大戦略論: 戦争と外交のコモンセンス (ハヤカワ文庫NF)

  • 早川書房
4.00
  • (3)
  • (2)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 121
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150505899

作品紹介・あらすじ

ペルシャ戦争、ナポレオン戦争、南北戦争など歴史の転換点における指導者の決断を通じ戦略思考を伝授する、全リーダー必読の書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 大書。本書は米海軍大学校での講義から生まれたとある。
    1つは、「戦略と政策」、そしてもう1つは、「グランド・ストラテジー研究」である。いずれも、理論より、古典文献研究と歴史上の事例研究に重きを置くスタイルととっています。
    また、2種類の動物が登場する。それは、「キツネ」と「ハリネズミ」です。
    日本語訳で、「大戦略」=「グランドストラテジー」についての問題提示、諸歴史における事例考察、そして、ふたたび、「グランドストラテジー」の構成をとっています。

    気になったことは以下です。

    ■グランドストラテジー

    考える道筋や、推論のスタイルをいう

    ハリネズミ 
    すべてのことをたった一つの構想あるいは体系に関連付けこの構想によってのみ彼らの言動は初めて意味をもつようになる
    優柔不断とは無縁。批判もあっさり無視する結論ありきで強気の自説を展開し、納得しない者に対するいら立ちを隠さない

    キツネ 
    いくつもの目的を追求する 目的同士はまったく関連性がなかったり、ときには相矛盾したりする。仮に関連性がある場合でも何らかの原則に基づいて関連づけられているわけではない。
    予想にあたって本能的に、複数の情報源から得た情報を統合しおうとする、壮大な前提から演繹には頼らない、
    政治というもやもやとしている化物が科学的予測の対象となりうること自体を疑ってかかり、ものごとを批判的に検証することがなにより大切だという謙虚な姿勢をくずさない

    キャリアや、地位などの背景や、リベラルか保守か、現実主義か制度主義化、楽観的か悲観的かなどといったことは、予想の的中度とはほとんど関係がない。
    キツネの予測のほうがはるかに命中率が高い、一方ハリネズミは、チンパンジーのダーツ投げ程度しかあたらない。
    ようするに、キツネのほうが、予測は正確である

    ・ある理論が正しいかどうかは、過去の出来事を説明できるかどうかで判断できる。未来を教えてくれる理論として、信頼できるのは、過去の説明ができる理論だけだ。
    ・目標は想像の中に存在するだけだから、無限に膨らませることができる、だが、手段のほうは断固として有限だ。兵士も装備も船も限りがある。何かをやり遂げたいなら、目的と手段が釣り合っていなければならない。目的を手段で、手段を目的で置き換えることはできない。
    ・起こりうるすべてのことに準備しておかなかったら、どれかが必ず起きると覚悟しておかねばならない。
    ・ジレンマを解決する・方法が、時間を引き延ばすこと、つまり先送りである。あることはすぐにやり、他のことは後回しにする。ものによっては達成不可能とあきらめるというやり方だ。
    ・困難な選択は、細部を拡大しただけでは解決できず、選択がどんな変化を起こすかを大局的に知らなければならない。それをする唯一の方法が、過去を再構成することだ

    ・人間が無意識に頼っている会相反する2つの思考を、「速い思考」と「遅い思考」と呼んでいる。
     速い思考 は自動的に高速で働き、直感的、衝動的で、感情が絡むことも多い。何かの衝突するのを避けたり、突進してくる何かをよけたりするときは、速い思考が働いている。
     遅い思考 努力を必要とし、意識的、集中的で、おおくは論理的である。むずかしい計算をするときや、緻密な計画を練る時は、遅い思考が働いている遅い思考は必ずしも行動にはつながらない。遅い思考は何かを学び知るためにある。
    ⇒ キツネのほうが、変化の早い環境で生き延びるのに適している。ハリネズミは、長年にわたって実証ずみのやり方がうまくいく環境で生き残るのに適している。

    ・持てる手段以上のことを望んだら、遅かれ早かれ手段に合わせて目的を縮小しなければならない。

    ・グランドストラテジーは学べるか
     リンカーンや、シェイクスピアは長い時間をかけて大成した
     トップに上り詰めた人間はそれまでに蓄えた知的資本をひたすら取り崩すだけにあってしまうこというこである
     リンカーンのように、トップになってから何か新しいことを学ぶ時間が現代ではひどく少なくなっている。

