スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
4.40
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本棚登録 : 307
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311223

作品紹介・あらすじ

人工妖精の揚羽は東京自治区の独立のため己の全てを捧げる決心をする。人気作の最新刊

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ最終作ということで、早く読みたいけれども、
    終えたくないという相反する感情に板挟み。
    結局は作品世界に引きこまれ、一気に読んでしまった。

    読み始めてすぐに時間軸をずらしてあることはわかったのだけど、
    Cパートでの揚羽の姿が十代前半という描写に「?」。
    2作目でいきなり揚羽をボクっ娘で登場させ、実は真白でした、
    という仕掛けをしてくれた作者さんなので、
    今回も揚羽であって揚羽でない人工妖精。
    いったい君は誰なんだい? という興味もあって、さらに加速。
    そしてAパートでの揚羽と陽平の再会から、
    婚姻届(控(偽(廃)))の件はニヤニヤが止まらない。

    その辺りを境に物語は一気に重い方向へシフト。
    揚羽・真白姉妹の生まれ、麝香の存在理由、
    日本という国の在り方まで話は大きく拡がっていく。
    そんな中で交わされる、陽平の揚羽への愛の告白。
    そして今生の別れ。
    一作目からの歴史を知っているからこそ、涙が…。
    その後の揚羽の行動、選択。
    椛子の煩悶、真白の葛藤。
    すべての結末へ…。

    エピローグ後のふたつのExtra Storyがあったことで、
    読者は救われたと思う。
    エピローグで麝香、曽田洋一も救われ、
    死んだ人は大勢いるけれど、主要人物たちは
    区切りをつけることができた。
    ただ一人、元の揚羽を除いて…。
    それがExtra Storyのおかげで、読者が救われた。
    なにより、自分はそうだった。

    詩藤鏡子が雪柳のエルダー・フローレンスの顔を見てみたい、
    探しだして雇いたいと言っていたけれど、
    それは元の揚羽ともう一度会いたいということなのかな?
    鏡子はそれに気付いていたのかな? と邪推してみたり。

    SFだとキリスト教モチーフが多い気がするのだけれども、
    この作品では天津神や国津神、物部氏のことまで登場し、
    個人的には日本古来のことを扱ってくれているのが嬉しかった。
    またニーチェや哲学書を他言語に翻訳することの難しさなど、
    その辺りのことも非常に読んでいて勉強になった。
    もともと興味のあることであったから、
    より知りたいという欲求が強くなった。

    なにより、スワロウテイルシリーズの世界が
    まだまだ続いてくれることを、心秘かに願います。

  • 人類をこれほどに愛してくれた彼女に、まずは感謝を捧げたい。
    そして、誰もがワルモンではない状況を作り出した作者に、怨念まじりの賞賛を。
    (こういう言い方も、ヒネクレモノの作者には伝わるものと思いたい。)
    (だからこそマシロとモミジの悲劇。読んでいてこれほどつらいものはなかった。)

    これほど苛烈に、人類への愛と憎悪を語りきった小説を、初めて読んだように思う。
    人類に恋をした彼女に、小説の成り行き上これ以上続編はないとわかってはいても、しかしこれ以上何も書けないとは思わないよね、作者様!?

    作者様には感謝を申し上げると同時に、
    次こそは、叙述トリック云々、小説作法云々は度外視した、
    人類と人類の生み出した生命という、スケールの巨大さがそのまま直結した、骨太な物語を、
    強く、強く、強く! 望みます。
    ありがとうございました。
    小説を読んでいて、ほんとうに、よかった。

  • 時系列も視点もいくつもあってなかなか簡単には読めませんでしたが、夢中になって引きこまれるほどのおもしろさがありました。
    色々書くとネタバレになりそうなんですが、この愚かしい人間を最後まで愛し続けてくれた揚羽に、感謝を捧げなければならないと思います。

