男たちを知らない女 (ハヤカワ文庫SF)

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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150123581
#SF

作品紹介・あらすじ

男だけが感染して数日で死亡する新型インフルエンザが発生し、瞬く間に世界中に広まった。最愛の者を失い、生き残った女たちは!?

感想・レビュー・書評

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  • 災厄な災禍とも言える状態の中で、この作品に出合うことが出来たのは幸運だったと思います。

     インフルエンザに似た症状を起こし、わずか28時間という短い時間で男性を死に至らしめる疫病。

     潜伏期間も短く、死亡に至ってはあっという間。

     ワクチンの開発は厳しく、平凡で幸せな家族が夫を、男の子である我が子の死を見つめるしかない。

     世界は一変し、男性の仕事を女性が行い、食料も減ったために配給制度に変わっていく。

     そんな物語の中心にいるのは、人類学者のキャサリン・ローレンス。彼女は夫と息子を亡くすことになる。

     そして、のちに0号感染者と呼ばれるユアン・フレイザーを診断し、看取った救急外来の担当医であるアマンダ・マクリーン。彼女は夫と二人の子供を失うことになる。

     そして、英国情報局に勤務する黒人女性のドーン・ウィリアムズ。

     こうした人物を中心に物語は変わっていく世界を冷徹な眼差しで映し出していく。

     90%の致死率の疫病が世界を変えていく。人口も減り、人々の役割も変わっていくが、それでも変わらないものもあり……。

     とくに主人公的なポジションにいるキャサリンがこの世界を記録した著作の中で『世界が無差別な残酷に満ちているときに様々な形で示しているときに、どうして楽観的に生きられるのだろう? 楽観主義は特権だ』という言葉が痛い。

     現実の世界でも今、私たちは災禍の中にいる。
     その現実と真摯に向かい合いたいと思わせてくれた一冊だった。

  • 「パワー」のトラウマから、いつ「オンナどもの三日天下ざまあwww」な展開にされるかと戦々恐々だったが、そんなことはなく終幕してひと安心。全体によく書けていて、フェミニズム的な視点も控えめに挿入されてはいるが、600万年間虐げられ続けた属性の一員としては、この「控えめ」がいかにも気に入らない。もっとスカッとさせてほしかったが、それでは出版できなかったんだろーなー。男権社会への哀しい忖度を感じた。
    これも忖度だろうが、そもそも女性たちがみんな男を求めすぎ。この手のSFでは必ず「生き残りの男が種馬として下にも置かぬ扱いを受ける」という展開があるが、遺伝的多様性を保つなら男は女性200,000に対して1で充分とも聞く。さらには、もし男=XYの90%が死滅するなどということになったら、すでに研究が進みつつある「XX同士からXXを再生産する技術」を全力で、光速で実用化するほうがよほど有益だろう。
    他にも、
    *文字どおりの「無敵の人」と化し、無差別(と言いつつ標的は女性のみ)殺人に走る男たち(複数)
    *パンデミック初期の性犯罪の激増
    *その後の犯罪発生率の著しい低下と、明らかに「より安全」になった社会
    これらの「絶対あるだろ」と言える事象の描写がないのは不満が残る。
    飲んだくれのクソDV夫を殺して「疫病で死にました」と完全犯罪達成とか、ヤケになり妻子を捨てて逐電したもののすごすご戻ってきた男を「いまさら何しに来た。非常時に助け合えない自己中は要らん。去ね!」ときっぱりたたき出すとかいった描写も一応あるものの端役にすぎず、本線は愛しの「理解ある夫くん」をあえなく喪い涙にくれながらウイルスと戦う裕福なエリート女性たちの物語で、本作のきれい事感はそこから来てるのかなーという気も。普段あまりこの造語が琴線に触れることはないのだが、あー、これがいわゆる「ふか(ふかの)ソファ(に座って高所から一般女性たちを見下ろしているエリート女性たちの)フェミニズム」かー、と思った。
    とはいえ見どころも多く、また単純に面白い。読んで損はないと思う。
    (日本語タイトルはいただけないけれど。原題のほうが絶対いいのに…これも忖度か。嗚呼)

    2022/8/11読了

  • この本がコロナ前に書かれていたと言うことに驚きを感じるとともに様々な事柄を重ねあわせて読んでしまった。
    人それぞれ感じかたも対応も何もかもが違う中でのパンデミック。立場の違いを通して書かれたさまがとても興味深い。自分は確実に自分の愛する人達が死ぬとわかったらどうするのだろうか…。

