機龍警察 未亡旅団 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150315528

作品紹介・あらすじ

女性だけの自爆テロ集団がチェチェンから日本に潜入した。特捜部による捜査の一方で、城木理事官は政治家の兄にある疑念を抱く。

感想・レビュー・書評

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  • 既に四六判を持っているが解説が載っているので文庫版も購入。

    この文庫版では「自爆条項」完全版(文庫版)と同様に好き勝手な事を書いていきたい。

    これまでのシリーズ既刊を何度か読み返してみて不満に感じる部分がある。
    それは、戦闘場面(龍機兵VS機甲兵装)における人物の視点が姿、ユーリ、ライザ達 突入班の視点で書かれていて相手が何を思って(考えて)いるのかが分からないという事。
    本書だとクライマックスの、
    ・姿vsファティマ
    ・ライザvsジナイーダ
    ・ユーリvsシーラ
    がそうなのだが、
    ファティマの場合、共にナイフを使うのが得意という事もあってか姿はファティマに興味を、それも恋愛感情に近いものを持つのだが、ではファティマは姿に対して何を思っていたのか?
    ジナイーダは女でありながら「死神」と呼ばれる程の凄腕のテロリストだったライザと戦う事をどう思っていたのか?
    そして、多くの犠牲を出してまで自身の想いの成就を目前にしながら、それを阻止する者(ユーリ)が立ち塞がった時のシーラは何を思ったのか?
    例えば、
    ファティマなら、「私と同じナイフ使い。さあ、もっと私を楽しませて」とかジナイーダなら「死神と呼ばれる女。だが、死神でも私を倒す事は出来ない」とかシーラなら「私には どうしてもやらなければならない事がある。誰にも邪魔はさせない」
    なんて書かれていたらなあ。と思うのだが。

    出来る事なら、作者 月村了衛に敵側の視点で書かれた戦闘場面のみの短編を執筆してほしいけど、まあ無理だろう。(意外と既にファンの方が同人誌で書いていたりして)

    「コルトM1847羽衣」等の月村了衛作品の気になる場面にBGMを付けるとしたら どんな曲がいいだろう?なんて考える様になったのだが、本作の戦闘場面でもそれを考えてみた。※()は歌手。
    中には歌詞が場面とのイメージと合わない曲もあるがメロディーの雰囲気で選んでみた。

    先ず、新発田での姿、ライザVS少女兵。
    「ロタティオン」(平沢進)
    ・姿VSファティマ。
    姿視点なら、
    「ダーリング」か「ス・ト・リ・ッ・パ・ー」(沢田研二)なんだけど、ここは「La Isla Bonita」(マドンナ)で。
    ・ライザVSジナイーダ
    「パレード」(平沢進)。
    ・ユーリVSシーラ
    最初は「アカシアの雨がやむとき」(西田佐知子)や「怨み節」(梶芽衣子)が浮かんだが、映画「おろち」の主題歌として使われた 「愛をする人」(柴田淳)にした。

    どのような歌詞かというと、
    ♪私のこと 愛せないなら
    私を愛してくれる人を
    探して下さい どうかお願い
    私にください
    私にください...

    愛しても 愛しても 届かぬ想い
    いつになったなら 報われるのか
    それでもそれでも 愛されずにいられぬ
    女は愚かな生き物なんです

    やがて心は 寂しさに飲まれて
    枯れるのでしょう

    甘えたくて 甘えてみたくて
    あの子みたいに 髪を撫でられたい
    必死だったわ あとどのくらい
    いい子になったら
    いい子になったら...

    求めても求めても 振られてしまう
    いつになっなら 満たされるのか
    それでもそれでも 諦めきれない
    女は欲深い生き物なんです

    そんな心は 憎しみに変わって
    ざわめくでしょう

    愛しても愛しても 届かぬ想い
    いつになろうとも 報われぬとも
    それでもそれでも 愛し続けるの
    女は愚かな生き物なんです

    やがて心は それこそが愛だと
    悟るのでしょう。

    と、まさにシーラの心情を歌っているとしか思えない歌詞。
    物悲しいメロディーで、戦闘場面には不向きとも言えるがアップテンポな曲よりも こちらの方が情感があふれると思い選んだ。
    実際にこの曲をBGMにユーリVSシーラの戦闘場面を読んでみたら、いつものように........以下 略。

