ポアロのクリスマス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151310171

作品紹介・あらすじ

富豪の一族が久方ぶりに集った館で、偏屈な老当主が殺された。犯人は家族か使用人か。聖夜に起きた凄惨な密室殺人にポアロが挑む

感想・レビュー・書評

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  • 血族を聖夜に呼び寄せた偏屈な老当主・シメオン。元から不仲だった血族に辛辣な言葉を浴びせかけた彼は、密室でその代償を払うことになった。疑心暗鬼に囚われた家族から、ポアロは真相を導き出す!

    クリスマスだし『ポアロのクリスマス』を読むぜ!という勢いで選んだら、これがとんでもない傑作だった!アガサ・クリスティーから届いた「血が大量に流れる元気で凶暴な殺人」という時代を超えたクリスマスプレゼント。密室殺人というミステリを彩るのは、金で子を支配してきた親、長きにわたる家族の不協和音、そこに放り込まれた思いも寄らぬゲストという人間ドラマたち。物質的な豊かさを与えるも、子の心理を顧みず支配する親というテーマは現代にも通じるよね。

    ポアロのクリスマスに対する洞察が面白い。クリスマスには善意の精神で振る舞い、意見が合わなかった者同士でも一時的に和解すべきだという偽善が生まれる。まったく顔を合わせていなかった家族が集結する強い緊張感と、大いに飲み食いする中での消化不良が短気を誘発させ、本来あった不和が犯罪という芽を出してしまう。クリスマスという幸せだとされるイベントの裏側を射抜いた言葉が印象深い。

    不仲な家族を呼び出しておいて、不和に薪をくべるが如く煽り散らかす当主・シメオン。跡継ぎとして尽くしてきたのに振り回される長男、犯罪歴があり放浪していた次男、政治家で倹約家ながら金に困る三男、母に対する侮辱を恨み続ける四男、誰が行動を起こしてもおかしくない!さらには、夫と義父の関係を見つめる妻たちの苦悩や選択も重なっていく。ぼくは四男・デイヴィッドの妻・ヒルダの気迫と揺るぎない姿勢が好き。あと、亡くなった長女の娘・ピラールの天衣無縫さもいいよね。子どもたちに繋がれた糸を引くシメオンの懐に飛び込み、気に入られながらも無邪気に真実を突く感じがよかった。

    終盤の推理劇も圧巻。血筋をひっくり返してぶちまけるような逆転劇の数々に唸るしかない。想像していた二段階くらい奥に真相があって、清々しいほどにやられたなあ!という気持ちにさせてくれる。読後感もよく、クリスマスのお供にぜひどうぞ!


    p.27
    「お金のことだけを問題にするなら、お義父さまはとても寛大よ。それは認めます」とリディアは言った。「でも、そのかわりに、わたしたちが奴隷のようにふるまうのを期待なさってるのよ」
    「奴隷だと?」
    「そう、奴隷。あなたはお義父さんの奴隷そのものだわ、アルフレッド。旅行プランをすでに立てていても、突然、お義父さまに行くなと言われれば、あなたは旅の手配をキャンセルして、不満を漏らすことなく家に残るの! もし、お義父さまがわたしたちを追い出そうと気まぐれを起こせば、わたしたちは出ていくことになる……わたしたちには自分の生活がないのよ──自立できていないの」

    p.49
    「わたしは、大切なのは現在だと信じてるの。過去ではなくて! 過去は去らなくてはいけないわ。過去を生かそうとすれば、きっと過去をゆがめてしまう。誇張された時間で──誤った遠近感で──それを見てしまうから」

    p.185
    「家族のなかのいい子が手に入れるものはなにか?──惨めな挫折ですよ。いいですか、みなさん、美徳ってのは割に合わないんです」

  • ひょえ〜〜〜!そんな犯人もアリなのか!と思わず声が出てしまった作品。個人的に、先日読んだミステリーも〇〇が犯人で、〇〇も疑ってかからないといけないんだな、と少々複雑な気分です……。
    それにしても。
    クリスティーには「すごく面白い」か「面白い」作品しかありませんね、ええ。

    タイトルがそのまま『ポアロのクリスマス』ということで、この時期が来るのを待ちわびていました。しかもこのタイミングで新訳版が刊行!
    そのまえがきとして、クリスティーが義兄にあてたこんな言葉がありました。
    「『もっと血が大量に流れる元気で凶暴な殺人」を読みたいと。どこからどう見ても殺人でしかありえないものを!
     そんなわけで、これはあなたに捧げる――あなたのために書いた――特別なお話です。」
    私は特別スプラッタものが好きというわけではありませんが、この不穏な出だしにはかなりワクワクしてしまいました。

