- Amazon.co.jp ・本 (773ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150019440
作品紹介・あらすじ
パリ警視庁警視のコルソは、ストリッパー連続殺人事件の捜査を進めていた。猟奇的で陰惨な事件の背後に見え隠れする白スーツの男に導かれ、コルソは社会の、そして自身の抱える暗部と向きあうことになる。フレンチ・サスペンスの巨匠グランジェが放つ最新刊!
感想・レビュー・書評
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ポケミスの愛称で知られるハヤカワ・ポケット・ミステリだが、年々ポケットという名が似つかわしくない厚手の本が増えている。もともとポケミスは、海外のペーパーバックを真似た洒落たオトナのデザインを身に纏っている。ペーパーバックは、海外ではハードカバーよりは下に見られていて、安い原稿料でノワールやアクションを書いて糊口を凌いでいた三文作家のことはペーパーバック・ライターと呼ばれて一段下に置かれていた時代があったと言う。ところがペーパーバックから多くのエンターテインメントの巨匠や天才が生まれ育つにつれ、世界の読者はペーパーバックこそが、名作の卵であったり雛であったりすること、そして何よりも面白く読めること、大衆小説としてのエンターテインメント性の確立という意味で、文学史に大役を果たしてきたこと等々、評価される部分も今の評価に繋がっている。
現在でも、日本では、ハヤカワ・ポケミスは翻訳も早く、日本の読者への永くベストなトランスポーターとしてのその役割は、誰もが認めるところとなっている。無論、ポケミスは装丁を真似るだけではなく、ペーパーバックにこだわらぬ良質な作品選びをやって来て、これは現在も続いている。今や古書店で小説という商品価値が事実上ゼロと帰している中、ハヤカワのポケミスだけは値段が付くそうである。そのくらい希少な出版価値、作品への拘りを見せてくれているのがポケミスと言えよう。
しかし最近は、ポケットに入らないポケミスが増え、ポケット・ミステリではなく、バッグ・ミステリとでも愛称を変えるべきではないかと個人的には思ったりしていると、いうところで、さて話は本題に戻りましょう。そのバッグ・ミスと言いたくなるのが、二段組で760ページ強の、弁当箱のような厚みを誇る本書。ポケミス史上最厚ではないだろうか? そしてその厚みに値する壮大な仕掛けに満ちた大掛かりなミステリであることから、こいつは今年の翻訳ミステリ界の注目を集めるに違いないとも予感させる、いわゆる「大物」なのだ。作者も、フレンチ・ミステリの巨匠である。グランジェの名を聞いても実はピンと来ない人にはあの『クリムゾン・リバー』の原作者であると言うと、おわかりだろうか。
全盛期の少し忘れかけていた作家というイメージであろうが、邦訳作品が少ないだけで、実は今も世界では30ヶ国で翻訳され作品を世に出し続けている現役作家として活躍を続けているらしいのである。昨夏『通過者』(このミス17位)という実に13年ぶりの邦訳作品がTAC出版から出ているらしいが、ぼくは見逃している。機会があれば是非読んでみたい。
さて、本作。主人公は、出生不明の孤児から、数奇の運命を経て、現在の上司に拾い上げられ、今はパリ市警の最優秀捜査官として名を馳せているステファン・コルソ。彼の存在自体が、不幸とサバイバルと暴力に育てられた、いわゆるノワールな存在なのである。キャロル・オコンネルのキャシー・マロリーに類似した境遇だが、よりエキセントリックに、状況をぴりぴりに尖らせたようなダーティ・ヒーローと言えば、少し想像しやすいだろうか。
一歩間違えれば犯罪者の側に回っていたであろうこの警視コルソの超弩級の動物的勘に、圧倒的な行動力を加え、時間軸を揺さぶりつつ、ヨーロッパ中を走り回らせると、この単独捜査が、狂気に満ちたこの連続殺人事件を真相に近づけてゆくことが何とか叶いそうに見えてくる。それ以外のどんな捜査でも不可能だろうと言えるほど、二重三重の間違った皮相に覆われた、とにかく仕掛けだらけの難事件が相手である。そして複雑な主要人物たちの中に犯人像が浮かび上がるかと思えば、さらに想像を絶する仕掛けで裏をかかれる。あるいは裏をかかれたと思えばそれも怪しい。さらなる想像力を掻き立てられつつ、警視コルソとともに読者は暗闇の危険水域へとめくるめく旅を強いられる。
圧倒的なプロットに、幾重もの想像力と罠に満ちた執筆力との闘いが期待される本書。分厚さに納得のゆくだけの質感を与えられる超大型ミステリである。簡易な言葉で綴られるページターナーでもあるゆえに、冗長さはまず無いのでご安心を。
推理、アクション、リーガルサスペンス、コンゲーム、サイコ、画家ゴヤとその作品群に纏わる歴史ゴシック、宗教と科学のぶつかり合い。あまりに多くの面白要素で溢れかえるこの作品は、分厚いお弁当箱というには、おそらく煮え滾り過ぎている。ミステリ好きの少年が持つ探求心や冒険心を満足させてくれるおもちゃ箱のような存在と言った方が適切であろうか。
