千の輝く太陽 (ハヤカワepi文庫 ホ 1-3)

  • 早川書房
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (514ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200793

作品紹介・あらすじ

全米年間ベストセラー第1位を記録! 『君のためなら千回でも』の著者が描く感動長篇

感想・レビュー・書評

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  • 人を想う強さ、愛する強さに心打たれました。アフガニスタンでタリバンが政権を奪取した2021年。改めて注目されてほしい作品だと思います。

    信仰や文化のため男尊女卑的な考えの残るアフガニスタンを舞台に、二人の女性が歴史や文化、そして暴力に虐げられながらもわずかな希望を信じ、強く生きようとする姿を描いた作品。

    お金持ちの主人とお手伝いの間の子として生まれ、現在は母と二人で粗末な小屋で暮らすマリアムが、何回りも年の離れた男と結婚させられ、さらなる悲劇に見舞われるまでを描いた第1部。

    女性の教育に対しても理解を示す父と、戦線に旅立った兄たちを想う母を持つライラ。兄の方ばかりを気にかける母に複雑な思いを抱きつつも、初恋や父の教えに胸をときめかせるライラにアフガニスタンの内戦の影が忍び寄り……

    そして第3部でこの二人の女性の人生が交わります。その理由というのも、男性は女性の所有物という男尊女卑的な考えの元で、女性の人格や自由なんてものは一顧だにされない。マリアムにも邪険にされ、孤独を極めるライラに兆した変化。それはマリアムの心情も変え、やがて二人は本当の母娘のような強い絆で結ばれていく。

    この二人の関係性をめぐる変化、ライラの希望を持つ姿、マリアムの心情の変化、絶望の中でも女性の母性というか、優しさ、慈しみの心というものが描かれているようで本当に心打たれました。でも悲しいもので、この先このままではいかないだろうな、という思いもどこかにあって、幸せと不穏さの中で揺れているまま、ずっと読み進めている感覚はずっとあったかもしれない。

    二人に訪れる希望、そして絶望。アフガニスタン、とりわけ女性をめぐる環境の劣悪さというものをまざまざと感じさせられ、そして迎える結末は……

    ものすごく哀しい話ではあるけれど、それでもここまで女性の強さ、とりわけ人を想い、愛する強さを感じた小説はあまり記憶にありません。クライマックスは目頭が熱くなりました。でもそれは単なる感動という言葉では言い表せない。もっと神聖で心に染み入る何かが、胸の中にじわじわ広がっていったように思います。

    作品の歴史は9.11後のテロとの戦いでタリバン政権が崩壊したところで終わります。しかし現実はフィクションのようにはいかない。2021年アメリカ軍撤退後、アフガニスタンは瞬く間にタリバン政権が復活しました。タリバンは女性の教育の機会の保証、また前政権やアメリカ軍協力者に対しての報復の禁止をうたっているものの、報道を見る限りではそれも信じられる状況ではなく……

    アフガニスタンだけでなく全世界で、作中の二人の女性のように虐げられ続けている女性たちがいるかと思うと、本当に胸が痛くなります。自分にできることは想像し、祈ることしかできません。この作品のラストのような世界が訪れることを改めて、切に思いました。

  • 昨今の情勢を受け、アフガニスタンに生きる人たちのことを知りたくなった。爆撃、難民、タリバン。。ニュースで聞くだけではぼんやりしてしまう、想像の範疇外のアフガニスタンのことを知るためにまず、あえて私にとって身近な小説という媒体を選んでみた。

    この小説は、国連で難民支援のために働いていた著者によるもの。この小説には、政治情勢の変遷とともに主人公たちを取り巻く環境の変化、そしてその影響をどのように受けているのかが、ありありと描かれていた。

    当たり前のように描かれる衝撃的な日常風景に、展開される主人公達の処遇。まずこの国のもともとの姿にもものすごく本当にびっくりした。でもその全ての驚きの根底には、日本を含む地球上のみなが心の奥底に持つ人間性そのものがあるということも強く感じた。

    そして戦況の悪化、国内の混乱。。息をするのも忘れるほどにその世界を疑似体験した。

    民間人の殺害、街の爆撃、流れ弾、処刑。

    ニュースなどで聞くだけだとぼんやりもやがかっていた現実は、想像よりずっと突然起こることであり、あまりに無惨で、悲しすぎるものだった。

    アフガニスタンの悪夢のような混沌の中でも、人は何かを食べて寝て子供を育て、各自の人生を、生きていかなくてはいけない。

    しかし、女性にとっては、あまりに過酷で理不尽な環境だ。食べ物がないのに仕事もできない、ひとりでの外出すら許されない。

    でもこの小説を通して、私が何よりも恐ろしかったのは戦争ではなかった。きっといつの時代にもどこにでもいる、ひとりの男性の人間性だった。

    この小説は、過酷な運命に翻弄され、自らの運命を甘んじて耐え忍ぶ(きっとこの世界中にたくさん実在する)女性の生涯を、美化することなく描ききった。

    結婚生活、妊娠出産、育児。

    どれも真っ直ぐではないけれど、私にも通じるテーマばかりだった。

    人の心は同じなのだと思った。

    風景や心情の描写がとても美しかった。

    私は主人公マリアムのことを生涯忘れない。

  • 訪問した国や、友人の国がニュースになった時、出会った人々の顔を思い浮かべて大丈夫だろうかと思いを巡らせるが、この本を読んで以来、訪れたこともない、友人もいないアフガニスタンのニュースに心を痛めるようになった。

