絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書 541)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140885413

作品紹介・あらすじ

700万年に及ぶ人類史は、ホモ・サピエンス以外のすべての人類にとって絶滅の歴史に他ならない。彼らは決して「優れていなかった」わけではない。むしろ「弱者」たる私たちが、彼らのいいとこ取りをしながら生き延びたのだ。常識を覆す人類史研究の最前線を、エキサイティングに描き出した一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 山極寿一氏の「暴力はどこから来たか」​は、今年1番大きな衝撃を受けた本だった。ただ、専門外の人類史は説明不足の所があった。よって、本書を紐解いた。ビックリしたのは、著者が山極さんと同じように、ダートやローレンツが提唱し「2001年宇宙の旅」で描かれて世界に伝播した「人類史は殺人・戦争の歴史」「戦争本能説」を、明確に間違いだと断定していることである(241p)。山極さんは京大。更科さんは東大だ。まるきり系統が違う2人が同じ結論を、同じ映画を紹介しながら批判しているのに、私は大いに勇気づけられた。私たち人類にお願いです。私の目の黒いうちに「戦争を無くす道筋」を、何とかつくって欲しい。

    冒頭にある「主な人類生存表」は、実は最もビックリした部分である。本書を読んでいる間、何度もこの表に立ち帰った。6種のホモ属だけで見たとしても、我々ホモ・サピエンスの生存期間はまだやっと30万年間だ。ホモ・ハイデルベルゲンシス(約50万年間)、ホモ・ハビリス(約110万年間)、ホモ・エレクトゥス(約170万年間)よりは短いのである。種属として優秀かどうかの物差しを、その生存期間で測るとしたら、我々はもしかしたら、(このまま環境悪化が続き、戦争が無くならなければ)非常に劣った種属として、後世の歴史に刻まれるのかもしれない。

    この本のテーマは「なぜ我々ホモ・サピエンスが生き延びたのか」というものだ。10万年前は、まだエレクトゥスもフロレスエンシスもネアンデルターレンシスも生きていた。なぜか、我々だけが生き残ったのである。

    SFの世界では繰り返し「人類は宇宙人の遺伝子操作によって生まれた(だからホモ・サピエンスは「特別」なのだ)」という物語が作られて来た。しかし、この人類史を読むと、ホモ属だけで無く、アウトラピテクスもアルディピテクスも全て「特別」だったし、全て「失敗」して来ている。私は、ここまで人類学が進んでくると、今までのSF学説は成り立たないと思う。

    更科氏は、人類史を描くに辺り、「このシナリオは正しいのか?」と繰り返し我々に問いかける。とても勉強になったのは、「筋道が立っているだけでは、それが真実であるとは言えない」ということを、何度も何度も我々に言い聞かせたのである。人類学は、必ずしも真実が明らかにされない推理小説みたいなものだ、と私は思う。だからこそ、読んでいてゾクゾクする部分がある。それでも、事実か発掘されて、ある事柄については真実だと「証明」出来る時がやってくる。その一つの方法が、第6章で展開される「原始形質と派生形質」の見極め方法である。なぜヒトとチンパンジーは類が違って、ヒトとアウトラピテクス・アフリカヌスは同じ人類なのか。それは派生形質(脳の大小)が違っていたとしても、原始形質(頭蓋骨の下側の大後頭孔)が同じだからである。こうやって、次々と「近縁」を決めていって、あのまるで見て来たかのような動物の「系統図」を作って来たというわけだ。

    よって、証明出来ていないことは、キチンとまだ証明出来ていないと書いている。ヒトは「たくさん子どもを産む能力」を持っている。チンパンジーは生涯で6匹、ヒトははるかに多い。マリー・アントワネットの母親マリア・テレジアは16人産んだらしい。これは「共同して子育てする性質を持っているから」で間違いない。それに付随して「おばさん仮説」がある。ヒトだけは、閉経して子どもが産めなくなっても長く生き続けるらしい。これは共同子育ての後に「進化」した性質だというのである。あくまでもまだ「筋道が立っている」だけである。

    更科氏が何度も強調し、私たちが肝に命じなければならないことがある。進化において「賢くて、強い者が生き残る」わけではないのだ。進化では「子供を多く残した方が生き残る」のである。脳が大きいから、力が強いから、ホモ・サピエンスは生き残ったわけではない。それで言えば、ネアンデルタール人が生き延びらなければならなかった。

    なぜホモ・サピエンスが生き残ったのか。著者は、同時代に生きたネアンデルタール人と「少なくとも集団同士の大規模な争いはなかったようだ」という。著者はネアンデルタール人は、簡単な言語しか話せずに、社会的な基盤がなかったからだ、という。また、身体が大きく燃費が悪かった。氷河期を迎えて寒くなる。ホモ・サピエンスの優れた狩猟技術、細い身体と、防寒の工夫等により、8勝7敗でヒトが生き残った。著者はネアンデルタール人は、異様に記憶力が良かったかもしれないと想像する。現代でも生きていたら、と想像する。それは楽しい想像だ。

    ネアンデルタール人は生息地をヒトに追われて絶滅した。著者は最後にこのように警笛を鳴らす。
    「現在、多くの野生動物が、絶滅の危機に瀕している。(略)最も多いのは、生息地を人間に奪われて、絶滅しそうな生物だ。(略)椅子取りゲームのように、1人が座れば、もう1人は座れなくなるのだ」(244p)これを敷衍して云うと、「人口抑制しか、人類が生き残る道はない」のかもしれない。

    2018年11月読了

  • 人類は、私達ホモ・サピエンスの他に、ネアンデルタール人など、色々な種類がいたみたいです。
    ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより体も大きく、脳も大きかったみたいです。
    なのに、、、ホモ・サピエンスが勝ち残った!!

