- Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140911006
作品紹介・あらすじ
国家とどう付き合っていくべきか。9・11以降に顕著になった、国家の暴走にどう対抗するか。聖書からマルクス、宇野弘蔵から柄谷行人まで、古今東西の知を援用し、官僚の論理の本質や、国家が社会へ介入する様相を鋭く読み解く。市場原理主義がもたらした格差社会を是正し、社会の連帯を高めることで、国家に対峙する術を説く。著者のインテリジェンス(特殊情報活動)の経験と類い希なる思索から生まれた実践的国家論。
感想・レビュー・書評
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評価が難しい本。とにかく難解であり、読み手の知識を要求される本だと思う。読み込むためには概説でもよいので、引用する書籍の意味をある程度つかんでから読んだ方がよいと思う。
キリスト教神学に関しては、カール・バルトの方法論が引用されるが、それ以外にも、マルクス経済学から日本の宇野経済学の理論、スターリンの思想と民族とナショナリズム等のナショナリズムの思想も引用されている。
すべて説明はされているものの、自分の思考がついていかなかったのは確かであり、読みこなすには基礎的な知識がついていなかったためだと思った。基礎知識を得てから再度読んでみたい。
2013.4.12 追記
本書を読むために必要な、マルクス経済学、マルクス経済学の日本の発展系としての宇野経済学、スターリンの民族思想、アーネスト・ゲルナーの民族とナショナリズム論、カールバルトの神学等をある程度読んだうえで、再度読んでみた。
やはり著者の博識から知的好奇心はいろいろと喚起される。と同時に、著者の知識のつぎはぎ的な印象もぬぐいきれなかった。
著者の「私とマルクス」「同志社大学神学部」等の自叙伝的小説を読むと、高1で当時の社会主義国の東欧を旅行したことや、高校・大学時代にマルクス経済学や宇野経済学について理解を深めたことがわかる。だからこそ、その知識や論争等の経験も豊富である。また、著者の特徴としては、一級のインテリジェンスの現場でソ連の崩壊を体験していること、欧米の基本的な考え方ではあるが日本ではマイナーな神学の論理を理解していること、そして、国家のためにやっていたことが、国策捜査の標的となり前科一犯になってしまう経験からくる国家観の変化があり、それが本書にも影響を与えていると思う。
だからこそ、国家論という課題に対して、一学問の領域や狭い視野から考えることなく、多くの視点や知識や経験から、この難題に対して考えることができる。しかし、国家論という大きな課題に対しては、自分の知識を全て出し切ってしまい、悪く言えば先人の考え方をつまみ食い的に紹介するだけで本書が終わってしまったような気がする。結果、著者が本書を通じて一番言いたかったこと、独自の考えは弱いと感じたことにつながったのかもしれない。
また、本書ではアカデミックな思考で課題に迫っていくので、知的訓練はできると思う。1度目に読んだ時も、再読後も評価が難しいことには変わらなかった。また、機会を改めて読んでみたいと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
消化できでいないところは多々あるが、重要な事が書かれていると思う。
【国家はその本質において暴力的。】
国家は必要悪です。社会による監視を怠ると国家の悪はいくらでも拡大します。
【国家の実体は、税金を取り立てることによって生活している官僚です。】
善意で良き社会を組み立てようとしても、人間のやることには構造悪がつきものなので、やがてたいへんグロテスクなものになってしまう。
自分は悪を行うことはないという確信を持っている人間は、悪のセンサーシステムが麻痺してしまうため、とんでもない巨悪を行う。
【狩猟採取の時代には定住がなく、国家は存在しない。】
近代になって主権国家という病理が出現しました。ひとたび主権国家が登場すると、自らも主権国家とならない限り、領域内を他の主権国家が侵犯する。即ち植民地にされてしまうわけです。
【「社会とは何なのか」というとそれは人間の共同体・ネットワークです。】
産業社会の段階では、社会は資本主義と相性が良い。そのため、社会を放置しておくと、必然的にとんでもない格差が出てくる。そして社会は、資本の増殖だけを中心に動き出すようになる。これを国家の暴力によって押さえようとしても、結局はうまく行きません。国家官僚が肥え太って、社会から収奪していくだけのことでしょう。
【現下の日本経済の実践的な提言は、時間を稼いで、資本主義的な発想から抜け出して国家に依存しない共同体を作っていくこと。】
国家と対峙したとしても、相互扶助で食べていく事ができるアソシエーション(国家に依存しない共同体)。一九七〇年代のローマクラブの提言以降、この下位集団の価値が改めて強調されます。産業社会の暴走を止めるには、自給自足する下位集団のネットワークが複数必要です。
白樺派やガンジーやスローフード運動などともつながってくるのではなかろうか。 -
本書は「外部から国家を語る」というスタンスを貫いた上で、しかし理論に偏らず、今まさに生じている具体的な政治や社会、経済の局面をつねに参照しながら、理論的かつきわめて実践的に、国家の現場に切り込む国家論を作り出している。
http://d.hatena.ne.jp/hachiro86/20080227#p1 -
「神の概念」は「罪深い」「人」が作った。を念頭に読み進めるべき。
「資本」の論理、「国家」の徴税は腑に落ちる。この思想を携えておけば、つまらぬ苦悩を軽減できる。精神安定剤としての良書。 -