  • こんなに泣けると思わなかった。

    とても読みやすい。

    ただ、登場人物たちの個性があまりないので、
    誰が誰だかすっと入ってこない。

  • 男が次々と死ぬ世の中。まあ男女両方がそろい性行為をしないとその動物は滅びる。全然感情移入できなくて。たくさん登場人物が出てきて、医療関係で全員女性で、全然中身が頭に入ってこなかった。内容ない文章書く人に限って長文書くよな。と思いながらも結構「男のいない世界」を考えてみた。なんでだかカーディBの「ボダックイエロー」という曲を思い出した。歌詞はグイグイな感じだけど、曲調は物悲しいというのか、男がいなくて強がっている女、みたいな印象なんだな。

  • 「疫病のせいで、多くの人々が物事を大局的に見るようにかったからでしょう」

    小説自体は狙いを外しているように感じだけど、コロナ後に書かれた日本版の解説が面白かった。

  • COVID-19 を予見したかのような絶妙のタイミングで出版されたパンデミック小説。男性だけに致死的で、致死率は90%に及ぶ疫病が発生したという設定で、疫病によるパニック、愛する夫や息子との離別、その後に発生する社会の混乱、ジェンダーロールの転換やLGBTQの意味などを重層的に畳みかける。ジェンダーを絡めたことで凡庸なパンデミック小説とは一線を画してはいるが、たいして成功しているようにも思えない。この本の評価を高めたのは、それよりも何よりも、この出版タイミングであろう。

  • タイトル、どうして「男たちを知らない女」なんだろう。男たち複数に対して女は単数。物語の構成は複数の女性が順番に語るスタイルなので、「男を知らない女たち」のような。男をしらないのは、以降の世界に生まれた娘だけだから?だとしたら意味は通るけど、そこに焦点があたった作品ではないと思うし、以降の世界に生まれたのはキャサリンの娘だけではないから、強い違和感があった。原題は「THE END OF MAN」なので、邦訳が悪い。

    作者がこの物語を書き始めたのは2018年9月で、コロナパンデミックが始まる前の2019年6月に書き上げたという。感染症のおそろしさ、家族や友人や大切におもっている人を失う苦しみ、各国の対応や混乱がリアルで、逆にコロナ禍の後では書けなかったのではないかとも思う。
    570ページほどの小説だけど、すらすらとあっという間に読めた。この物語に日本は出てこない。日本だとどうなるだろうと考える。男性の90パーセントが死ぬと。

  • 不公平なことだが、声高に主張するしつこくて面倒くさい人ほど、病院ではよりよいケアを受けられることが多い。


    それでも、耐えがたいことに変わりははい。同じ経験をしている人がたくさんいるからといって、このつらさが軽くなるわけじゃない。それどころか、自分の置かれた状況が特別ではないからこそ、よけいにつらい。深い悲しみに対する手当も敬意もない。今は世界じゅうが嘆き悲しんでいるのだ。ほとんどすべての男が死んでいくときに、ひとりの夫が亡くなったからって何?何十億人もの息子、父親、兄弟、そして夫たちが亡くなっているときに、ひとりの女の悲しみがなんだっていうの?


    最高の科学的発見が死に物狂いの姿勢から生まれることは、まずない。論理的思考、冷静さ、けっしてあきらめない粘り強さのほうが、競争に勝つ可能性がはるかに高い。


    「あなたが亡くした家族は、なんていうの?」
    「わたし、この質問をするのが好きなの。こんなふうに訊かれれば、亡くなった人たちが忘れられることはないって思えるでしょ。あなたがその人たちのことを覚えているし、今ではわたしの心のなかにもいる」


    「だってほら、世界があなたのことを覚えていなくたって、あなたが重要な存在であることに変わりはないでしょう。わたしたちは、自分の愛した人たちから愛されていた。誰もが言えることじゃないわ」

  • 表紙の神秘的な雰囲気にひとめぼれして購入。
    ドキュメンタリーを見てるかのように臨場感溢れる作品で、複数の登場人物の疫病との向き合い方が目紛しく描かれる。

    解説がとても秀逸!すべてを語ってくれていて、答え合わせのようだった。
    男たちを「知らない」女がこれからの世界をどう担っていくのか。男たちを知る女(愛する人を失った女)は後世に何を残せるのか。
    ジェンダーの域を越えた、科学の力を越えた、人間味の試される本でした。

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