    大富豪の老人とその子供たちといえば、『パディントン発4時50分』も思い出されます。その際も個性豊かな子供たちが出てきますが、今作はそれがグレードアップ。
    各々の人生、性格や考え方、他の家族との関係性が非常に丁寧に描かれています。そして彼らを支える妻たちも三者三様。だからこそ、すっかり「家族のストーリー」に惹き込まれて騙されてしまったわけですが。。
    最後もハッピーエンドで、これが雨降って地固まるということでしょうか。彼ら「家族」が、これからはもっといい関係を築いていけたらいいなと思いました。

    最後に、ミステリーにしては珍しく付箋を貼った場所をご紹介。こうした家族ならではの難しさって、万国共通なんでしょうね……。
    p134
    「で、家族が、一年じゅう離ればなれでいた家族たちが、また一同に会するわけです。そうした状況のもとでは、友よ、非常に強い緊張が生まれるということを認めなければなりません。もともと互いをよく思っていない者同士が、打ち解けているように見せなければならないというプレッシャーを自分にかけるわけですから!(略)でも、偽善は偽善です!」
    p136
    「無理してこしらえた状況は本来の反応を引き起こします」

    (おまけ)p448
    "わたしの場合は、いついかなるときとセントラル・ヒーティングだ……"

  • 訳者こそ違えど、既読の本を購入したことに気づいたのは30頁ほど進んでから。
    記憶力が悪いと推理小説を何度でも楽しめてお得だ。
    犯人も最後までほぼ分からず。やれやれ。

  • クリスマスの前後に読むとより現実と小説がリンクして楽しめる気がする。
    「アクロイド殺し」と同様、まさか探偵と犯人が最初から一緒に事件捜査をする、ミステリーばかり読む人間にとっては「そんかの反則だ!」とつい立ち上がってしまうか、恐れ入ったと素直にまた最初から読み直すかのどちらかだと思う。警察官が犯人とは、現実を生きる身としてはあってほしくはない展開だ。事実、読み進めていく中で私は一度も警察官は疑わなかった。警察官を疑っていてはミステリーを読む度に大変な労力が必要になってしまう。
    作品中、夫人達がポワロが買ったつけ髭について話す場面があるが、個人的にはそこがとても好きだ。またポワロが人の口髭を見て手入れに何を使っているのかと聞いたところでは、ポワロも身なりを気にする普通の人間らしいところがあるのだと微笑ましく、くすりと笑ってしまった。近頃は立派な口髭をたくわえた紳士には滅多にお目にかかれないが、口髭を美しく維持するにも苦労があるのだろうかと考えたりもした。
    ピラールとスティーブンは身分を偽って出会った者同士だが、列車内での初対面で既に互いに好印象を抱いたあたり、きっとこの二人は結ばれるだろうと予感があったので、この二人が翌年のクリスマスを奇妙な縁で結ばれたリー家で、今度こそ愉しく過ごせるだろうと想像した。

  • もう世界のアガサクリスティはさすがです。ずっと飽きさせない。人物が交差しながらそれぞれの人物像を浮き上がらせる。
    ポアロの存在の安心感。最後の最後は清々しくそれぞれの場所に戻っていける

  • 富豪が殺され、密室な殺人。いかにもの一族の不和。これでもかというクリスティー時代の王道を存分に楽しめました。

  • ドラマ等は見ておらず、「名作!!」とだけ聞いていて、この作品に関する知識もなく読みました。
    先ず、シメオンが悪い爺さん!!(笑)
    これがまた「殺されてもしょうがない」と思ってしまうので、いいアクセント。
    子どもたちや従者たちにも曲者揃い。
    腹のさぐりあいしまくっています。
    そこへポアロが介入し、事件を解決へと導くのですが、終盤にかけての驚きの連続!!
    驚いている間に次の驚きがやってきました(笑)
    どれだけビックリさせられるの!?というくらいでした!!
    流石……!!と拍手を送りたくなる展開もあり、満足です。
    ドラマ等も見てみたくなりました♡

  • 富豪の一族が集まるクリスマスイブに偏屈な老当主シメオンが殺された。部屋は密室なのに明らかに自殺とは思われない殺され方…犯人は一体?
    スーシェのドラマを何度も観ていたので犯人もわかっていたから楽しめるかな?って思っていたけど、ポアロが出てきてから一気に読めた。というか、シメオンが嫌な奴すぎて進められなかったというのもあるかも。
    ドラマとは確か3兄弟だったのに原作は4兄弟でビックリしたし、他にもいなかった登場人物が…ただ、カタカナの名前を覚えにくい私なので4兄弟プラス3人の妻、誰が誰なのかなかなか大変でした(・・;)

  • クリスマスごろから読んでいたはずなのにもう春がくる。

    古今東西みんな好きだよね“家庭内不協和音”。

  • スーシェ版のドラマでストーリーは覚えているのに都合よく犯人を忘れていたので、新鮮に驚きました。いや、うまい。面白かった!

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