    タリバンが再び台頭というニュースを聞くと、マリアムのように残酷な刑罰に処される女性たちを思い、自爆テロや学校爆破のニュースを聞くと、ライラやアジザのような女性たちは無事か…、と思ってしまう。

    この作品が発表されて10年以上も経つのに、良くなる気配のないアフガニスタン。希望がもてるようなラストで終わっているが、惨劇のニュースが途切れない現実がつらい。。

    遠き地の見知らぬ女性たちに思いを馳せ、無事を願って止まない思考になるように至らしめた、何度読み返しても胸と目頭が熱くなる、手放すことのないだろうと思える生涯ベストに入る作品。

  • 本当によくできていて、大いに泣いたし、未来が少し明るくて慰められた。
    アフガニスタンの70年代から今を生きる2人の女性の物語。
    アフガニスタンに共産主義者居たんだという驚きや、どのように情勢が変わっていったかよく分かるし、その中で翻弄されていく女性達の痛みや苦しみがひしひし伝わる。
    遠い国の話だが、そんな彼女達の感情に共感できる事も多く、人間の普遍的なものを辿っていく小説でもある。
    昔は、各国の小説はそれぞれの文化や歴史の差異を読んでいたが、今は見た目・境遇がちがっても本質的には同じだ、という同質性を読む時代、らしい。それだけ多様化してグローバルな時代になったということなんだろう。
    所々に出てくるアフガニスタンの山岳地帯や料理の美しさ。今はなきバーミヤンの上に登って人や家畜が暮らす様子を眺める静かなひと時。
    沢山の苦しみと確かな愛。
    今の情勢ではとても足を踏み入れることはできないけど、いつか美しいアフガニスタンを見てみたい。

    カーレド・ホッセイニは自らも医者であるからか、タリバンに支配されてる中でも必死に女性を助ける医師や、生まれてくる子供に罪は無いことを繰り返し書くなど、命の尊さと平等さ、人道的な事を入れていて、それが悲惨な状況を少し和らげてくれている。

    とっても良い小説を読んだ。他の作品も読みたい。

  • 読んで良かった。
    約半世紀に渡って、アフガニスタンで女性が置かれた過酷な状況について、どんなノンフィクションよりも雄弁に伝えているのではないかと想像する。同じ名前の女性が同じ場所に実際にいたわけではないはずだが、マリアムとライラに自分の人生を重ね合わせられるアフガニスタン女性がたくさんいるのだろう。
    とにかく重い。

    マリアムとライラに、そして彼女たちの子どもたちにも共通しているのは、幼い頃からそれが当たり前の状況の中で成長しているということ。まだ判断力のない幼い子どもたちにそのような思いをさせないために、大人はもっと思慮深くなければならないと思った。

    重い話だがラストはとても感動的な余韻があった。

  • 良かった。かの地で起きた歴史的なさまざまなことについて「実際の」「客観的な」事実について私が知ることは、永久にないのだろうけれど、この物語の中に生きた二人の少女について、私が知り、心を動かされたのは事実なんだと思う。

    マリアムとライラが、この表紙のように並ぶことはないけれど、確かにこれは、「二人の少女」の物語なんだと、後半部分を読みながら感じた。

  • アフガニスタン人筆者によるアフガニスタン女性二人の話。因習、歴史、文化、戦争、政治、色んなことが絡み合って動いていくアフガニスタンで、「実際に」生活を送る人の様子にすごく臨場感があった。少しアフガニスタンが自分の中で近くなったと思った小説だった。こんな人たちが暮らしてて、その人たちがこんな風に苦しんで、こんな風に翻弄されているんだ、と。

  • アフガニスタンの歴史を年表で見ながら読みたい本。マリアムの運命には涙が出てきた。同じ作家のカイトランナーも是非読みたい。

  • 今話題のアフガニスタンを舞台とした小説。

    厳格なイスラム社会に生きる女性にとって、夫の存在は物凄く重要であり、小説のようなDV、モラハラの夫に当たってしまうと、ツラい人生を送ることになるということがよく分かった。
    しかも多くの女性は自分で夫を選ぶことはできないし、結婚してしまうともう逃げられない。

    ツラいシーンが多かったもののストーリーとしても展開が多く、訳が良いのか読みやすかった。

    物語を通して共産主義政権からタリバン政権に至るまでのアフガニスタンの歴史や文化を学ぶことができる。

  • 現代のアフガニスタンの情勢や女性が置かれた立場を書く作家という点で希少なので読んでよかったが、サービス旺盛にドラマを盛りすぎて、メロドラマ化や無理筋が気になる。ひと昔前の韓流ドラマのイメージというか。物語、小説として脇が甘いのが残念だ。

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