あなたのなかのサル: 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源

  • 早川書房
3.85
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152086945

作品紹介・あらすじ

人間が引き起こす身の毛もよだつ大量殺戮、血腥い権力闘争、暴力などは、さも動物時代の野蛮さの名残であるかのように言われてきた一方、親切や思いやりなどは「人間らしい」美点として喧伝されてきた。しかし、動物の側から言わせれば、これは公平な見方ではない。たしかに、人間と98%のDNAを共有しているチンパンジーは、権謀術数に長けた攻撃的なサルではある。だが同じだけのDNAを共有しているもう一つの種であるボノボは、チンパンジーとは対照的に、平等で平和な社会を好み、思いやりの心に富んだ心優しいサルなのである。つまり、階級社会も平等社会も、戦争も平和も(はたまた人間が専売特許だと思っている正常位のセックスや、他のあれやこれやのお楽しみも)、すべてチンパンジーやボノボと同じ祖先から遺伝的に受け継いできたものなのだ。では、ヒトが鏡の中に、破壊の限りをつくす力と、温かい慈愛の心の両方を見つけることができたとき、私たちは何を考え、何をすべきなのか?霊長類研究の世界的権威が、豊富かつ興味深い類人猿たちの生態を紹介しながら、鋭い洞察力と独特のウィットを通じて、「人間らしさ」の本質を考える痛快サル学エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 本著のメッセージは明確だ。
    「権力志向が強く暴力的なチンパンジーと、平和を愛する好色なボノボが人間には同居している」

    人間は所詮、プリミティブな動物である。チンパンジーやボノボと大きく変わらない。彼らの人間性に驚くか、自らの猿性に気付くか、新たな発見の楽しさにページを捲る手が止まらない。人類を見る目が変わる。霊長類を見る目も変わる。

    霊長類のオスには、他のオスが仕掛けてくる真剣勝負と、普通の行動と区別ができず、ストレスを溜めるものがいる。上下関係がハッキリしないとこうした誤解が積み重なり、オスたちはストレスを溜める。ストレスは免疫システムに打撃を与えるので、霊長類が癌になったり、心臓発作を起こしたりすることも珍しくない。凄い、人間みたいだ。そう言えば、人間も瞬時に序列を見抜き、気付くと敬語、タメ口を使い分ける(それがややこしいから全員敬語ですみたいな場面もあるが)。

    本著で詳しくなるのはチンパンジーとボノボの生態。特徴が明確で、チンパンジーが競争型で暴力的、ボノボが協調型で平和主義という事がよく分かる。ボノボについては、好色な印象しかなかったが、もっと哲学的な存在なのかも知れない。チンパンジーが肉食で、人間の赤ちゃんを食べたなんていう話は知らなかった。

    多くの種が自らと交尾をしていないメスの子殺しをするが、ボノボはしない。そもそも、群れで乱交するから、自らの子が区別できない。それは生きる知恵でもある。ボノボは若いメスよりも、年配のメスを好む。近親相姦を避けるという理由と実績を重視する目的だが、自らの子供が分からないからという事だ。しかし、だからこそ、群れ全体の子供として育てる。ユートピアにも見える。

    人間の多くは一夫一妻制だが、テナガザルなんかも一夫一妻制のようだ。チンパンジーは、アルファオスとしてボス猿が統制するハーレム型に近い。正解は無いが、ボノボみたいだと人間では、スケコマシとか尻軽とか淫乱とか、良くない言葉に象徴されるようにポジティブなイメージが無い。本著いわく、答えは睾丸のサイズにあり、一夫一妻制、つまり人間は睾丸が大きくない。なるほど、かくあるべき哉。

  • 2権力
    男は争うこと自体が目的になっている
    女は必要な時だけ争う
    チンパンジーも人間と同じように権力の欲求があるが、隠そうとしないので研究できる
    人間の行動を進化の視点から考えられる


    オスにとって権力は勝ち取るものであり場合によっては同盟も結ぶ
    資質に加え、戦術も必要

    メスは全員から認められることによってリーダーの地位に着く

    3セックス
    サルのメスは多くのオスと交尾することにより父親が誰かわからないようにして子殺しをふせぐ
    人間は父親をはっきりさせることで子育てに参加させた
    夫婦という家族単位を作ることでオス同士の協力体制を作れるようになり繁栄した



    4戦争から平和
    オスは和解するがメスはしない
    集団同士の関係なら人間の方がうまい
    サルの和解は学習 小猿から
    スケープゴートがいる
    他に八つ当たりできるオスの方がストレスが少なくて上に立つ

    5やさしさ
    食べ物レバーで他のサルが苦痛を受ける実験

    トロッコ問題 論理的には同じでも感情がからむと脳の働く部分が変わり答えが変わる

    気前の良いサルは人気がありお互いさまが通じる
    サルの不公平嫌悪 石とキュウリとブドウの交換
    最後通牒ゲーム お金の分割
    共感や協力行動は霊長類からある


    6どこに妥協点を見出すか
    人間はボノボより共感に優れチンパンジーよりも競争する
    恒久平和を実現できないが破滅にも至らない
    純粋な状態は自然に反する

    チンパンジーの兄弟が遊んでいて兄が笑ってるのは親が見ている時が多い、仲良くやってるアピール

  • ふむ

  • 飼育下のチンパンジーやボノボの研究で知られる霊長類学者の著者が、この2種の社会性、特に他者に対する思いやりと凶暴性という相反する性質の表れ方について具体的な事例を豊富に紹介しながら、彼らから分かれた類人猿であるヒトという種の社会性のあり方を考察していく。
    私としては、DNA上も形質もよく似ているチンパンジーとボノボの社会形式がなぜ大きく違うのかに興味があり、いろいろと書籍等を読んでみたが、なかなかはっきりした答えは見つからない。その点は残念だが、本の内容はとても面白かった。特にチンパンジーのオス同士の権力闘争やメス同士の女の友情やマウンティング合戦!の様子などの話は面白かった。
    オスの地位が自分の能力次第で上下するチンパンジーと母親の地位で自動的に定まるボノボだと、チンパンジーの方が自由民主的だが、その分オスは権力闘争ストレスにさらされ死に至ることもある。自由と平和は相反的関係にあるというような話も興味深い。

