- Amazon.co.jp ・本 (492ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152094803
作品紹介・あらすじ
新興IT企業ジェイ・プロトコル香港の中井優一は、王としての旅を続けるため、殺人を犯すことにした──。一九九二年、理系恋愛小説『グリフォンズ・ガーデン』でデビューした著者の長篇第二作
感想・レビュー・書評
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マクベスは、シェイクスピアの戯曲の中の一つで、伴浩輔が高校一年生の時に教えてくれた。中井優一が、マクベス王を体現したような造りになっているため、より理解を深めるため「マクベス」も併せて読んでみたい。
物語に登場するのは主に男二人女一人で、高校を卒業してから疎遠となっていたため、会社内の部署違いで同僚だとは知らなかった。
ⅠT関連事業を営み、三人はそれぞれの部署で多くの業績を上げていたのだ。それ故、上層部から疎まれ、海外事業部に出向させられ東南アジアを中心に交通系ⅠⅭカード販売に携わっていた。しかし実質幽霊会社だったのだ。過去の出向社員たちは非業の死を遂げているという筋書きだ。
ある日の海外出張で、澳門(マカオ)で伴からホテル内にあるカジノに行こうと誘われた。
中井「なぁ、チップをいくらか貸してくれないか」伴は、黒色のチップを三枚、掌に見せる。二千パカタの高額チップだ。
「だいたい三百六十万円の儲けってところか」そんな会話を交わしながらカジノを出て雲吞麺とビールを伴に奢ってやった。
テーブルに近づいてきた黒髪の女が英語で言う。ホテルの外には多くの娼婦がいて、その類の交渉かと思っていたら、「食事のお礼に、あなたの未来を教えてあげる」「それが本当の未来なら雲吞麺とビールだけじゃ、安くないかな?」「お代は、また私に会いに来ることがあったらそのときに」「あなたは、王になって、旅に出なくてはならない」黒髪の女の言葉は唐突だった。
出向会社は、ジェイ・プロトコル香港で代表取締役に就任し、セク(secretary=秘書)に森川佐和が採用されている。中井は、初めて会った女性ではないような気がしたという。
犯罪小説にして大人の恋愛小説。シリアスでサスペンス・ミステリー仕立ての濃い物語の展開に心が揺さぶられた。
今年読んだ本の中で、印象深い一冊になった。
読書は楽しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「十二月の辞書」がとても良かったので、
早瀬耕さんの本を読んでみたいと思った。
中井優一。
高校の友達 伴 浩輔(ばん こうすけ)
シェイクスピアの「マクベス」に囚われすぎていると思った。
伴さんに子供がいたら完璧だった。
シェイクスピアの四大悲劇→「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」
鍋島冬香のUSBを見つけたあたりから面白くて一気読み。
「王として旅を続けなくてはならない」という予言が動き出す。
喰えないやつ→ずる賢い人、油断できない相手。
キューバリブレ飲んでみたい。
中井優一の書いた手紙のところでグッとくる。
鍋島冬香の恋が切なくてキュンとする。
高校1年生で出会い、お互いに好き同士だったのに、ずっとタイミングが悪かった。
仲良しだったのに恋人ではなかった。
でも、大人になり、最後の1年間だけ、同じ会社で過ごして、たくさん一緒に食事をして、
時間を共有できて、良かった。
ちゃんと見つけてくれてありがとう。
良かった!
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内容(「BOOK」データベースより)
IT企業ジェイ・プロトコルの中井優一は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていた。同僚の伴浩輔とともにバンコクでの商談を成功させた優一は、澳門の娼婦から予言めいた言葉を告げられる―「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」。やがて香港法人の代表取締役として出向を命じられた優一だったが、そこには底知れぬ陥穽が待ち受けていた。異色の犯罪小説にして恋愛小説。伝説のデビュー作『グリフォンズ・ガーデン』から22年―運命と犯罪と恋についての長篇第2作。
全く知らない作家の文庫本が大展開平積みされていたことから出会った本です。22年前からの第二作目という事でよくここまでの売り方をしてもらえるなあとびっくりです。忘れ去られて然るべきですが、内容の素晴らしさが出版社と書店を動かしたというところでしょう。一言でいうと、「人を殺す島耕作」というエグゼクティブな犯罪小説であります。巨悪に立ち向かうのかと思いきや、巨悪自体は実態を表さず、しかも立ち向かおうという明確な意思もなく。過去に思いっきり振り回される初恋小説でもあるというなんとも言えない話です。マクベスを全く知らない状態で読みましたが特に予備知識として必要ではありませんでした。
