植物は〈未来〉を知っている―9つの能力から芽生えるテクノロジー革命

  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140817339

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  • 動物は問題から逃れるために動くことを選んだ。
    植物は問題に対応するために動かないことを選んだ。

    植物は「移動できない」ことが理由なのか、その作りは動物に比べると下等だと思われている。

    だがこの本の著者、イタリアの植物学者ステファノ・マンクーゾさんによると、動物のそれと形態は違っても、植物も視覚や運動など様々な感覚を感知する器官を持っているという。

    動物とは全く違う器官の作りや環境への素早い対応力など、植物がもつ様々な能力は限界に近づきつつある地球を守る手段になりうるとして、近年積極的に研究されている。

    SDGsにも大きく関係する内容なので、持続可能な社会に興味がある方にはぜひ読んでほしい。

    植物に対するイメージが180度変わる1冊。

  • 植物の種子貯蔵庫はノルウェー領の島にあり、種の保存が厳重になされているという
    人類は、植物の未来の重要性を知っている
    ダーウィンも「もっとも豊かな想像力を持つ人間が考えつくものをはるかに超えている」と自然の仕掛けと適応力を表現している
    植物に対して認識の低かった潜在的な可能性にアプローチし、思わぬ切り口から可能性の開花を示唆してくれている
    例えば、分散構造 が植物の特徴だと言う
    動物は記憶するために脳を進化させ、外界を見るために眼に機能を集中化している

    ◆ 記憶力
    通常は馴化と表現される
    プロトコルを明確にした再現性のある実験で、記憶力に関する実験をした
    刺激の区別を40日間以上記憶保持する結果をオジギソウで確認したという
    また一定温度以下の寒さから何日後に開花するのかを記憶しているのは、遺伝子情報のように思われるが、研究結果では非コードDNAが生産されるRNAがコントロールしていたという
    開花についてはプリオンという動物には有害なタンパク質を利用している可能性も仮説として出ているそうだ
    脳という記憶装置を集中的に持たない植物の分散構造が魅力的であるとする

    ◆ 繁殖力
    植物型ロボットの可能性
    モジュール構造
    特に根の持つ力 長さは小麦一本の毛根で20Km
    細胞の浸透圧ポテンシャルは10〜30気圧相当
    挿木や接木の性質
    複数の個体からなる複合体:コロニーのようだとされている
    外部刺激へのは光合成だけではない
    光、重量、接触、湿気、酸素、磁場、更に音にも屈性という運動反応の刺激となる
    植物は刺激を確認しながら根を伸ばし定着し生存を安定させる
    この植物をロボットとして製作し火星探査の宇宙開発にも活用しようと試みを始めている
    プラントイド: 植物アンドロイド は根に備わっている知性を再現することで様々な土壌の調査や改良などに活用できる未来が待っている
    葉の再現は根に比べれば簡単だと言う
    本当に夢のあるロボットだと思う


    ◆ 擬態力
    昆虫や動物の擬態はよく取り上げられ楽しまれている
    南米のつる性植物ボキラ・トリフォリアータは、巻き付く樹木の葉を真似していると言う
    何度でも何種類でも変化することができるという
    シソ科一部の植物はイラクサの葉の擬態で虫などからの攻撃を紛らしていると言う
    どうやって擬態する対象を選び認識しているのか、動物のように眼があるわけではない
    しかし表皮細胞を使って映像を知覚することができると1900年代初頭から論文も発表されているそうだ
    表皮が眼の水晶体にあたり、外皮が網膜の役目をしているのだと言う
    また、多肉植物が好きな人は、石の擬態をしているリトープスを知っているだろう
    松露玉というサボテンも石に擬態して捕食者から逃れている
    最近では秋の紅葉も、アブラムシに向けて力を誇示するメッセージだという研究もなされているそうだ
    人間が作物としてレンズ豆を栽培するようになって、繁殖のために擬態したのがオオヤハズエンドウだそうだ
    ライ麦も小麦と大麦の傍らの雑草だったものだという

    ◆ 運動能力
    筋肉のない植物が運動する?
    内部エネルギーを利用する能動的な運動と、環境中のエネルギーを利用する受動的な運動にわけている
    能動的とは、水が細胞内に浸透して膨らむ結果として運動が生じている
    オジギソウや食虫植物などの素早い動きもそうだ
    受動的とは、昼と夜の湿度差を利用するとか
    動物には無い「細胞壁」の吸水力の差を利用している
    松笠では33%もの差があるという
    この水分交換で運動を引き起こす高分子フィルムが2013年に開発された
    自重の380倍の重さを動かす
    電力を作ることもできる
    ナノエレクトロニクスの電力としても活用できるものだ
    オランダフウロの種子の動きもすごい
    種子は弾け飛び、土壌の裂け目を見つけてそこ へ入り込む動きをするという
    湿度で捻れることで回転を始めるのだそうだ
    裂け目に入ると回転を続け更に深く地中に入り込むように動くのだ
    これも宇宙探査に役立てようと研究が続く

