宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF) (ハヤカワ文庫 SF ハ 1-40)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150120337

作品紹介・あらすじ

未来の宇宙戦を迫真の筆致で描き、ヒューゴー賞に輝いたミリタリーSFの原点、ここに

感想・レビュー・書評

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  • 映画「スターシップトゥルーパーズ」の原作。しかしあれと本作は別物だ。異星のバグどもとの派手な戦いを求めると肩透かしをくらう。メインは軍隊に入隊した少年の成長を描いた物語となる。が、これが意外に面白い。新人機動歩兵が訓練キャンプでしごかれ、やがて士官候補生となり…。と言った割と分かりやすい内容となっている。反面、60年代当時のアメリカ軍国主義を皮肉ったものでもある、かもしれない。

  • 宇宙の“バグ”との戦いを描いた物語であるが、その中身は壮大な戦争論だったと思う。しかも、かなり極端な方へ振り切った。
    でも、出会って良かった作品なのは間違いない。

  • 戦闘系SFの名作。1959年の作品。

    主人公、ジュアン・リコ(ジョリー)は、高校卒業後、勢いで地球連邦軍の新兵に志願してしまう。配属は機動歩兵部隊。宇宙艦船からカプセルに入って敵陣地に降下し、パワードスーツを身につけて暴れまわり、敵を殲滅する地上戦のエキスパート部隊だ。敵は、高い知能を持ちアリのようコロニーを形成する節足動物型の宇宙生物のバグ。死と隣り合わせの危険な任務だが(実際、戦闘の度に兵士がバッタバッタと死んでいく)、兵士達の士気は高い。

    が、ジョリーには一人前の兵士になるための過酷で理不尽な新兵訓練が待っていた。約二千名でスタートし、修了したのはたったの百八十七名、死者も十四名を数えるまでに。高校の恩師デュボア先生の教え「この世(ライフ)でなによりも貴重なものを得るために必要な対価とは、命(ライフ)そのもの――完璧な価値を得るための究極の犠牲だ」が新兵教育のエッセンシャルを端的に表している。

    上官に反発し、挫折し、ドロップアウトしかけるが、何とか訓練を乗り切ったジョリーは、いつしか兵士としての誇りと責任、そして仲間意識や自己犠牲を身につけていた。この辺り、映画「愛と青春の旅立ち 」や「G.I.ジェーン」を彷彿とさせるものがある。

    実際の戦闘経験を通じて成長したジョリーは、職業軍人になることを決め、士官候補性学校で士官を目指すことに。そしてふたたび過酷な訓練が…。

    本作、いろんなSF作品・SFアニメに多大な影響を与えたんだろうなあ。なかなか読み応えのある作品だった。

  • やっと、読みました。機動戦士ガンダムのモビルスーツの元ネタになったパワードスーツが登場する、SF小説。
    哲学、政治、軍隊組織等についての濃厚な授業を受けているがごとく、作者が提示する社会と現代の社会との違いや、理想とするべき哲学はなにか等、深く考えさせられた作品だった。物語として、さらっと読んでも面白いし、随所でカタルシスを感じることができる娯楽作品の側面もあり、名作と言われる所以がよくわかった。
    『夏への扉』とともに、時々読み返したい作品だ。

  •  本書のキモはパワードスーツ。1977年の文庫化の際に宮武一貴のデザインで加藤直之がイラストを書いたのが『機動戦士ガンダム』を皮切りに日本のアニメに大きな影響を与えた。内田昌之による新訳ではその加藤直之がふたたび表紙絵を描き、さらには解説でそのころの思い出を語っている。
     よって、解説でハインライン作品の政治的位置づけなどはさっぱり論じられることはない。軍国主義と批判された本書を、中国の軍事的脅威を前にして安保「戦争」法案の成立に揺れる日本でいまいちど読むことの意味も。

     およそ半世紀ぶりの新訳とはいえ、長年流通した訳題は容易には変えられないのだろうが、矢野徹がつけた『宇宙の戦士』という訳題はちょっとカッコつけすぎ。映画化されたときの邦題はそのまま『スターシップ・トゥルーパーズ』。
     「戦士」というと、戦いを生業とする武者とか武士とか、ちょっと英雄的なニュアンスが漂う。トゥルーパーは英国陸軍だと兵卒の身分、米軍だと「入隊した兵士」程度の意味らしい。また騎兵の訳もあり、そこから転じて騎馬警官や戦車兵を示したりする。しかしスターシップ・トゥルーパーズという場合には宇宙船に積み込まれて投下される、階級下位の兵卒たちという感じになるんじゃないか。要するに使い捨ての雑兵である。