    とても興味深い内容でした。
    ぜひぜひ読んでみてください

  • なぜ私たちが生き残ったのか。
    はっきり言って、たまたまだ。
    かつて、ヒトには多くの種類がいた。
    少し前までは、我々、ホモ・サピエンスは他の人類たちより優れていたから生き残ったのだと考えられてきた。
    しかし、近年はその考え方に変化が訪れている。
    私はこの話を聞いた時、時代は変化しているのだなと強く感じた。
    人類の歴史を見てみると、誰が優れている、誰が劣っている(人種、性別、年代その他全て!)とひたすら想い続け、信じ続け、自分こそが選ばれたのだと思おうとしてきた。
    でも、そうではないことに気づき始めた。
    それは人類が、人類として、「知性」を活かし始めてきた証という気がする。
    互いを尊重し、平等と思える日が、いつかくる(その前に滅んでしまう可能性も捨て切れないが)。

    さて、以前NHKスペシャルで知っていた話をこうして文章として復習してみると、その奇跡に驚かされる。
    完全に滅んだと思われるネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子が我々の中に生きているそうだ。
    以前は場所も限られていただろうが、他人の行き来が激しい昨今では、私や、あるいは隣人が、もしかしたらネアンデルタール人の遺伝子を持っているかもしれない。
    なんだか、SF的だ!
    こうして多様性を高めたことで人は増えた。
    やはり、多様性は強い。

    ミトコンドリア・イブの話も面白い。
    何十万年後に、私が、ミトコンドリア・イブかもしれない。
    うわあ、ロマンがある!
    これは母からしか受け継がれないもの。
    だから男しか生まれないと、そのミトコンドリアはそこで終わりだ。
    ミトコンドリアは完全に女系。
    たった300ページ足らずの本に広がるロマン。
    その間だけ、遥かなる夢を見よう。

    • goya626さん
      本屋で見て、ちょっと気になった本です。面白そうですね。
      本屋で見て、ちょっと気になった本です。面白そうですね。
      2020/01/22
  • 私たちはホモ・サピエンスだが、遺伝子的に1番近しい生物はチンパンジーやボノボだと言う。
    けど、そのチンパンジーと私たちの間にはかつて絶滅した人類がいた。
    それがネアンデルタール人やアウストラロピテクスなど。
    最古の人類は今はサヘラントロプス・チャデンシス。

    チンパンジーと、人類はどのように枝分かれしたのか、そこからホモサピエンスへ行き着くまでに何があったのか。
    後半少し疲れた所もあったが興味深く読んだ。
    私たちが増え続けるには他の生物を犠牲にしなければいけない。それが現実だそうだ。

  • 年明けからこっち、すっかり人類史に嵌まっています。
    本書は、地球上にはかつて多様な人類がいたのに、なぜ私たちホモ・サピエンスだけになってしまったのか―という謎に迫ります。
    未読の方の興趣を殺いではいけませんので、その謎の答えについては本書をお読みいただくとして、ここでは触れません。
    ところで、私たち人類はどうやって誕生したのでしょうか?
    私たちの祖先は、アフリカの森に住む類人猿でした。
    アフリカは当時、乾燥化が進み、森林が減っていました。
    私たちの祖先は木登りが下手で、つまり個体として弱くて、森では生きられなくなりました。
    それで仕方なく、疎林や草原に出て行きました。
    そして、食料を手で運搬して妻や子に食べさせるために二足歩行を進化させ、人類が誕生したと言われています(最も有力な仮説です)。
    私たちの出自が「弱い」ことに由来していたというのは、何とも示唆に富む話です。
    人類が進化する過程で犬歯が縮小した事実や現生のヒトと類人猿のデータなどを合わせて総合的に考えると、人類は元々、平和な種なのだというのも誇らしいですね。
    冒頭で、「謎の答え」については触れない、と書きましたが、少しだけ。
    実は、既に絶滅したネアンデルタール人は、私たちホモ・サピエンスより脳の容量が大きかったことが知られています。
    ネアンデルタール人の脳の容量は1550ccで、1万年くらい前のホモ・サピエンスは1450cc、ちなみに現在のホモ・サピエンスは1350ccです。
    脳が大きいからといって直ちに頭がいいとはなりませんが、ネアンデルタール人が相当な知性を備えていたのは事実のようです。
    「ネアンデルタール人は何を考えていたのだろう。その瞳に輝いていた知性は、きっと私たちとは違うタイプの知性だったのだろう」(222ページ)
    そんなことを想像するのは、楽しいことですね。
    私たちの祖先と人類の歴史について気軽に知ることができるだけでなく、ロマンもかき立ててくれる良書です。

