枝分かれ: 自然が創り出す美しいパターン

  • 早川書房
4.14
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本棚登録 : 154
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152092786

作品紹介・あらすじ

雪の結晶はなぜ必ず角が6つなのか。ガラスの割れ目から木の枝、山肌、川筋…生物無生物を問わず、ものは分かれるだけ得も言われぬ美しさや不思議さ、面白さを観る者の心に呼び起こす。この不思議な「枝分かれ」を追究すると、いつのまにか私たちはつながりの科学を検討している自分に気づく。古くは寺田寅彦が着目した割れ目、裂け目を扱う枝分かれの科学は、最新のネットワーク理論ともつながっているのだ。自然に潜むパターンの数理を、豊富なヴィジュアルを楽しみながら明かす驚きの3部作、堂々完結の第3弾。

感想・レビュー・書評

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  • 大部分は事例の紹介で淡々としてるけど最後の2ページに興奮したので星5つ。これを最初に読んでしまったけど、所々で他の2冊に言及してるし、エピローグは3部作通してのまとめなので、時間のある人は『かたち』から順番に読んだ方が良いかも。


    ・雪片、ビスカスフィンガリング等:偶然できた出っ張り部分が自己増幅する。出っ張り部分は他の場所より温度勾配(雪片)や圧力勾配(ビスカスフィンガリング)が大きい。ペニテンテは逆にくぼみが自己増幅する。昇華によって氷上にできた小さなくぼみがレンズの働きをして太陽光を集める。
    ・拡散律速凝集モデル(DLA)、絶縁破壊モデル等:出っ張りの先端で成長する確率が高い。ランダムに拡散する粒子がぶつかる確率(鉱物デンドライト)であったり放電する確率(雷)であったり、最も弱い結合を見つける確率(侵入パーコレーション)であったり。
    ・ニスや釉薬の亀裂:亀裂が交わるとき、直角に交差する場合に応力が最も効果的に解放される。都市の道路増設過程に似ている(直角に交わる路地は幹線道路を結ぶ最短経路)。
    ・稜線、海岸線:スケール不変の自己アフィン性を持ち、侵食を再現したミニチュアを数千倍に拡大すれば本物そっくりに見える。
    ・河川網:合計の位置エネルギー損失率が最小になる形状に発達する。
    ・枝分かれするひび割れ:高速進展する亀裂先端の最大応力は先端の進行方向に対して直角方向を向く。

    生物の枝分かれ
    フラクタル構造はどんな大きさの生命体にも最適な供給システム。次元と次元の間にあるので、空間に行き渡りながら、空間を埋め尽くすことがない。導管は液体を運ぶのに要するエネルギー量を最小化する構造になっているが、生命プロセスが体質量に依存している(心拍数は体重の1/4乗に反比例、寿命は体重の1/4乗に比例等)のはこの導管の分配ネットワークに因るかもしれない。分配ネットワークの幾何学的特性の分析から、代謝量が重量の3/4乗に比例するスケーリング則が導き出せる(ここよくわからん)。
    生物のシステムを、情報伝達(遺伝子)に支配されているとみるのではなく、エネルギーに焦点を当て、エネルギー最小化原理に従って分配ネットワークが決定され、それが生物のサイズ、機能、寿命までも決定しているという見方もできるかも。


    3部作総括:新たな生命観の提示
    (注意)まとめすぎてはいけない。人間はパターンを認識し比較する能力が高いため、関連が無さそうなものにも繋がりを見つけ出す。見た目が似ていても本当に共通するメカニズムがあるとは限らない。コンピュータ上でパターンが作れただけで、自然がそのルールに従っているとはいえない。あるパターンが特定の数学的法則に従うとしても、他の多くのパターンも同じ法則に従うかもしれない。
    と警告しつつも、言えることがなにもないわけじゃない。

    複雑なパターンや形は平衡から大きく外れた時に起こることが多い。平衡から外れた状態でのパターン(散逸構造)はエントロピーの生成によって維持されており、平衡系の秩序状態と表面上は似ているが根本的に異なる。また散逸構造では構成要素の大きさとパターンのスケールに関連性がなく、系がスケール感覚をすっかり失っている。
    平衡(エントロピー生成速度0)近傍の非平衡ではエントロピー生成速度が最低になるように振る舞うが、平衡から大きく外れた非平衡系ではこの原理は当てはまらない。
    非平衡系に広く適用できそうな原理の候補が一つある。米の数理物理学者Edwin Thompson Jaynesによると、物事はエントロピーが最大になろうとして起こる。非平衡系の場合はエントロピーが最大速度で生成される状態になろうとする。エントロピーが最大になろうとするのに秩序を形成するのは、秩序状態の方が無秩序状態より効率的にエントロピーを生成できるため(ここがよくわからない)。
    非平衡系でのパターンは、エネルギーのストレスを解放しエントロピーを効率的に生成するチャネルになるために生まれた構造であり、さらに論を進めると、生命そのものが非平衡における規則性と構造の一例であり、不可避な秩序型の一つではないかという見方もできる。初期の地球は散逸させる必要に迫られたエネルギーの貯蔵庫で、単独では非常にゆっくりとしかエネルギーを放出しないが、それを助けたのが原始生命体だったのでは。生命は秩序を用いてエントロピー生成を速める避雷針のようなものとして初期の地球に現れたのかも。最大エントロピー生成とそれに伴う非平衡系秩序の不可避的な生成という概念は、生命が熱力学第二法則に逆らい、ランダム性に屈せず秩序を生み出しているように見えるという矛盾を解消できるかも。生命とは平衡から外れたところに秩序をもたらす、抗しがたい流れの産物なのかも。