     「ぼく」ジョニー・リコは実業家の裕福な家庭に育つが、親友や同級生のかわいい女の子に影響されて、本気で入隊する気もないまま、父への反発もあって軍に入隊してしまう。軍役を勤めあげると市民権が得られるのだ。特別な技能もない「ぼく」は機動歩兵部隊に配属され、厳しい訓練を受ける。旧訳では「おれ」だったけど、世間知らずのリコには「ぼく」のほうがふさわしい。訓練に耐えられないヤツは除隊すればいい。ただ市民権は永遠に得られないだけだ。訓練に耐え、兵士になるのは5分の1。「ぼく」は何とか兵士になる。
     機動歩兵=モービル・インファントリーは、強化防護服(新訳ではもはや訳さずに「パワードスーツ」で通している)を身につけて、最前線で戦う兵士である。宇宙の海兵隊というイメージだったのではないかと思う。最前線で戦う兵士は消耗品であるが、それ故の強い誇りを持つ。その使い捨てぶり、雑兵ぶりを強調するとハリイ・ハリスンの『宇宙兵ブルース』になるし、ジョー・ホールドマン『終わりなき戦い』では兵士が摩耗していく様が描かれた。その後、現在でもミリタリーSFは特にハヤカワ文庫では活況だが、評者はあまり読んだことがないので、どうなっているのかはよく知らない。

     しかしハインラインは前向きだ。訓練の描写だけでおよそ半分にまで達するが、彼が描きたかったのは「一人前の男になる」話だったからだろう。
     「ぼく」が訓練を受けている間に宇宙戦争は本格化する。敵はバグ。蟻や蜂のような社会を形成する巨大な蜘蛛状の異星生物である。「ぼく」の初めての出陣で軍は敵の母星に攻撃を仕掛け、壊滅的な敗北を喫する。
     バグの社会について「全体的な共産主義が、進化によってそれに適応した連中によって活用された場合、どれほど効果的になりうるか」と描写されている。米ソ冷戦期に書かれた小説であり、露骨にバグは共産主義者のことだなどともいわれた。ショスタコーヴィチのCDジャケットに明るく健康的な絵画が使われているものがあった。ははあ、社会主義リアリズムの絵画だなと思って見ると、実はアメリカの画家の絵画だった、ということがあった。社会主義リアリズムと保守的なアメリカ文化というのは実はすごく近いのではないか。
     バグとの戦闘に明け暮れる「ぼく」は職業軍人の道へ進み、士官学校に入る。そこでの教育、とりわけ「歴史・道徳哲学」の授業ではハインラインの「社会かくあるべし」論が展開される。軍務を勤めあげたものだけが市民権を得て、投票権を手にする。『宇宙の戦士』における人類の社会は「すべての投票者と公職者が、自発的に困難な職務に当たることで個人の利益よりも集団の繁栄を尊重することを実践してきた」のだという。「自発的」なんてものが本当にあるのかとちょっと疑問符をつけてやれば、これは蟻や蜂の社会とどう違うというのだろうか。「ぼく」が戦う理由は「機動歩兵だからだ」というのはカッコいいのだが、思考停止状態に陥っているだけでしかない。それだからこそヴァーホーヴェン監督は映画『スターシップ・トゥルーパーズ』においてハインラインの理念を素直になぞるだけでこれをカリカチュアにしてしまうことができたのだ。
     翻って考えると、他の作品ではリベラルだったり共産主義的だったりするハインラインがこの世界の倫理を本気でよいものとして描いたのか、ディストピアとして描いたのか、だんだんわからなくなってきたりもする。
     とはいえ、考えさせられるところは多々ある。敵が攻めてきたら反撃するしかないというのは、平和主義への変わらぬ反論である。これを書いている最中、パリで連続テロ事件が起こった。背後にある貧困や格差に対策をというのは正論だが、いま銃を乱射しているテロリストに対しては、射殺をもって対峙するしかない。しかし、最近読んだある政治学者の指摘、「中国に対峙する国は中国と似てくる」というテーゼがリアルに迫ってくる。
     ハインラインはバグに対峙する国家を示してみせたのだとすると、けだし慧眼であったといえる。

  • ―「お嬢さん、きみがまちがって”道徳的本能“と呼んだものは、年長者たちによってきみの中に植え付けられてきた、きみ個人の生存よりも大きな強制力をもつ生存があるという真理なのだ。」

    ―「わたしはようやく自分の調子が悪い理由に気づいたのだ」「わたしは信念にもとづいて行動しなければならなかった。自分は男であると証明しなければならなかった。ただ生産して消費するエコノミックアニマルではなく……男であると」

    ―その名は輝く、その名は輝く、ロジャー・ヤング!

