交雑する人類―古代DNAが解き明かす新サピエンス史

  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140817513

感想・レビュー・書評

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  • 現世人類とネアンデルタール人が交雑していたというのは現代では有名な話だが、それを明らかにしたのは「古代DNA分析」という研究分野。その第一人者である著者が、古代DNA分析の仕組み、ヨーロッパ、インド、アメリカ、アジア、アフリカの各地域に住む人々の由来に関する最新の仮説、そして集団間の遺伝的差異(優劣)という極めてセンシティブな問題に対してどう向き合うべきかを論じる一冊。

    人類が進化の樹形図のように枝分れして進化してきたという直感は実は誤りであり、現世人類を含む様々な人類がお互いに交雑を繰り返して現世人類に至っているという。「集団間の実質的な差異の発見という避けられない未来への正しい対処は、差異があっても(集団ではなく個人に注目することで)わたしたち自身の振る舞いはそれに左右されるべきではない」と説く。

  • 凄かった。
    しっかりとした検証に裏打ちされた事細かなデータを自分のような一般の人にとても分かりやすく提示してくれる。
    歴史や人種を形だけなぞるよりこういう本がもっと増えることを祈りたい。
    その上で、じゃあ自分は何ができるんだろうと考えさせられた。

  • 日本では人類学、考古学は文系に属するけど、多く海外では理系に属する。データの解析、地質や年代の測定など、学際的な知識が求められるからだ。そんなわけで日本の考古学の学徒だった自分には、少々難しい内容だった。地理感がつかめず、何より方法論がよくわからない。星3つの評価は内容の問題ではなく、多分に自分の知識不足に原因があると思う。そうは言っても、古い知識をいくつかアップデートすることができたのは有益だった。性的バイアスなど、印象的な内容もあった。日本人の由来にも軽く触れられている。
    本書を読んで感じたのは、とにかく人類は移動する動物なんだなということ。何か目的があったわけてはないと思う。定住革命を経てなお、本質的に人類は旅をする動物だ。遥かな祖先たちの好奇心に感謝。

  • 第1部は古代DNA分析の理論や技術を紹介するもので、正直言って面白くない。しかし第2部は非常に興味深く、そして第3部に至っては現代人必読とすら言えるので、なんとか頑張ってほしい。
    著者は知られざる、そして誤解を受けることの多い己の専門分野を広く世間に知ってほしいと奮闘しており、その意欲と能力、そして研究の意義や十二分に伝わるが、やたら「私の研究室で〜」と出てくるところといい、やや前のめりな姿勢が暑苦しさを感じさせるきらいもある。

    2020/11/15読了

  • 読了。
    文字通り日進月歩、次々と新説が登場するこの分野。本書は仮説や推論を極力排し、古代人全ゲノム解析結果というエビデンスを徹底的に拠所とする点が新しい。めちゃくちゃ面白いのだが、エビデンスを徹底的に重視するというストイックさ故、読み物としては余りにアカデミックで(笑)、咀嚼には相応の覚悟とカロリーが必要。人類はアフリカで誕生して、ユーラシア大陸を経由して世界中に拡散した、という定説に対しても、実は斯様な単純な旅路では無かったとDNA鑑定結果から反駁している。一日1歩三日で3歩、3歩進んで2歩下がる、人生はワンツーパンチ…、人類の苦闘の歴史がきちんとDNAに刻まれるという事実に、人智の及ばない意思を感じるのは私だけか。

  • DNA解析によって人類が遺伝学的にどのような歩みを経て
    現在に至ったのか、少しずつ明らかになりつつある。解析
    技術自体の進歩や、発掘された古代の遺骸からDNAを採取
    する新たな方法の発見などにより、近年この分野の進歩は
    めざましい。この本は、少しずつわかり初めてきた研究の
    成果を紹介し、これからの展望を示した本である。人類の
    歴史は、進化の系統で良く示される樹状ではなく、網の目の
    ようなイメージで交雑を繰り返してきたという点が興味
    深かった。

    このような研究は人種差別や身分制度などと相まって否定的
    に捉えられがちだが、要は研究に対する姿勢と使い方だと
    私は思う。人類に純血種など存在しない。