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    雪の結晶はなぜ必ず角が6つなのか。ガラスの割れ目から木の枝、山肌に至る、枝分かれの科学はやがて不思議にもつながりの科学になって……パターン形成の数理原則をまとめた三部作、堂々完結!

  • 2作目の「流れ」を飛ばして読んでしまったが、3部作に対するエピローグもあるため順番に読むのがオススメ。最後までフィリップ・ボールの慎重な姿勢が印象的で、万物の理論も含めて単一の考え方で全体を供述できることはできないとのスタンス。 最後の章でスモールネットワークについて論じるが、ここでも統一化や結論は慎重だった。法則性を見つけて受け入れてしまう習性を克服しているのか。
    平衡とカオスの間で、様々なパラメーターが偶然に組み合わさって複雑なパターンが生じるというのが3部作全体に共通しているイメージだが難解な内容。 分子レベルで六角対称の構造を持つことが氷や雪の結晶の根本となっているとの紹介だが、なぜ原子や分子がその構造を取るのかについての考察も欲しかった。完全対称となる雪の結晶の謎は未だに未解明とのことで、この分野の難易度を思わせる。フラクタル次元の概念も直感的に想像が難しく感じた。
    最後の最後にジェインズの最大エントロピー原理をもとにした生命感の紹介をしている点は、多くの読者の心を惹くテーマであるかと思われるが、もっと尺があってもよかったかも。3部作の一番最初に、生命と非生命の痕跡を見分ける難しさからスタートしたことを思い出した

  • この三部作の基本的なテーマは、多様な生物の形態や自然の物理現象に通底して見られる視覚的または時間的パターンの生成について、主に物理学的・化学的観点から、さまざまな理論や仮説や人物の業績を紹介しながら説明していくというもの。

    第一作『かたち』では、生物の形態の由来に物理法則や数学的根拠を求めたダーシー・トムソンの文章をたびたび引用しながら、シマウマやヒョウの模様、貝殻の模様、蜂やシロアリの巣の形、植物の葉や花の付き方について等々、様々なもののパターンの生成の謎を探っていく。

    私は生物学に関しては基礎的なことはいろいろ学んでいて、生物の設計図である遺伝子に沿って生物が発生・成長することは知っているし、遺伝子→生物個体の「→」の部分(主に発生学的研究)に未知なことがまだまだたくさんあることもなんとなく知ってるけど、この「→」の部分が具体的にどうなっているのか、どれほどの知見が明らかになったのか、ほとんど知らなかったし知ろうともしていなかった。知ってたのはホメオボックスのことくらいだ。

    このシリーズでその部分に関する(主に物理学的・化学的な)いろいろなアプローチを見て、生物学の教科書的知識であるDNAのセントラルドグマからタンパク質が作られて各組織が動いて生物が生きているという単純な見方だけでない生命のとらえ方を知って感動を覚えた。

  • 私にはまだ理解は難しいが、病に侵されたとき、手にしたくなる一冊であるように思えた。とくに雪花については、のちにゆっくり読み直したい。

  • 1 冬物語
    2 ほっそりした怪物
    3 亀裂のわかれ道
    4 水の道
    5 木と葉
    6 世界をめぐるネットワーク
    エピローグ タペストリーを織る糸

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:404//B16

  • 131012 中央図書館

    雪の結晶、都市の形など、成長と作用に創発されて現出する、自然界ほかの「カタチ」のうち、特に枝分かれの構造について、フラクタル理論など最新の研究結果を紹介。あまり読者に媚びず、科学的な態度を失わずにきちんと説明してある。このシリーズは入手しておく価値がありそうだ。

  • 血管と枝と川の流れとかパターンが似ているけれど、川はわかれるのではなく合流とか。

  • 英文解釈の際の、アンチョコ、です。
    (2012年7月11日)

    読み始めました。
    (2014年10月16日)

    読み終えました。
    (2014年11月6日)

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著者プロフィール

1962年生まれ。オックスフォード大学とブリストル大学で学位を取得。「ネイチャー」誌の編集に従事。『クリティカル・マス』(未訳)で2005年度アヴェンティス賞を受賞。邦訳に『生命を見る』など。

「2018年 『音楽の科学 音楽の何に魅せられるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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