猫舌男爵 (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-5)

著者 :
  • 早川書房
3.66
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本棚登録 : 453
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311759

作品紹介・あらすじ

絶版本の翻訳から生じた恐るべき混乱とは?爆笑、幻惑、戦慄溢れる幻想ミステリ短篇集

感想・レビュー・書評

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  • 皆川博子の短編集は予想をはるか超えて手強い
    ユーモアあるのはタイトル作品の[猫舌男爵]のみ
    苦痛を知る一冊だった

  • 面白かったです。
    SFとコメディと幻想と…いろいろな色のお話たちでした。
    表題作は笑い過ぎました。皆川さんこういうのもお書きになるんだ。ハリガヴォ・ナミコが皆川博子のアナグラムって気付かなかったけど…そして皆川さんの初期?に針ヶ尾さんのお話あるのですね。
    「私は猫です」の活用…確かに、これ読んでると日本語ってつくづく変わってるなと思います。
    結局誰も「猫舌男爵」を読めていないし、話も噛み合わないのに、ラストは皆さん幸せになる。良いなぁ。
    「水葬楽」がとても好きでした。
    死が近付くと容器に入り、液体の中で暮らす人々。それを見詰める兄妹は結合児で…。選別された妹だけど、なかなか衰弱が始まらないのがゾッとします。Back Ground Poemがとてもいい雰囲気です。
    「オムレツ少年の儀式」もラストの鮮やかさ!と思います。
    「睡蓮」も良かった…書簡を時系列の逆から描いていく。これは狂う、と思いました。エーディトの絵、見てみたいです。
    「太陽馬」の作中作が好きです。ナチュラルに、内戦中のロシアの描写と繋がるのにおおっとなりました。
    解説がヤン・ジェロムスキくんだ!熱い文章で笑ってしまいました。訳者の垂野さんは実在するようなのでこの方の文章なのかな?面白いです。

  • 皆川博子さんをはじめてよんだのだけれど、呪いにもにた、神聖さをかんじた。排泄、嘔吐。忌避しがちなことがらをにんげんのどろどろとしたものを目をひらかせてみせてくる、ちょっぴりサディスティックなおもてなし。孤独なものたちの冒険譚。そしてにんげんのグロテスクな神秘が綴られているのに、まるでちがう生き物のことを識っているような幻覚。悪夢を魅せておいて、泣きながら、行き場をなくしたひとりぼっちの魂たちを抱きしめているようでもあったから。わからない、だって表紙の絵からもう、"しかけ" ははじまっているのでしょう(あとがきまで)?
    『睡蓮』がとても好きだった。

    ⬛︎水葬楽⬛︎
    ことばをしり、感情をみとめることはなんと辛いことだろう。幸せを光にかざすとそこにはちゃんと陰があることが、さびしい。無防備な魂はやがて鎧をつけて無垢なふりをする。救うのは詩。それをよむのは孤独な冒険者たち。

    ⬛︎猫舌男爵⬛︎
    ニッポンの、日本語のおかしな矛盾を外国人の目線で語りながらも、うちに秘めた苛立ちの本音がときたまのぞいてかわいい。この世の虚無な可笑しみがすべてつまっているようなサーカス。ほんとう、簡単にはわかりあえないわたしたち。あっちらこっちら勝手なこといってらあ。あーあ、おかしい!

    ⬛︎オムレツ少年の儀式⬛︎
    オムレツをきれいにととのえることができるようになっても、常連さんのこのみが解るようになっても、じぶんのこころのなかがいちばんわからなかった、可哀想な少年の思春期。だれもおしえてくれなかったのだもの。この"尾鰭"がなんのためにあるのかも。

    ⬛︎睡蓮⬛︎
    書簡や日記や記事の引用をもちいて時をさかのぼる。おそろしい過去が、忌まわしき歴史とともに解かれてゆく。痛みをともなう事実は堅固だけれど、ふたりのあいだの"太陽"と"睡蓮"にはふたりだけの愛とよべるものが、そして描かれることのなかったもうひとつの場所には、憎しみが在った故なのかもしれない。あぁ、なんという短編作品だろう。120分の映画をみているような濃密さ。

    ⬛︎太陽馬⬛︎
    ひと という入れ物から、鎖から、逃れたいという欲求をつよく感じた。音も光も言葉も、その概念をすべて宇宙に放ってしまって、現在に堕ちてきた。ひとはその秘めた美しさをみとめる才能を、ただしく用いない。呪われてしまった魂を解放へとみちびいてゆく気概が聴こえた。

  • 5編の短編のうち「睡蓮」「猫舌男爵」が特に面白かった。
    どちらも地の文がなく、手紙や日記をめくりながらストーリーを埋めていく文章で、その開き方が鮮やかで気持ちい。
    皆川さんの著作を読んでいく中で、鶴屋南北や鎌倉権五郎などのモチーフに複数回出会えるのが少し嬉しい。

  • 「水葬楽」
    平均寿命が異常に短い近未来のグロテスクなSF。兄弟(解説では兄妹になってたし私も最初はそう思ったけど、冷静に設定を考えたら兄弟だよね?)が実は・・・というのはまあわりと早い段階で予想がつきましたが、奇妙な美しさのある作品。

    「猫舌男爵」
    これ実は結局「猫舌男爵」という小説そのものは読ませてもらえません(気になるよう!)。ポーランド人の青年が偶然みつけた日本の本「猫舌男爵」を翻訳した、その「あとがき」と、日本から寄せられた感想や、日本語の師匠からの苦情、その他もろもろで構成されていて、かなりユニークで面白かったけど、個人的には「お願いだから小説・猫舌男爵を読ませて!」というストレスがたまりました(苦笑)

    「オムレツ少年の儀式」
    タイトルもなんだか可愛らしいし、ちょっと足穂っぽい印象で始まったのに意外な結末。

    「睡蓮」
    精神病院で亡くなった女性画家の半生を、時系列を逆にして本人および周辺人物の手紙や日記で遡ってゆく構成が面白い。

    「太陽馬」
    戦時のロシア、ドイツ移民、コサックと、部分的に挿入される不思議な作中作、もろもろ含めて作者のお得意ジャンルで、長編としても十分書けそうな題材でした。

  • 短編集。表題作は、読めない日本の稀覯本『猫舌男爵』を巡る外国人翻訳家ヤンと関係者の話。ヤンの余計な気遣いで家庭崩壊しかけているコナルスキ氏が、最後に一応の平穏を取り戻してよかった。「睡蓮」手紙を遡るごとに女性画家の真実が見え、その生涯を噛みしめながら、彼女の美術展に赴いた気持ちになる。「太陽馬」ロシア内戦下で、少尉に随従するコサック兵の秘話。物語を託された側は生き抜いて欲しい。他二作品。

  • タイトルからの直感のみで棚差しから購入。


    解説まで読んではじめて、この作品集の肝が理解出来た。

    一見すると全くバラバラに独立した五つの短編集のようで掴み所がないが、丁寧に読み込むことで物語同士が共鳴するとは驚き。読み手が気づく事で、各物語の’孤独’が救われる。

    第一印象では「オムレツ少年の儀式」「猫舌男爵」が好き。結局、猫舌男爵についてはわからずじまいだったが、みんな幸せな結末を迎えてなにより。

    繰り返し読み必至。



    1刷
    2021.6.12

  • 皆川博子は過去の異国へ誘ってくれるから好きだけど、何かしらのトラウマを残していくので、もうちょっと当分はいいかな…という気持ちになった。『水葬楽』、『睡蓮』は良かった。

  • 「最後の解説を読むまでが読書です」というメタ小説

  • 2014-11-9

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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