ぼくらが漁師だったころ

  • 早川書房
3.84
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097149

作品紹介・あらすじ

ナイジェリアの小さい町に暮らす四人兄弟。厳しい父が不在の隙に兄弟は学校をさぼって魚を釣りに行く。しかし川のほとりで出会った狂人は、長男が兄弟の誰かによって殺されると予言した――九歳の少年の視点で生き生きと語られる、闇と笑いに満ちた悲劇の物語

感想・レビュー・書評

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  • 1990年代のナイジェリア。近所で有名な狂人の予言に囚われて家族が崩壊していく。
    最初はそんなに深刻に考えていなかったのだけど、気付いたら坂を転がる勢いで、早く誰か止めてと思いながら、どうなるのか気になって目が離せなかった。
    文化や思想が異なる人の考え方を自分の物差しでは測れないのは分かっている。倫理観も違う。
    それでも、冷静になれ、そんなの馬鹿げてると一蹴したくなってしまう。
    それに兄弟はまだ十代前半なのだから心が揺らいで当然で、そんな考えは捨てろと、大人に強い言葉で引き留めて欲しいと願っていた。
    最後には少しだけ希望らしきものを感じるものの、起きてしまったことを帳消しにできるとはとても思えない。その希望は、過去を背負わない弟たちのものだと思えて寂しかった。

  • 憎しみは蛭だ。人の皮膚にくっついて栄養を吸い上げ、精神から活力を奪う。

    アブルに毒を飲ませても死ななかった時
    無傷の親指を血溜まりに浸して血まみれにすることと、親指が切り傷の血で濡れることは全く違うと理解したはずだ。

    やはりアフリカ文学ってことで、考え方とかがまるで違うと感じた。そしてそれ故に読みにくい部分は確かにあった。ただ、あとがきの部分を読んで納得した。狂人であるアブルの登場は、ナイジェリアからみたイギリスであり、ここに対比が存在する。エンタメを楽しむには、それ相応の知識や経験が必要なのだと強く感じた。しかし、アフリカ文学も面白いということを発見できたのは大きな収穫。ジャンルや国に囚われずにこれからも本を読みたいな

  • ★憎しみは蛭だ。人の皮膚にくっついて栄養を吸い上げ、精神から活力を奪う。人をすっかり変えて、最後の一滴の平穏を吸い尽くすまで離れない★

    ナイジェリアの作家さんということで、その国の政治状況とも関連づけられながら書かれたこの作品は、ナイジェリアの国そのものを投影しているようだった。

    登場人物の性格や人柄を虫で例えているのが、とても生々しく繊細だった。

    憎しみが心にへばりついて剥がれなくなっていき、一方で倫理観も持ち合わせており、憎しみに染まりながらも倫理観に従わんとする葛藤が絶妙で、高潔だった。

  • アフリカの呪術的な要素がずっと根底にある。
    予言が的中していくおどろおどろしい雰囲気はたぶん独特のものなんだろう。
    やし酒飲みや崩れゆく絆やらがアフリカ文学の名作として知られているけど、こういった作品ももっと知られても良いと思う。

  • 著者はナイジェリア生まれ。キプロスで学業を修め、その後、アメリカ・ミシガン大学大学院で創作課程を修了。現在はネブラスカで教鞭を取りつつ、創作活動を続けている。

    本作は、1990年代のナイジェリアを舞台に、ある一家を襲った壮絶な悲劇を描く。
    物語は11歳の四男坊ベンジャミンの目を通して語られる。
    一家の父は厳しく強い父である。たくさんの子供を持ち、子供たちがそれぞれ成功することを望んでいた。兄3人も、ベンジャミン自身も、弟・妹も、晴れがましい道を進むはずだった。
    だがその強い父が仕事の関係で家を離れた隙に、一家に不幸が忍び寄る。

    主人公一家を襲った悲劇の発端は、4兄弟が「漁師」になったことだった。父の不在をいいことに、学校をさぼって川で魚釣りに興じるようになった兄弟。何となく後ろ暗く、もう魚釣りはやめようと思い始めていた14歳の長兄イケンナに向かって、街の狂人が不吉な言葉を発する。その言葉はイケンナに呪いのようにまとわりついて離れない。

