月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (686ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150117481

感想・レビュー・書評

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  • SF界ビッグスリーの1人、ハイラインの代表作として、アメリカでは読者投票で1位に挙がる本書。ちなみに日本では、映画化もされた「夏ヘの扉」が1位。

    月に住む主人公を含む3名と1台のAIがメインとなって腐敗した政府への反体制運動から革命を起し、自治政府を立ち上げ、月を支配していた地球の政府からの独立までを描く壮大なストーリー。よく革命を起こし現体制を倒してチャンチャンというハッピーエンドな展開はよくお目に掛かるが、本書は革命の後の苦労もしっかり描かれていて新鮮であった。

    ただ翻訳が読み難い。英語に忠実に、アメリカ独特のウィットもちゃんと訳そうとする努力が見られたが、あまりの読み難さに何度か挫折しそうになった。アメリカと日本の読者投票の結果の違いは文化の違いと解説にあったが、確かに本書の内容はアメリカ建国の歴史と通じる事は大いに納得するが、そもそも翻訳の読み難さのために日本での評判が低めなのでは、と思ってしまった。

  • IT関連のフォーラムのセッションで「現在の人工知能を最も的確にあらわしている本・・・」ということでなんと本書をあげられていたので、読み返したくなる。

    はるか昔、やっぱりクラークのほうがいいなぁ、なんて生意気な口をきいていた記憶があります。なるほど、この業界に携わる身からすると、本書の記述は全く現在の人工知能のレベルを正確に表していることが今更ながらわかります(そもそも知能でないからね)。あげく、この小説の人工知能の名前はホームズ!ハインラインすごい。

    AIによる独立戦争のアシスト、囚人ばかりの世界での組織化された動き、月世界での一夫多妻制の生活など、賛否両論織り込み済みの興味深いテーマが満載。やっぱり自分でそのテーマを深堀りできる素材がちりばめられたすごい作品なんだなぁ。

  •  TPPが締結されるとものの値段が安くなるという。他方、デフレ脱却のために政府日銀は物価を上げようとしている。ものの値段というのはそういう小手先の操作でかわっていいものとは思えない。いかに高かろうと、それなりに手間暇かけたものにはそれなりの対価が払われなければならないはずである。そして、ものの値段はひいては自分自身の労働に正当に支払われるかという問題と関わってくることである。
     というような考え方を教わったのは、そうだ、この本だった。タンスターフルTanstaafl──無料の昼食なんてものはないThere ain't no such thing as a free lunch、というのが月世界のモットーなのだ。空気だって買わなければならないのが月なのだ。

     2075年、月は流刑地として、地下に都市が掘られ、囚人とその子孫、それから自発的植民者が住み、穀物を栽培して、それを地球の出先機関である月行政府に売り、その金で空気や水を行政府から買って生活していた。穀物は安価で地球へと射出され、つまりは、月植民地は搾取されていた。『月は無慈悲な……』は月独立の物語である。月行政府のコンピュータが意識を持ち、そのことに〈おれ〉、すなわちコンピュータ技師のマヌエルが気づくところから話が始まる。
     マイク、すなわち名探偵の兄マイクロフト・ホームズと名付けられた行政府のコンピュータという強い味方を手に入れてしまえばクーデターまでは何ということもないのだが、武器も何もない月世界が地球を相手にいかに独立を勝ち取るかというのが痛快な物語なのである。

     ニェット、なんてロシア語もこの本で教わった。多民族多人種の月世界ではなぜか英語にロシア語混じりである。全体としてアメリカ独立のアナロジーで組み立てられた小説にロシア革命のフレーバーを振りかけているのだろう。ハインラインの描く月世界はある種の無政府主義社会、少なくとも「小さい政府」「自己責任」といった自由主義の潮流にある。ただハインラインも無政府主義はその構成員の性善説を採らないとうまくいかないこともわかっていて、月世界は自分で自分の責任をとりながら、他人を助ける精神を持つ、そういう人々で成り立っている社会だとされる。なぜなら「月は厳しい女教師」(本書の原題である)だからである。すなわち月世界は厳しい環境であって、そこで生き延びることができた人々というのは、月という「厳しい女教師」の授業をくぐり抜けたものだということである。

     マイクがCG(なんて言葉は本書では出てこないが)で革命家の頭領になりすまし、電話回線を使って「同志」たちと連絡を取るという設定は、コンピュータが自立した意識を持つということ以外ほとんど実現されてしまい、いま読む方がリアリティがある。他方、タンスターフルには自由主義に収まりきらない思想、環境問題や持続可能な社会といった今日的なテーマにつながっていて、いまやわれわれはこの月世界に生きている!
     ともあれ、痛快な物語で、最後に淡々とした記述で泣かせる。ただ、『夏への扉』に引かれてか、主人公マヌエルの一人称は「おれ」ではなく「ぼく」と訳してほしいと高校生のころ読んだときに思ったが、その感想は変わらない。

  • 「宇宙の戦士」がガンダムなら、こちらはダグラム。地球政府の圧政に苦しむ月の住民が独立を目指して革命を起こす。最大の武器になるのはロボットではなく、自意識に目覚めた超知能AI<マイク>。登場人物の配置やプロット全体は的確で難しくなく、文章も読みやすいが、いかんせん約600ページの長さがツライ。おなじみ政治や思想に関する論説も苦手な人には読了までの壁となっている気がする。しかし終盤に至り、積み上げられてきたものが一気に爆発する展開は最高。独立戦争の是非については思うところもあるし、考えさせられる部分はあるが、今回はエンタメとして楽しんだ。月を眺めながら、圧倒的な読後感に浸っていたい。

