新薬の狩人たち――成功率0.1%の探求

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097729

作品紹介・あらすじ

ケシの実から、青カビから、牛の膵臓から……人類はありとあらゆる手段を駆使して新薬をつくりだしてきた! 米国の製薬企業をわたり歩き創薬研究に長年携わってきた著者が、同志たるドラッグハンターたちの飽くなき挑戦の歴史を綴る傑作科学ノンフィクション

感想・レビュー・書評

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  • 創薬研究者による創薬の歴史を綴った本。
    ものすごい情報量でした。

    私たちが普段飲んでいる解熱鎮痛剤だったり、難病の方が飲む薬だったり、がん治療に使われいてる薬だったり、生活に「あたりまえ」にある「薬」。

    その薬が、どのように発見され、使われ、安全を確保されてきたのか。それを、創薬の最前線を見ていきた著者が、過去の膨大な歴史を踏まえて説明している素晴らしい本でした。

    この本を読んでわかったのは、私たちに役立つ薬を作るということは、ものすごくコストがかかり、ものすごく時間がかかり、そして何よりも、類稀なる発想力が必要であること。そして、時代や経済や運が全て合致していないとならないこと、でした。


    そして、思ったのは、ヒトという物体が、まだまだわからないことが多い生命体だということ。効果の理由が解っている薬もあるけれど、解っていないけど効いている薬もある…。

    少し前に聞いたPodcast「サイエンマニア」で、生命科学者のよう先輩が、人体を「オーパーツ」と表現していたけれど、本当に、人間の体の中で起こっていることは、当事者の人間すらまだ全然解っていないオーパーツなのだと…。

    創薬に携わっている医学者・化学者の方々が戦いを挑んでいるのは、わけのわからない宇宙人が作ったわけのわからない道具のようはな「人体」なのだな、というのがわかりました。


    最近聞いたPodcastの「いんよう!」で、100年後の医学はどうなっているか、というリスナーからの質問がありました。そこでヤンデル先生が、100年前はどうだったのか、と話を振っていたんですが、まさに、この本で読んだ世界でした。

    薬学の教科書である「グッドマン・ギルマン薬理書」が出版されたのが1941年。
    動物由来のインスリンが製薬として出ていたのが1923年(そしてヒトインスリンが発売されたのが1982年)。
    ペニシリンが実用化されたのが1944年ごろ。
    結核に効くストレプトマイシンが発見されたのが1949年。
    ビタミンCが発見されたのが1930年代……。

    この100年でどれだけ進んできたのか!
    現代を生きる人が「あたりまえ」と思っている医薬品が、100年前にはあたりまえではなかったことに驚かされます。


    この本は、図書館で借りて読んだのですが、後から参照したくなることがたくさんあったので、自分で買う必要がありそうな気がします。

    薬を作っている研究者の方々、薬の安全性を評価してくださっている方々、薬を適切に処方してくださっている医師・薬剤師の方々に感謝です。


    自分のために目次メモ
    ーーーー
    イントロ:バベルの図書館を探索する
    第1章:たやすいので原始人でもできるー新薬探索の嘘みたいな期限
    第2章:キンコン伯爵夫人の治療薬ー植物性医薬品
    第3章:スタンダード・オイルとスタンダード・エーテルー工業化医薬品
    第4章:藍色や深紅色やスミレ色ー合成医薬品
    第5章:魔法の弾丸ー薬の実際の働きが解明される
    第6章:命を奪う薬ー医薬品規制の悲劇的な誕生
    第7章:新薬探索のオフィシャルマニュアルー薬理学が科学になる
    第8章:サルバルサンを超えてー土壌由来医薬品
    第9章:ブタからの特効薬ーバイオ医薬品
    第10章:青い死からβ遮断薬へー疫学関連医薬品
    第11章:ピルー大手製薬企業の外で金脈を掘りあったドラッグハンター
    第12章:謎の治療薬ーまぐれ当たりによる薬の発見
    結論:ドラッグハンターの未来ーシボレー・ボルトと「ローン・レンジャー」

  • 低分子から、中分子、遺伝子・再生、と新規モダリティの探索が進められている話を最近気にしているが、そもそも「低分子」の前はどうであったのかを知りたくなり、読みました。事前の期待以上に、知りたかったことをレビューできてよかったです。

  • めちゃくちゃ面白かった。薬学を半年しか学んでいない自分でもすでに授業で取り扱われるような有名な薬の生い立ちが描かれていて熱中した。ただドラマチックに書きすぎなところもある気がしてほんとに?ってよくなった。
    薬学の起源、創薬の起源を知りたい人におすすめ。内容もさほど難しくないので教養として読んでもいい。
    ピルの創薬の話はほんとワンピース感があった

