アイル・ビー・ゴーン (刑事〈ショーン・ダフィ〉シリーズ)

制作 : 解説/島田荘司 
  • 早川書房
4.18
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本棚登録 : 128
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151833038

作品紹介・あらすじ

脱獄犯の行方を追う刑事ショーン・ダフィ。捜査の過程で彼が遭遇したのは、未解決の密室殺人事件だった。好評シリーズ第三弾登場

感想・レビュー・書評

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  • 北アイルランド問題の根深さは人種や領土問題に宗教が絡んでるところですよね
    まあどこもそうか
    宗教が絡むとややこしい
    でもややこしいと思うのは無宗教だからなんでしょうな

    今回はテロの話が軸ではあるんですが密室殺人なんかも出てきて多彩な面白さです
    そして北アイルランドの独特な雰囲気が良く出ている気がするんですよね
    もちろん実際に知ってるわけではないので比較してるわけじゃないんですがそうなんだろうなって思わせます
    物語も二転三転してハラハラしました
    良作!

  • 舞台は北アイルランド。
    凶悪犯を収監する刑務所から大規模脱獄が発生した。

    かねてからの素行の悪さが仇となり、警部補から巡査部長へ降格され、国境付近で死と隣り合わせのパトロールを続ける日々を苦々しく耐え忍んでいるダフィは、脱獄班の一人であるIRAの大物テロリストであり旧友であるダーモットの捜索を秘密裏に命ぜられる。
    捜査の過程でダーモットの親族から過去の密室事件を解決すれば、彼の居所を教えると持ち掛けられ事件をほじくり返すことに。

    こてこてのハードボイルド調からの密室事件というなんとも異色な組み合わせ。
    また、北アイルランドというなかな稀有な舞台の政治的背景の興味深さ、骨太で奔放な行動をしつつ時に細やかな気配りを見せるダフィの魅力が相まってリーダビリティ高し。

    ときどき会話の合間に挟まれる「あい」という応答が無性に気になる。
    本筋とは全く関係ないけど、「ええ」とか「はい」とかの応答とは別で、上司から部下へ、部下から上司へのどちらの場面でも使われている。
    お国柄なのか不思議な訳だった。

  • 前作の事件の影響で警察をクビになったショーン・ダフィ。復職をかけて、MI5からの依頼で幼なじみのテロリストを探し出す任務につく。捜査の過程で、別件の犯人を見つければテロリストの居場所を明かすと取引を持ちかけられた彼は、密室殺人に挑むことになる。
    密室の謎がそれほど凝ってないので想像できちゃうけど、だからこそリアリティがあり、本筋の中にすんなりはまっている。だが今作の肝は、混沌とした政治情勢や日常的に爆弾が仕掛けられ罪のない人が死んでいく状況に、ショーンがどう向き合うかだろう。作中、幾人もアイルランドの未来に絶望して海外に出て行き、ショーンも全くその通りだと思っているのに、彼自身はあくまでも目の前の問題に対処し続ける。ラスト近くの彼の苦悩に心が揺さぶられた。

  • ショーン・ダフィシリーズ三作目。

    ただの巡査部長に降格されていたダフィは、
    さらに一般人をひいて怪我をさせた罪を着せられ、
    退職に追い込まれる。
    そこへ、MI5が助け舟を出してくる。
    幼なじみのIRAメンバーを探し出すことを条件に、
    復職したダフィ。
    捜査をはじめると、今度は幼なじみの元妻の母から取引を持ちかけられる。
    元妻の妹の事故死の真相を突き止めれば、居場所を教えると。

    今回は、密室トリック。
    暴力がうずまく北アイルランドのミステリーとしては、
    唐突な感じが否めないが、面白かった。
    そして密室トリックが解けた後、
    あっさり片づけられるかと思った幼なじみとの対決も、
    サッチャーの命を助ける大活躍。
    確か一作目で、
    IRAに入ろうとしたダフィに大学に行くことを勧めた友人として、
    幼なじみのことを覚えていたので感慨深かった。

  •  ショーン・ダフィのシリーズ第三作。難事件を解決する腕は誰もが認めるものの、独断専行の行動によってお偉いさんたちの覚えが悪く、仕事も資格も取り上げられ、自らを追い込まれることが多い主人公。IRAによって荒廃した1980年代前半の北アイルランドの不穏な情勢を背景に、サバイバリストのように自分の規範で行動する故に、警察ミステリと言うよりもノワールの面が強く感じさせられる点はとても魅力である。

     本書では、お偉いさんから組織を放り出されたショーンが、前作では名無しで謎の女性として登場していたケイトなど現場畑の指揮官の求めに応じて、脱獄したIRAのリーダーでありかつての親友でもあったダーモット・マッカンを追うという設定。

     何の情報もなく行方をくらましているダーモットが何を企んでいるのか、そしてそれを阻止するには? という国家的課題にショーンは挑むのだが、元妻の血縁者の未解決事件を解決すればダーモットの行方を教えようという条件を出されて、ショーンは不可解な密室殺人に挑むことになる。

     ノワールの中に本格ミステリが入れ子構造で入り込んだ、世にも珍しいジャンルまたがりの意欲作品として知られるのが本書である。密室ミステリで名高い島田荘司の巻末解説も含め、全体がフルサービス・エンターテインメントとなっているお買い得の一冊と言ってよい。

