私の名前はルーシー・バートン

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152096814

作品紹介・あらすじ

予想外の長期入院をすることになった三十代の作家。夫や幼い娘たちと離れ孤独に苦しむ彼女のもとを、疎遠だった母が訪れる。そして二人はぽつぽつと言葉を交わしはじめる。日常にひそむ様々な感情を繊細に描く傑作小説。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー

感想・レビュー・書評

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  • 私の名前はルーシー・バートン

    思いがけず長期の入院をすることになったルーシーに母が田舎からでてきて彼女を見舞う

    疎遠だった母との他愛のない会話を交わした五日間が忘れがたい思い出となる

    ん〜ン、特に何かが起こるということもなく娘と母の昔を回想する思い出話って感じかな…

    短い物語なのでサクッと読み終えます

  • 1980年半ば、ニューヨークの病院に入院していた作家のルーシー・バートンのもとを訪れた母親との取り留めのない会話とルーシーの追憶を交えて綴られた物語。母親が無雑作に話す知人のゴシップや懐旧談に反発を覚えながらも気分を害さぬように相槌を打つ心の機微がさり気なく描写され、母娘の情緒面での軋轢を窺い知ることができる。両親の粗野な言動の中で育ったルーシーの抑制された情緒が淡々と描かれ、季節や自然などの彩りを添える写真のない人物だけが貼られたモノクロのアルバムを眺めているような一冊でした。

  • くせになりそうな作家だと思う。自室に独りでいる自分の傍らに来て、低い声でぼつぼつと語りかけられているような、よほど親密な仲なら構わないが、そうでもない場合にはちょっと距離を置いた方がいいのではないか、と思わせるような、内心に秘かに隠されてあるものを中に手を差し入れてつかみ出して目の前に見せられているような、純粋ではあるのだろうが、この人とは友だちにはなれないな、と思わせるそんな気にさせる作家である。

    何故そんな気になるのか。きっとこの人は読者を選ぶ、というかこの人の書く物を好きな人は、この語り手の視点に魅せられるからだと思う。ほとんどユーモアというものを感じさせない、ひどく乾いた語りである。いつも人を値踏みしながら観察している。自分にとって「いい人」なのか、そうではないのか。相手が自分にとって利用価値があるかないか、というのではない。こんな自分を受け入れてくれるかどうか、が判断基準なのだ。

    話は、ルーシーが盲腸で病院に入院しているところからはじまる。すぐ退院のはずがなかなか退院できない。今暮らしているのはニューヨーク。病院の窓からはクライスラー・ビルが見える。夫は仕事と子どもの世話で忙しく妻に付き添えないので、妻の実家に電話をかけて母を呼ぶ。そんなわけで、故郷を出てから長い間会っていなかった母がある晩ベッドの先にいた。久しぶりに会った母が娘に語るのは、何故か昔の知り合いが結婚して、ほかに男を作って逃げた末、男に捨てられた話だとか、他人の不幸な噂話ばかり。これが伏線となる。

    病院にいる五日間、母の語る知人の話を聞きながら、ルーシーは、これまで出会った人物のスケッチをまじえながら、自分の過去について語りはじめる。ジェレミーという古風な宮廷人のような紳士だとか、服飾店で出会った魅力的な女流小説家だとか、自分を診てくれている感じのいい担当医のことだとか。読者は、この語り手の心の中が何故孤独なのか、他者との関係をどうとればいいのかをいつも測ろうとしている理由が何なのか、次第に理解してゆく。

    ルーシーは、中西部の貧しい家の生まれ。一家は大叔父の家の隣にあるガレージに暮らしていた。テレビはおろか、本も満足にない、夕食が糖蜜をつけたパンだけという貧しい生活。それでも父が働き者で優しい母がいて兄弟仲がよければ、家族で助け合って何とかやっていけるだろう。ところが、仕事の長続きしない父は時に娘を虐待し、縫物で家計を助ける母は父の言いなりである。姉とも兄とも心が通いあう関係ではない。家の貧しさのせいで、兄妹は学校では差別され、いじめられて育つ。

    寒々とした家に帰りたくない少女は、学校が終わるまで教室で宿題をしたり、本を読んだりして過ごした結果、兄妹のうちでただ一人勉強ができ、シカゴ近郊の大学に進学する。一般的な家庭生活を知らないルーシーは、音楽やテレビの話題についていけず、人との間に距離感を感じるようになる。他人との間に間合いというものが取れず、話に入ったが最後切り結ぶしかない、そんなコミュニケーションの取り方といったら分かってもらえるだろうか。

    それでも、男と知り合い、結婚して二人の子の母となる。子育ての間に書きためた小説が、文芸誌に掲載され小説家となる。いつか偶然街で出会った作家のワークショップに出席し、作家の現実の姿にも触れる。執筆のために必要なアドバイスも貰う。それらが、細かな章割りを通じて、看病に来てくれた母との会話や彼女の半生の間の出来事の間に、切り張りされたように混じりあう。そんな小説である。派手なところはないが、凡庸さも持ち合わせない。

    いくつかの主題がある。アメリカに渡ってきた先人たちが「インディアン」に対してしたこと。当時話題となっていたエイズという病気のこと。同性愛者のこと。知人や自分の身の回りにいる人との関係の中から、自然に語り出されるそれらの主題は声高な主張とはならないが、自然に触れないではいられないことのように持ち出される。内省的で、静かな語り口ではあるが、譲れない一線というものを持つ。

