それまでの明日

著者 :
  • 早川書房
3.37
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本棚登録 : 843
感想 : 155
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097484

作品紹介・あらすじ

私立探偵・沢崎のもとを訪れた紳士が持ち込んだのはごく簡単な身辺調査のはずだった。しかし当の依頼人が忽然と姿を消し、沢崎はいつしか金融絡みの事件の渦中に。14年もの歳月をかけて遂に完成したチャンドラーの『長いお別れ』に比肩する渾身の一作。

感想・レビュー・書評

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  • 原尞の小説を初めて読んだ。今まで読んでいなかったことは非常に幸せなことだった。なぜなら、これからいくつもの原尞の小説を読めるということだから、なんてね。こんな気障なことを言いたくなるくらい面白かった。小説に描かれる事件じたいは、とりたてて興味深いという程のものでないが、何といっても主人公の沢崎が素晴らしく魅力的だ。ユーモアと毒舌、そして禁欲的な人物造形がいい。次の場面で、他の登場人物たちとどんな会話をするか心待ちにさせてくれるのだ。上手い、実に上手い!

  • 2021/12/23読了
    このミス作品73冊目

    ハードボイルド探偵もの。
    失踪した依頼人を追う。
    途中まですごく面白かったんだけど
    終盤の伏線回収が理解不能で
    尻すぼみ感が強くて残念だった。
    このミス1位かぁ、、て感じ。

  •  こんなに長い間待っていた作品は他にない。

     外れのない正統派和製ハードボイルドの書き手による、シリーズ長編第5作。前作から実に14年。時に書けない時もあったろう。書けなかった事情もあったろう。そもそも一行一行に重みのある文体である。正統派チャンドリアンを自称する作家である。簡単に軽い作品を量産されても困るが、こんなに待たされるのはやっぱりやきもきする。だから新作が出るぞ、という噂だけで、ぶるっと震えた。

     1988年に『そして夜は甦る』で、驚愕のデビューを果たした。その後、第二作『私が殺した少女』で当然のように直木賞を受賞。短編集『天使たちの探偵』を挟んで、次の長編まで5年のブランクがあって『さらば長き眠り』、次は9年のブランクを置いて『愚か者死すべし』。そしてその後は、14年の沈黙であった。

     すべての作品が、西新宿の古ビル二階を根城とする探偵・沢崎のシリーズであり、フィリップ・マーローの如く一人称でのハードボイルド文体を、絶対の特徴とする。姓はあるが、名は与えられていない。シリーズ常連のヤクザ、常連の刑事などが、たいてい登場しては、火花の飛ぶようなやりとりを交わす。依頼された仕事の奥深く、沢崎は闇の中に単身乗り込んでゆくことになる。事件はたいてい錯綜して、見た目通りではなく、裏また裏のあるプロットである。アクションよりも、調査で複雑な事件を紐解いてゆくタイプの、いわゆる正統派私立探偵であるが、生きる姿勢はタフでハードである。

     本書では、依頼人は一度の面会を機に、何と行方不明になってしまう。依頼人を追う沢崎は、金融会社の強盗事件に巻き込まれる。攪拌された新宿の街では、それ以降、男たちや女たちが奇妙な動きを見せる。沢崎はあちこちを突つき回り、真実を炙り出す。

     さすがに、沢崎も日産ブルーバードにはもう乗っていないが、携帯は相変わらず身に着けず、電話応答サービスを使っては、馴染みの交換手と声だけの交流を持つ。孤独な探偵・沢崎、健在なり。一ページ一ページが愛おしく思える、そんな完全性を持つ文章を、しっかりと読み進めてゆく。読書の歓び、ここに極まれり! 成熟したペンが生み出す情感は、他にはあまり見られない類いのものである。

     この作品のラストは、大変衝撃的である。ああ、そうだったか。この年だったか。思い当たる現実世界のできごと。そしてなぜ本書がこの時期、この季節に出版されたのかがわかった。なので、ぼくは、出版から一年も経つ今頃になってのこのこと、この日この月に、本作品をレビューすることに決めたのだった。

     多くは語るまい。魂が震える作品である、とだけ言っておこう。

    追記:当然のように本作は『このミス』の一位作品となりました。

  • 話としてべらぼうに面白いわけではなく、沢崎の減らず口の話芸にかかっている。

    「用事しないと、悪態も依存症になるぞ」
    「それはおまえのことだ。先生が悪いので、こっちはまだ初心者だ。」

    警察にも暴力団にも足蹴にされ卑屈に生きていくには減らず口と自嘲しかない。そのフォーマットはチャンドラーの時代からかわっていないのに、いまだに生きている。それどころか
    「本屋さん大賞2018年4位」「ミステリが読みたい!2019年版 1位」「文春2018 ミステリベスト2」「このミス2018 1位」
    という堂々の評価。
    古典芸能として認知されてるミステリ界の層の厚さを感じますね。