  • ホモ・サピエンスのルーツを、時期毎に存在していた其々の人類の’滅び’に着目して辿ることにより、「何故ホモ・サピエンスが人類最後の1種になれたのか」を考える一冊。

    何はともあれ鍵は’脳の発達’、そして天敵に食べられて減少する数以上に’子をたくさん産めること’、更には’どんな環境でも生きていけること’。

    ホモ・サピエンスが発展して数を増していく一方で、その影響に圧し出される形で直接的にしろ間接的にしろ他の何かの種が絶滅の危機に瀕している。

    図らずも、そんなとりとめの無い事を思索するきっかけにもなった一冊。

    本としてのコスパも良い。


    4刷
    2021.8.8

  • 著者の次作『残酷な進化論』が面白かったので、遡って読んでみた。

    第11章のミトコンドリア・イブに関する論理的な考察はシンプルだけどエキサイティングだ。
    (サブタイトル: ミトコンドリア・イブはヒトの起源ではない。ミトコンドリア・イブはいつの時代にもいる。)

    ネアンデルタール人は、脳が大き過ぎて燃費が悪いが故に、ホモ・サピエンスに競り負けた、というのは、逆説的でおもしろい。ホモ・サピエンスより大きい脳を使って、より上手に出来たであろうことが何か、という点は気になる。著者は、(文字がない時代においては俄然役に立つ)「記憶力」ではないかと推測している。現に文字が発明されて外部記憶に頼れるようになって以降、ホモ・サピエンスの脳は更に小容量化しているのだそう。

  • 700万年前に登場した人類は、進化の道を歩み、現在に至る。が、その道は真っ直ぐな一本道ではない。途中でアウストラロピテクスやネアンデルタール人に進化したものは絶滅し、我々=ホモ・サピエンスだけが生き残った。

    本書はホモ・サピエンスの「進化史」ではなく、それ以外の人類の「絶滅史」を推測し、我々が生き残った理由を探る。

    よく言われるのは脳が巨大化したことが人類の繁栄につながったということ。確かに、人類は他の動物より大きな脳を持っていた。が、絶滅したネアンデルタール人の方がホモ・サピエンスより脳は大きかったらしい。

    著者いわく、脳は大きければ良いというものではない。大きな脳を維持するためには大量のエネルギーが必要なため、食事に多くの時間が取られてしまう。しかも、巨大な脳も使い道がなければ、宝の持ち腐れだ。ネアンデルタール人は巨大脳を活用することができず、その高カロリー体質で滅んでしまったと、著者は推測する。

    そして現代の我々も脳は縮小する方向に進化している。言葉や文字、コンピューター、AIなど、脳の機能を補助するモノに囲まれ、脳にはかつてほどの機能を必要としなくなった。今の人類は大きくなりすぎた脳を小さくすることで、進化しているらしい。

  • いや新しい人類史を学んでみるものだと。ちょっとかじったところではついネアンデルタールはサピエンスに滅ぼされたのだというような少し前のもっともらしい説を信じ切っているところもあり、そんな簡単なもんじゃないよというのが本書でよくわかる。変なファンタジーを廃しつつ、実は今いる1種類の人類、すなわち我々ホモサピエンス以外にも共存していた時代があるのだということが説得力を持って語られる。なぜ彼らが絶滅しなくてはいけなかったのか、も興味深い。ただ遺伝子的にいま見られているネアンデルタールとの交雑については最新研究までフォローされていないのでできれば続編か増補改訂版を出して欲しい。人類学がまだまだこれからわくわくできる学問であることがよくわかる。

  • 日常の認識では人類=人間だが、本書で定義されているのは、700万年前にチンパンジーの系統から分かれてヒトの系統になった種をいう。その人類には25種以上の系統がありヒトは最後に残った種で、最も近しいのが有名なネアンデルタール人だという。
    このテーマを扱った本は多いが、わずか250ページ足らずの新書ながら濃い内容がコンパクトにまとまっている。
    ヒトは最も強かったのではなく、最も賢かったわけでもないが協力し合い、偶然に恵まれたことで今に生き延びている。
    改めて今に至る偶然に驚くとともに自然に対して少し謙虚になることができる。

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著者プロフィール

更科功
1961 年、東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。民間企業を経て大学に戻り、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。専門は分子古生物学。現在、武蔵野美術大学教授、東京大学非常勤講師。『化石の分子生物学――生命進化の謎を解く』で、第 29 回講談社科学出版賞を受賞。著書に『若い読者に贈る美しい生物学講義』、『ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのか―生物の死 4つの仮説』、『理系の文章術』、『絶滅の人類史―なぜ「わたしたち」が生き延びたのか』など。

「2022年 『人類の進化大百科』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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