  • このタイトルで、著者はみずからを「ドラッグ・ハンター」と称する。
    そんなところからもっと煽情的な内容を予想して(、なんとなく手が伸びなかっ)たが、実際の筆致はごく真面目で落ち着いたものだった。時代もかの「エッツィ」の昔から始まり、歴史の中の薬理学、化学、そして医学を、エポックメイキング的なトピックを取り上げて説いていく。内容はむしろ文系的で、いわゆる「亀の甲」に精通している必要もない。植物→微生物→合成→バイオと移り変わり発展していく薬の歴史を一望し、その先にある未来への展望まで網羅した良書。
    巻末の訳者(女性)あとがきでピルの項が必読として挙げられているのに対し、男性による解説では言及なし。さもありなん、と思った。

    2019/12/18~12/24読了

  • 日本語の副題「成功率0.1%の探求」とあるように、現在の新薬探しはビジネス的に成功する確率が非常に低く、さらに巨額の研究費が必要でほとんどの努力が無駄に終わることが多い。実際、創薬プロジェクトのうち、経営陣から資金を提供されるのが5%、そのうちFDAに承認されるのはわずか2%だそうだ。本書は、新薬を見つけ出すのがなぜ難しいか、新薬がなぜ法外な値段で売られているのか、新薬探求や創薬の歴史を振り返りながら解説している。

    ノバルティス、バイエル、メルク、エフ・ホフマン・ラ・ロッシュ、ベーリンガーインゲルハイム、ヘキストなど、名だたる製薬会社がなぜライン川沿いに本拠地を置くかにもふれている。19世紀後半、合成化学による合成染料産業の勃興と関係ある。

  • 薬学概論の教科書として最適な本。薬学部に入学して最初に読むと良いなぁと感じた。創薬を目指す若手研究者にもオススメ。

  • 新薬の開発はますます困難になってきており、ファイザーのようなメガファーマもこの頃では創薬からは手を引いて他社が作った薬の導入に専念したいと考えている。ここまで薬剤はどのようにして見つけられ(作られ)てきたのか、わかりやすい歴史的背景と豊富なエピソードで描かれた良書。

    ・薬剤の創造は当初は自然にある物質をそのまま使っていた。アヘンからモルヒネが合成され、さらにその誘導体としてヘロインが作り出された(日本におけるアンフェタミンのように当初は依存性のない薬として市販されていた)。ペルーのキナの木の皮からはキニーネが合成された。

    ・次に純粋に工業的に製造される時代が始まり、エーテルが麻酔薬として用いられるようになった。高価な塗料(巻き貝から作るティリアン・パープルやカイガラムシから作る深紅)の染料を作ろうとする中で、化学物質の構造を少し変えるだけで劇的な変化が起こることが知られるようになり、合成化学による創薬の時代が始まった。サリチル酸はすぐれた抗炎症作用を有するものの、胃痛や耳鳴り、吐き気などの副作用が強く使いにくい薬であったが、これにアセチル基を付与することでアスピリンが合成された。

    ・さらに、受容体仮説が提唱され、分子レベルで標的を定めた薬剤合成の時代が始まり、サルバルサンが作られた。

    ・そしてペニシリンが発見され、土壌由来の医薬品、特に抗生物質が大きなトレンドになった。当初はペニシリンは極めて貴重であったため、患者の尿は一滴残らず回収され、ペニシリンはリサイクルされていた。

    ・その後、分子生物学の発展により、大腸菌でインスリンが合成された。

    ・ピル、壊血病とビタミンC、セレンディップな抗精神病薬の発見

    ・グッドマンとギルマンはもともと大学の同僚であったが、ギルマンの方は息子をアルフレッド・グッドマン・ギルマンと名付け、この息子はGタンパク受容体に関する研究で1994にノーベル生理学賞を受けた。

  • 薬に関わるものとして、非常に面白く読んだ。解説にも書かれていたが、医薬品にまつわる経緯をこれだけ集めて、比較的分かりやすくまとめた本はなかなか無いと思う。植物からの薬の発見に始まり、化学合成のこと、抗生物質のことなどが製薬会社の動きなどと合わさって展開していくのは、ためになるところも多かった。

  • 創薬の歴史がノンフィクションで解説されている。認証制度がなく、薬が人的被害を出した事例にも触れられている。

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB26203547

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