  • 本当にハードボイルドなんだなぁと読み始めて直ぐに実感。
    ちょっとくすぐったいような湧き立つような気分で読み進めた。
    様々な要素が絡まり合って何を追っているのかもわからない探偵だが、次第に事件が整理されて行くのが気持ちいい。ハードボイルドって会話が重要なんだなあ。書くの大変そう。
    全て解決して、新しい出会いもあった探偵だが、クールに孤独を貫く姿勢にニヤニヤしてしまった。
    ただ最後はちょっといただけないかなあ。

    探偵のデビュー作「そして夜は蘇る」も読んだ気がするのだが、再読してみようと思った。楽しみが増えた。

  • 探偵沢崎シリーズ、6作目、長編としては5冊目は14年ぶりとなる。
    沢崎は14年経っても携帯も持たず、そして話は2011.03.11以前の話である。

    前作とのブランクの間に原尞が好きだった父は亡くなった。父が読んだらどう思うだろう。
    結構衝撃的な結末はすぐにでも7作目を読みたくなるようなものである。

  • 私立探偵・沢崎シリーズ。14年ぶりの新作ということは、読者である私もそれだけ歳をとるわけで、なんだか感慨深い。シニカルな物言い、冷静な分析…そうだ、沢崎はこういう探偵だったと、すぐに記憶が蘇った。ハードボイルドの王道宜しく、沢崎の一人称で語られるのがこのシリーズの特徴。それはつまり、読者に対し嘘はつかないにしても、沢崎が語らないこともあるということ。そのズレが肝である。面白い。ただ、やはりこの10年の時代の変化が激しすぎて、作品が少し古い感じはする。ちなみに、個人的に探偵・沢崎のイメージは、なぜか作家の沢木耕太郎である。

  • 沢崎シリーズ最新作。
    『14年もの歳月を費やして遂に完成した』という煽り文句の割には内容が薄いなとは感じたが、それでも久しぶりに皮肉屋の沢崎探偵に再会してこのシリーズの雰囲気を味わえたのは良かった。
    昭和の遺物のような沢崎や、錦織警部や、ヤクザの橋爪も健在で何より。
    スマホどころか携帯すら持たない沢崎がこの現代で探偵としてどのように生業を成り立たせているのか、電話サービスの〈T・A・S〉は伝言サービスだけでは商売が成り立たないだろうから他のどんなサービスを提供しているのだろうかとか、そんなことはともかく、平成も終盤に入っているらしいこの時代設定でも激しい違和感なく入っていけたのは、一方で海津という少し落ち着きのあるものの現代らしい商売をしている青年や、それなりに時代に順応しているらしい田島警部補や、これから探偵業に入っていこうとしている若者や、ヤクザ業から一旦身を引こうとしている相良など、それなりに時代も感じさせているからだろうか。
    沢崎の周囲だけ時が止まっているという訳ではなく、時の流れも感じつつ、置いてきぼり感も時代に逆らっている感もなく、沢崎は沢崎らしいやり方で探偵業に従事しているということが分かった。それに沢崎が調べるのは現代ではなく過去なので、その辺りも馴染みやすい理由かも知れない。
    ただ最後の演出はいただけない。あの震災後、猫も杓子もと言った感じで様々な作家さん方がそれぞれの作品の中に震災を取り入れようとしていたけれど(もちろんそれだけ衝撃的な災害だったからではあるけれど)、何もここでそうしなくても良いじゃないか、と思った。特に海津の結末がそうなってしまうならばあまりにも悲しい。
    これがこのシリーズの完結編となるのか、それとも次が沢崎最後の事件となるのか。
    何れにしても昭和の遺物の沢崎が時代に入り込める余地があるうちは探偵でいて欲しい。

  • 著者の作品を初めて読ませて頂きました。グイグイと物語に引き込まれてしまう会話と描写の妙。強盗事件が主たる線かと思えば軽くいなされ、親子や家族の関係性をそこはかとなく描き、かと思えば最後まで何も明らかにならないのに成程そうだったんだと思わせる、語らずの妙。軽妙な会話も嫌味なところが全くなし。ひとつだけ難点かなと思ったのは、海津くんの好奇心の塊のような行動力が少し嘘っぽいと感じたこと程度。もう文句無しの作品。柔らかなハードボイルド作品。また順番は逆になりましたが、沢崎探偵シリーズを最初から読みたいと思います。こういう作品があるから読書はやめられないんですな。

  • 14年ぶりの探偵・沢崎。金融会社の支店長からある料亭の女将の身辺調査の依頼を受ける。女将はもう亡くなっていたし、支店長に連絡も取れない中、事件に巻き込まれ。事件と依頼の真相は…。春樹訳のチャンドラーに慣れてしまっているのか、読んでいてなんか変な感じ。比喩とか会話とかも嫌いではないし、作者の年齢もあるが昔を感じさせるところは、それはそれでよかったのだけれど。事件真相はスパッとしなかった…雰囲気で楽しんだかな。これからも書いて欲しいんだけれどね。シリーズでもう少し読みたい。14年は長かったよ。

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