アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド)

著者 :
  • 早川書房
4.06
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本棚登録 : 745
感想 : 111
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152094223

作品紹介・あらすじ

十八世紀英国で起きた解剖教室をめぐる事件から五年後、教室の元弟子たちと盲目の判事は、天使のような死体に記された暗号の謎を追う。本格ミステリ大賞受賞作『開かせていただき光栄です』続篇

感想・レビュー・書評

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  • 『開かせていただき光栄です』続編。

    外科医で解剖学の先駆者、ダニエル・バートンの解剖学教室を舞台に起きた連続殺人事件から5年。
    愛弟子のエドとナイジェルが出奔し、解剖学教室は閉鎖中。元弟子たちもそれぞれの生活を送りながらも、変わらず先生を敬愛している。
    ある日、盲目の治安判事として知られるジョン・フィールディング卿の元に、胸に暗号を刻まれた“天使の屍体”の情報が舞い込む。
    調査のため、そしてバートン先生に屍体を提供すべく現地に向かった元弟子たちが発見したのは、消息不明になっていたナイジェルの屍体だった…


    前作のラストのほろ苦さを思い出しながら読み始めたら、登場人物紹介リストの筆頭は「ジョン・フィールディング」となっていて、軽くびっくり。
    「バートン先生と愛すべき弟子たち」のシリーズとばかり思っていたんだけど、実は「盲目の判事ジョンと男装の令嬢アン」シリーズだったのかぁ。

    またまた屍体が増えたり消えたり、暗号に導かれてナイジェルの過去や、幻の楽器にまつわる悲劇、過去のスキャンダル…と、複雑に物語は交錯。

    登場人物が多すぎる…!
    そして、前作のようにクスッと笑える場面がほとんどなく、腐敗しきった権力者たちがさらにおぞましく、何人もの悲劇がただ重く、やるせない。
    もうさすがに続編はない…んでしょうね。
    バートン先生、さびしいねぇ。

  • 『開かせていただき〜』の続編。あの仲間たちがまた事件解明に奔走する楽しさと、謎解きとともに明らかになる凄まじく哀しい過去。今回はキャラクター達が5年経て成長や憂いを帯び一層冴えた感じ。本当に皆川さんすごい。

  • 好評だった「開かせていただき光栄です」の続編。
    18世紀後半の英国での事件をムードたっぷりに描きつくします。

    あれから5年。
    連続殺人事件の後、解剖医ダニエルのもとを二人の愛弟子エドとナイジェルが去った。
    解剖学教室はほぼ閉鎖され、暇になった弟子たちアル、ベン、クラレンスは、盲目の治安判事ジョン・フィールディングのもとに集い、犯罪情報を載せる新聞の発行を準備していました。

    解剖学のさきがけとなった奇人ダニエル・バートンは実在の人物。
    盲目の判事というのも作り話のようだけど、実在していたんですよね。
    当時はまだイギリスには公的な警察組織がなく、まともな裁判は行われていなかった。
    賄賂を出せるかどうかで判決が決まってしまうほど。
    事態を憂える判事は自宅を公邸とし、裁判もそこで行っていました。
    判事の姪で目の代わりとなるアンも、活躍。
    すがすがしさが救いとなっています。

    悪魔を呼び出すという楽器アルモニカ・ディアボリカがあるという噂‥
    天使が羽を広げて落ちていくのを見たという出来事‥
    後に遺体が発見され、天使と見間違えたとされるが、そこには謎が?

    見世物小屋でケンタウロス(半人半馬)となっている男。
    行方の知れない恋人を探し続ける娘エスター。
    ガラス職人がフランクリンに依頼されたこととは。
    一方、精神病院ベドラムで繰り広げられた暮らしも挿入されます。
    医療も未発達な時代、精神病院に入っても治療とは名ばかり、監禁が目的の場合すらあったという。
    さまざまな段階で絡み合う人々の運命、それはやがて‥?

    18世紀の話だから訳語が古いのは仕方ないよなとか、硬くて読みにくくても仕方ないよな‥とか、ふと思ってしまったり。
    いやいや、21世紀の日本人が書いた小説なんですが。
    時代色たっぷりで、惜しげなく熱筆がふるわれ、引き込まれます。
    恋人達の再会はほっとしますが、哀しい別れも‥
    全部ハッピーとはなりえない設定でしょうけど、切ないですね。
    皆川博子小説ならではの読み応え、ありました!