  • ▼福島大学附属図書館の貸出状況
    https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB00074103

    人間が引き起こす大量殺戮や暴力などは、動物時代の野蛮さの名残であり、親切や思いやりなどは「人間らしい」美点であるかのように言われてきました。しかし、人間と98%のDNAを共有しているチンパンジーは、権謀術数に長け、非常に攻撃的です。一方、同じだけのDNAを共有しているボノボは、チンパンジーとは対照的に、平等で平和な社会を好み、思いやりの心に富んでいます。つまり、残忍性や攻撃性、やさしさや思いやりは、すべてチンパンジーやボノボと同じ祖先から遺伝的に受け継いできたものといえます。では、ヒトがそのような2面性を内包することを認識したとき、私たちは何を考え、何をすべきなのか?著者は、豊富かつ興味深い類人猿たちの生態を紹介しながら、「人間らしさ」の本質について考えていきます。
     
    (推薦者:共生システム理工学類 小山 純生先生)

  • フランス・ドゥヴァールの描く霊長類は、生き生きとした描写とともに、観察によって「擬人化」された彼らの生活が魅力なのだが、何冊読んでも意外と内容が被らないところも魅力。

    本書はおもにボノボの観察結果を中心に、人間の祖先としての類人猿について仮説を立て、それを検証して行くのだが、化学的なようでいて実験科学とはやや性格が異なる。

    ここでの著者は「主観」をフルに使い、仮説としてではなく、もはや動物に人類とほぼ同じような「感情」や「社会性」が備わっていることは自明として(前提として)いるところがおもしろい。

    本書から読み取る限り、人間と霊長類の違いはわずかであると思う。男性同士の軋轢に比べて女性同士の軋轢の方が観察しにくいなど、まるで人間関係の観察記録のようだ。

    また動物的な記憶力を人間がいまだに備えている点も見逃せない。例えば、生後10日の時に誘拐された赤ん坊を、6歳になって街で見かけて自分の子供だと「直観する」など、人間が類人猿の血を引くこと、動物的な記憶を持っていることを自覚させ、動物への「共感」が自分の中で強まっていくのを感じる。

    動物社会での「譲り合い」や「出し抜き」、「将来を予見する」能力や「諦める」現実感など「人間らしさ」が感じられる一冊。ドゥヴァールの優れた観察力と、霊長類の生き生きとした描写がとにかく魅力的。

    https://twitter.com/prigt23/status/1057613450275315712

  • あなたのなかのサル―霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源

  • ずっと前に買って読んでなかった本。一時期流行ったサル物。流行り物だから、期待していなかったが、結構面白かった。競争的、攻撃的なチンパンジーと、宥和的で、性行動でき緊張を解放し、紛争を回避するボノボ。人間はどっち似かとかいう話よりも、個々の類人猿たちの行動エピソードが面白い。
    進化生物学の学説の流行が、社会の意識や関心を反映するという見立ては、その通りだと思う。
    ーー
    第二次大戦後:人間には攻撃性/暴力性がある。(仲間を殺すのは人間だけとか)暴力性を抑えるために文化/スポーツがある、のような議論。
    第二次大戦の衝撃を反映。
    利己主義論:利己的な振る舞いが社会の利益になる。ex「利己的な遺伝子」リチャード ドーキンス
    経済重視、新保守主義、レーガノミクス、サッチャリズム等反映
    団結、思いやりなどの重視:「道徳の進化的起源」など

  • [ 内容 ]
    人間が引き起こす身の毛もよだつ大量殺戮、血腥い権力闘争、暴力などは、さも動物時代の野蛮さの名残であるかのように言われてきた一方、親切や思いやりなどは「人間らしい」美点として喧伝されてきた。
    しかし、動物の側から言わせれば、これは公平な見方ではない。
    たしかに、人間と98%のDNAを共有しているチンパンジーは、権謀術数に長けた攻撃的なサルではある。
    だが同じだけのDNAを共有しているもう一つの種であるボノボは、チンパンジーとは対照的に、平等で平和な社会を好み、思いやりの心に富んだ心優しいサルなのである。
    つまり、階級社会も平等社会も、戦争も平和も(はたまた人間が専売特許だと思っている正常位のセックスや、他のあれやこれやのお楽しみも)、すべてチンパンジーやボノボと同じ祖先から遺伝的に受け継いできたものなのだ。
    では、ヒトが鏡の中に、破壊の限りをつくす力と、温かい慈愛の心の両方を見つけることができたとき、私たちは何を考え、何をすべきなのか?
    霊長類研究の世界的権威が、豊富かつ興味深い類人猿たちの生態を紹介しながら、鋭い洞察力と独特のウィットを通じて、「人間らしさ」の本質を考える痛快サル学エッセイ。

    [ 目次 ]
    第1章 類人猿と家族
    第2章 権力―マキアヴェリの血
    第3章 セックス―カーマ・スートラの霊長類
    第4章 暴力―戦争から平和へ
    第5章 やさしさ―道徳的な感情と身体
    第6章 両極端な類人猿―どこに妥協点を見いだすか

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ヒトらしさとは一体どこからきたのか。
    ヒトしか持っていない感情などあるのだろうか。

    霊長類学者が語るチンパンジー、ボノボ、ヒト。

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