    自分に正直に生きることが、家族との間に溝を作り、都会で一人で生きることを選ぶ。それでも家族は家族であり、ほかの人を選ぶことはできない。そういう環境の中で育つことが、人にどのような生き方を強いることになるのか、ルーシー・バートンという一人の女性作家の視点で語る一人称小説。話者は母にとっては娘であり、夫にとっては妻。娘に対しては母であるという当たり前のことが、この人の語りで語られると何と不自由に聞こえることか。「私」の名前は、ルーシー・バートンだが、「私」とはいったい何者なのか?他の作品も読んでみたいと思わせる小説家である。

  • この間読んだ、「オリーヴ・キタリッジの生活」が
    とても面白かったので、こちらも読んでみた。

    主人公のルーシー・バートンは盲腸の手術のあと、
    体調が悪くなり、9週間入院することになった。

    母親がお見舞いに来てくれ、5日間病室で
    一緒に寝泊まりすることに。

    20年くらい前のその時のこと、
    母親との他愛もないやり取りを
    思い出したりなどしながら、
    それをきっかけに幼い頃を回想したり…

    幼い頃のエピソードを読めば、
    こういうお母さんが疎遠だった娘のお見舞いに
    はるばるやってくること、の意味を
    つくづく考えることになる。

    だれでも、お父さんが、お母さんが
    ああしてくれたら、とか
    こんなことしなかったら、とか
    色々言いたいことはあると思うんだけど、

    バートン家の場合は、ちょっと桁が違うんだよね。

    大事に読みたかったけど、
    どんどん読み進んでしまった。

    翻訳の方(小川 高義さん)も合ってる気がした。

    エリザベス・ストラウトさん、良いな、
    と思ったけど、借りてきたもう一冊、
    「バージェス家の出来事」、これがどうしても
    読み進めることが出来なくて、
    一言で言うと、うーん「面白くない」んだな。

    今読む時期じゃないのかも?と言う事で
    こちらは読まず(読めず)に、返却だ!

  • 入院中、音沙汰の無かった母親が5日だけ見舞いに来た時の思い出と、今までの人生を振り返って断片を集めて散りばめたような文で構成されている。置き去りにしたはずの過去が立ち上ってくる心情、なんだか心に染みてきた。

  • 思いがけず長期入院になった日々を思い出すルーシー・バートン。疎遠だった母親が田舎からやってきて病室に泊まり込み、知人や親戚たちの思い出話をして過ごした5日間。
    当時の夫は、いま別の人と再婚している。幼かった娘たちは大人になっている。作家から書くことについて教わった。
    あの頃から見た過去は、現在から見ればさらに過去。
    父も母も亡くなった。人生は進む。進まなくなるまで進む。

    ---------------------------------------

    小節が細かく分けられていて、まるで断片的に見る夢、あるいは部分的にフラッシュバックする情景のようだった。

    あいまいな記憶たちはすべてに意味があるようにも感じるし、何もかもが嘘みたいに思うこともある。
    人生は日々の積み重ねだ。生きているだけで過去は増えていく。何気ない事も、大きな出来事もひとつひとつ蓄積されていく。

    他者と関わりながら人は生きる。関りとは、新たに関係をつくることでもあり、家族との繋がりに溝をつくることでもある。関係が疎遠になっていくこともあれば、溝を飛び越えてくる関係性もある。

    ”人生は進む。進まなくなるまで進む。”

    我々は誰かと関わりながら進むのだ。

  • 読みながら「あるある!この手の、女性の1人語りの赤裸々なでもたいして何も起こらないような話、すごい評価されるやつ!」てずっと思っていた。最後まで淡々としていて大人の書き手という感じ。

    最後までうまくいかなかった生まれの家族と、結局こちらも破綻した自分が作った家族。主人公は家族のことでメンタルにいまも傷を負い、どこか申し訳ないと感じながら、とはいえサバサバと、自分の人生を生きてもいる。

    そんな彼女が原因不明の不調で入院した時にふいにやってきた疎遠の母。とりとめのない会話に話の大半が割かれ、少しずつ浮かび上がる、主人公と母親の関係性。

    自らも母として娘と対峙する彼女のエピソードに加え、彼女の友人の母子関係も挿入され、「母と娘」というありふれた、ときに難しく、だけど絶対的な愛情でつながった関係性がすこしずつ浮き彫りにされるころ、自分の母親のことを思い出すかも。

  • これはルーシーバートンの物語。
    隋書に小説を書くアドバイスがでてきます。
    自分にはさっぱりでした。
    著者なのか主人公なのか過去なのか現在なのかなど人物像が曖昧で時間軸も曖昧ですが、意図したことなのかはわからないです。
    難しい本ではないですが、僕は一度読んだだけでは理解できなかったところが多かったです。
    なんだかルーシーの姉が怒りっぽかったり、兄が少々変わっていたり、母親も父親も愛情の示し方が難しかったり家が貧しかったりしますが、ルーシーはあまり不幸に思っていないようで素敵な主人公です。
    でもこれはルーシーバートンの物語なので、ルーシーバートンが素敵な人だということを意識したいと思います。また何回か読みたいとおもいました。ほかの著作も読みながら。

  • 不思議な話

  • ルーシーの人生の中で出会った人々との出来事を振り返ることで、ルーシー・バートンという一人の人間がどんなふうに育ち、何を思うようになったのかを感じる小説。
    人との出会いが、人生を進めていくのだな。

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