  • 戦闘表記や戦術が細かく記述されており、躍動感が凄い物語であった
    それが故に、取っつきにくいのかなと思うところもある
    中学生の時に読んでいたら間違えなく布陣や戦術を実証しようとしていただろう
    それだけ中二心を刺激する内容だった

    しばらくはバグとの戦争の結末がどうなったか夢想する日々が続きそうだ

  • カテゴリはSF小説だが、軍国主義的な国家と法、階層化されている地球人の生き方などが、かなりページを割いて論理的に説明され、さながら仮想歴史小説とでもいうべき内容。この世界観をベースにして、一陸軍歩兵の成長物語が語られる。目玉は異星での戦闘を可能にするパワードスーツ。形状は違うとはいえ、兵士の能力を拡張するスーツの研究が実際に進む現在、冷戦当時に執筆されたこの設定は常に新しさを保っている。話としてはまるで長編小説のような進み具合で、後半に至っても結末が来るように思えない。この為構成が行き当たりばったりな感も受けるが、この作品の真骨頂は、軍隊や道徳また戦闘場面や兵器の技術等、細部を徹底的にこだわって語る(ややオタク的な)部分にあり、それが好きな人は著者にハマるかもしれない。

  • 2015/10/29読了。
    僕がこの作品を旧版で初めて読んだのはもう30年以上も前、小学校の六年生か中学校の一年生ぐらいの頃のことだ。何かのアニメ雑誌で「ガンダムのスタッフにモビルスーツの着想を与えた作品」と紹介されていたので読んでみた。同じ意味のキャッチコピーが安彦良和氏の言葉として本書の帯にも書かれている。むしろガンダムすげえな。

    というのは余談だが、新訳版、なかなか良いと思う。主人公の一人称が「ぼく」になっていたり、三十秒爆弾の一人称が「わたし」になっていたり、敬語表現が簡略になっていたり、語り口が幼くなっていたりと、旧訳に比べてライトでソフトで今風になった印象だが、この作品のテーマの現代における表現方法としては、これも有りだろう。読みやすい言葉でこの作品に初めて触れる今の若い読者が何を思うか興味がある。

    以下は本当に余談。
    僕は思春期を通じてこの作品を何度も読み返した。初めは「パワードスーツかっけー!」だったが、再読以降は「歴史と道徳哲学」の授業に興味を感じるようになった。
    親や先生はみんな戦争や暴力はいけないことだと言う。理由を聞いても感情的ではっきりしない。対してこの小説では戦争や体罰を限定必要悪として肯定して、理由もはっきり書いてある。子供でも分かりやすい単純化された比喩と、子供の記憶にも残りやすい短いフレーズで。ぬるい綺麗事への反骨的な手触りがこの小説には感じられたのだ。時代はまさに大人に反抗することが流行っていた1980年代前半、とにかく大人や周りがみんなバカに見え始める年頃の中学二年生には、歯に衣着せずに物を言うデュボア先生などが毅然とした「ほんものの男」に見えたのだろう。少なくとも盗んだバイクで走り出したりちっちゃな頃から悪ガキだったりする歌よりは、こっちの小説のほうが程度が高いと思っていた。
    こういう思考回路を症例の一つに持つ架空の病名が後にネットの世界で流布するようになったが、ここには書かない。まったく鼻持ちならない若気の至りもいいところで、勉強も思慮も視野も想像力も足りない思考回路だったと恥じ入るばかりだ。盗んだバイクで走り出すのと大差ない。というか、そのほうがまだしも健康だ。デュボア先生の言ってることの是非は脇へ置くとしても、仮にああいうことを言う人が現実の世界で台頭を始めたら、中二の頃の僕のような思考回路の持ち主は、盗んだバイクで走り出す人々よりも早い段階で餌食にされて、旗振り役を買って出るようになるものだ。
    だけどこの作品、ミリタリーSFや少年の成長物語としてはやっぱり抜群に面白い。帰属と承認と連帯のロマンティシズムがたっぷりとまぶしてあって、こういう揚げ菓子が大好きな男子はたくさんいる。「歴史と道徳哲学」の授業をサボる生徒でも、このお菓子は大好きだ。こういうものが用意されているところがこの作品の巧みなところであり、油断できないところでもあるのだろう。

  • 言わずと知れたSFの名著。主人公は勢いで軍隊に入り、さまざまなことを経験しながら軍人として成長していく。

    ガンダムの元となったといわれる「パワードスーツ」が出てくるので、ガンダム好きな人には大興奮の作品かもしれない。

    SF小説なんだけど、組織論や哲学の本という側面も非常に強いと思う。統率に関して、過激ながら現実的な描写が多く(そんな理想論ばかりでは社会は回らんよねって話し)、いろいろと考えさせられる内容。

    名著といわれるのはわかるし、1959年の本だということを考えれば先見の明えぐいなと思うけど、SF小説に大衆娯楽を期待している自分には少し合わなかったかな。

    読了感は非常にいいんだけど、これがjuvenile(青少年向け)というのが驚き。

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