    戦闘以外の場面だと、カティアの取調べで自分のやり方に悩む由起谷にユーリが〈痩せ犬の七ヶ条〉の一つを教える場面には「透きとおる季節」(三田村邦彦)の2コーラス目のサビの部分が合わせたい。
    これもどんな歌詞というと、
    ♪心には傷が増えても
    俺は俺は行くだろう
    澱む水よりも流れていたい
    頬を打つ風に向かって

    七ヶ条の一つ[自分自身を信じろ]を教えられ、自信を取り戻す由起谷にぴったしの曲だと思うのだが。

    機龍警察(コミカライズ版)で もしアニメ化されていたら声はこの声優でというのを考えてみたのだが、本書でもそれを考えてみた。(これも80~90年代に制作されていたらと仮定して)

    主要人物はコミカライズ版で書いたので、ここではそれ以外の人物達を。
    ・桂主任 麻上洋子
    ・シーラ 弥永和子
    ・ジナイーダ 戸田恵子
    ・ファティマ 島津冴子
    ・カティア 高山みなみ
    ・宗方亮太郎 井上真樹夫
    ・宗方日菜子 島本須美
    ・城木亮蔵 大木民夫
    ・曽我部雄之助 磯部 勉
    ・堀田義道 津嘉山正種
    ・小野寺徳広 野島昭生
    と、こんな感じで。

    EDにはPEARLの「ONE STEP」で。
    ラストのサビの歌詞
    ♪Ah~心が痛むほど
    声をからし続けなきゃ
    うまくはいかない
    昨日と同じ今日なんて
    誰も望みはしない
    今日と同じ明日を作ろうとは思わない
    やりきれない朝もある
    眠れない夜もきっと来る
    イヤな事にも諦めず
    その手ですべてを消してしまえ

    本作のゲスト主人公と言える少女カティアのテーマ曲と言ってもいい歌詞。
    EDにはこれしかないと思う。

    そのEDの後に、シーラとカティアが青空の下で洗濯物を干す・食事の支度をする・暖炉の前でくつろぐ・一つのベッドで寄り添う様に眠る・笑顔で抱きつき(カティア)同じく笑顔で抱き止める(シーラ)。と二人が、もし本当の親子のように暮らしていたらといったイメージ画(止め絵)によるスペシャルEDがあるといい。

    バックに流れる曲は童謡「おかあさん」。
    ♪おかあさん
    なあに
    おかあさんっていいにおい
    せんたくしていた においでしょ
    しゃぼんのあわのにおいでしょ

    おかあさん
    なあに
    おかあさんっていいにおい
    おりょうりしていた においでしょ
    たまごやきのにおいでしょ

    もう、こんな映像を観たら自分は絶対泣く。
    っていうか、想像しただけで涙が......以下 略。

    最初に書いたように、本当に好き勝手な事をダラダラと書いてしまったが、「機龍警察」シリーズを読むとどうしても色々と空想してしまう。
    まあ、それだけハマってしまっているというわけで。

    さあ、次は「狼眼殺手」文庫版だ!!←っていつ出るんだ?

    そして、新作はいつになったら..........

    • darkavengersさん
      そうですね。
      気長に待つしかないですね。
      そうですね。
      気長に待つしかないですね。
      2024/02/27
    • 松子さん
      だーさん、ひまさん、こんばんは。
      機龍警察の新刊まだまだ先なんだっ。もう十分待った気がするのにショックっす_(:3」z)_
      早く、またみんな...
      だーさん、ひまさん、こんばんは。
      機龍警察の新刊まだまだ先なんだっ。もう十分待った気がするのにショックっす_(:3」z)_
      早く、またみんなでワクワクしながら読みたいですねぇ(^^)
      2024/04/07
    • darkavengersさん
      ゼンさん

      ホント機龍警察新作読みたいなあ。
      まあ、待つしかないですね。
      新作より先に「狼眼殺手」の文庫版が出るのかな?と自分は思っ...
      ゼンさん

