいずれかのモジュールの働きかけを受けることでその個人が対象に近づく(選びとる)、避けるを決める(ここで、意思決定をする統一的な自己がないことが集中の阻害や誘惑に負ける重要な要因)。また、モジュールの要求通りの報酬を与え繰り返すことでモジュールは強化される。

    その仕組みに従うことは必ずしも本人を幸せにしない。現代の社会がそれにそぐわないということの他、自然選択はあくまでも繁殖の論理にしたがうため遺伝情報の運び屋である本人の究極的幸せなんて、いわば知ったことではないのだ。

    そのような構造による思考・感覚の傾向から脱する方法として、その各モジュールが働きかける感覚や、その結末について自分と切り離したように観察をすることが瞑想のやり方(のひとつ)である。

    一時的にでもモジュールの働きかけから離れる、という訓練を繰り返すことで先の報酬による強化と逆にモジュールが弱まる効果がある。
    分かりやすいたとえとして、「餌をやらなければ、野良ネコは家に立ち寄らなくなる」。


    空について:
    物事を目の前にしたとき、ありふれたものでさえ無意識に価値判断や一般化を加える性質を取り払うのが空の概念である。ゆえに空を突き詰めれば物事の境界もあいまいになる。本書ではそのような価値判断などを「本質」と呼ぶ。特にそれが社会的に害となるのは、他者について善悪の性質を決めつけ、その他者の行為を客観的に見ることを阻害することなどである。

    例として、本もいわば紙とインクの塊であり、それがおいてある机となぜ切り分けられるか自明ではない。ましてや知を与えてくれるものなどという期待もない。
    逆に知覚しないものに対して判断する感覚はない。

    <私見メモ:ロドニーとの対話でも示された通り「物事の本質」の概念は物事が自己の思い通りにならないことと関係している。物事に名前をつけ、意味を持たせることはコントロールしようとする意思の表れと言えるか?>

    無我も空も似た概念であるともいえる。内向きと外向きの無我であり、モジュールの相対化、対象に対する距離の相対化とすれば同じことを言っている。


    因果について:
    悟りは「条件付けによらないもの」と訳されることがある。その条件が因果といえる。
    無我などはこの因果、関係性から説明することもできる。(まさに構造主義)

    瞑想の効用について:
    無感覚になったり無関心になったりするようなことではなく、不必要な衝動にかられることなく、悦ばしいものを選びとってよりよく感じるための方法ともいえる。
    自己はコントロールできないと理解したうえで、コントロールできる自己を部分的にせよ獲得する、ここが肝と感じた。

  • 西洋で最近、注目されているマインドフルネス瞑想。

    これを中心に、元来の仏教から神秘、神話、宗教性を取り除いて、事実として知覚できるものだけを抜き出した仏教を西洋仏教と呼び、本書内の中心に据えている。

    また、西洋の人らしく、瞑想や仏教の教えを科学的に検証し、識者や個人の経験を元に補足し、理論を展開している。

    その中には、仏教の教えを伝える例え話や寓話は一切出ず、論理と客観的事実で語られる。

    私のように仏教が宗教として根付いている民族で生きるものとしては、違和感のある捉え方に感じるところは多いが、仏教の瞑想・悟りといったよくわからないものを言葉で伝えようとしているのは素晴らしいと思う。

    特になるほどと思ったのは、
    「仏教が求めるものは、自然選択の本能に突き動かされる自分(これが苦しみを生む)を超越し、真実、道徳を見つめ、苦しみから解放である。」

    という点。

  • 瞑想と仏教のことを著者の瞑想体験から語った本!途中から分かり難い事が多くなった。

  • 残念ながら期待した内容と違ったので途中で挫折。分析よりも解釈を期待してしまった。

  • 自然選択によって利己的に躾けられた自我。本当に自我というものはなく情動と感情の複数のモジュールがその正体。それを切り離し外側から眺めるのが瞑想の力。

  • 読み疲れた。

  • 仏教の転生輪廻みたいな非科学的な部分を除いて、瞑想などを現代の脳科学や心理学の観点から解説する内容。
    期待と違ったので中止。

  • 仏教に基づく瞑想が心の平和に良い、また世界平和にも寄与する可能性があると説く。自然選択による脳の成り立ちが苦のもとであることを解説し、時にユーモアを交えていて読みやすい。中途半端な悟りを体験した著者だからこそ、一般人にも説得力がある。

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