  • しばらく前に、ミトコンドリアイブという説が流行ったことがあった。それは、ミトコンドリアの遺伝子のみに着目した系統樹であったが、これは全DNAを対象とした人類の遺伝的変遷の研究における今日の到達点を書いたものである。
    ミトコンドリアイブほど有名にならないのは、分かり易い結論を避けているためだろう。現生人類にも、若干のネアンデルタール人DNAが受け継がれているとか、単純なアフリカ起源説ーアフリカを出た現生人類の祖先がそれぞれの地域に散らばって独立して発展したーを否定するなど、それなりに影響のある説を提示している。
    DNA解析による人類史の研究はまだ始まって間がなく、サンプル数も手法も限られている。ここに書かれたことが全て正しいとは言い切れないが、DNA研究が今後考古学に重大な影響を与えていくことは疑いない。著者自身が例えているように、炭素14法に匹敵する画期的な変革と言えるだろう。
    この研究は、人種差別に対して、人類が皆交雑することによってできていること証明することによって打撃を与える。しかし、その一方、遺伝的に異なるエスニックグループは存在するという不都合な事実も明らかにする。
    結局、知識は使い方次第なのである。

  • かつての考古学・人類学は発掘された化石の形態などから人類の進化、移動を推測することしかできなかった。最近のDNA配列決定技術、解析手法の向上は、これまで見えていなかった古代の人類の移動を描き出しつつある。本書はその日進月歩の分野の第一線で活躍する研究者による著書。

    著者は古代人の人骨からDNAを抽出し(なお、古代人の人骨からDNAを抽出し、配列を決定する技術を確立したのはスヴァンテ・ペーボ。ネアンデルタール人のゲノムを解読した科学者でこの分野のパイオニアである。そこに至るまでの彼の苦労を書いた自伝的著書「ネアンデルタール人は私たちと交配した」と本書をあわせて読むとより理解が深まるだろう。)、その配列を解析することで、古代の人類がどのように移動していったのかを明らかにしつつある。

    なぜ古代人のゲノムを解読することでその移動を明らかにできるのか?我々のゲノムはA,T,G,C,4種類のDNAの文字が30億ほど並んでできている。親から子へゲノムが引き継がれるときに、このDNAの文字列はそっくりコピーされる。しかし、ごくまれにではあるがこの文字列の書き写しにエラーが起こることがあるのだ。ある部位のAがTに代わるといった具合にだ。
    現生人類がアフリカからでた後にある部位でAからTへの変化が起きたとする。そうするとアフリカ人のゲノムのその部位はAだが、ヨーロッパ人やアジア人など、変化が起きた後の人類の子孫はその部位にTを持つ。人のゲノム配列中でこのように人種間で異なる文字になっている場所が何万箇所もある。それを照らし合わせ、統計的手法を組み合わせて調べることで、どのように人類が地球上に拡散していったかを明らかにできるのだ。
    そうして浮かび上がった現生人類の移動は、従来の説とかならずしも一致しない。ヨーロッパでは農耕の拡散が人口集団を塗り替えていったと考えられていたが、ゲノム配列からわかる人の移動はそれとは異なっていた。アジアではまだ存在が人骨で発見されていない未知の人口集団が予測されるという。
    それどころか、我々現生人類ホモサピエンスですら、一筋の進化を辿ってきたという考えすら誤っていたことが明らかになった。我々と異なる、絶滅したとされるネアンデルタール人のゲノムがごくわずか、2%ほどではあるが現生人類のゲノムに残っているというのだ。しかも興味深いのは、アフリカ人のゲノムにはネアンデルタール人のゲノムは入っていない。これは現生人類とネアンデルタール人の交配がアフリカを出た後(中東、ヨーロッパ)で起こったことを示している。
    また、オーストラリア大陸の原住民アボリジニには、別の絶滅した人類デニソワ人のゲノムが最大で5%ほども含まれているという。

    このレビューを書いたのは本書を読んでから1年近くたってからなので、不正確なところや、内容をきちんと押さえていない箇所もあるかもしれないことを断っておくが、本書の面白さが少しでも伝わり、本書を手に取ってくれる人がいれば幸いである。

  • h10-図書館2018.9.30 期限10/14 読了10/11 返却10/12

  • ライフハックに出てきた科学者の本

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