NHK「100分de名著」ブックス 夏目漱石 こころ

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140815953

作品紹介・あらすじ

自由と孤独の時代に生きる「人間の自意識」を描いた、漱石不朽の名作『こころ』。それは今からちょうど百年前に、現代人の肥大化する自我を見通した先駆的小説でもあった。「あなたは腹の底から真面目ですか」。功利的な生き方を否定し、あえて"真面目さ"の価値を説いたこの作品を通して、人との絆とは何かを考え、モデルなき時代をより良く生きるための「心」の在り方を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 放映されたものを鑑賞できなかったため、書籍にて『こころ』を読み解こうと手にとりました。
    高校の教科書に『こころ』の一部(ちょうどKが自死する場面の前後)が掲載されていたおかげで、二十年が経過した今でも、「先生」が冷たくなった「K」の頭を抱える場面は強烈に私の中に残っています。全編読むたびに新しい発見があり、今では私の読書歴の中でベスト5に入る愛読書です。
    本書では、あらゆる角度から『こころ』を掘り下げてくれています。著者の意見にうなずき共感しながら、ああだから私は『こころ』に惹かれたんだなと納得させられました。また、知らなかった漱石の一面を知ることもでき、大変興味深く読めました。『こころ』を好きな人なら耽読できる一冊です。
    NHKオンデマンドも観たくなってきました。

  • 作品にはいろんな解釈があっていい。
    この作品をKと先生の同性愛小説と見る人もいるくらいなのである。
    看取り人の存在は、確かに大切でKの話しは先生に、先生の話しは、私に繋がっていくのである。私の口から、Kと先生の話しが伝えられ、それは続いていく。

  • このシリーズをはじめて読みました。一度は読んでみたい、でもとっつきにくいしなぁなんて思う作品がたくさん紹介されていて、更にとても読みやすくて。これはシリーズ読破したいなと思いました。
    今回は、夏目漱石の『こころ』
    「私」が託されたもの。それは「先生」の人生だけでなく「先生」が看取ったKの物語も受け取っているのだ。命は尽きるものだけれど、彼らの物語は真面目な人(すべて託せる人)によって受け継がれていくんだということ。
    それらをこころに留めてこの作品を読めば、また違った風景が見えるんじゃないかと思いました。

  •  高校の授業で初めて出会った『こころ』。当たりの先生だったおかげで、今でも授業風景を鮮明に覚えているほど衝撃を受けた作品。その授業は、かの有名な「精神的に向上心のない者は馬鹿だ」の解説だった。
     「死をたくさん描くことで、生を浮き彫りにしている」「先生はわたしに出逢えたから死ぬことができた」などの記述にとても納得した。名著を読み解く様々なヒントが得られ、新たな深層に入り込めるので、100分de名著テキストは最高。『こころ』も読み返したいし、他のテキストも読みたい。

  • 以前、姜尚中の講演会で聞いた話と重複する部分があった。
    改めて夏目漱石の描いた「近代的自我」と「孤独」について考えさせられた。
    さらに「死」と「死にいくものが物語る」こと、「物語を受け取る者」といったことまで描かれているという指摘は興味深い。