  • さすがハインライン読みやすい。一応舞台は近未来で月と地球の戦争なんだけれど、そのまま現代の国際貿易戦争に当てはめられる内容。中国とインドがキーになっている点でも、1960年代に書かれたことを鑑みると先見の明が。AI(コンピューター?)に関しては他のSF諸作みたいな、安易な自我の暴走やエラーを描かなかったのが良かった。とはいえ最後応答がなくなる寂しさはロボットものの定番ですね。

  • 最初に思ったのは、訳が読みづらい!という事。古いのは仕方ないけど、会話を自然体にしたいのか代名詞が多くて何をあるいは誰を指してるのか分からない。そのため集中できなくてなかなか話に入り込めなかった。
    それでも舞台設定は魅力的。地球の流刑地とされてきた月の住民たちが、搾取される立場から脱却するために反乱を起こす。主導するのは主人公マニーと仲間2人の人間3人と、「計算機」のマイク。仲間のうちの「教授」は自らの理想を実現する為には悪どいことも平然とやってのける。もう1人の仲間の女性ワイオミングは情熱的で感情的で行動の人。そしてマイクは人間の友達であるマニーたちに協力している立場だが、徐々に自ら考え窮地に陥るマニーたちを救おうと奮闘する。
    正直、勝手に自意識を得た上に人に都合よく働いてくれる機械なんて楽観的過ぎるけど、物語としては楽しめる。翻訳も含め色々古すぎる点は多くあるけど、最後まで読ませる力はあるように思った。

  • 月よ、地球に反旗を翻せ! 熱い革命SFです☆


     月が地球の流刑地・植民地となり、圧政を強いられ資源を搾取されている未来。コンピュータ技師のマニーは、月の政府が運用しているスーパーコンピュータが、強烈なジョークを飛ばしていることを知ります。相手の知性や自意識を認め、その人工知能にマイクと命名!
     やがてマニー&マイクは反体制組織に接近。緻密な計算に基づき月の独立を目論みます。戦力どころか武器らしきものを一切所有しない月が、地球に対抗できる賭け率は……?

     はっきりくっきり分かりやすい熱い革命SF。これから話をこねくり回すのですみませんが、まずは娯楽としてシンプルに面白がればOKです! 勢いがすごいよ。いよいよ計画からアクションに移ってからの展開はスピード違反なくらいで、どんどんページをめくりました★
     味方につければ百人力なマイクの有能さや、マニーとのやり取りが読ませます。マニー自体に強い英雄性は感じないのですが、もしやハイスペックな人と絆を結ぶのが特技なのか? 聡明すぎて追放された教授、尖った独立活動家など、次々に重要パーソンと親しくなり、気づけば渦の中心にいるのです★ この本書が示す革命のやり方は、リーダーはいらない、もしくは架空の人物を立てたほうが成功する、ということになるでしょうか。

     空気も水も無料では与えられず、何かを得たければ代償を払わねばならない、月の社会観念も気になりました。対価を払う。対抗する。対等に持ちこむ……。常に何かの計算が働いているよう。あまり触れずにいたいけど、緊張感を保つ理由にはハインラインの政治理念が関わっていそうです。
     結末は唐突(あっさり)で、作者が面倒で途中放棄したのかなと悲しくなったこともありますが……。推測するに、地球が倒すべき征服者だから月が勝利してめでたしめでたし、なんて手軽なエンディングにしたくなかったのでしょう。この世に完全な勝者など存在しないものかもしれません。

  • ロバート.A.ハインライン 長編SF
    オールタイムベストではいつも上位にランクイン
    原題the moon is a harsh mistress
    (月は厳しい愛人) 2076年地球の植民地だった月が
    自意識を持ったコンピューターと教授、女活動家者、ノンポリ技術者が兵器を持たない月で革命を目指す
    壮大な679頁の作品。独立戦争、政府、政治、貨幣、外交、戦略などについて勉強になりました。



  • 『夏への扉』に続き、ハインライン二作目。私はこっちの方が断然好きだったな....!設定も、登場人物たちも、プロットもどれを取ってもワクワクさせてくれた。そして見え隠れする政治や体制へのスタンスの取り方について、宇宙空間でわちゃわちゃするだけではないのが好きだった。最後はある意味大団円なのだろうけど、寂しかった。
    この作品が1965-6年に執筆されたのは本当にすごいな....マイクのマイクロフトがマイクロソフトに見えて調べたんだけれど、マイクロフトは1975年創業だからね...ハインラインすごい...
    そして邦題の『月は無慈悲な夜の女王』も素敵...ぴったり.....

    TANSTAAFL!

  • 読みごたえ十分。読み味良し。
    文句なしに面白かった。

    本当に「人工知能」という言葉すらなかった時代に書かれたのか?と思えるくらいリアリティがあって、現代の私たちにも受け入れられる設定だった。

    そして革命の中心メンバーの3人がまた魅力的なキャラクターを持っている。
    強い信念、大胆な行動力、忍耐、仲間を思いやる心。
    古臭いかもしれないけど、私はこういうの好きです。

    しかし長かった。
    読み終えて結末にホッとしたけど、読みきったことにも安心してしまった。

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