     本格ミステリとかトリックとかそういったものは中学時代までで卒業してしまい、むしろ毛嫌いしているくらいのぼくにこの本が楽しめるかどうか果たして疑問であったのだが、前二作からの流れを踏襲したハードな展開を前面に出した、過激でワイルドな展開の中で、密室殺人の謎ときは材料の一部でしかなく、それにこだわるあまり人間を軽視するトリック重視傾向の本格ミステリにありがちな軟弱性など、この作品にはこれっぽっちも見られなかった。さすがに北アイルランドの荒々しい自然と、危険極まりない政治情勢を背景に、単独で闘い抜く若きタフな警察官ノワールは、本格ミステリとのバランスをも上手く牛耳れているのだ。

     シリーズを順に読んでゆくと主人公を取り巻く脇役たちも魅力的だが、異動・転居・死亡・出国などにより出入りが激しく、一刻も眼が離せない落ち着きのなさは、この時代の北アイルランド情勢をそのまま反映させているかに見える。いくつも喜劇や悲劇にもさわってゆくので、シリーズ読者はそういう人間的かつ現実的側面からも、主人公ショーンの心の移り様を、深く味わってゆくことができる。

     そういった書き込みの深さ、繊細さも、主人公の読み聴きする文学や音楽とあいまって読書子の多様な要望に応えていると思う。一作毎に複雑精緻な世界の深みを増してゆく世界背景と、その中を生きるショーンという人間の複雑極まる想いの行方を想像しつつ、次作を待ち焦がれたくなる良質の一作がここにある。

  • <刑事ショーン・ダフィ>シリーズ第三弾。今作を以て第一部完結らしいが、地味な前作とは打って変わり、サッチャー首相を狙ったIRAによる爆弾テロ(史実)を物語に絡めた中々スケール感の大きい仕上がり。売りでもある<密室殺人>のトリックは予想の範疇だったが、作品世界に【異物】を然程無理なく取り込めている点は着目すべきだろう。しかし、密室の謎解きに頁を取り過ぎた所為で、ダーモットとの因縁や終盤の大立ち回りは書き込みが浅く、些かバランスの悪い印象。そして、MI5がここまでショーンに肩入れする理由が未だよく分からない。

  • 前作で刑事から巡査に格下げされたダフィは、北アイルランドの常に生死が交差する現場で神経をすり減らす日々。そこに脱走した幼馴染でもあるIRAの大物、ダーモット・マッカンを逮捕するため、MI5から刑事復帰を条件に捜査の依頼を受ける。

    北アイルランド紛争を時代背景に、そこで生きていく人たちの重苦しさが根底にあるが、ストーリーのテコに密室殺人を配置することにより、エンタテインメント性も盛り込まれ、帯のコピーの通り、一気に読ませてくれる。

    苦しい時代に奮闘するダフィにとって、警察に入ることは自らの正義感があってのことだが、マッカンへの憧れからくる一種の嫉妬が原動力にもなっている。そんなに人生きれいに語れるものではない。
    でも人は正しい回答が欲しくて仕事に打ち込む。答えは得られるかどうかはわからない。でも打ち込む。それしかない。

    ダフィは北アイルランドから逃げなかった。
    これからも自分の答えを見つけるために仕事に打ち込むしかない。

  • 「ショーン・ダフィ」シリーズ第3弾。相変わらず車に乗る前に爆弾がないか下を覗かないといけない日々。80年代の北アイルランド。宗教的対立があり、カソリックの刑事ダフィは裏切り者と呼ばれている。職を追われ、復帰のために受けたある捜査。そして密室事件。本格推理ものとしても面白い。対立が激化して命を、警察を狙われているなかでの捜査。過去との対峙、北アイルランドの情勢と不安、不満が渦巻いているなか命がけの毎日。密室事件のあとの大きなうねり、緊張をはらんだ展開はすごい。そしてラストのダフィの迷いと決断。それが次作にどうなるのか今から楽しみ。

  • "刑事"ショーン・ダフィシリーズなのに、肝心の主役が、警部補から交通巡査に降格。ただの巡査じゃ捜査すらままならない、という驚きのトホホな展開からスタート。わお!
    ショーンはいかにしてこの絶対的逆境を克服していくのか。

    その顛末は結果として、ショーンをとんでもない地点に吹き飛ばすことになりました。あのサッチャー首相が...。
    このあり得ないくらい振り幅の大きな展開が、作者エイドリアン・マッキンティの特徴と言えるのかもしれません。

    ・途中のアイルランド語の決めゼリフ「Codladh samh」は、安らかに眠れ、といった意味。

    ・最後に政治的な事柄で印象に残った言葉。
    イギリスという国家は、今ゲームをしている。
    第一次世界大戦の西部戦線の惨事以来、世界中に広げてしまった大英帝国という大風呂敷をいかに綺麗に畳むかというゲームを。
    軍も警察もその撤退戦を戦うコマの一つにすぎない。

  • 3作目も面白かった!北アイルランドに暴力が吹き荒れる中、過去の密室殺人事件を調査するダフィ。IRAのリーダーが脱獄し、今にもテロが起こりそうな中、過去の事件に取り組むことになる。古典的な密室ミステリと、北アイルランドの戦争状態とも言える緊迫感。これが、上手く説得力を持って融合され、密室ミステリを解く余韻を味わう間もなく、本題のテロ阻止スリラーに移行するテンポの良さは1冊で2度美味しいお得感を得た。ある人物の死や、IRAとの対峙、事件解決後の関係者の描写はやや淡白に感じだが、勢いで持って行かれてしまった。

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