逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作集 (ハヤカワ文庫 SF ウ 9-6)

  • 早川書房
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150120191

作品紹介・あらすじ

水星でのひと夏を鮮やかに描いた表題作など6篇を収録した著者のベスト・オブ・ベスト

感想・レビュー・書評

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  • 特異な世界観と、どことなくセンチな余情が残るSF短編集。物語の雰囲気をつかむまでに苦戦した短編もあるにはあったのですが、その世界観や人間関係であったり、あるいは「ここでない世界」に対しての、切ない思いが印象的です。

    収録作品は6編。

    表題作『逆行の夏』はストーリーはもちろん、SFならではの描写が印象的。水銀の湖と洞窟が、太陽の光を照らし返す情景なんかは、美しさを感じるとともに、SFの想像力の豊かさも感じます。
    ストーリーとしては、クローンの姉との再会であったり、身体の改造や性別の転換ですら、簡単に行える、という技術背景が描かれ、なかなかのハードSFらしい雰囲気。

    そのため、ややとっつきにくさはあったものの、技術や世界観の面白さだけに頼らず、技術では変えられない家族の関係性に焦点を当てた、暖かさが印象的な短編です。

    世界観でもっともインパクトがあったのは『バービーはなぜ殺される』という短編。「統一教」という男も女も性別関係なく、すべてバービー人形のような顔、身体に整形した宗教団体で起こった殺人事件。捜査は被害者、容疑者、目撃者全て顔が同じな上、思想や思考まで一緒という状況に困難を極め……

    この設定だからこその、展開の持っていき方や、動機の異常さなどが見事! 統一教の教義や始まりについては、触れられていたけど、それぞれの個人が、統一教のどこに惹かれたのかは、あまり詳しく書かれていなかったと思うので、少しだけ感じたことを。

    他者とまったく同じになるというのは、みんなと同じ、自分は異質じゃない、という安心感があるのかなあ、という気がします。そういう意味においてはユートピアとも感じる人もいるのかもしれないけど、そういう思考に対するアンチテーゼとして、この短編は書かれたのかも。
    また改めて読んでみると、印象が変わりそうな作品です。

    『残像』もある意味ではユートピアのお話。経済不安によって社会が不安定となり、それぞれが小さなコミュニティに分かれた世界。その小さなコミュニティを渡り歩き旅をする男は、ある日、視覚・聴覚ともに不自由な人たちが中心となって運営されている町を訪れる。

    音声、文字が認識できない人たちが、どうやってコミュニケーションを取り、文化を維持、発展させるか。現代のパートに、時折過去のパートが挟まれ、現在の実際的な状況と、過去のコミュニティが成り立つまでの歴史や理念までも語られます。

    視覚や聴覚などあらゆる情報にさらされる人々と、そこから離れ、独自の言語文化や考え方を発展させていった人々の対比としても読めるかも。思考実験的な部分と、物語のテーマ、そしてここではない世界や文化への憧れが共鳴し合う、こちらも印象的な短編です。
    アメリカではいくつもの賞を受賞した作品みたいですが、それも納得の出来。

    ユートピアの話はもう一編。少年と一人の女性の出会いが描かれる『さようなら、ロビンソン・クルーソー』は、ユートピアの終わりと共に、一つの時代の終わりの寂しさや郷愁と、新たな決意や爽やかさも印象的な短編でした。

    設定自体は特異で作り込まれたものが多くて、話にスッと入れるかは、人によって分かれるかもしれません。
    でも一方で、そういった世界を描きながらも、どこまでも変わらない人間の憧れや哀しさを、表現した短編集でもあった気がします。

  • ボーイミーツガールというか、未来のセックスについて書かれたものが多い。俗に言うLAB&SEXね。(言わないけど)
    まあ、SFはセックス(性)と相性がよく「ジェンダーSF」というジャンルがある
    が、ティプトリーよりは扱いが軽いというかロマンチックなのは、男性作家だからか?。

    少年に体に戻っての年上の女性との性愛の「さよなら、ロビンソンクルーソー」、
    「愛はなによりも強いはずじゃないか」と男が叫ぶ「ブルーシャンパン」
    とまー、純情な男の妄想炸裂と、いえなくもないかなー。