    ・理論は歴史から抽出して構築するほかない

    ・既知の未知 大地震など予測できなことが認識されている事象を意味する
    ・未知の未知 起こりうると夢にも思っていないかったような事象である

    ・戦争では敵と遭遇しないうちに想定外の出来事が起きて窮地に陥ることが十分にあり得る。クラウゼヴィッツはこれらを称して、「摩擦」とよぶ。言い換えれば、理論と現実の衝突である。
    ・摩擦に直面したら、臨機応変に対応するしかない。だがそれは、成り行き任せとはちがう。ときに計画にしたがい、ときには計画を修正し、ときには計画を捨てる。

    ・訓練によって過去にうまくいったやり方と、うまくいかなかったやり方を峻別する感覚を身に着けておけば、スケールが大きくなるほどばかげたものになりがちな戦略から身を守ることができる。

    ■歴史

    ・大きいことを1つ知っていても十分ではないし、小さいことをたくさんしっていても十分ではない。
    ・隷属国にとって、つねに現在ほど辛いときはない
    ・人間の性情が変わらない限り、戦争と内乱の残虐と悲惨は未来の歴史にも繰り返されるだろうと結論づけている
    ・防衛範囲を「要塞島」と化す戦略は、ずぶとい神経を必要とする。かつての支配地域が焼け野原になるのを見ることに耐えなければならず、その状況で自信を失ってはいけないし、同盟国を動揺させたり、敵に自信をつけさせてはいけない。

    ・孫子は原則を提出する。時間と空間を越えて有効な原則を選び抜き、それを時間と空間に制約される実践に結び付けていく。だから、兵法は歴史ではないし、評伝でもない、指針と手順と断定的な主張の集大成である。
    ・兵とは国の大事なりと孫子は、兵法の冒頭で警告する。したがって、戦争をするかどうかは、「察せざるべからずなり」。
    ・勝ちを知るに五あり。戦ってよい時、いけない時をわきまえる。大軍と小軍の用い方をわきまえる。上下の人が心を合わせること。良く準備した上で、油断した敵を襲うこと。将軍が有能で主君がこれに干渉しないこと。である
    ・単純さと複雑さは共存できること、その単純さが理解の手がかりになることを孫子は知っていた。
    ・自己の客観視:目的を達成するためには自分で自分を伽看的に評価できなければならない。野望を自分の能力の範囲にとどめるよう厳しく自分を律することになる。
    ・オクタウィアヌスは、願望と能力を混同することはまずないが、アレクサンドロスは、生涯混同したままだった。
    ・原則を実行するためには、まずその前に原則が発見され、明文化され、体系化されなくてはならない。

    ・チェックリストは、掟よりも変化に対応しやすい
    ・国家の統治に必要なスキルは、模倣、適用、近似である。マキアヴェリは歴史を学ぶことを奨める。
    ・「君主論」は明確、簡潔かつ謙虚でなければならなかった。
    ・固有の法に従って統治されていた国を統治する方法は3つある。①その国の政体を破壊し、支配者一族の血統を絶滅させること、②新しい支配shあが自らその地に赴いて居住すること、③その地域の法に従った統治を認めつつ税を徴収し、新しい支配者との友好関係を保つような寡頭政をそこに樹立する。 そして③の方法は有効だ。

    ・エリザベス朝は、イングランドの黄金時代だったと言われるが、それは監視と恐怖によって何とか続けられていたといえよう。
    ・寛容であれば自分で自分の首を絞めることになる。君主にとって間違いなく安全なのは、愛されるより、恐れられることだった。
    ・プロスペクト理論:リーダーは利益を得ようとするより、損失を防ごうとするときにより多くのリスクを冒す

    ・アメリカ独立革命、アメリカでは独立戦争といわず、革命という
    ・共和政は王政ほど大規模ではないし、歴史に登場する回数も少ない。が、ローマ以来王政よりはうまくやってきた。平等を求めるこの方式では指導者の傲慢は抑えられ、尊大な者が過去都合よく忘れるという弊害も減る。
    ・いかなる戦略も不測の事態をすべて予見することはできない、どんな解決策も新たな問題を引き起こす。不測の事態も新たな問題も急速に深刻化することがある。