主人公の中井は自分でバタバタ動かなくとも、回りが自分の為に道を空けるような存在で、自分はそこに気が付いていない。そんな人おるんかいと思いますが、王なのでしかたがないのでありましょう。女性も彼が何をしようと呪縛されたように離れられないのであります。ふつう人を殺した時点でさようならと思うのですが、さらりと受け入れてしまうあたりみんなネジが外れています。でも静謐な空気のまま粛々と進んで行く物語。違和感はあれどそれが不思議な魅力として寓話めいた雰囲気を作り上げています。
中井の人物造形を全て並べてみると、意外となにもしていない事に驚きます。回りがばたばたと彼の為に駆け回り、泣き、怒り、死んでいくのですが、彼はそれを受け止めているだけで、感情としての中井はただの舞台装置にも思えます。マクベスというものを現代劇に当てはめて表現する為と感じました。こう書くと退屈なのかとお思いますがノンストップで読める面白さな上に読み応え満点です。おすすめ。 -
未必。日常あまり使われないこの言葉は「意図せずして、かつなるべくしてそうなってしまう」事を意味する。つまり、主人公中井は、自ら意図することなくマクベスと同様の立場に追い込まれていくのだが、その根っこはなんと彼の高校時代にあった。共通一次世代という、ごく狭い範囲の世代(今現在50歳前後)という、非常に微妙な年齢の男が、東南アジアという、経済的政治的に非常に微妙な地域で、思わぬ事件に巻き込まれていくところは、ミステリというよりやはりサスペンスであろうと思う。戯曲『マクベス』の利用も巧みであって、人物、舞台、いずれの描写もリアリティに富み、説得力がある。キーアイテムである企業秘密の正体も秀逸だと思う。今だからこそ読みたい、いつ読んでもいい逸品。お供はぜひ、ダイエット・コークのクーバ・リブレで。
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つい何日か前《vivant》というドラマが最終回を迎えた。
1人のプロデューサーの一区切り的なポジションとなる作品で、潤沢な予算と豪華キャスト、能力の高いスタッフで取り組んだそれを、自分は大いに楽しんだ。
この作品は、そんなプロデューサーが映像化すると
上質なエンタメになると思う。
小説原作も普通に手がけている人なので。
企業、恋愛、ミステリー、なんとも欲張りで贅沢で巧みに絡み合って全ての要素が昇華されていると感じた。
森川。
わりと早い段階で真相の予想はついてしまったけれど、脅威的な頭の良さも、緻密な行動の一つ一つも、屈折して生意気で不器用な心も
イライラ、ハラハラしながら魅力的に描かれていました。
登場人物がそれぞれ個性的。
完全に《悪いヤツ》の立場なのに
そうなる過程、そうしなければならない状況、
エンタメでありながら、実際こういうことってあるのかもなー。と思ってしまった。
自分には関係ない世界だけど。 -
香港の子会社に飛ばされた男性が、企業の思惑に翻弄されながらも、かつて思いを寄せた女性
を守るために戦うハードボイルド。
シェークスピアのマクベスをなぞって話が展開するのだが、たまたま宮藤官九郎がマクベスを派手にアレンジした舞台(メタルマクベス)を観たばかりだったので、そちらとも比べながら読めたのはおもしろかった。ただ、本筋よりも原作の魔女の予言を始め、マクベスやバンクォー、マクベス夫人たちの行く末などをどう描くのかが気になってしまった。
というのも、血の通っていないような主人公の言動が終始共感できなかったことが大きい。執拗なカクテルへのこだわりにも閉口、ポイントとなる謎にもあまり興味がもてず、何より主人公のからむすべての殺人の必要性が見いだせないなど、全体的に違和感が大きかった。
新聞の書評欄で中年男性にオススメとあったが、確かに女心よりも男心をくすぐる作品だと思う。 -
こんなに簡単に人を殺すかと現実味がないところもあるが、
楽しく読めた。 -
冒頭、「旅ってなんだろう?」で始まるこの小説は私があまり読まない犯罪小説という分野で確実に入口を低くしてくれました。それからは物語の中に引き込まれて一気にアジアの蒸し暑い空気の中に。マクベスの戯曲がスパイスとなって、非日常的な世界でありながら、過去の思い出がセンチメンタルにさせてくれる上質エンターテイメントだと思います。魅力的な美女がたくさん出てくるのも違和感なし。ハードボイルドって何冊か読んだけど合わなかった。そんなひとにお勧めです!
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こんなに簡単に企業戦士は殺人を犯すのかと唖然とし,そこらじゅうの監視社会のあり方に戦慄した.ストーリーをマクベスとオーバーラップさせることで無理をしているところもあるだろうが,危機的状況もどこか芝居を見ているようで,事件の内容よりもその過程や会話(セリフ)が面白かった.そしてこの20年にも及ぶ純愛!これは愛の物語だ.
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大作のため、読破にものすごく時間かかりました。けれど、読んでいる間のめりこめたので、実に良い時間になりました。通奏低音がマクベスとはいえ、何度もストーリーが挟み込まれることでストーリー自体の勢いが削がれた感があったかなあ、とはおもいましたが、スリリングな展開で面白かったです。スノッブな社員の方々が多々登場して、実に鼻につきました。羨ましい、私も、とは思いましたが、こんな企業にいるのは嫌ではありますね。日々のほほんと暮らしてるので、こんな企業あるのか、という疑問が常に湧き上がりました。