地下道の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151821585

作品紹介・あらすじ

冬の朝、43人の子供が市内に突然現れた。ほぼ同時に、病院の地下で女性の死体が発見される。〈ガラスの鍵〉賞受賞シリーズ最新刊

感想・レビュー・書評

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  • エーヴェルト・グレーンス警部シリーズ、初邦訳の4作目

    ホームレス、ストリートチルドレンなどの「存在しない人々」にまつわる事件がテーマ
    人身売買、死刑制度、冤罪などを扱ってきた前作に比べると、面白いのだがやや控えめのような鈍い展開の印象

    シリーズモノの小説を読む時はいつも
    「事件発生〜解決まで」の軸と
    「シリーズ自体の展開」の軸の問題をいつも考えてしまう。
    (※このシリーズは解決しないことが多い)
    「事件が起きて解決して、何も変わらずまた別の事件が起きて〜」の繰り返しなのでは?といつもすこし虚しく感じていた。

    主人公のエーヴェルトは、特に事件の被害者に対しての怒りより、事件が起きるような社会全体への怒り(それと警察組織、あと若造)それと恋人に対する想いを一時忘れるために狂ったように突き進む。
    それを理解する同僚の二人。家庭を持ち事件に悲嘆しながらも挑むスヴェン
    被害者と向き合うヘルマンソンに支えられながら進む。
    毎回あまりにも悲惨で、なぜ"無意味な警察"をやってるのか迷いつつ捜査を進めていく。

    過去に取り扱った事件を少し振り返る場面と、他の交通違反などの犯罪を見逃したりする場面を読んで気づく
    この事件が重くのしかかりそれどころではなくなっているのがわかる。
    「展開が鈍い」と書いたが、それは他にも多くの問題をこのシリーズを通じて見てきたせい。
    エーヴェルトもまた、多くの事件、問題、不条理、クソみたいな奴らを見て来たせいで、感覚を鈍らせて「怒り」を武器に突き進んできたのかもしれない。

    事件は解決しても、問題は残る。
    また事件が起きる。
    現実に沿って描かれた話なので、終わりや終わりに向けた展開はないことに納得した。

    追記:嫌いな奴の車に駐車違反をきるためにわざわざコンビニでメジャーを借りて、距離を測ってるエーヴェルトに狂気を感じた。

  • エーヴェルト警部シリーズ4作目。

    今までの中で一番読後感が重かった。
    高福祉国家と評されるスウェーデンの公には出ない(出せない)社会の暗部。
    物語よりも、その“現実”を知れたのは重要だった。読了後、冒頭の少女の言葉が重く響く。

    そして、途中に出てくる人物の言葉もまた重く響く。
    「他人の悪いところばかり嗅ぎつけて、自分の悪いところには蓋をするのが得意なんですよ、われわれは」

  • アンデシュ・ルースルンド、ベリエ・ヘルストレム『地下道の少女』ハヤカワ文庫。

    北欧の社会派ミステリー。グレーンス警部シリーズの本邦初翻訳作品。

    奇妙な事件。真冬のストックホルムでバスに乗せられた43人の外国人の子供が置き去りにされ、病院の地下通路から47ヵ所も刺され、顔面を何ヵ所も抉られた女性遺体が発見される……

    事実に基づいた事件を題材にしているらしいが、背景が余り詳しく描かれず、今一つしっくり来なかった。グレーンス警部の奮闘の割には呆気ない幕切れ。

  •  現実に即して書こうと意図した作品には、すっきりした終わりはない。小説題材となる現実を、普遍的な形として世界の記憶に留めようと意図する作家は、読者が求める単純化に応えることは容易にはできない。何故なら現実が抱える問題は、今もなお解決を見ることなく、ずっとそこにあり続けるものであるからだ。だからこそ、この種の作品はどこかで必要とされ、そして誰かに読まれる時を待つ。