    イケンナの躓きの背後にあるのは、思春期のクライシスのこじれのようにも見える。
    頼もしい存在と見られているが、実際は繊細で複雑な内面を持つ子なのだ。周囲のすべてに苛立ち、それまでの価値観がぐらぐらと揺らぎだし、優しい言葉を掛けられても素直になれない。ふとしたきっかけでねじくれてしまった心を立て直すには、少しだけナイーブで不器用すぎたのだ。
    1つずれた歯車は、自然にもとに直るどころか、齟齬が徐々に増幅されてゆく。

    父権の強い一家の転落という点では、同じイボ族の大作家、アチェベの『崩れゆく絆』を思い出させる。
    この物語はどこか、神話のようでもある。
    イケンナの運命はもう決まっていたのだ。シェイクスピア悲劇のように。
    狂人の禍々しい予言がそれを告げる。ギリシャ悲劇のように。

    有史以来、人は数々の理不尽な運命に翻弄されてきた。それぞれの出来事に理由はない、のかもしれない。けれど、人は不条理な不幸に向かって叫ばずにはいられない。
    どうして。
    理屈と感情の狭間に、物語は生まれる。

    「ぼくらは漁師だった」「父さんはワシだ」「イケンナはニシキヘビだ」「イナゴは前触れだ」「憎しみは蛙だ」
    著者はアニミズム的に動物とヒト、出来事とモノを重ね、詩情豊かにストーリーを紡いでいく。
    起こったことだけをなぞれば実に救いのない話だが、豊かな語りは大河のように満々と水をたたえる。
    イボ語、ヨルバ語、英語、と散りばめた言葉の多様さが、ナイジェリアのリアリティを醸し出し、物語に複雑な味わいを加える。

    終盤に向かい、一家を襲う悲劇は留まるところを知らず、語り手のベンジャミンも呑み込みながら破滅の一途をたどる。
    だが、奈落の底に落ちていく一家のその中から、白鷺が舞い立つ。
    そう、世に理不尽はある。けれどまた、救いもあるはずなのだ。

  • 今年の私的翻訳大賞に選びたい素晴らしい小説。物語の強烈な面白さと共にナイジェリアという国への扉を開けてくれる。1986年生まれでアディーチェと同じナイジェリア出身、フランス語で書いているそうだ。日本語で読める機会を与えてくれた翻訳者に感謝だ。
    狂人の運命的な「呪い」に絡めとられた一家の悲劇が描かれる。ギリシャ神話のような宿命、逃れられぬ死。ラストも、まさか語り手の少年の運命までここまでとは…と驚愕した。
    ナイジェリアという国と結びつけるのは安直だろうが、物語の背景として描写される軍事政権、民族対立、危険や死、といった体験が、この壮絶な物語を生んだように思う。「路上にいる狂人」が珍しい存在ではない街でも、汚わいにまみれ死姦し、血まみれになっても毒を盛ってもしぶとく生き長らえるアブルはただの狂人ではない。作家は「悪魔のような存在」を、血肉を与えられるリアルな存在として感じていたのだろう。
    こう書くと暗い重い小説のようだが、トーンは軽やかでどんどん読めてしまう。

  • 普遍的な家族の絆とその崩壊の物語です。
    作者自身がきょうだい愛や家族の絆について思いを巡らせるうちに,その対極の最悪の状態とはどういうものか?と想像を膨らませた作品だそうです。辛いお話でした。

  • 最初はアフリカの馴染みのない文化、思想、そして人名や地名に困惑。
    わんぱくな4人兄弟の日常描写が狂人の予言を受けてからガラッと不穏な空気になり、あれよあれよと悪い方向に転がり落ちていく。やめてくれぇ、、、許してくれぇ、、、と思いながら読みました。
    少年たちのまっすぐさ、葛藤、未熟さに胸がギュッとなった。
    良い本を読んだなぁ。

  • 表現力が素晴らしい。

    どんどん絶望的になって行く家族の状況に、「なんでこの本読んでるんだっけ…」と思いながらも読み進め、でも読後感は悪くなかったので良かったです…。

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