アメリカ大統領制の現在 権限の弱さをどう乗り越えるか (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140912416

感想・レビュー・書評

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  • バイデン大統領に対する批判が高まりつつある中、そもそもアメリカ大統領とは何者か?を考えるのに適した本。大統領制成立の歴史を振り返りながら、大統領の有する権限を指摘し、近年の大統領の歩みを踏まえて大統領が抱えるジレンマを洗い出す。

  •  現在の米国政治の解説というより、建国時からの経緯を踏まえ比較政治学的に分析した本。本書の主題は「現代大統領制のディレンマ」だ。
     強い議会権限から出発した米国だが、20世紀に入り内政・外交とも行政課題が増大し、大統領の役割も拡大する。しかし憲法典の明示的な改正は行っていないため、大統領権限の拡大は限定的。それでも1960年代までは「リベラル・コンセンサス」の下で行政が主導的な役割を果たすことが容認されていたが、70年代以降は行政への信頼度が低下し、議会や州政府との関係が円滑ではなくなる。大統領への期待と実際の権限のギャップ、これがディレンマだ。
     加えて、80年代半ば以降は保守とリベラルの分極化が強まる。政党内部の一体性が向上したとも言えるが、言い換えれば大統領が主導した超党派的な合意や野党議員の大統領への協力が弱まったということでもある。代議制民主主義の政治は、民主主義的要素と自由主義的要素のバランス、又は代表と統治のバランス、と筆者は指摘する。米国では政党の一体性の不在が(エリート間の妥協により)このバランスを辛うじて補ってきた、というのだ。本書の出版は2016年9月、トランプが共和党候補に指名された段階。4年経ち、分極化の傾向は強まっているように見える。

  • 合衆国憲法が、「多数による専制」を排除しようとしていたというのは興味深い。
    その後民主主義的要素が多くなったが、現代のポピュリズムは、その帰結と言えるのかも知れない。

  • トランプ大統領が誕生した2016年のアメリカ大統領選の直前に執筆された、アメリカ政治の解説書。アメリカ大統領制の歴史的な展開や国際的な制度比較の観点から、アメリカの大統領が常に直面する困難さや課題について明らかにしている。
    2020年のアメリカ大統領選が近づいてるので読んでみたが、もともと合衆国憲法は議会が政策過程の主導権を握る前提であったこと、ニューディール期に憲法改正なき大統領制の転換があったこと、アメリカの大統領は制度的にも政党指導者としても限定的にしか影響力を行使できないこと、1970年代まではリベラル・コンセンサスが存在していたこと、近年はハネムーン効果はほとんど確認できないことなど、いかに自分がアメリカ政治についてよくわかってなかったかがよくわかった。トランプ政権の4年を経て、本書執筆時から状況が変わっているところもあるが、現在また今後のアメリカ政治について考える上で必読の書であるといえる。

  • アメリカの大統領の持つ憲法的権限の意外な弱さ、議会とのパワーバランスを描いており非常に面白い。議員が特定の選出基盤の代表者として振る舞う伝統、政党の執行部の拘束力の低さにより、超党派の支持を集めなければ大統領は立法成果を得られないという定量的分析が分かりやすい。オバマ以降、イデオロギーによる凝集化の進む二大政党の分極化が進む中、大統領の統治アジェンダの細部を議会が埋めるという役割分担は破綻したと考えるべきか。ティーパーティ運動で共和党の議員層が入れ替わり、トランプが台頭した今後の下院動静は気になるところ。

  • 東2法経図・6F開架:312.53A/Ma16a//K

  • 合衆国大統領に与えられている権限は、その「世界大統領」的なイメージと違って恐ろしく少ない。そもそもが、議会のポピュリズム的な暴走を抑制するために設置された役割であり、合衆国の国力伸張によって求められる役割が変わった後も憲法の条文改正が行われなかったため(司法判例に基づく解釈改憲)行政の役割が増大した今でも、制度的には大統領の権限は恐ろしく制限されているままである。
    合衆国大統領の権限がかように小さくても今まで大統領のリーダーシップで国が動かして行けたのは、合衆国の政党及び議員の特性によるモノであり、政党の凝集性が(日本などと比べると著しく低いとはいえ)高まると、政党の枠を超えて大統領が進める政策のための多数派構成が難しくなり、ますます大統領が主導することは難しくなっている。
    (更に言うと、現在の共和党多数の議会でも、ティーパーティー系は妥協しないため、結局は多数を確保している利点が現れない。)
    著者は、予備選などによる活動的な一部党員の影響力をそぐ方向への改革が、このジレンマを超えるために必要であろうと推察している。活動的な一部党員が政党の凝集性を高め、中道寄りの議員を候補者段階でスポイルしているためである。

    予備選の弊害、活動的な一部党員の弊害というテーマは日本でも考えておくべきであろう。

  • トランプの就任演説を見る。中継では合間にトランプの就任を心から喜んで、演説を聞きに来た人たちが映しだされる。その嬉しそうな笑顔を見ていると、当然のことではあるがトランプの政策を支持し、「アメリカをもう一度偉大な国にしたい」人が沢山いることが伝わってくる。分断されつつアメリカをトランプはどう治めていくのだろうか?そして世界はどう変わっていくのだろうか?
    期待よりも不安が大きい。

    そこで制度としてのアメリカ大統領について論じる待鳥 聡史著『アメリカ大統領制の現在』を読んだ。世間で信じられて強いイメージと裏腹にアメリカ大統領には憲法・米国法において権限がないということを明らかにし、権限が無い中で議会への働きかけ、一般国民への訴え、大統領令など大統領の使える作戦を細かく論じている。

    Twitterは、国民に直接語りかけるための、トランプ大統領の極めて重要な武器であるということか。

  • おすすめ資料 第356回(2016.11.18)
     
    映画や小説にアメリカの大統領が出てくるとき、多くは「強大な権力をもつ者」として描かれます。

    しかし実際は、大統領には自由に何かを決められるような力は与えられていないようです。

    この本を読むと「権限と期待の間で大統領が直面するギャップ」(本文から引用)について、またそれが生じた経緯や、抱えている問題点が分かります。

    騒々しい大統領選は終わりました。

    新しい大統領になる人物がこれから向き合うことになる困難について知ると、アメリカ政治を違う目で見ることができるかもしれません。


    【神戸市外国語大学 図書館蔵書検索システム(所蔵詳細)へ】
    http://opac/opac/opacs/find_detailbook?kobeid=CT%3A7200201787&mode=one_line&pvolid=PV%3A7200503742&type=CtlgBook

    【神戸市外国語大学 図書館Facebookページへ】
    https://www.facebook.com/lib.kobe.cufs/posts/1108542479195456

  • 第1章は大統領制の成り立ち、第2章は大統領の権限は制約されている、第3章は第2章について抽象的なことがらが多く、自分がいま知りたいこととは、ちょっと違う内容が多かった。

    ハネムーン期間、最初の100日間は今はない。

    大統領の権限は限られていて、議会の合意がないと、政策を推進することが難しい、ということが繰り返し書かれている。で、2大政党というけれど、90年代半ばから、基本的には民主党が与党だった時代が長い。大統領の首相化、というところは勉強になった。自身が属する政党と折り合いをつけねばならないと。


    大統領のジレンマ
    〜大統領制は、議会の行き過ぎを抑制する役割で制定されていて、今もそう。だけど、20世紀に入ってから期待される役割が大きくなってきた。でも、権限は変わらず、理念としても明文化されてへんこうされてないので、ここがジレンマ。

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著者プロフィール

待鳥 聡史(京都大学法学部教授)

「2020年 『ポリティカル・サイエンス入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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