     これは子供たちの物語だ。家族に捨てられたり、家族から逃げ出したり。ストリート・チルドレン。北欧では冬を越すためにシェルターや施設に逃げ込む者、連れ戻される者もいる。しかし帰りたくない、逃げ続けたい子供たちの一部は、何と地下道に居住している。地下道で火をおこし暖を取り、暗闇の中で何年も生きる子供たちと、共存する初老の世捨人たち。福祉国家として名を馳せるスウェーデン。そんな国でも公営機関はその種の人々の存在を認めようとせず、見た目の数字だけを誇りに虚像の上に座り込んでいる。

     どこかの国と同じだ。日常的に虐待を受けている少女が、学校や児童相談所に自らの危険を顧みず訴えたにも関わらず、最も危険な家族のもとへ帰されてしまった今年初頭の事件。他人事でしかない問題を、書類という形で右から左へ送るしか能のない公職という実態。逃げ出すべき地下道を見出すことなく、父親に殺されてしまった少女。まだまだ発見されぬこの手の事件がこの国にはもうないと誰に言えよう。日本にも家庭から追い出されたり逃げ出したりしてストリート・チルドレンとなった子供たちが皆無だと誰に言えよう。日本の都市の地下道にも少女たちが隠れ住んでいないと誰い言えよう。

     そうした事件の一方で、ルーマニアから来たバスがストックホルムの街で、ある冬の朝、43人の薬物中毒の子供たちを放り出した。これも真実の出来事。作家はこれに脚色を施し物語の一方に加える。

     シリーズならではの三人の刑事の書き分けも見事だ。60歳を間近にしたエーヴェルト・グレーンス。頑固者を通り越し、もはや偏執狂のサイコパスの領域にありそうなヴェテラン刑事。アンニの病状の変化にぐらつく中でめった刺しにされた女性の殺人事件を追う。妻と息子との生活と刑事としての職務の間のバランスを取り切れていないかに見えるデリカシー溢れる刑事スヴェン・スンドクヴィストは本書ではその人間味をひときわ光らせてみせる。さらに新米捜査官なのにエーヴェルトのお眼鏡にかなった有能な女性刑事マリアナ・ヘルマンソンはルーマニア移民の子として、街頭に捨てられたルーマニア孤児43人の事件を独りで追う。

     二つの事件で、親に捨てられ、薬漬けにされ、精神や肉体を侵された子供たちが多く登場したり、刑事たちがそれを目撃したりする。多くの悲劇が背景にあるのにそれに眼を背ける国の中で、小説が何をできるのかを証明しつつ、絶妙のストーリーテリングで現在と三日前からの過去を往還しつつ、読み始めたら止まらないスピード感と面白さ。今に始まったことではないが、ラストシーンでの驚愕のどんでん返し。暗い題材に眼を向けながらも、飽くまでエンターテインメントとしての王道を行く、本シリーズの価値、健在なり!

     付記:同様の恐怖を感じさせられた作品として、香納諒一作品『絵里奈の消滅』を紹介しておきたい。ある少女の生死自体が社会に痕跡を残さないという事件を題材にしており、ハードボイルド・エンターテインメントとしても秀逸である。

     蛇足:本書で設定されている現在は偶然ぼくの誕生日の一日である(1月9日)。勝手ながら個人的な運命を感じた次第。最近、ぼくは運命というものを心の片隅で感じ始めているように思います。

  • だんだんわかってきたが、キャッチーなつかみとすっきりしないオチがこの人たちの芸風なんだな。そうと知れば、通常運転の水準作。
    それにしても今回は「神様ゲーム」(麻耶雄嵩)ばりによく言えば余韻を残す、悪く言えば投げっぱなしのオチで、ミステリを読みつけてない人は下手したらネタを理解できないのでは…と思ったが、そんな人がこんなマニアックなシリーズを手に取ることもないかw
    主人公にコミュ障の偏屈な中年刑事、けど同僚はうらはらに常識人、キャッチーな発端に社会問題を絡めてやるせなく終わる。このあたり、アーナルデュル・インドリダソンと読み味が似ていると思う。むやみなエログロを入れないところや、北欧の気候の陰鬱さを強調しない(けど、ちゃんと伝わる)ところも然りで、「ボックス21」での主人公たちの決断にマジギレしつつも読む気が失せないのは、それらが個人的に肌に合うからだと思われる。本格度は、アイスランドが一枚上手かな。