    コミューン賛歌の「残像」って、60年代にかかれたかと思ったら、書かれたのは78年。あ、すでにノスタルジーとしてのコミューン、というか達成されなかったコミューンの理想を描いたものなのか。
    外界から遮断されることで次の高みに行く、というなんとも反社会的なユートピア。いや、まったく違った言語(触覚による言語)を得ることによって違う世界に行く、という言語学SFとしても面白い。

    「逆行の夏」の水銀の湖、「ブルーシャンパン」の月の軌道上に浮かぶ水球などの圧倒的に美しい描写は、SFの醍醐味。

    臨界点(シンギュラシティ)を扱った
    最後のテクノスリラー「PRESS ENTER ■」イヤーな感じが、ちょっと異質。

  • 古本で持っている「ブルー・シャンペン」に収録されている作品の一部も含めて、新たに編集されたヴァーリィの短編集。
    サイバーパンクの先駆けとも称される、身体改変や自我のデータ化が当たり前となった未来世界を描き出しつつ、そこに流れているのは孤独と諦観。如何にも日本人受けしそうな作風ですねー。

    鴨的にはセンチメンタリズムが鼻についてしまってイマイチな作品もありましたが、独特の世界観は一読の価値あり。久しぶりに読んだ「PRESS ENTER■」がやっぱり面白かったなー。

  • SF。短編集。
    「逆行の夏」「さようなら、ロビンソン・クルーソー」は既読。
    全体的に高品質。美しい。あとエロい。
    特に、目と耳に障害を持つ人々だけの世界を描いた「残像」が素晴らしい。とても感動した。
    奇妙なSFミステリ、「バービーはなぜ殺される」もミステリファンとして高評価。
    あと、帯の円城塔さんの紹介が最高すぎます。

  • 初ジョン・ヴァーリイ。「残像」はよくこんな話を考え付いたなぁと感心。「ブルー・シャンペン」はQ・Mが不憫だけど最後の一言にグッとくる。「PRESS ENTER ??」は、結局、なんなのー!どの話も面白かった。

  • ジョン・ヴァーリイの作品って“残像”しか読んだことないような気がするけど、カバーにひかれて購入。

  • ポップな表紙絵とは裏腹にハードな世界観のSFが多く収録された短編集。
    ビターな余韻の作品が多いが間違いなく良質である。

    『PRESS ENTER ■』に描かれたコンピューターの姿、『残像』に描かれた人間の姿、どちらも感慨深い。

  • アメリカのSF作家、ジョン・ヴァーリイが1970~80に発表した中短編を集めた一冊。初読みだが、海外SF作品としてはまあまあ読みやすい部類に入るのではないかと思う。シリーズ作品があるようで、表題作は太陽系の各惑星に人類が居住して宇宙経済や格差などができている未来を描いた<八世界>シリーズとなっている。個人的には女警部補アンナ=ルイーズ・バッハの活躍するシリーズの一遍『バービーはなぜ殺される』がミステリーのようでエンタメ性が高く、おもしろく読めた。

  • 八世界のシリーズが一番好きだが、アンナ出てくるような暗い話も好きなんだな。

  • 円城塔に煽られて。ヴァーリイ初読。

    1作目『逆行の夏』を読んだところではあまりピンと来ていなかったのだが、3作目『バービーはなぜ殺される』あたりからじわじわとハマっていった。SFではあるが文学であり、今こことは異なる地平の世界において、人々は何を感じ、どうやって生き、何を愛するのかという愚直な筆致に心を惹かれる。それは『残像』や『PRESS ENTER ■』での地続きな地平もあれば、こことは全く別の地平もあり、短編間で飛躍する視野が楽しくもあった。

    後半3作が特に白眉だった。『残像』で、再び訪れたときのコミュニティの変化、彼らはどこに行ってしまったのだろうという寂寥感。『PRESS~』のなんとも言えない後味の悪さ。『ブルー・シャンペン』の幸せではなかったのかもしれないが、美しい結末。どれも絶妙に後を引く。

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