三時間の導線 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房
4.10
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151821615

作品紹介・あらすじ

遺体安置所に現れた「あるはずのない」死体。グレーンス警部がその謎を追うが……傑作『三分間の空隙』から続くシリーズ新作登場

感想・レビュー・書評

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  • アンデシュ・ルースルンド『三時間の導線 上』ハヤカワ文庫。

    グレーンス警部シリーズの第8作。シリーズ内シリーズ三部作の『三秒間の死角』『三秒間の空隙』に続く第3作。つまりはグレーンス警部シリーズにして、ピート・ホフマン・シリーズでもあるのだ。

    64歳となったグレーンス警部の前に再び奇妙な事件が立ち塞がる。これまでのシリーズ同様、予想外の事件から幕を明け、スウェーデンはおろかヨーロッパを飛び出し、世界の暗部で起きる壮大な事件へと展開していく。

    ストックホルム南病院の遺体安置所で22体しか無いはずの遺体が1体増えるという事案が発生。増えた遺体はアフリカ出身の男性であること以外は素性は全く不明。翌日、同じ遺体安置所でさらにアフリカ出身と思われる女性の遺体が発見される。

    捜査を進めるうちに港の怪しいコンテナの中で見付かった68体もの大量の遺体。コンテナの遺体の中から見付かった衛生電話機から採取した指紋は意外な人物のものだった。さらには聖ヨーラン病院の遺体安置所でも3体の謎の遺体遺棄が発見される。

    本体価格1,040円
    ★★★★★

  • スウェーデンのミステリー。
    遺体安置所に収容していないはずの遺体が増えていた。
    難民受け入れビジネスとの繋がりか。
    アクション色あるが、社会派の一面もある作品。
    北欧特有の暗さがあまりないのも特徴

  •  グレーンス警部と潜入捜査員ピートとのW主人公シリーズ三部作も、いよいよ大団円を迎える。

     『三秒間の死角』が、作品の完成度やインパクトのわりに正当な評価を得ていなかったものの、アンデシュ・ルースルンドの名は、元囚人の肩書きステファン・トゥンベリとの共著『熊と踊れ』二部作により、一気にエース級作家として知れ渡り、それを受けてか、『三秒間の死角』も『THE INFORMER/三秒間の死角』のタイトルでNYを舞台にストーリーもシンプル化した形に差し替えられたものの、ともかく映画化された。

     以降、『三分間の空隙』、そして本作と、あっという間の三部作翻訳が完了し、ついに最終編とあいなる。ただし、前二作を含むこれまでのグレーンス警部シリーズ全作の共著者であったペリエ・ヘルストレムの病死により、本作では初めてアンデシュ単独での執筆となる。共著がどのように書き進められる作業なのか知るべくもないが、本作で判断する限り、スピードが増して、むしろ読みやすくなり、アンデシュの持つストーリーテリング能力を、むしろ見直した感がある。

     のっけから暗闇、上下左右を死んでいく者たちに囲まれ、自身も死にそうになる圧迫感のある状況下、物語はスタート。死んでゆく彼らが何者なのかの説明はまったくなし。

     続いてグレーンス警部のいつもの描写。亡き妻を偲んで警察署内の自室のソファで眠り、妻を想いレコードをかけるセンチメンタルな日々。事件の一報。コンテナいっぱいに詰められた死体が港に到着したのだ。何という事件だろうか。

     一方、西アフリカ移民の食糧輸送を妨害するテロリストの攻撃から輸送トラックを守るために雇われている、我らがピート。彼が、相変わらず命がけの戦場に身を置く有様と、全く対照的に彼を待つ、妻と二人の男児というホームシックな情景も描かれる。ピートとグレーンス。二人の抱える状況はやがて交錯する。西アフリカ移民という国際状況。対するは、移民の密入国支援で稼ぐ謎の組織。相変わらずの緊迫感溢れる構図である。

     本作には、実は作者の懇切丁寧なあとがきが付加されている。亡くなった共著者への哀悼の想いがまずは強いのだが、これから孤軍奮闘で作家活動を継続してゆかねばならないアンデシュ自身のこだわりとして、ミステリーには謎解きの上に事実を混入して重厚化させる、という作品作りへの拘りが語られている。

     本書でも、その意向がしっかりと実現されていると思う。世界の人々が予想もつかないような事実の重み。誰かの調整を必要としている救いのない現実。それでいて、語られるストーリーの間断なきスピード感と、アクション。複雑極まりない人間たちが織り成す葛藤と、タペストリのように縦横に織られる精緻な紋様。

     グレーンス警部とピートの間の距離は二作目でぐっと詰まったが、三作目はこの傑作シリーズに恥じず、またも一気に二人の絆を強め、締めてくる。よりタイトに。よりスタイリスティックに。

     本書で公開される強烈な悪と人間の残虐と欲望の泥濘には、吐き気さえ覚えてしまうものだが、そうした世界に対峙する男たちの、内を貫く正義感や家族愛が、だからこそ輝く。本書では、グレーンスが、ふとしたことで子供たちに慕われ、自分の中のやさしさ、という慣れない感覚にたびたび震える。そんなヒューマンなシーンもとても印象的だし、ピートとの物言わぬ信頼感や、隔たった二つの世界でのチームワーク含め、何ともスマートかつ重厚な物語に仕上がっている。