      ホント機龍警察新作読みたいなあ。
      まあ、待つしかないですね。
      新作より先に「狼眼殺手」の文庫版が出るのかな?と自分は思っているけど、これもいつ出る事やら。
      2024/04/07
  • チェチェン紛争で家族を失った女性だけのテロ組織『黒い未亡人』が日本に潜入した。公安部と合同で捜査に当たる特捜部は、未成年による自爆テロをも辞さぬこの敵の戦法に翻弄される。一方、城木理事官は実の兄・宗方亮太郎議員にある疑念を抱くが、それは政界と警察組織全体を揺るがす悪夢につながっていた――現代の悲劇と不条理を容赦なく描き尽くす、至高の大河警察小説シリーズ、憎悪と慈愛の第4弾。

    文庫化されたので、9年ぶりに再読。主役だけでなく、ほんのわずかな登場の脇役にいたるまで、印象に残る。

  • 冒頭はいつもの「機龍警察」シリーズらしく、派手派手しい戦闘シーンで幕を開けます。戦闘の主役は、紛争地帯チェチェンから日本に極秘入国した女だけのテロ集団「黒い未亡人」。未成年の少女も含め自爆テロを容赦なく実行する「黒い未亡人」は、敵方ロシア寄りの日本政府に鉄槌を下すためテロを実行すると考えられていたが、その裏にはもう一つの情念に満ちた復讐劇があった。特捜部の城木は、政治家である兄の不審な動きに気づき、その動きを追うが・・・。

    本を閉じたとき、鴨が強烈に感じたのは、「純粋な善意の”暴力性”」です。
    多くの人を不幸にする悪であるテロリズムを容認する気持ちはさらさらありませんが、でも、テロリストにはテロリストなりの理屈や決意があります。自国を守るため、人々を守るため・・・その行動自体は悪であり暴力そのものであっても、彼らの”悪”には、理由なり理屈なりがあります。
    でも、善意には、理由も理屈もありません。ただ、純粋に無私の心から発するものです。だからこそ、悪い方に転がると手に負えない結果が待っています。そんな残酷な事実を、端的に表現した作品だと感じました。

    ストーリー中に実際はほとんど登場しないにもかかわらず、強烈な存在感を放つ城木の義姉・日菜子。彼女が”純粋な善意”からシーラに送った手紙が、この「未亡旅団」で展開される一連の悲劇のきっかけになった、と鴨は思います。
    「戦地チェチェンで貴女のコミュニティが全滅するきっかけを作り、貴女を捨てて逃げた男と、私は結婚します。こちらにも事情があるので、悪く思わないでください。貴女もいろいろ大変だと思いますが、どうぞお幸せにね」とメッセージを送られて、激怒しない女はいないと思うんですけどね・・・。この無邪気とすら言える日菜子の”純粋な善意”が、シーラを少年兵をも巻き込んだ大規模なテロ行動に突き進ませたのでしょう。そして、城木の兄であり日菜子の夫であった宗方亮太郎も、そのことは重々理解していたのだろうと思います。彼が新潟に向かったのは、シーラを止めようとしたのか、それとも別の意図があったのか・・・。いつもの機龍警察とは異なり、途中からいきなりラブロマンス要素が入ってきて「おいおい何だこれ」と思いつつ読み進めて、このモヤモヤした結末。色々と後味の悪い幕切れでした。

    ・・・が、最後の最後、逃げ切った幼い元テロリスト・カティアが、来日中に彼女を救ってくれた特捜部の由起谷に宛てて辿々しい日本語の手紙をよこし、それを読んだ由起谷が愛憎入り混じった泣き笑いをする、このラストシーンには一抹の希望を感じます。いつかカティアが機龍警察の突撃班のメンバーにならないかな・・・なんて思ってしまう(そうならないことが彼女の幸せだと思いますが)、この先に繋がる光を感じました。

    機龍警察シリーズの中では異色の作品だと思いますが、一流のエンターテインメント作品であることに変わりはなく、読んで損はありません!