    スウェーデンのホームレスは、1/3が女性だという。
    日本に女性のホームレスが少ないのは「ホームレスになることすらできない」からであり、「女性ならでは」の被害危険性が(まだしも)少ない国では、このように女性のホームレスも増えるのである。「ホームレスは男性ばかりじゃないか! オンナは恵まれてるw」などとほざく日本男児どもが、いかに的外れであるか。
    いや、それですらない。彼奴らはちゃんと知っている。わかっていて、「股さえ開きゃいくらでも衣食住が得られる」から「オンナは恵まれてるw」などと、平気でうそぶくのである。
    社会は派手に問題を起こす男どもばかりに注目し、ケアをする。静かにはみ出し、こぼれ、壊れていく女性たちには、そんな目や手すらも届かない。いつだって、ここでも、女性たちは男より「後回し」だ。
    女性刑事ヘルマンソンが指摘している内容を読めと言いたい。女の言うとおりになど、彼奴らは絶対しないだろうけど。

    2022/1/3〜1/4読了

  • ストックホルムで、どこからか来たバスに乗ってきた子供達43人が置き去りにされた。全員痩せ細りシンナー中毒で言葉も分からない。警察の捜査により徐々に真相が分かってくるが、悲惨で残酷だが彼らは自国に送り返すしかないのだ。一方でストックホルムの地下で暮らしている少女。彼女が何故真っ暗で巨大なネズミがうようよいる地下道で生活するようになったのか。そんな生活に幸せを感じるほどの何が地上であったのか。分かってくるほど胸が苦しくなるが、どうしたらこんな世界でなくなるのかが分からない。グレーンス警部にも悲しい事が起きるのだが、誰ともつながろうとせずにいつまでも自らの世界に閉じこもっている彼に共感する事は難しい。今後どんな展開になるのか気になる。

  • エーベルト・グレーンス警部シリーズ第四作。

    ルーマニアからバスで運ばれてきた少女たちと
    ストックホルムの地下道に住む少女。
    二つの国のストリートチルドレンたちの事件は、
    驚くことに、全く交わらない。

    スェーデンのミステリーは国際的だ。
    国境をひらりと超えていく。
    橋を渡れば、フェリーに乗れば、
    すぐ隣の国に行ける。
    EUとなった今では検問もない。
    自分が思う「国際的」とは違う気がする。
    国をまたいでおこる犯罪に警察は無力だ。
    その無力感が、このシリーズの通奏低音なのだろうか。
    エーヴェルト警部の恋人も亡くなってしまったし。

    教会に少女がたたずむ場面が印象的だった。
    クララ教会、行ってみたい。

  • ストックホルムでバスいっぱいのシンナー中毒の子供たちが路上に放置された事件。
    顔をめった刺しにされた女性の死体が病院で発見された事件。
    ふたつの事件を追う刑事の、事故で恋人を植物人間にしてしまった過去。
    様々なものから逃げて地下で暮らす人々。
    すべてが結びつき明らかになった真実に救いはない。

  • 『制裁』『ボックス21』『死刑囚』に続く 北欧の傑作ミステリ!
    強い寒波に震える真冬のストックホルム。バスに乗せられた外国人の子ども43人が、警察本部の近くで置き去りにされる事件が発生した。さらに病院の地下通路では、顔の肉を何カ所も抉られた女性の死体が発見された。グレーンス警部たちはふたつの事件を追い始める。難航する捜査の果てに、やがて浮かび上がる、想像を絶する真実とは? 地下道での生活を強いられる人々の悲劇を鮮烈に描く衝撃作。

    シリーズ第四作がいよいよ翻訳で読める。この重苦しさ、たまりません。

  • ストックホルムで、バスに乗せられた43人の子供が放置される。病院の地下では女性の遺体が。地下道で暮らす者たちとの関係は・・・

    同一作者の「三秒間の死角」や「死刑囚」と比べると落ちる感じがする。

    子供たちが海外から連れて来られた話は実話らしく、動機は興味深い。しかし地下道で暮らす者たちの話が冗長に感じられた。

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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