    ・戦争の実際の目的とは何か、「暴力を極限まで行使することと、同時に知性を働かせることとはけっして相いれないわけではない」とクラウゼヴィッツは断言する
    ・ロシア軍は、ナポレオンのこれまでの敵とはちがった。これまでの相手は、向うから仕掛けて来て、戦って負けていた。ところが、ロシア軍はひたすら後退し通過した土地を焼き払っていく。なにしろロシアには土地などいくらでもある。
    ・戦争にあたってわれわれが自分の子弟の生命、祖国の名誉と安全を託すことができるような人物は、創造的頭脳ではなく、思索的な頭脳の持ち主で、何かに専門的であるよりは、総合的に判断ができ、熱血漢ではなく、冷静な自分である。

    ・戦争がどれほど暴力的であっても、戦うと決めた国家の目的に役立つものでなければならず、国家を食い尽くしてはならないと知っていた。戦争それ自体は目的とはなりえない。
    ・全体を失うなら、部分を救っても何の意味もない。政治的な目的がまず存在するのであって、戦争はそれを実現する手段にすぎない。手段は目的から切り離しては考えることはできない。

    ・ソ連はかつてのロシア帝国と同じく、良港を備えていないため、ユーラシア大陸をソ連が支配する可能性は低いとルーズベルトは見ていた。
    ・ハワイからのニュースを聞いたチャーチルは、これでわれわれは戦争に勝ったと絶叫したという。ツイニ、アメリカがその死に至るまで戦争に突入したのだと

    ■まとめ

    ・およそ、複雑な活動を巧みに遂行するためには、相応の知性と気質という素質を必要とする

    ・積極的自由:キツネを追い立てようとするハリネズミ 老いたペリクレス、カエサル、アウグスティヌス、フェリペ2世、ジョージ3世、ナポレオン、ウィルソン
    彼らは皆、世界の仕組みを知っていると過信しており、与えられた条件の中で働くよりも与えられた条件を平らに均してしまいたいと考えた

    ・消極的自由:方位磁石をもったキツネ 若きペリクレス、オクタウィアヌス、マキャヴェリ、エリザベス1世、リンカーン、ソールズベリー、ルーズベルト
    彼らは皆、何か先に持ち受けているかわからないと認める謙虚さを備え、予想外の事態に対応する柔軟性、矛盾を受け入れてしたたかに利用すうr創意工夫をもちあわている

    ・小経的自由の支持者が求めるものは、多元主義である。悪の存在を認めるとともに、複数の悪のつり合いから生まれた善の存在も是認する。

    (結論)
    ・いまどんな「現在」を生きているにせよ、生と死の間の両立不能性は、人間が考え感じる限りで最も大きい。生と死の間に貼られたこの綱をこれから渡ろうとするすべての人は尊敬に値する。

    目次

    はじめに
    第1章 ダーダネルス海峡の橋 グランドストラテジーとは
    第2章 アテネの長城 ペリクレスとトゥキュディデス
    第3章 孫子とオクタウィアヌス
    第4章 魂と国家 アウグスティ・ヌスとマキアヴェリ
    第5章 回転軸としての君主 エリザベス一世とフェリペ二世
    第6章 新世界 アメリカ建国の父たち
    第7章 最も偉大な戦略家たち トルストイとクラウゼヴィッツ
    第8章 最も偉大な大統領 リンカーン
    第9章 最後の最善の希望 ウィルソンとルーズベルト
    第10章 アイザイア ふたたびグランドストラテジーについて

    ISBN:9784150505899
    出版社:早川書房
    判型:文庫
    ページ数:624ページ
    定価:1300円(本体)
    発売日:2022年05月15日

  • 東2法経図・6F開架:391A/G12d//K

  • リンカーンの戦略は面白い。史上最高の大統領と言われるだけはありますね。

  • 第1章 ダーダネルス海峡の橋―グランド・ストラテジーとは
    第2章 アテネの長城―ペリクレスとトゥキュディデス
    第3章 師と原則―孫子とオクタウィアヌス
    第4章 魂と国家―アウグスティヌスとマキアヴェリ
    第5章 回転軸としての君主―エリザベス一世とフェリペ二世
    第6章 新世界―アメリカ建国の父たち
    第7章 最も偉大な戦略家たち―トルストイとクラウゼヴィッツ
    第8章 最も偉大な大統領―リンカーン
    第9章 最後の最善の希望―ウィルソンとルーズベルト
    第10章 アイザイア―ふたたびグランド・ストラテジーについて

全5件中 1 - 5件を表示

ジョン・ルイス・ギャディスの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×