  • 漱石が高等遊民のような一般的にはとても「先生」と呼びがたい人びとに「先生」の呼び名を与えたのは、漱石が生きた明治の時代がリーダー不在の時代で、理想なき若者が増えていくなかで、新しい手本として登場させたという論は面白かった。教師や政治家にではなく、自分が「この人だ」と見込んだ人がすなわち「先生」であるという、「名よりも、実を求める」漱石の気持ちの表れによるものだという説は頷ける。
    漱石作品とその時代をリンクさせた年表や、先生の年表などがあるのもありがたい。
    先生と呼ばれることの多かった漱石自身、教師としては大変熱心で、若い人を育て導く漱石の一面も再確認することができました。だからこそあれだけの弟子もいたのでしょう。上からではなく、自分の持っているものを分け与えるというスタンスの漱石は、当時の教壇では大変ユニークに学生に写ったのかもしれません。
    Kの自殺の原因が孤独というのは小説内にあることで、私がKに言ったこと、仕出かしたことがどれ程Kを傷つけたか、孤独を際立たせたか。Kには帰るべき家がなく、すがる友もいない。信じてきた道は恋によって奪われ、進退極まる・・・からの、死。煩悶死。
    孤独で寂しいから、ではなく、本当に行き詰まったんだろうな、というのは読んで伝わってきます。そのことに当時の若かりし「私」は気づかず、恋の裏切りによって親友を死なせたと誤解する・・・これもKの真実を理解しないという点で、Kを二回殺してますよね。
    恋に我を失った男同士の悲劇。
    Kと私のやりとりがエドガー・アラン・ポーの『ウィリアム・ウィルスン』に着想を得ているのでは、という説は面白かったです。Kが善良をにない、私が悪をになう。一心同体の彼らは、片割れが死ねば、その片割れも死んでいくしかないという設定は、是非とも読んでみたいし、確かに私とKにも当てはまるような気がします。
    お嬢さんに対しての言及も面白く、先生がなぜ妻には何も話さずに死んでいくのかも、自分達を狂わせた張本人には真実は教えてやらない、という理由は背筋が寒くなりました。私とKは同郷の幼馴染みで、私が部屋を分けて住まわせてやるくらいの仲です。その中に突如現れたお嬢さんという存在は、罪悪でもあり、神聖な存在でもあったでしょう。彼らの仲を永遠に引き裂くだけの魔力をもっていたのです。
    誰も幸せにならない小説だ、と著者は指摘していますが、まさにその通り。
    先生の余生は、「態度価値」であるという作者の指摘は、造詣深すぎて脱帽です。そんな言葉があるんですね。何となくわかるけど、それを明確な言葉と名前にしている学者が既にいました。漱石くらいを読みこなそうと思えば、様々な知識がいるんだなぁ。
    この主要三人のこころを想像すると、現代人の抱える思いや悩みは、ここに帰結すると思うのです。
    そんな小説を書いた漱石は、あの時代に生きながら、現代人より現代人らしかったのかもしれません。
    こんな小説を書いた漱石は、『生』の肯定者だとか。『硝子戸の中』は読まねばなりませんね。
    先生の遺書を託された「私」は看取り人であり、先生から信頼された唯一の人であり、死ぬ機会を与えたという人でもあります。Kと先生の生の歴史を受け取った私は、次は誰に引き継ぐのか。一見人が死んでばかりの小説ですが、その歴史を繋いでいくという視点で見れば、これは生の小説でもあるという著者の読みは、納得させられる部分が多く、まだまだもやもやは残るものの、一つの『こころ』の読みとしてはアリだなと思いました。

  • 近代という断絶に直面して、失われた過去の美しさに目を向けた鴎外に対し、近代的自我の孤独に真正面から向き合った漱石。そんな時代に「真面目」に生きることの重みとは。

  • 正直、感動はありませんでした

  • 夏目漱石の他の作品や評論文なども引用し「こころ」という小説が本格的に論じられていてしかもわかりやすく書かれた良書だと思う。自分の分身を殺すことにより自分自身を殺すエドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルスン」のように、Kは「先生」の分身であったとも読めること、「夜と霧」のフランクルがいう「態度価値」(自らの努力では逃れられない運命とも呼べるような事態に陥ったときに、その運命を受け止める態度によって実現される価値のこと)により「先生」はKの死後ぎりぎり生きていたという部分が印象に残った。

  • 漫画で「こころ」を読んだので、あらすじも掴めたしよりストーリーを深く掘り下げるために読んだ本です……が、失敗した! 当たり前ですが漫画では表現の仕方が違うので、やっぱり原作の方も読んでおけばよかった! 原作の「こころ」+本書の解説の組み合わせがベストです。
    「こころ」は複雑な三角関係の恋愛話だと思い込んでいたのですが、本書を読んで「こころ」が教養小説、純愛小説、友情小説、同性愛小説と様々な角度から読めることを知り、驚かされました。
    「先生」の「あなたは真面目ですか」「あなたは腹の底から真面目ですか」という問いに、深く考え込んでしまう。
    ああ、先に原作も読んでおけばもっと本書の解説が楽しめたんだろうになあ!

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著者プロフィール

1950年熊本県生まれ。東京大学名誉教授。専攻は政治学、政治思想史。主な著書に『マックス・ウェーバーと近代』『オリエンタリズムの彼方へ―近代文化批判』(以上岩波現代文庫)『ナショナリズム』(岩波書店)『東北アジア共同の家をめざして』(平凡社)『増補版 日朝関係の克服』『姜尚中の政治学入門』『漱石のことば』(以上集英社新書)『在日』(集英社文庫)『愛国の作法』(朝日新書)など。

「2017年 『Doing History』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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