- Amazon.co.jp ・本 (495ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152095404
作品紹介・あらすじ
1686年秋、アムステルダム。18歳のネラは、裕福な商人ヨハンネス・ブラントの妻としてこの繁栄する都市へやってきた。新生活への期待に胸をふくらませつつも、待っていたのは、婚家の富に戸惑い、辛辣な年上の義妹マーリンに反発し、不在がちの夫に落胆する日々だった。しかし、夫からの結婚祝いである豪奢なドールハウスがそんな生活を変えた。なぜか新しい家族に生き写しの人形たちに導かれるようにして、屋敷が抱く秘密を知ったネラは、行く手にひそむ危険に気づくが…。黄金時代のオランダの光と影を描き上げ、刊行前から世界の出版界の話題を独占した驚異のデビュー作。全英図書賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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物語の主人公「ペトロネラ・オールトマン」と、夫の「ヨハンネス・ブラント」の名前、そして〈ペトロネラ・オールトマンのドールハウス〉は実在したもので、著者の「ジェシー・バートン」は、そのドールハウスを見て、着想を広げたとのことですが、まずは、その想像力の凄さに感服いたしました。
心情的には辛い内容だったのだが、物語としての完成度は、大変素晴らしいと思います。
序盤から中盤にかけては、登場人物が本当に嫌な人ばかりで気が重いなと感じた反面、人の見られたくない内面をこそこそ探っていくようなサスペンス的展開が同居し、また、それにミニチュアハウスの作品を送ってくる、謎めいた予言の薄気味悪さも重なり、やや後ろめたい思いをしつつも、読んでいて、奇妙な恍惚感がありました。
しかし、それらの登場人物の裏の顔が、後半に明らかになるにつれて、序盤の表の顔が伏線であったことを実感し、そこに当時のアムステルダムの、規律や監視で縛り付けられた時代背景が結び付きます。
そこには、男性優位や人種差別に、不自由な性といった、当時の歴史ものの作品としては、よくある展開だとも思われるが、そんな時代の中でも自分の生き方を貫いてゆくこと・・きれい事でなく、生々しい生への思いが私の胸を熱くし、また、それが周りの事情を思いやりながら、ささやかで強靱な意志を毎日維持していくことによる、心労的辛さも計り知れないものがあるだろうと、感じさせられました。
また、序盤は中途半端な佇まいに、可哀想とは思いながらも好感を持てなかった、主人公の「ネラ」も、後半の降りかかる災いが重なるに連れ、強く柔軟に逞しくなっていく姿には、勇気づけられるものがあり、またそれが、最初は不審の塊だった周りの人達(コルネリアやオットー含む)から影響されていることにも、感動を覚えました。
そう、おそらくブラント家の人々にとっても、最初はネラの同居を快く感じてはいなかった。
特に、ネラの夫「ヨハンネス」の妹「マーリン」にとっては。
しかし、それは彼女にとって、ブラント家をやりくりするための苦悩と、その裏にある秘密が重しとなっていたからであって、奇しくも、ネラが秘密を明らかにしたことが、逆に彼女らの人間関係を変えるきっかけになったことには、人生の不思議な面白さを感じました。
たとえ、その後の人生がどうであろうと、マーリンにとっては、最も幸福を感じられたときだったのではないかと思われ、そこでの最も彼女らしい姿に、人生の素晴らしさを称えたい気持ちで、いっぱいになりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
BS11で放送された海外ドラマの方を先に見ていたのだが、個人的にはドラマの素晴らしさに軍配をあげたい。
ただ、原作の良さがあってこそ、のドラマなので、ぜひとも両方とも触れてほしい。
17世紀のオランダ。
黄金時代を築き上げた華やかな時代。
18歳の主人公ペトロネラ、通称ネラがアムステルダムにやって来た。
彼女は名家だが没落した家を救うため、大商人たるヨハンネスに嫁いできた。
が、夫は仕事が忙しく家にあまりいない。
幸いなことに夫は妻を大事には思っているようだが、なぜだが夫婦生活が営まれない。
家にはヨハンネスの妹、マーリンと使用人のオットーとコルネリアが一緒に住んでいる。
マーリンは信心深く、融通が効かない。
コルネリアは噂好き。
そして…夫がくれたドールハウスの中身を送って来てくれる謎のミニチュア作家。
人々の思惑が絡まり合い、ネラをどん底に突き落とす。
夫の秘密、マーリンの秘密。
薄衣を剥ぐような物語の展開に目が離せない。
ミニチュア作家は本作では姿をほとんど表さない。
だから、この不思議なミニチュア作家が送る物たちを心待ちに、あるいは恐怖する人々がいる。
だが物語ははっきりという。
自由意志、と。
受け取ったものをどう使うか、それは各人に委ねられている。
本作の主人公のネラは、少女から大人へ変わっていった。
この不思議なミニチュア作家に後押しされ、幸せを待つでもなく、絶望の底に沈むでもなく。
自分の人生に降りかかる苦悩を受け止め、希望へと昇華させる、強い女性に。 -
VOCとかキャビネット型のドールハウスとか17世紀のアムステルダムとか、なかなかにときめく要素が多かったです。
ミニチュアに夢中になってしまう気持ち、わかるわー…。
読み終わって、また冒頭を読み返してしまいますね。
解けない謎や気になるその後が多すぎるけど、これはこれで良かったかも。
訳者あとがきで紹介されてたこれも読んでみたいなぁ。やっぱり17世紀オランダが舞台。
・チューリップ熱 デボラ・モガー -
すべての女性は自らの運命の設計士である。
桃の実もクリームもなんて欲張りすぎですよ。 -
新妻と夜をすごそうとしない夫、女主人として過剰なまでの厳格さを示す義姉、使用人にあるまじき馴れ馴れしさで相対するメイド、そして黒人の男性使用人…個性的で腹の底を見せない新しい家族に困惑と不安を募らせる主人公・ネラは精緻なドールハウスを手に入れて―
サスペンス調で始まり、不穏さを掻き立てるミニチュアの小道具、薄々匂わせていた夫の不義が明らかになってからの怒涛の展開、そして家族になった人達の見せる別の一面、盛りだくさんの展開と17世紀末のオランダの都市の様子が活写され面白く読むことができました。惜しむらくは肝心のミニチュア作家の正体が拍子抜けな感じがする事。 -
絶望の中からも、最後はほのかな希望と人々の強さ。個人的には美味しそうなお菓子やミニチュアがいっぱい出てくるところで楽しい。
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夫は留守がちで、義妹は尊大、ただでさえ鬱屈をおぼえる不可解な結婚生活の中、主人公を更に不安にさせる、ドールハウスとミニチュアール。頭の中で勝手にフェルメールの光と影、その影を多めに盛った情景を思い浮かべて読む。
さまざまが破綻していくなか、人の悪意がおぞましい。
ミニチュア作家が謎のまま。その謎を隠れた軸に、別の人生も読ませて欲しいし、謎にももう少し近寄らせて欲しい。 -
不思議だよね~そして残酷。昔のオランダのしめった暗さに満ちている。