佐藤優氏が、資本論や哲学書、聖書等を読み解きながら国家について述べたもの。主にはマルクスの「資本論」、スターリンの民族定義、ゲルナーの方法論、バルト神学、聖書等に触れている。国家は暴力的であり、搾取するものであるが、極めて重要なものであることを強調している。参考になった。
「資本論を読むと、マルクスの中に2つの魂があることがわかります。第一は、資本主義社会に対する冷徹な観察者の魂です。第二は、資本主義社会を革命によって打破し、理想的な社会を作ろうとする共産主義革命家としての魂です」p54
「(宇野三段階論)資本主義は、恐慌を繰り返しながらも発展していく、自立的かつ自律的なシステムである」p64
「(ソ連の)社会主義体制が崩壊したことによって、「規制緩和」「小さな政府」をスローガンとする新自由主義政策が世界を覆っている構造がよく見えてきた」p65
「(国家は資本主義の外にある)資本は国内に投下される。→外へ進出した方が儲かる(植民地)→行き詰ると(資本主義の外に存在する)国家がコントロールに乗り出す」p99、101
「(マルクス主義の講座派(反天皇制)と労農派(反ファシズム))アメリカの占領政策が初期の段階で民主化を重視したのも、GHQが日本共産党系の理論をベースにして日本の現状を分析したからです。日本の知的な成果の95~98%は講座派に属する。講座派というのは日本の知的な世界において圧倒的な力をもっているわけです」p110
「(貨幣に物的裏打ちが必要(マルクス)、不要(ミルトン・フリードマン))小泉改革以降の主流は新自由主義です」p126
「(ケインズ)数字のマジックで騙せというのが、ケインズの発想なのです。ですから、ケインズ政策の本質とは、名目賃金の上昇、実質賃金の低下ということなのです(インフレ政策)」p128
「現在国連加盟国は129です。ところが民族の数は、エスニック・グループまで含めると、少なくとも5000はある。つまり、9割の民族が不満を抱えていることになる(ゲルナーの考え方)」p167
「歴史というのは、人が自らの生きる特定の時代の観点から、過去の時代のある一点を恣意的にとらえ、両者を線でつなぐことでできあがる物語」p282
「産業社会は、資本主義と相性がいい。そのため、社会を放置しておくと、必然的にとんでもない格差が生まれる。そして、社会は資本の増殖だけを中心に動き出す」p307
「大きな夢を持っている政治家や官僚は無理をしません。大きな夢が現実の世界では絶対に実現できないことをわかっている、すなわち、人間の限界を理解しているので、その制約の中で、政策を実現しようとするからです」p310
「私は今も日本国家を愛している。そして、日本国家をより強化したいと本気で考えている」p314
「右翼は、理性には限界があると考え、人間がいくら理想的な国家や社会を構築しようとしても、人間の偏見、嫉妬を除去することはできないと考える。したがって、人知を超えた神や伝統を信頼するのである」p315 -
【要約】
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【ノート】
・正剛さんの「3・11」で
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宇野弘蔵の『経済原論』と『経済政策論』、アーネスト・ゲルナーの『民族とナショナリズム』、柄谷行人の『世界共和国へ』、カール・バルトの『ロマ書講解』などのテキストを読み解きながら、国家と社会との関係についての考察を展開している本です。
本書で展開される著者の国家に関する思想の大筋をまとめてみると、資本の運動の中に国家が介入してくる契機を探ることで新自由主義に対する批判的な視座を確保するとともに、国家をあくまで必要悪とみなす立場から、多様なアソシエーションによる複層的な社会的包摂の可能性について論じていると言えるでしょうか。
とはいえ、本書から学ぶべきはこうした著者の思想そのものであるというよりも、幅広い教養をベースにイデオロギー・フリーな立場から国家について冷静に考察する態度ではないかと考えます。 -
元外交官 佐藤優氏によって書かれた「国家とは何か」について書かれた本。
右翼、左翼といったステレオタイプな物の見方ではなく、著者の知的なバックグラウンド(キリスト教神学、マルクス主義、スターリンの民族理論)を背景に国家と社会との関係、国家と民族、ナショナリズム問題、国家の社会への介入、キリスト教における国家と個人の付き合い方についての考え方など、従来の政治の本とは異なった視点で国家を見て、国家という存在とどう向き合うべきかが書かれている。
日本人には馴染みの薄いキリスト教的な価値観やスターリンの民族理論などが分かりやすく解説されていて、こういう物の見方もあるのかと、読んでいて、視野が広がった気にさせられた。
従来の政治の本に満足できない人が読むと、新たな知的な刺激があって、非常に面白いのではないかと思う。 -
国家は必要悪であり、その存在は必然なるものであるが、深く関わってはいけないとは筆者の主張。用心棒みたいな存在が国家か。
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外部講座の課題図書。
絶大なファンがいるとは聞いているが、う~~む。
会って、話を聞いてみないことには、判断できませぬ。
というわけで、今週末、会ってきます(笑)
響いた言葉
「相手がどのように世界を見ているのかを掴む」ことが大切
「思想というのは究極的には生き死にの問題」
「自分の命よりも大切ななんらかの価値観というものが出てきて、それを基準にして動く」ことが、人の命を奪うことに抵抗を感じなくなる