  • 最後の二行のためにある長編小説。
    最後の二行だけで、ミステリーが切ない愛の物語になる。

    皆川先生天才か。

    人物の多さに覚えるのが大変でしたが、「それより読み進めたい」と思わせる謎に次ぐ謎。
    しょっぱなは「ラピュタ」を思わせるファンタジー性に満ち溢れ、けれど陰惨な事件、衝撃の事実になだれ込む怒涛の展開。
    奇妙な楽器を巡る事件、ナイジェルの過去が絡み合う……

    構成も無駄がなく(大変入り組んではいるが)、これだけの人数、伏線を一人一人に役割を持たせ、ちゃんと収めているところが本当にスゴイ。
    傑作だと思う。「開かせていただき光栄です」よりずっと読み応えがあった。

    「開かせて~」から出ている登場人物たちにはよりいっそうの愛しさを感じるし、悲しい恋人たち、患者たちの行く末にもそれぞれハラハラせずにはいられない。

    そして何より、エドが出てくるボリュームの絶妙さ。
    あれしか出ないから、読者は彼の悲しみ、嘆き、怒りを想像するしかない。
    彼がナイジェルと過ごした時間、彼を愛した時間を想像するしかないのだ。

    天・才・か(二度目)

    しかもナイジェルは手紙でしか登場しない。
    彼が残した痕跡でしか登場しない(エドの絵とか。グハッ萌える)。

    そしてラスト二行である。
    私はリアルに「ひゃあああああ」と声が出た。
    あの二行。あんな切ない愛があろうか?????
    たった二行でBLは完成するという見本でもある!!!
    皆川先生天才!!(断言)
    もう、読者は皆川マジックに翻弄されるしかないのだ……!

    久々に「読みたいとにかく読みたい」と思わせる本だった。
    ハ~。至福。先生ありがとう;;

  • うーん、すばらしい!「開かせていただき光栄です」に続編があったとは。おまけにそれが前作を上回る面白さ。物語を読む楽しさを満喫した。

    華麗にしてグロテスク。ダークでありながら上品。「少年十字軍」「海賊女王」そして本作と、ここのところ精力的に新作が出ていて、そのこと自体が驚異的だ。作品の趣はそれぞれ違うが、そこには一貫して透明な空気が流れている。こんな風に書ける人が他にいるだろうか。もうこれは唯一無二の皆川ワールドだ。

    舞台となっているのは18世紀の英国で、その時代のことなどほとんど知らないに等しい。にもかかわらず、ああ、きっと人々はこんな風に生きていたんだろうと思わせられる、確かな感じがある。それはきっとこの世界が、作者の血となり肉となったものから生まれているからだろう。その厚み、陰翳の濃さに圧倒される。

    ああだこうだと考えず、ただただ物語の流れに身をまかせて最後まで運ばれていく、こういう読書ができることはめったにない。堪能しました。はぁ~。

  • 法律があってないようなもので、公の警察もいない…イギリスにもすごい時代があったんだと、当時の人達は怖かっただろうなと思った。前作からの登場人物に加え、今作での事件が合わさり謎が謎を呼ぶ内容だった。そんなところとそんなところであの人とその人が繋がっているのかい…と頭がこんがらがるし、完全にハッピーなエンドではなく何となくモヤッとする感じに、この本らしさが現れているなぁと思いました。

  • 『開かせていただき光栄です』の続編。またあのみんなに会えるという期待で読み始めた。その中身はあまりにも哀しくてつらい、ナイジェルの半生を辿る物語だった。
    知っているようで全然知らない。ベドラム出身であることが判明した瞬間は鳥肌が立った。その内外で起きた非人道的な仕打ちに言葉を失う。目を背けたくなる描写の一つ一つに息を止めて嘆く。
    美しいと感じたのはグラス・ハープ。この音色の表現が、私の記憶の中の音と符合して、耳に聞こえてくるようでうっとりとした。
    腐敗を少し正し、殺人の罪を自ら負い、カップルは再出発、ベドラムからの解放、判事も元の通り仕事をする。ハッピーエンドだけれど失ったものは大きい。純粋に弟子たちのやり取りを楽しむ日々がもう訪れないことは確かだ。
    ナイジェルは死者の世界で満足を得ただろうか。

  • 続編ということだが、登場人物は重なるものの連続性はあまり感じられない。今作は非常に辛い展開であり、ラストも希望というよりさらなる悲劇への序章に感じられてしまう。

  • つらすぎる!!!

  • ※ネタバレ含みます注意!




    おっおっおっ……そうだった、皆川先生の話はこういう感じだった……
    切なすぎる。
    前作の最後でいなくなった二人が幸福になっていたらいいなと思って読んだのですが。悲しかった。
    ナイジェル。苦労したのだから幸せになって欲しかった。
    ナイジェルの遺体が出た時も、どうかどうかどんでん返しがあって、実は生きていました!ってなるのを期待していました……切ねええええエドなんでナイジェルを手放した!もう、もう、最後の一行が切なすぎて身を切るように痛い。なのに、面白かったのです。文章は綺麗だったのです。読まなければ良かったという気持ちと読んで良かったという気持ちがぐっちゃぐちゃです……
    ☆五つにしたかったのですが悲しい結末だったので☆減らしました。うう。
    他の方の感想を見ていて、確かにアルとクラレンスとベンにもう少し個性があったら楽しかったなあと思いました。
    人間が多すぎて混乱したのも事実です。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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