現在フレンチ・ミステリをリードするピエール・ルメートルに比肩するこのグランジェ。この作家の復活に、心臓がばくばくするほど興奮を覚えつつ、是非最後まで挑んで頂きたいと思うほどの大作登場なのである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
グランジェ作品、最高です。『クリムゾン・リバー』は映画しかみてないけれど、『通過者』もめちゃくちゃ面白かったし。どの作品も主人公や出てくるひとが普通じゃなくてそういうのが、人間的。いや、変な人ばっかり出てくるんだけども、これも絶対絶対映画になったらみたいかもと思うくらいに人間関係が複雑で、第三部はじまったら怒濤の展開でめちゃくちゃ読むスピードあがります。ちょっと長いし、本が持ちにくいのが難点ですが。アーナルデュル・インドリダソンとグランジェがワタシの好きなミステリー作家さんやなーとしみじみ思いました。
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パリでストリッパーが連続して殺害される。被害者の下着で縛られ、唇の両端は耳まで切り裂かれていた。担当はコルソ警視。パリで最も優秀だが、強引な捜査を行う男。捜査が行き詰まったとき、昔同様の事件があったことを知る。その犯人はフィリップ・ソビエスキ。強盗殺人で刑務所にいたが、出所してから画家として成功していた。ソビエスキにとって不利な証拠や有利な証拠が出て来て・・・
長い。果てしなく長い。ポケミス上下二段組で700頁強、定価3千円。しかし、物凄く面白い。
コルソの無茶苦茶なキャラがいい。ムシャクシャしたから、自分の担当でない銃撃戦に参加したりする。
ゴヤの絵画が重要な場面で使われているのだけれど、その辺も物凄く巧い。
一番は、ソビエスキがやったのか、そうではないのか。凄腕の美人弁護士が頑張るのだが、とにかくどんでん返しに次ぐどんでん返しの行き先は、想像だにしないものだった。
あとそうそう。SMやら変態性交の話が出まくるのでその辺苦手な人には薦められないけれど、大丈夫な人ならぜひオススメしておきたい。
※ネタバレ
弁護士のクローディア・ミュレールが全て仕組んでいた。レイプ魔ソビエスキが犯した女性が産んだのがクローディアや、他の被害者だった。彼に復讐するために、ソビエスキの仕業だと思われるように、彼が描いたゴヤの贋作のモチーフを使って死体に細工をした。ソビエスキに最大限の苦痛を与えるため、事件の担当弁護士になり、一度無罪にしてから後に有罪にしてやろうと計画。しかし彼は獄中で自殺。しかし、同様の事件がまた起こる。被害者はなんとクローディア。ソビエスキは無実だと見せかけての自殺。コルソが彼女の墓に行くと、告白の手紙と、コルソの名が書かれた棺が。実はコルソもソビエスキの子供だとあった。そして、自分のいる「死者の国」でコルソを待っていると。 -
好きな作品かと聞かれたらそうではないかもしれない。だけど間違いなく面白い。読ませる。とにかく読ませる。ちょう分厚いのに読ませる。まだこれだけページが残っている、というのがうれしくなる。リアルさや隙のなさを考えたら色々とあらはあるだろうけど、複雑な事件が起こってその謎がちゃんと紆余曲折を経てきちんと説明されて行くのは満足度が高まる。なんとなくディケンズを思わせるような物語の閉じ方。
ただ最後のメッセージの文章の時制には違和感を感じた。原文ではどうなんだろう? -
おもしろかった!
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久しぶりに『通過者』の邦訳が出て、『クリムゾン・リバー』の新版が出たジャン=クリストフ・グランジェ。最新刊はポケミスからの刊行だった。ポケミスからの刊行は初めて、というのは少し驚く。1冊ぐらい出ていても不思議じゃないと思うんだけど。
『通過者』もかなりの大作だったが、本書も700ページを超えている。右往左往……というか、堂々巡りをしているようなストーリーで、ともすればダレてしまいそうなのだが、全く緊張感を失わないのは凄い。主人公の警察官も決して好人物ではなく、現実にこんな警官がいたらソッコーで懲戒食らって、良くて地方に飛ばされるようなキャラクター造形なのだが、妙に愛嬌があって憎めない。それに、バタイユやマンディアルグを生んだ国のミステリで、ここまでSM趣味が悪し様に罵られているのもなかなか面白いものがあるw
万人受けする作風かと言われると首を傾げざるを得ないが、好きな人は好きだろうなぁ、これ。一度、途切れてしまっていた邦訳が、ここに来て再開されたのも何かの縁、また途切れてしまわないことを祈りたい。あと、創元から出ていて、品切れになっている分の復刊も……。 -
読み応えがあった。
フランスらしいなと思う描写も。