  • この物語を書き上げたことに敬意を表して★5つをつけます。
    とにかくボリューミーでした。複数の時間軸が平行で描かれる上、どの軸にも揚羽を名乗る人物がいるため、気を抜くと置いて行かれてしまう。長く続く哲学談義が読みどころでもありつらいところでもありですが、これがなければ薄っぺらな話にもなってしまう。
    エンディングは悪くないけど、ちょっと真白がかわいそうな気もします。

  • いったい何人のアゲハが登場したかしら。鴉ヶ揚羽には泣いて馬食を切ることはできないだろうから、こういう納まりかたになるのかな。真白に勤まるのかどうか、不安が残ることは否定できないけれど。
    一方で、第九種接近遭遇を持ち出さなくても、不完全性定理を掲げてしまえば未来の閉塞を決め付けるのは早いといえるのではないか。なにもオカルティックにせずとも。[more] 詩籐鏡子が食えないバーさんだったというのは妙に納得だけど。

  • 章立てからしてパラレルっぽいかなと思っていたけど、そのとおりでしたね
    最近読んだ本で秀作だなと思った本は、この系統のものが多いかも
    ちょっと、ついて行けなかったところがあるので、もう一度読み返したいと思っています

  • スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの (ハヤカワ文庫JA)

  • 途中で引用されているbad apple!!にこんな解釈もありか、と思った。
    久しぶりに聞きたくなった。
    祝福された真白が全ての存在を呪い、拒絶された揚羽が全ての存在を受け入れたのが印象的。
    最後に怒涛の超展開が続いて、消化不良を起こした。
    結局揚羽って生きてるの?死んだの?
    揚羽って何人もいるの?
    疑問ばかり増えたのが残念だった。
    麝香の存在もご都合主義の塊のようにしか感じなかった。
    エピローグの洋一って一巻の少年?
    今度こそ幸せにしてあげてほしい。
    そういえば一巻からここまでで八年たっていたのに今更気づいた。
    それから、毎回巻頭にあった百人の村の話が好きだった。

  • いろいろな視点が絡み合ってひとつの結末へ。
    内容は難しかったけどすごく面白かった。
    過去作に出てきたキャラがちょいちょい出てくるのもいい。
    ただ真白は最後まで流されっぱなしでなんとなく好きになれなかったな。

  •  人口自治区最大の危機と、揚羽たちの決断を描くスワロウテイルシリーズ最終巻。

     ハッピーエンド、バッドエンド、トゥルーエンド、そんなあらゆる終わり方の要素が詰め込まれたシリーズの終着点だったと思います。

     個性的な登場人物のやり取りや突飛な行動といったコメディ要素に鏡子の哲学談義と、前半部の雰囲気はこれまでのシリーズ通り、それだけに後半、今までのシリーズ通り、揚羽たちが過酷な運命に巻き込まれていくか、と思うと辛く、平和な前半パートで終わってほしい、と思わずにはいられなかった気がします。

     自分の顔を持った殺人人工妖精”麝香”を追う揚羽を描くAパート、
    自治区総督の暗殺によって騒乱に巻き込まれる真白を描くBパート、
    そして、須田陽平が揚羽に会いに行く姿が描かれるCパートと、三つのパートがどのようにつながっていくか、も読みどころの一つです。

     AパートとBパートの終着点の対比ほど悲しく残酷なものはなかったと思います。ひたすらに優しかった彼女たちが、なぜこの運命に生まれてこなければならなかったのか、人間が知的生命体を作ったことの罪深さまでにも思いを巡らせずにいられませんでした。

     そんなささくれだった心に、エピローグのそれぞれのエピソードは、それでも生命として生きることの素晴らしさを伝えて、自らの心を浄化してくれるような、清らかさが感じられました。これもまた揚羽が読者に遺してくれたメッセージなのかと思います。

     揚羽とともに、この世界のすべての人々と生命に祝福を願いたくなる、行き着くところに行き着いた最終巻だったと思います。作者あとがきで少しにおわせているところもあるので、願わくば少しでも、全員が救われるような、後日譚を、
    あと作中でより大きな物語をにおわせるところもあったので、それもまたいつか書いていただけたら、読者としてこれ以上うれしいことはないです。

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