戦後「社会科学」の思想: 丸山眞男から新保守主義まで (NHKブックス 1261)

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140912614

作品紹介・あらすじ

複雑な現代史をクリアに見通す、画期的な思想史!

 日本の敗戦から75年が経過した。今でも世界3位という経済大国の地位に到達した誇るべき社会にはしかし、一種の停滞感と閉塞感、いわばあきらめのムードが、特に若者の間で漂う。本当に、いま、「この道しかない」のか? 日本は本当に「変わらない、変われない」と、運命論的に捉えてしまっていていいのか? こうした態度に対し、留学生たちから疑問の声が著者へ寄せられるようになって久しい。
 一方で優秀な研究者は、実証できること、論文を書けることを重視した研究に走らざるを得ない状況もあり、とくにそうした傾向の強い政治・社会哲学領域では、せいぜい遡っても1970年代のロールズまで、それ以前は知らない、という歴史感覚の稀薄さが散見される。研究者ですらこうである以上、一般の人々にとって歴史への意識は乏しく、せいぜい30年前にどんな議論があり、その時代はどう捉えられていたかも、想像すらできないのが実情である。
 さらに、「戦後体制の清算」が叫ばれるようになり、戦後継承されてきた制度や価値が、「時代に合わない」という言葉を基準として捨て去られようとし、憲法や平和主義すら少しずつ変わり続ける状況にあること。
 本書はこうした状況に対して、「現代が必ず過去の時代より優れているわけではない」こと、「過去の議論の蓄積はたやすく忘却されてしまい、そのため無益な議論の繰り返しが起きがちである」ことなどを警告する。そして浅薄な「時代」理解を避け、「現代とは、過去を踏まえてどのような時代となっているのか」ということを正確に理解するために、戦後の「社会科学」が、各々の時代をどのように理解してきたのかを大局的な視点から概括して、戦後の一流の知識人たちの思考のあとをたどる。なお社会科学とは、経済学、政治学、法学、社会学などの社会を対象とする諸学問の総称だが、著者にとってそれは、「個別の社会領域を超えて時代のあり方を学問的に踏まえつつ社会にヴィジョンを与えるような知的営み」である。
 具体的には、戦後から現在までを次の4つの時代に区切って思想史を描きなおす。
 1 欧米の近代民主主義などの思想を学び直すことが日本の再出発にとって不可欠とされた戦後期
 2 高度経済成長のなかで到来した大衆社会化を、欧米と同時代的な現象ととらえるようになった1950―60年代
 3 世界同時的に「奇妙な革命」が起きた1960―70年代
 4 保守化と新自由主義化のその後、現代まで
 これらの各期に、立場を問わず、論者たちが共有していた「現代とはどのような時代か」という問題意識を的確にまとめて記述していくことで、今の私たちにとっての「現代」が、上記4つの時代に起きた「社会の変化」の複層によって出来上がっていることを示す。「現代とはどのような時代か」を正確に理解したうえで、運命論から逃れ、可能な未来を切りひらいていくための、きわめて公平かつ分かりやすい「社会科学」入門書である。

感想・レビュー・書評

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  • けっして分厚くもない本のなかに、驚くほどにたくさんの現代日本の論座ワードに触れてあるようだ。教養涵養のテキストとして読みたいが、自分の頭のなかに曲がりなりにもこの本の内容の見取り図を作ろうと思うと、漫然と読みながすだけでは多分むずかしく、この先生の講義を半期にわたって聞くぐらいの時間と労力の投資が必要な気がする。

  • 戦後思想に馴染みのない世代に刺さる教養書.

    市民社会/大衆社会論,講座派/労農派,マルクスを補完するウェーバー,マルクーゼ,ニューレフト,ネオコーポラティズム等々について思想史的位置付けが与えられます.

    そして最後に著者の過去の著書でも触れられてきた新保守主義・新自由主義について最新の分析が得られます.

    個々の思想家については説明が薄いのでアーレントやフーコーなど最低限の西洋政治思想の知識がないとつまずくかもしれませんが,手際よくコンパクトにまとめられていていい本だと思いました.

  • 学生のころこういうのが苦手だった。
    今読んだら、昔よりかはよく分かる気はするものの、苦手感が抜けない。

  • 戦後からの出発
    大衆社会の到来
    ニューレフトの時代
    新自由主義、新保守主義的展開の切り口の時代分けで分析

  • 日本における戦後の思想系譜の大まかな分析。東大の教養学部の講義の資料ということで解説はものすごくわかりやすい。私は基本的に自分の実践の検証に様々な思想潮流を参照するので偏りがあるが、著者の場合はある程度客観的な見方をしているとみることができる。
    丸山眞男の戦後民主主義から大衆社会論、ニューレフト、新自由主義(新保守主義)と日本社会の思想動向の動きについて、教科書的にみえて深みがないように見えるが、かなり適切な評価ができていると思う。
    この評価と同時に、これが東大の教養学部の講義に用いられているという点に意義を見出す。近年新自由主義の影響で大学の授業にすぐに役立つという観点から教養学部の不要論が跋扈する。
    こうした授業を行える点に一つの希望を見出す。

  • 東大の講義ノートをもとに、戦後の社会科学を通観する。教科書的に幅広く網羅する関係上どうしても雑然とした印象が強くなってしまうが、それなりに時代を区切って思想を特徴付けることには成功している。

    まずは丸山眞男からの出発となるが、丸山についてはかなり公平な評価と言えるだろう。丸山の思想は現代にも通用する部分と、「旧制一高の秀才の限界」が同居しており、多角的な評価がなされている第一部だけでも値段ぶんの価値はある。

    その一方で、70年代の低成長、石油危機による不況あたりからレーガン・サッチャーを経て市場至上主義が進展する、いわゆる「新自由主義」についての解説には歯切れが悪い部分もある。もちろん、個人的な研究発表ではない本書において、「なぜ支持されるのか」という解明の進んでいない部分を歯切れ良く書けないというのはそうである。

    しかし、大学という場所が基本的には進歩的な思想の場所であるゆえに、保守思想についてあまり紙幅を割いていないようにも感じた。とはいえ党派的な主張はほとんどないことからも、戦後の思想を網羅的に把握する上でかなり良い一冊であろう。

  • 東大講義の書籍化。学生時代に断片的につまみ食いして何となくわかったような気になっている社会人にとっては、このように時代背景を踏まえた通史的な説明は諸々の整理を促す意味で有益である。今までありそうでなかった本だと思う。
    尚、書名が「」付きの「社会科学」となっているものの、内容的には著者の専門とする政治思想が中心である事に留意。昨今のトレンドとして学際的に「社会科学」を学ぶニーズが高まっているが、そのような方向への取り組みに注力していけるのか否かがアカデミズムの今後の課題と言えるだろう。

  • なかなか難しかった。再読するか、他の本で知識を補填する必要があると感じた。

  • 東2法経図・6F開架:301.2A/Mo45s//K

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著者プロフィール

1959年三重県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程中退。筑波大学社会科学系講師などを経て東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授。専攻は政治・社会思想史。著書に『変貌する民主主義』『迷走する民主主義』(ともにちくま新書)、『〈政治的なもの〉の遍歴と帰結』(青土社)、『戦後「社会科学」の思想』(NHK出版)がある。

「2023年 『アナーキズム 政治思想史的考察』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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