夜が来ると

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095473

作品紹介・あらすじ

夜、家を虎がうろついているの……海辺の家で一人暮らす七十五歳のルースのもとに、ある日ヘルパーのフリーダが現れた。オーストラリアで多数の文学賞に輝いたサスペンスと抒情に満ちた傑作長篇

感想・レビュー・書評

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  • チェストの上で寛ぐトラの装画と、朝の四時にリビングに漂うトラの気配に、冒頭から期待値が上がる(トラが個人的に好きなのだ)。
    トラの気配と共に生じた切迫感で胸が騒ぐ朝に自治体派遣のヘルパーと名乗る女性が現れる。主人公の視点があやふやになってくるのにつれて不穏さがどんどん増し、現実が溶けていく様がスリリング。ついついページをめくる手が早まる。

    でも、一人の読み手としては、主人公であるルースの視点から見た混沌のクライマックスで物語をぷつんと終わらせて欲しかった。何が事実か分からない不安感の高まりと心理描写が最大の読み応えなので、現実の視点から語られると少しだけ熱が醒めてしまう。
    もちろんエピローグには静かな余韻を感じられるので我儘な感想だとは思う(猫のその後が描かれるのはOK。どんな本でも猫だけは幸せでいて欲しいのだ)。
    フィジーとオーストラリアを舞台とした情景描写も美しい。

    1953年に即位したエリザベス女王が連邦ツアーでフィジーを訪れた当時、フィジーはイギリス植民地であり、プランテーションの労働力として同じ植民地であったインドからヒンドゥー教徒である多数の移民が入植していたこと。
    1945年に「死の行進」として語られる、日本兵によるオーストラリアとイギリス軍兵士捕虜の収容所移動があり、多くの犠牲者が出たこと。
    これらは本書を読む上で必要ではないが、ルースの回想における背景として記しておこう。

  • オーストラリアのサウスコーストに住む老婦人ルースが、夜中にあらわれるトラを感じるようになるところから話が始まります。

    ルースのところに自治体から派遣されてきたというヘルパーのフリーダが来ます。家の床をユーカリのつや出し剤でピカピカに磨き上げ、ルース自身が気付けなかったルースの痒い頭を洗い、ルースの成就しなかった過去の恋を応援するフリーダ。

    物忘れが多くなり、フリーダなしでは生活が難しいことをわかりはじめるルース。一方で、フリーダのあやしい行動、遠くに住む息子たち。

    そんな状況でも、過去の美しく、時に悲しい思い出を味わいながら生きるルースの純粋さに惹かれます。

    フリーダはどうしてトラの罠を作ったのか、その後なぜトラと格闘する必要があったのか、結局は自分に関係ないフィジーの首都の名前になぜこだわりを見せたのか、そのあたりを考えると、フリーダも純粋な心を持っていたのではないかと想像します。

    この本には、読了後に誰かと感想を交換したい気持ちにさせられます。

    春に咲き誇るジャカランタや、外洋からシドニー湾に入る情景、ルースの家から眺めることのできるクジラの泳ぐ海、シドニー近郊が好きな方にはより美しい本だと思います。

  • 海辺で一人穏やかに暮らす老女ルース。
    ある朝目覚めると、家の中にトラがいた、と言う。。。
    トラの出現の直後に突然やってきた、自称ホームヘルパーの女、フリーダ。
    彼女たちに一体何が起ころうとしているのか?
    軽度の痴呆が見られ、現実と幻想の境をさまようルースの心理状態が見事に表現されている。読んでいてホントに危なっかしい。そしてそんな彼女の世話をするフリーダの様子がルースの視線で描かれている。
    二人の女の微妙な人間関係、海辺の静かな風景、トラ。そしてやるせない結末。
    高齢化社会とそれを取り巻く環境と人の絆について改めて考えさせられた。

  • 文学

  • なんだろう、ともかく重い。ページ数のわりに読むのがえらい難儀するのは、言葉が難しいというか、予測不可能な言葉遣いというか。終盤に向けてどうなるか分かってるようにも思うのに、どうにも一気に読ませないという、適当に端折って良いものか、いや、ちゃんと読まないといかんのかも、と思いながら、じんわりと読み進む。
    でもトラは良かった。トラと真剣に格闘するシーンは良かった。トラ可愛いよね。

  • オーストラリア・シドニー郊外の浜辺で一人ぐらいの女性。夫に先立たれ、孤独ではあるが、それなりに満足している生活。

    そんな中、ある夜、“トラ”の気配を感じる。不安になり、遠く離れた息子に電話。

    そして、翌朝、“ヘルパー”の女性がやってくる。

    時には親友のような、時には親娘のような関係。

    物語がすすむにつれ、主人公の女性の記憶も曖昧模糊になっていき…。


    じりじりと迫る、不安と恐怖。そして、密林のもわっとした熱気。
    物語の進行とともに、それらの濃度が増してくる。

    結末もぞわぞわとするもの。

  • うわ~~~
    途中から、そうかな・・・
    と思わなくもなかったけど

  • 夜にトラが来た。そのことを息子に話すと、息子の対応から、主人公は少し痴呆の可能性があることがわかる。
    その彼女を巡る物語。
    彼女の視点から、孤独や不安が語られる。思考がまとまりきらず、痴呆の人の世界はこんなものだろうかと感心する。
    母親を独りきりにしていたことを、後悔する息子達には、今介護してる身からも、同情する。自分の家庭や都合が優先しちゃうのはよくあることだし、そばにいないと症状の深刻さは気がつかない。気が付きたくない、という心理もあるだろうし。

  • やや、や。
    家の中に虎がいる…という発端から、これは何か不穏な話?と思う。そこに翌日現れたフリーダに、読者はこれはもうあやしいと思うのだけれど、夫に死なれ1人暮らしの75歳ルースとフリーダの気持ちが時々通い合ってしまうので、ルースも読者もついふらふらと心を許してしまいたくなる。一貫して、美しいけれど足を取られる砂浜を歩いているよう。

    ”明日は我が身”と身につまされながら読んだ。
    どうやったら幸福に死ねるんだろう。

  • 人生の終わり方

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