果てしなき輝きの果てに (ハヤカワ・ミステリ)

  • 早川書房
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本棚登録 : 160
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150019556

作品紹介・あらすじ

オピオイド危機に揺れる街ケンジントンで起きた女性の連続殺人事件。パトロール警官ミカエラは、ここひと月ほど行方不明の妹ケイシーが次の被害者になるのではと心配し、捜査に乗り出す。かつて仲の良い姉妹だった二人は警官と娼婦として袂を分かっていた……

感想・レビュー・書評

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  • 昨年の翻訳ミステリーは「ザリガニの鳴くところ」派と今作派に二分されたと聞いたけど、私はこちらが好みだった。
    主人公ミッキーの造形がとても良かった。
    好きかと言われれば好きじゃない、全然友達になりたくない。
    でもわかる。わかるよ…。
    核となる妹ケイシーの行方と娼婦連続殺人の真相だけでなく、展開に絡めながら様々な社会問題が織り込まれていて、読み終わってからも頭に残る。
    ひっくり返されるところは、そこを「ひっくり返された」と思った私自身も見えていないということだよね…。

  • 麻薬ビジネスの横行するペンシルベニア州ケンジントン地区では、クスリを手にする金を求めて路上で身売りする女も数多。
    この地区のパトロール警官ミカエラは妹のキャシーをこの界隈でよく見かけときには連行する場に居合わせることも。
    そんな日常の中、商売女ばかりを狙った連続殺人事件が発生し、ミカエラは次は妹の番なのではと身を案じる。

    幼少期に育まれた姉妹の絆の消失と再生、幼い息子トーマスとミカエラで奮闘する母子家庭の苦悩と希望。
    犯人を突き止めるミステリというよりは、家族の物語の色が強い。

    姉と妹の気持ちが次第に離れていく様、純粋無垢な少年の素直さと大人の勝手な都合が招く不条理なシチュエーションがたまらなく切なく、読むのが辛くなることすらあったが、その湧き上がる感情こそが読書の醍醐味。

    いやあ、そこはかとなく心を昂らせる描写がうまい。
    読み応えありました。

  • ドラッグ、セックス、腐敗警察という語りつくされた感のあるミステリの題材ではある。けれども、古都フィラデルフィアの荒凉たる街をパトロールする毎日を過ごし、自身の苦悩を抱え込みながらシングルマザーとして幼い息子を育てている主人公の懸命な努力がつぶさに描かれている。過保護なまでの育児の裏の真実が徐々に明かされていく過程は痛々しくもあるが、やがて静かな感動を呼ぶ。

  • 妹を探すパトロール警官のミッキー。薬物、売春が当たり前のようにあるなかで小さな手がかりから追う。そのなかで見えてくる問題。薬物、貧困、犯罪。そこで生活すること、子供を持つこと。社会問題を見せつつ物語は進む。姉妹の関係性や複雑な感情、子育てや家族のこと。生きていかなきゃいけない孤独とともにあるわずかなでも確かな幸福。とても印象的な作品。

  • アメリカって、多層なイメージがさらに強くなる

  • フィラデルフィアを舞台に女性巡査が主役の警察小説。TVドラマの「コールドケース」と同じ街。短く的を得た文体。リアルな表現。まさに映像の世界まんまの描写で1ページ目で夢中になった。売春に、ドラッグ、救いようのない街で幼い子を抱え音信不通の妹を探す主人公。ミスリードのあらしあらしで、ミステリーは思わぬ方向に。この著者は好きかも。サイモンはおとがめなしなのが嫌だ。

  •  暗い話は苦手だという方にとっては、本書は忍耐を強いられる物語である。そもそもこの作家にとってはミステリーが初チャレンジだそうだ。これまで数作の私小説的な、あるいは社会問題をテーマにしたヒューマンな作品で評価されているようだし、ミュージシャンであり、大学の先生でもあるらしい。多くの顔を持つ作家の初のミステリー・デビューということである。

     ヒロインのミカエラはフィラデルフィア市警24分署のパトロール警官である。ある日、通報によりリ、連続殺人事件の被害者である若い娼婦の遺体に遭遇する。パトロール警官の身には、捜査権限という点で相当のハンディを抱えているばかりか、捜査状況の進捗すらまともに読み取れない立場なので、ミステリーとしての物語をこの書がどのように進めてゆけるのかなと要らぬ心配で頭をいっぱいにしながら、読者としてのぼくはミカエラとその妹ケイシーの物語へと導かれる。

     ミカエラの独白は語る。そのケイシーが薬物中毒で娼婦へと身に落としているかもしれないこと。そしてここのところ街から姿を消し行方不明になっていること。連続殺人事件の被害者として未発見の遺体と化している恐ろしい状況を、姉は心配するのだ。

     本書の主人公は二人の姉妹で、彼らの恵まれない現在と過去を行き来しつつ、ミカエラは一人称で語る。現在にも過去にも、冷たくて意地悪で逆境を作り出しているかのような人物がいて、ミカエルは苦しみながら、ケイシーの行方だけに心を捉われゆく。

