天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い

著者 :
  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140816158

作品紹介・あらすじ

なぜ、日本人の医師が1600本の井戸を掘り、25キロに及ぶ用水路を拓けたのか?内戦・空爆・旱魃に見舞われた異国の大地に起きた奇跡。

感想・レビュー・書評

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  • 中村哲さんは現代の偉人だ。

    人間と自然に対する絶望を一心に引き受けながら、
    人間と自然を裏切らず信頼し続けた人。

    アフガニスタンの医療支援する医師でありながら、広大な砂漠地帯に、農業用水路や堰などを建設するなど、途方もなく壮大な人生だ。

    氏はそれを英雄気取りせず、淡々と事実だけを書き記されている。
    9.11すら日常の一コマのように思えた。

    アフガニスタンでの飢えや貧困は、アフガン戦争、テロ報復戦争による被害だけでなく、地球温暖化による旱魃被害が大きな要因であるとはなんとも無慈悲だ。

    「己の分限を知り、誠実である限り、天の恵みと人のまごころは信頼に足る」

    なぜここまで自分を捧げることが出来たのか?と思うけれど、氏のこの言葉が全てを物語っている。

    • コウさん
      医者としての立場以上に、一人の人間として尊厳を持って生きる姿に現地の人々は励まされたのだろうと思いました。

      米軍撤退後も中村さんに関係のあ...
      医者としての立場以上に、一人の人間として尊厳を持って生きる姿に現地の人々は励まされたのだろうと思いました。

      米軍撤退後も中村さんに関係のある日本の支援者による活動が続いているとか。どんな環境でも人は志があれば生きられると感じました。
      2021/11/27
  • 2019年末に逝去された中村医師の自伝。
    彼が行ってきた偉業の紹介は別の場所に置いておき、この本で彼が語るのは、徹底的な現場の辛苦。
    中村先生の数多の苦労、葛藤、そして決意と失望と希望、そういったものが淡々と描かれる。
    ハンセン氏病に苦しむ少女から声を奪う決断をしたとき、9・11の後の混乱、築き上げた水路に大雨がきたときのとっさの大洪水を間一髪で防いだとき。凄まじい苦難と決断をしてきたのだとわかります。

    沙漠という強大な環境に水路を引いた。戦争・空爆もあり、多くの命が失われる場面を目にしながら、彼は「天と共に」進んできた。
    いつの時も、なにかを完遂するのはこういう覚悟だと思い知らされます。改めて中村先生に合掌を。

  • 「FACTFULNESS」を読み終えた後に手にした本なだけに、互いの距離感にギャップを感じ世界を見渡す視線の測り方、遠近感を養えた一冊。中村さんはじめ一人ひとりの命をかけたひとつひとつの積み重ねが世界を形ずくっているんだ・・・と考えさせられた。人類が文化の枠組みを超えて他の生物と本当の意味で共存し合える生命体になれる日はくるのだろうかと考えさせられた。この世に生を受けたひとつの人間としてこれまで巡り合った本から何を学び、何を育めるのだろうかと思いめぐらした。

  • 本当に中村哲さんという方の人生の生き方の素晴らしさを感じた。私にはなぜ、死ぬかもしれない場所に自ら身を捧げられるのかわからなかった。
    しかし、この本を読んで、なぜそこまでして身を捧げられたのか分かった。本当にオススメの本です。この人の人生の生き方を他の日本人いや世界に住む人々が真似していけば、日本という国が変わるのではと思いました。
    人は自然の一部であるということを身を持って証明され、天(自然・神様)共に在りというタイトルをつけられたことが最後にわかりました。

  • ハンセン病患者の治療から始まり、戦争や厳しい環境の中、医療行為をし続け、人を救うこと。医療行為から、発展し、井戸を掘ること。温暖化による旱魃という今後世界が直面するであろう環境問題に対して、灌漑事業を素人ながら成し遂げ、砂漠を緑化すること。「本質的に人を救う」ことを継続し続けた30年間。何人分の偉業を成し遂げているのだろうか。
    例えではなく、本当に命をかけて仕事をまっとうするということのすさまじさが表されている。
    不条理な現場で、翻弄され、命を落としていく貧しい人たち、その中に分け入り、弱音を吐いたり、批判をするのではなく、本質的に求められている真に必要なことをつかみ、すさまじい推進力で推し進める。気合と熱意で進めたといわれても、絵空事には聞こえない。にわかに信じがたい偉業は、コツコツと本質を曲げず、志をもつことによって成し遂げられるのだろう。その志を持つことによって、たくさんの犠牲者が、人の命がなくなっていること、一筋縄でいかない挫折、人間の醜さ、常人であれば、くじけてしまうことがたくさんあっただろうことが推察される。
    現場で起こっていることはマスコミや政治家は正しく伝えない。何らかの力のために歪曲して伝えるということが四六時中おこっていることもよくわかった。

  • 自分自身が河川技術者であり、灌漑施設更新の施工監理の経験があるから、肝が河川からの取水部であり、あの施工の難しさを思い出しながら読み進めた。

    そもそもは、キルギスに行くにあたり、中央アジアの本を読もうと、積読になってた中から選んだ。近い地域で、集中して読みたいと。

    大正解。気候変動の影響はキルギスでもあり、山頂の万年雪が完全に解けるようになったらしい。アフガンの旱魃も同じ気候変動による。

    世界のメディアや政治家達が、タリバン対世界という単純な図式で自分達の勝手な正義を吹聴している下、現実の世界では生きていくための様々な闘いが個人レベル、血族や地縁、渓谷レベルであったのだ。事実は自分から取りに行かねば、知ることはできなくなっている。