     さて、本作でシリーズも終わりと覚悟していたが、作者自身による意外なあとがきが残されている。ある意味嬉しい驚愕だ。

  • 本作は、ストックホルム警察のエーヴェルト・グレーンス警部が活躍するシリーズで、凄腕の潜入捜査員のピート・ホフマンが登場するようになって「ダブル主人公」というような感じになってから3作目ということになる。
    エーヴェルト・グレーンス警部は現役最年長の捜査員という感じで活動している。短気で怒りっぽく頑固で、押しが強く、執念深く事件を追う、やや付き合い悪い感じの男だ。他方で、妻が事故で動けず、話すことも出来ない状態になって長く施設に収容されていて、その妻を喪ったという経過の在る孤独を抱えているような男でもある。或いは、私生活での孤独の他方に、職務に精励することだけを生き甲斐にしていたような面も在る。こういう設定は、シリーズ各作品で示唆されている。本作でも、早朝の自由な時間に、他界した妻が居た施設が見える辺りに座って、想い巡らせながら過ごしているという冒頭辺りの場面の描写で、設定が示唆されていたと思う。
    物語はそのグレーンス警部が連絡を受けたという辺りから起こる。
    グレーンス警部が受けた連絡は奇妙な内容だった。大きな病院の遺体安置所で、全く記録の無い遺体が紛れ込み、記録に在る遺体の数よりも1体増えてしまっているという話しだった。遺体安置所の担当者からの通報で調べることになったので、現場に向かって欲しいという連絡を、グレーンス警部は首を傾げながら聴き、現場へ向かうことにした。少し長く警部の補佐役を務めるスヴェン・スンドクヴィスト、やや若い優秀な女性捜査員のマリアナ・ヘルマンソンを伴い、グレーンス警部は現場での捜査に着手する。
    真面目で熱心に仕事に取組んでいるという風な、遺体安置所の担当者が言うように、正体不明な遺体が1体紛れ込んでいるという不思議な状況を目の当たりにしたグレーンス警部は、問題の遺体を法医学者の所に運んで検分した。窒息死と見受けられる遺体は、西アフリカ、または内陸部の中央アフリカの出である人種的な特徴が見受けられるということだが、身元を知るための手掛かりは皆無である。
    そうしている間に、遺体安置所に更に別な把握していない遺体が紛れ込んでいるという通報が入る。運び込まれた可能性の在る経路を徹底的に探ると、とんでもないモノに行き当たった。港のコンテナの中に夥しい数の遺体が在ったのだった。警察に通報をした遺体安置所、他の遺体安置所でも発見された遺体と合わせると、総数で73体にも上りグレーンス警部達は衝撃を受ける。コンテナに大勢が押し込められていて、呼吸が出来ずに中に居た人達が亡くなったと見受けられる状況である。
    アフリカ諸国等から欧州諸国を目指してやって来る人達の問題が在るのだが、金を取って渡航をさせるとでもして、コンテナに限度を超える程度の人数を押し込んで、多数が生命を落すという状態が生じている。グレーンス警部はストックホルムでこのコンテナを迎え入れるということになっていた関係者が必ず在る筈で、それを逮捕しなければならないと強く思った。そうしていれば携帯電話の着信音が聞こえた。発見された遺体の中から、着衣の裏に縫い付けるように、生前に死者が所持していたらしい携帯電話が見付かった。見付かった携帯電話を鑑識で確り調べてみた。そうすると、意外な人物の痕跡が見付かったのだった。

  • さすがに 今までのレベルではない

  • 死体が一体多い――ストックホルムの遺体安置所で発見された「あるはずのない」男の死体。記録はなく、アフリカ出身と思われる以外、素性は知れない。調査を始めたグレーンス警部だったが、さらに身元不明の女性の亡骸が安置所に出現。その謎を追う捜査陣はあまりに凄惨な光景を目撃する。そしてその場に残された指紋から割り出された人物の名前は……。

    前作三秒間の空隙から一年。シリーズ第8作ということは、翻訳がまだの作品があるのか。快調なペースで上巻を読了。

  • 「三秒間の死角」「三分間の空隙」に続く物語。続きがあるのは嬉しい半面、せっかく家族の元に帰ったのに…という思いもある。どうか無事で…!
    下巻へ

  • いろんな意味で「普通」になった。
    シリーズキャラとしての安全地帯が生まれたことで、ハラハラドキドキしなくなったし(それ自体はいいんだけど)。
    犯人つか黒幕のカマトトぶりは、いくらなんでもないだろうと思った。
    ピートより、ヘルマンソンやスヴェンに活躍してほしいなあ。

    2022/2/3〜2/4読了

  • CL 2022.1.28-2022.1.30

  • 『三秒間の死角』『三分間の空隙』に続く作品。

    いやぁ、あっという間に引き込まれますね。一気に読んでしまいました。

    定年間近なはずなのですが、グレーンスがパワフルに動き回ります。

    そして、ピート・ホフマン。もう、堅気の生活を送っていたんですが、グレーンスに頼まれ、またも・・・

    上巻は、まだ話のとっかかり。下巻で、どういう風に話が進むんでしょう?

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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