NHK出版 学びのきほん はみだしの人類学: ともに生きる方法 (教養・文化シリーズ NHK出版学びのきほん)
- NHK出版 (2020年3月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (112ページ)
- / ISBN・EAN: 9784144072543
作品紹介・あらすじ
「わたし」と「あなた」のつながりをとらえ直す
そもそも人類学とは、どんな学問なのか。「わたし」を起点に考える「つながり方」とは何か? 「直線の生き方と曲線の生き方」「共感と共鳴のつながり」……。「違い」を乗りこえて生きやすくなるために。「人類学のきほん」をもとに編み出した、これからの時代にこそ必要な「知の技法」のすすめ。
第1章 「つながり」と「はみだし」
第2章 「わたし」がひらく
第3章 ほんとうの「わたし」とは?
第4章 差異とともに生きる
感想・レビュー・書評
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人間は社会的動物である。親と子、彼氏と彼女、上司と部下のような名前の付いた「つながり」を以てして、人と関係して生きている。
例に挙げたような関係性のうち「親」「子」といった名前に規定付けられた「輪郭」が時代を経て明確になったことから、近代の個人主義が生まれた。ここで言われている「つながり」とは、そもそも個が独立したという前提があり、恐らく「人類補完計画」を実行した末の状態はつながっているとは言えない。細胞に細胞膜という輪郭があるからこそ他と有機的につながることが出来る。 -
娘が いじめ で悩む時が来たら、この本を渡す。
薄いし、誰でも読みやすい文章。かと言ってさらさら読めるわけではなく、立ち止まって考えないと読めない。良い本。
①自己と他者との差異を強調して自分の輪郭を強化するつながり、②自己と他者との境界を越えて交わることで輪郭が溶け出すようなつながり、 2つのつながりがある。
①は、嫌韓や左翼右翼のバッシングに通ずるように思う。嫌いな他者の存在を否定しているようでいて、その嫌いな存在がいることで自分の存在の輪郭を確かめている。
②は、海外に行く喜びを語る時、人はここを喜びとして語ることが多いように思う。「アメリカ人」と「日本人」という単純なつながりで対面していたのが、だんだんとそれ以外のカテゴリ「アメリカのお母さん」「友人」「きょうだい」など、出会いのカテゴリが増え、目の前の相手が遠いアメリカに生きる一般的な「アメリカ人」ではなく、固有の「jennifer」「paul」「avigail」という誰かになっていく。
これが、「わたし」が「日本人」という抽象的なカテゴリから抜け出ていくことも意味する。(筆者はこれを「はみだし」「溶ける」「開かれる」と呼ぶ)
複数のカテゴリを生きる というトピックも非常に考えさせられるものがあった。
本当のわたし なんてものはない。母であり、妻であり、講師であり、イラストレーターであり、営業であり、娘であり、姉であり…これらすべてのカテゴリが自分である。(平野啓一郎はこれを「分人」と呼ぶ)
他者によって、わたしが引き出される。自分の内側を探るのではなく、他者とのつながりを原点にして「わたし」をとらえる方が、生きやすいのではないか。
今、育児期間に、わたしは新しい母という役割を、娘に引き出してもらっているという捉え方もできる。
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【一言紹介】
2時間で読める人類学の入門書で、普段考えない問いを与えてくれる。
※自分の言葉でこの本の感想を表現するのはとても難しい。その中で心に残ったものを整理してみる。
【心に残ったもの】
(1)異文化を理解する試み
異なる文化を理解しよう・異文化に寛容になろうという態度には大きな問題が潜んでいる。最初から自分化と異文化は揺るがない隔たりがあることを前提にしてしまっている。異文化を理解しようとする試みの中で、境界を越え共通する点を見いだし、境界をはみだして自分を省みる視点が大切。複数の境界を引く視点をもつことで違いは絶対的なものではなくなる。自分の実体験で置き換えてみると、日本と英国の人を比較するとそこに大きな隔たりがあるような感じがしますが、男性と女性という視点で考えると、同じ男性として女性に対するジェントルマン精神は共通するものはあると感じたことがあります(強弱は別にして笑)そうした視点を変えることの大切さを気づかせてくれました。文化人類学は、異文化を研究をする歴史の中、自己批判を通して視点を変えて自己を省みることで本質的なものの見方を獲得してきた事がとても印象深く残りました。
(2)本当の『わたし』
家族といる『わたし』友人といる『わたし』会社にいるときの『わたし』と一人でいるときの『わたし』は違うと思うことがよくあります。その時、一人になったときの『わたし』が本当のわたしで、他は仮面を被っているような感覚をもつことがあります。人類学が教えてくれるのは、どの『わたし』も同じ『わたし』であることを教えてくれます。自分の中をどれだけ掘り下げても、個性とか自分らしさに到達できない。他者との繋がりにおいて『わたし』の輪郭がつくられる。複数の『わたし』は、他者とのつながりによって引き出された『わたし』である。誰かと出会うことで『わたし』が引き出される。その視点にはっとさせられました。
【きっかけ】
ビブリオバトルで出会った一冊。紹介してくれたのは多国籍の社員が勤める楽天人事の女性の方で、その方の問い『楽天に勤めてるからこういう本に興味があるんだろうって境界を引きませんでしたか?』の言葉にはっとさせられた。人は他人と自分を比較し、無意識の内に境界をつくって相手との違いに目を向ける癖がある。相手と議論が対立した時、経験や境遇の違いで境界を引いてしまい、この人とは分かち合えないと思うってしまう。その時、相手と共通するものが見えなくなってしまっている。同じものをみるための思考を知りたくてこの本を読んでみようと思いました。 -
『「宗教」や「国境」という線引きだけで私たちは「分断」されているわけではない。むしろ、その境界がひとつしかないとする前提こそが、深い「分断」があるかのようなイメージをつくりだしている。』
良かった。
人類学、とはどういうものか、言葉のイメージだけで間違った思い込みをしていたのだけど、血の通った言葉でわかりやすく説明してくれている。
それだけでなく、人類学の専門家でない多くの人たちの現在の日常に繋がっていくように述べられているのが更に良い。
家庭と学校や職場以外のサード(できればもっと多く)プレイスを持つのは良いと思っていて、それは拠り所にできる場所を増やせるからだけでなく、異なる「自分」を増やせるからでもあると思っているのだけど、その辺りのことも補強できて嬉しい。
もっと知りたいなー! -
今、今、今まさに求めていた答えが載っていた感動で泣きそうになった
このシリーズいいのかなー。簡潔! -
「この年齢で〇〇なんて恥ずかしい、変」「将来のために今我慢する」「目標達成のために最も効率よく戦略を立てる」「時間がかかる余計なものは無駄」「日本人はこうあるべき」「良い人生とはこうあるべき」
というような、常識を押し付けられるような息苦しさ(もしかしたら今まで成長してきた過程で私の中に内面化されてしまった価値観)が自分の中にあることを、改めて感じた。
細菌が絶え間なく他者と遺伝子交換して変化し続けるように、自分と異なる存在と関わり、交わり、自分の身をその中に置いたりしてみることで、行き当たりばったりに自分が変化する喜びを感じたい。 -
ちょっと難しめだけど、やっぱり人類学って楽しいなあ〜。
人や何かと向き合うことって楽しいことなんだ!って気づかせてくれる。