    河川技術・灌漑技術に最新は無い。その地域に合わせて、最適化されていく。各地で先人から今に至るまで各地で工夫されているそれら土木施設をいま一度、ただある物ではなく、学ぶ施設という視点で見つめてみよう。

    常に様々な事に神経を尖らせながら最期を迎えてしまわれて…思いを知る皆に託されたのだろう。

  • 中村哲さんの壮絶なアフガニスタンでの活動の記録。生半可な決意ではここまでのことはなし得ない。
    アフガニスタンは、ソ連の侵攻、大旱魃、米国の攻撃など、相次ぐ災厄に巻き込まれていく。こうした中、中村哲さんは、日本の昔の治水技術を独自に調べ、アフガニスタンに適合するよう、上手く工夫し、大規模な灌漑を実現させていった。怯むことなく、淡々とおこなっていった。私もこのように生きていきたい。

  • 中村さんについては、逝去された際のニュースを微かに覚えている程度でした。「アフガニスタンに国際協力で多大な功績を残された方が不幸なかたちでお亡くなりなった」その程度の認識しか持ち合わせていませんでした。

    本当に大人物であったのだと本書を読んで認識を改めました。残された功績は言うに及ばず、異文化に対する深い理解、自然と人間の関係性に対する堅固な思想、困難を乗り越える忍耐力、自身の知識を常に更新する柔軟性、これらを持ち合わせて変化を生み出す為の行動を起こせる稀有な方だったのだと思います。

    一点最後まで分からなかったのは、何が中村さんをここまで突き動かしたのかです。哲学にも造詣が深い方のようなので、芯になる考え方が何かあったのでしょう。内村鑑三の著作など、本書で述べられた幾つかの本にヒントがあるかもしれない為、読んでみようと思います。

    改めてご冥福をお祈りすると共に、中村さんが持たれていた気概の一端でも自身が持てるように努めます。

  • まずは、中村哲さん、素晴らしい方です。
    最近、何かと話題になるアフガニスタン。当然中村哲さんの話も出、では一冊読んでみようとこちら手に取りました。
    ところどころに写真挿入があり、何もない砂漠が緑化していく様は目を見張るものがあります。また、アフガニスタンの風習や、人柄にも言及。用水路建設では現地での人間関係や根回し、関係機関や日本サイドのやり取り等、想像を超える苦労があったことが伺えます。
    用水路建設の詳しい説明は、こちらの知識がなく、難解な部分が多少ありました。
    単なるお金の援助や型だけのものより、現地の人と手を取り合い、共に成長していくことこそが本当の意味での人道支援のあり方だと。
    また、いかに日本の報道がアメリカよりなのか。ワールドトレードセンターが崩壊したとき、悲惨な状況に自分自身洗脳されていた気がします。でもアフガニスタンの多くの人は私達と同じ日常があり、普通の生活を送っています。その人たちのことも忘れてはなりません。各個人がしっかり情報収集をし、真実を自分で見極めて、判断することが大切です。
    これは教科書に採用されて、全国民に読んでほしい本の一つです。
     

  • とても信じられない報道を聴いて、先ほどから涙がとめどなく流れ嗚咽を堪え切れず泣きじゃくっています。

    わが敬愛する中村哲医師が身罷った。なぜ彼が殺されなければならなかったのか。

    35年間にわたってパキスタン・アフガニスタンで、民衆のためにそれこそ命を投げ捨てて尽くしてきた彼がなぜたった一発の弾丸で死ななければならないのか、こんな理不尽なことがあっていいものか。

    ・・・12月4日、アフガニスタン東部ナンガルハル州の州都ジャラーラーバードで車の移動中に何者かに銃撃され、胸などに複数の銃撃を受け、緊急手術を受けた。当初は意識があったが、術後に医療施設の整った首都郊外の病院に移そうとして救急車で飛行場に運ばれた際、容体が悪化したという。心臓に近い左胸に2発の銃弾が当たったのが致命傷となった負傷後に現地の病院に搬送された際には意識があったが、更なる治療のためにパルヴァーン州バグラームのアメリカ軍バグラム空軍基地に搬送される途中で死亡・・・

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著者プロフィール

1946年(昭和21年)福岡県生まれ。医師。PMS(平和医療団・日本)総院長/ペシャワール会現地代表。
九州大学医学部卒業。日本国内の病院勤務を経て、84年にパキスタンのペシャワールに赴任。以来、ハンセン病を中心とした貧困層の診療に携わる。87年よりアフガニスタン難民のための医療チームを結成し、山岳無医地区での診療を開始。91年よりアフガニスタン東部山岳地帯に三つの診療所を開設し、98年にはペシャワールにPMS基地病院を設立。2000年からは診療活動と同時に、大干ばつに見舞われたアフガニスタン国内の水源確保のために井戸掘削とカレーズ(地下水路)の復旧を行う。03年、「緑の大地計画」に着手、ナンガラハル州に全長27キロメートルに及ぶ灌漑用水路を建設。その後も砂嵐や洪水と闘いながら沙漠化した農地を復旧した。マグサイサイ賞「平和と国際理解部門」、福岡アジア文化賞大賞など受賞多数。19年10月にはアフガニスタン政府から名誉市民証を授与される。
2019年12月4日、アフガニスタンのジャララバードで凶弾に倒れる。
著書:『ペシャワールにて』『ダラエ・ヌールへの道』『医者 井戸を掘る』『医は国境を越えて』『医者、用水路を拓く』(以上、石風社)、『天、共に在り』『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』(以上、NHK出版)、『アフガン・緑の大地計画』(PMS&ペシャワール会)、『希望の一滴』(西日本新聞社)など。

「2023年 『中村哲 思索と行動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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