    動物の運動を解析するために人間はスローモーション動画 静止画で行う
    1890年代から植物に対しては早送り:タイムラプスで行われてきた
    それでも動かないのが植物だと思うのは今だに普通の感覚だ
    開花や葉の動きや蔓の成長などもあるが、重要なのが根の成長と探査だという
    19世紀末からの植物の運動の研究により「屈性」と「傾性」が見出されてきた

    ◆ 動物を操る能力
    昆虫を使って受粉するばかりか、ヤモリを使う花もある
    アカシアは受粉以外の目的:有害な動物や周囲の雑草などの除去に蟻を利用している
    花の蜜には動物の神経系を制御する成分が含まれている
    アルカロイドで虫を依存症にさせて行動をコントロールする
    トウガラシのカプサイシンもそうだ
    脳内にエンドルフィンを発生させ中毒させる
    長距離走のランナーズハイで得られるエンドルフィンより簡単に得られる
    種に辛さがあることも知っているだろう
    人間も繁殖の拡大に大いに利用されている

    ◆ 分散化能力
    動物の臓器にあたるものを持たない植物は捕食者からの急所ももたない
    臓器にあたる機能は体全体に分散している
    そして火にも耐性を持つ植物もある
    機能を臓器に集中されるのはスピードを求めるがためであり、植物は問題解決や問題を避けるための進化を続け繁栄している
    根は分散型の非中央的システムで相互に作用し合う
    そして栄養摂取と生存の基本情報わ入手して成長の方向性を判断している
    モジュール構造のコロニーが食部の根に見られるが、動物では、イナゴの大群、鳥の大群、イワシの群れなどだ
    簡単なルールで複雑な結果を残せる例として語られている
    一般的な動物の構造が専制主義的なモデルとすれば植物の構造は直接民主主義的なモデルと表現されている
    蟻や蜂や人間など、動物でもコロニーの中の個々の存在は神経細胞:ニューロンに相当する
    相互接続状態で生まれる集団知性
    インターネットの世界と相似だ
    Wikipediaのような集団知性

    ◆ 美しい構造力
    葉の並び方「葉序」
    光が植物にできるだけ当たるように並び方が工夫されている
    ダヴィンチが研究し、現代建築にもヒントを与えるものだ
    オオオニバスは、受粉や水面の葉の耐久性とその構造などが研究される
    万博会場や空港のターミナルなど大型の建築構造に活かされている
    ウチワサボテンも環境に適合するために、光合成のプロセスまで修正しているという
    ナミブ砂漠の植物ウェルウィッチアは死ぬことのない二枚の葉と言われ、二千歳を超える株があるという また最も醜い植物とも言われる
    水分を集める構造は古くから人類のキーテクノロジーであった
    空気中の水分を集める建築物ワルカウォーターもエチオピア特有のイチジクの木がモチーフだ
    ギリシャ建築のコリントス様式もアカンサスの葉が彫刻され、エジプトのルクソール神殿がパピルスの茎を模倣した柱を使った

    ◆ 環境適応能力
    月に人類が立ってから数十年経ち、今尚その頃誰も星の地表に降り立った者はいない
    今後の宇宙進出に植物無しで辿り着ける所はないと考えられている
    食物、酸素の供給と、人間の心理バランスに与える肯定的効果だ
    火星への片道の距離は約1年の行程だ
    帰りのタイミングも適切なポイントを考慮すると滞在期間を含め往復2〜3年の旅になる
    地球上で、火星旅行をシミュレーションした際にはクルーの精神状態が悪化したという
    ADD:注意欠陥障害の児童にも植物は良い効果をもたらすという
    宇宙ステーションでは2014年から植物栽培の実験が始まっている
    重力の変化にどう適応するのか
    2004年 放物線飛行で植物の活動電位を測定もした
    微小重力開始後、1秒半で根で活動電位が作られ隣接領域に伝達され、10分後にはpHの変化も生じたという
    問題は機体内の別の様々な物質だったという
    無重力状態で、削り屑の金属片がコンピュータに入り込み爆発して炎が上がったのだった
    2011年スペースシャトル エンデバーの飛行で植物のストレスと馴化も実験されたという

    ◆ 資源の循環能力
    地球の水の97%が海水だ
    水不足、旱魃とは淡水の不足の事だ
    気候変動、温暖化問題でも大きな課題だ
    食糧需給にも直結する
    塩性土壌の塩生植物の研究も重要だ
    海上での温室栽培があるという
    海上農園アイデアの一歩だが、エネルギーの消費は多く、完全リサイクルも視野に入れたい
    海からの蒸留水にはミネラルが含まれない
    課題に取り組み解決策が蓄積されていった
    2015年に発表された ジャリーフィッシュ・バージ は、海上で野菜の生産を可能にしたという
    持続可能な食料生産のために海を耕すことができるようになったことを知らせている

    この著書の2年前に発行された、同著者による もう一冊の本も読んでみたいと思っている

    植物学の新しい展開に興味は深まる

  • 植物の偉大さに改めて感銘を受ける!