     もう一つの主人公はここフィラデルフィアの最も荒れ果てた街ケンジントンだと言っていいだろう。犯罪の横行する、貧しく荒んだ街を流れるデラウェア川を、示したような原題"Long Bright River"は、一方では姉妹たちの、どうにもならない宿命を表しているかにも見える。

     薬物被害の横行する街、遺伝的に依存症傾向のある(とミカエラが信じる)彼ら一族の血、依存症の女性から生まれる新生児のダメージと、そこから救われるための苦しみ、依存症患者へのヘイトに満ちた社会の眼差し等々を見ていると、本書はストレートな社会派小説であるとも見える。

     それでいて、姉妹の隠されていた秘密、連続殺人の意外な犯人像、などなど、ミステリーとしての驚愕に満ちた仕掛けもしっかり用意されてる、ある意味とても精緻で完璧な作品でもある。

     読中、ヒロインの悲劇につきあうのはとても苦しい体験なのだが、果てしなき輝きの果てにミカエラが見つけ出すものを知るところまで是非、このいたいけなヒロインにおつきあい頂きたい。この作品の素晴らしさを必ず感じ取れる時が必ず来ると信じて。

  • 貧困、麻薬、シングルマザー、失踪が大きな流れ。
    警官が犯人である連続殺人はミステリーである本書の主要では無い。
    悲しみと後悔、可能性を秘めた小さな救いがこの本の全体に流れている。
    楽しめたが貧困描写に量を当て過ぎてだらけてしまう。

  • 全米の平均数値以上の犯罪率を持つフィラデルフィア。婦人警官ミッキーの語りで広がって行く家族絵図・・とりわけ実妹ケイシーとの軋轢~生い立ちから現在までの語りと状況が軸となり7割ほどが進んでいく。
    酷似の内容の繰り返しは過去と現在をない交ぜにしており、泡立ち、潰れて又 泡がというエピソードは正直倦んでくる。

    後半の100頁、それまでの経緯をなぞるかのような出来事があたかも追認作業の様に雪崩の様にどっどっと。そこからは面白みが高まり、もの悲しい地域性が背景となった薄暗さにほのかな光が点滅、そして肝心のサスペンスの部分が解決へと運ばれる。

    薬物依存、廃屋が立ち並ぶ風景と薬を買うお金欲しさからたむろする街娼、小競り合いの果ての暴力・・

    4作目となる筆者、30歳代後半と脂が乗り切った当作は家族、孤独、それをひっくるめての縁をシンプルながらも抑えた筆致でダイナミックに謳い上げている。

    当作でも語られるミッキーの出自のオブライエン家の血を語る中で「プホワイト」との近接的な色彩を感じさせられた。

    内包された蜜柑を覆う皮・・一袋ごとは種々のコンテンツ~仕事・セックスと恋愛・家族(何世代も繋がって)・同僚との軋轢と友情・妹の仕事仲間も含めた地域社会の繋がり等々ともするとごった煮になりそうな些事をムーアが「伝えたい」と願うメッセカラー(皮)で包含しきった秀作、快作だった。

  • これは素晴らしい家族小説、こういう書き方で家族を描くこともできるんだなぁ。素晴らしい!

    小説は二部構成。現代パートと過去パート。
    母1人で息子を育てるパトロール警官主人公ミッキーの一人称語りで、麻薬と貧困に染まるフィラデルフィア、ケンジントン地区を舞台に物語が進む。

    ミッキーの妹はドラッグ依存症で行方不明。若い女性の連続殺害事件が発生し、ミッキーはその被害者が出るたび、妹ではないかと危惧する。妹探しと殺人事件の捜査、子育てに翻弄されるミッキーの姿を描くのが現代パート。

    ミッキーと妹もまた、両親に捨てられ祖母に育てられるのだが、その生活は貧しく息苦しく愛情に欠けたものだった。ミッキーの一歩引いた性格とは逆に、明るく活動的な妹、二人は寄り添うように生きていくのだが。
    妹の生活が乱れ始めドラッグにおぼれだしていく過程を描くのが過去パート。

    貧困、シングルマザー、依存症。絶望的な生活状況とそんな中に忍び込んでくるドラッグの怖さ。
    世間の絶望。ホワイトトラッシュと呼ばれる白人労働者層の凝り固まったような思想や生活様式。

    現代アメリカが抱える社会問題を生活者の目線で鋭く描き出していく。読んでいて明るくなるような描写はほとんどないのだが、決して絶望ばかりでないのが救い。

    他人事ではない。今の日本でも貧困家庭は増えているし、凝り固まった息苦しい思想や排他的で同調圧力を押し付ける社会風潮はネットにも地方社会にもあふれているし、飲酒なんかの依存症はまだまだ多い。
    主人公の必死の日々は決して、遠いアメリカの小説に描かれている他人事ではなく、実は我々のすぐそばにある真実なのだろう。

    希望をもって生き、その希望を子供や孫たちに受け継いでいくためには…俺たち世代はきちんと生きなアカンなぁと心が引き締められる思いをもって読了。

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