  • チェチェン人テロ組織「黒の未亡人」との壮烈な戦いを描く。
    過去3作で、メインプロットに絡めて、3人のドラグーン搭乗者の過去を描いてきたが、今作は特捜メンバー、そして女性テロリストにスポットがあてられる。

    チェチェン紛争など報道でしか見てないが、その悲惨さ、特に女子供が巻き込まれる紛争は痛ましすぎて、いくら世界の現実とは言え、読んでて辛かった。

    今回はこの組織との戦いが前面に押し出され、その事案を巡っての”敵”との水面下の確執はあるもののストーリーはいたってシンプル。それだけに、これは映像化したらテンポがあって見ごたえのある作品になりそう。
    過去(作品)との絡みも見事で、相変わらず一級の作品に仕上がっている。

    個人的には、彼女は搭乗要員になる、と思っているのだが。今後はあるかな?

  • ナレーターがシンジくんの声に変わり、キャラクターの把握に手間取ったが、女性の登場が多いこの作品ではかえって良かったかもしれないと思った。

    ウクライナ戦争前からロシアにはどことなく薄気味悪い印象があったが、このシリーズを追うごとにその理由が明確になる。私はあまりにも知らな過ぎた。登場人物は存在しないが、この惨劇は存在している。

    崇高な理想、大義の為に戦っていたはずのシーラが私怨に堕ちてゆく様、それを見抜き自己の罪に気づくカティアの描き方が見事だった。集団の目的はいつも巧妙に変容する。踏み越えてはならない一線は細すぎて見えにくい。気づいたときにはすでに止まれないほど加速している。

    憎しみは人、つまり憎むことを止められない自分の存続をゆるし、愛は人、愛してしまった自分を殺す。愛が憎しみを消すのならば、憎むことでかろうじて生きながらえる自分は?愛しているなら殺さねばならない。憎む自分を。シーラはひなこからの手紙を読んだ時、そう思ったのではないだろうか。

    「母」とは人間に強烈に備わっている概念だと思う。それは必ずしも産み落とした女性と一致しない。守り育む存在を「母」と呼び、思慕する心はこの世から消えるまでなくならない。
    子を喰らう悪鬼は前作でも登場した。喰うということは、すなわち自分の為に利用すること。子供を利用する大人。それは今も溢れかえっている。利用する側には死んでもいきたくない。

    カティアは生きられるだろうか。
    この後も登場してくれるだろうか。
    シロキは闇落ちするのか。
    スガタのメンタルはもつのか。
    次へ

  • ★★★★☆(4)

  • すごい。いろいろな難題が絡みあって物語が進み、一つ一つがほぐれていく。だから、機龍警察はやめられない。

  • シリーズ4作目。
    今作はチェチェンで家や家族を奪われた女性たちが自爆という手段を用いて日本でテロを行うテロリストとなり、世界に訴えかけると言う物語だった。
    このテロを防ぐために特捜部は捜査を開始する。この捜査を続けていくとチェチェンの悲惨な状況などを目の当たりにして心揺さぶられる特捜部の面々がそれでも彼女たちを制圧しなくてはいけない場面はとても重く哀しい場面だった。
    チェチェンに限らず、世界中で子供や女性がこのような被害を受けていると考えるといたたまれない気持ちになった。
    ただ、この作品は最高だった。

  • エピソードが多過ぎで本筋のストーリー
    がなかなか集中出来ない。

  • 質量にちょっとビビッてしまい、読み始めるのに多少の気合が要る本シリーズ(あくまで自分にとっては)。でもいざ物語に触れるや、そんなイメージが実にバカバカしく思えるくらい、圧巻の展開に毎回唸らされる。機龍兵搭乗員の3人とその上司に限らず、それ以外の警察官、更には敵役までも、実に魅力的に描かれるのが素晴らしい。あとがきにもあるように、最初の3作で、件の3人の紹介がある程度なされ、本作からは、いよいよ”敵”にまつわる大きなテーマも動き出した印象。今後、ますます目が離せないな。

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著者プロフィール

1963年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。2010年『機龍警察』で小説家デビュー。12年『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、13年『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、15年『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞、『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞、19年『欺す衆生』で第10回山田風太郎賞を受賞。近著に『暗鬼夜行』『奈落で踊れ』『白日』『非弁護人』『機龍警察 白骨街道』などがある。

「2021年 『ビタートラップ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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