  • 内容については全く異論なし。
    植物が動物とは全く違った形で知的に生きているということを感じているから。

    〈本から〉
    自然を深く観察せよ。そうすればあらゆることがよりよく理解出来るだろう。
                           アルベルト・アインシュタイン

    環境に対する植物の運動反応は、屈性という名で一般的に知られている。

    こうした屈性を組み合わせることにより、植物は厳しい環境を生き抜き、根を伸ばすことによって土壌に定着し、生存と安定性を確保することができるのだ。

    複数の個体からなる一つの集合体
    ファーブル
    「動物の場合は『分割する』ということが、概して殺すことを意味するのにたいし、植物の場合は、ふやすことを意味する」

    樹木も濃く色づくことによって、秋のあいだに移住の頂点を迎えるアブラムシに対して、自らの強靭さと生命力を誇示する信号を送り、他のもっと楽な宿主を探すように促している。 略
    アブラムシの攻撃をかなり受けやすい秋に、最もすばらしい色づきを見せてくれるのは偶然ではない。」

    唐辛子属のほとんどすべてが、ひりひりする感覚の原因である化合物カプサイシンを大量に作り出す。

    植物が製造する神経作用性の化合物は、動物に捕食されるのを防ぐための手段ではなく、動物を引き寄せ、操作する道具だという考え

    地球に暮らす全生物の総重量の少なくとも80%は植物が占めている。この数値こそ、植物がとてつもなく優れた能力を持っているはっきりとした証拠だ。

    植物に目や耳や脳や肺があったら、植物が見て、聞いて、計算して、呼吸するという事実を誰も疑いはしないだろう。そうではないため、植物が洗練された能力を備えていることを理解するには、想像力を働かさなければならないのだ。

    ヒエラルキー構造は自然界ではうまく機能しない

    集団組織には、個体一つ一つの知性の総和を超えた“集団知性“が出現する一般原理がある

  • 植物は知性を読み連続して読んだため、1/3程度は既読感ありな読書だったが、宇宙実験での氏の経験が赤裸々に描かれた章などは改めて読書できたことへの感謝を感じることのできた著作だった。また、植物の話題から海での取り組みにまで言及されている氏の見識の広さには改めて関心せざるを得ずイタリアの歴史の深さと懐の深さへと思いを至らせた次第である。アリストテレス以降誤った思い込みにより構成構築された知識生産性と社会構築の在り方にも一定量の影響を及ぼすであろう著書である◎

  • 素晴らしく面白い。植物の「知性」から僕らが学ぶことができること。

  • もちろん言葉通りではなく、未来を知っている、というよりこれからの社会問題に対し、どう植物の機能、構造が生かされていくべきか、著者自身の体験も交えながら書かれている。
    近未来的な装置は実際には開発されていたりして、興味深い内容だった。
    また植物の感覚に対する認知や記憶などについての話、仮説等々も面白く、自身も着眼していきたい部分だと思った。

  • 動かずに生きる道を選んだ植物はかわりに様々な能力を磨くことで未来を切り拓いてきた。
    記憶力、擬態力、繁殖力、環境適応能力など地球上のあらゆる所で繁栄する植物に今こそ人間も学ぶことがあるのではないか?
    人間と植物の驚異の未来が描かれた一冊。
    【農学部図書館471.3//Ma43】【OPAChttps://opac.lib.niigata-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB25816314?caller=xc-search

  • 図書館本。
    本書は、前書「植物は<知性>〜」で語られた<知性>がある前提で、如何に植物の能力が優れているか、未来にどう活かしていくかが語られる。
    やはり興味深いのは、動物のように集中器官がないにも関わらず、身体全体で機能しており、記憶であったり学習とも取れるような能力がある事だろうか。
    モジュール構造をしており、何処かが欠けても補える。さらに、自身は人間からみて動けないが、子孫繁栄のため、動物から人間、環境全てを利用している。蜜などは本書で言われる通り、動物や我々人間を間違いなく操っていると言えるだろう。

  • 植物は
    記憶力がある、オジギソウを馬車に乗せると次第に閉じなくなる
    小麦、米、とうもろこしは、人間の主食となることで、大規模に栽培され、拡張した
    レンズ豆の種子に似た植物がいる
    オランダフクロは、動物が触れて刺激で、種子が爆発し、動物の毛に纏わり付き、範囲を広げる
    カマバアカシアは、蜜を作りアリを呼び寄せ、そのアリは周辺を食い尽くし、日光や栄養を独り占めする。悪魔の庭と呼ばれる
    植物は、エネルギー使って、無駄なものは作らない
    唐辛子や麻薬は、人間の脳に作用する物質を作り、栽培植物として、広がる
    オオニバスの花は、熱を発し、蜜蜂を呼び寄せ、重層な花弁で、一晩閉じ込め、花粉だらけにして、翌日花弁を開放する
    サボテンの中には、寒暖の差を生かして、夜露をキャッチし、水分を得ているものがいる
    乾燥地帯の構造物も水滴を得るためのものである
    海の温室で、海水が蒸発した、水をキャッチし、植物の、成長に充てるなどしている。

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