パンデミック新時代 人類の進化とウイルスの謎に迫る

  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140815823

作品紹介・あらすじ

医学や科学技術が発展した今日でも、西ナイル熱、エボラ出血熱、豚インフルや鳥インフルといったパンデミックが発生するのはなぜか?人類は太古の昔からウイルスと共に生きてきた。問題は、世界がフラット化した現代では、変異した致死性のウイルスが瞬く間に世界中に拡散してしまうことだ。どうすればパンデミックの危機を防げるのか?若き科学者ネイサン・ウルフは、パンデミックの爆心地-ジャングルの奥地でウイルスが動物からヒトへと感染するその瞬間をとらえ、警告すべく、最新の科学と通信技術を使った地球規模の免疫系を作りあげようとしている。果たして人類は、このパンデミック新時代を生き延びることができるのだろうか?サルからヒトへの進化の過程で、ウイルスが果たしてきた歴史を紐解きながら、人類とウイルスの未来図を描く、パンデミック爆心地からの最新レポート。

感想・レビュー・書評

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  • 2012年に翻訳出版(原著は2011年)された本書は、現代社会がパンデミックのリスクの高い状況にあるという警告の書であった。ここで指摘されてきたことをないがしろにしてきた様々な利害関係者(ステークホルダー)の危機感のなさがコロナ禍を助長したと言えるだろう。2000年代に入ってからも、今回のCOVID-19(SARS Cov-2)のパンデミック以前にも、SARS(SARS Cov-1)やN1H1インフルエンザのパンデミックがあり、各国は対策に追われたはずだ。しかし、喉元すぎれば熱さ忘れるのとおり、根本的な問題、パンデミックを引き起こすモニタリングシステムの構築が蔑ろにされて、当面の解決で収束してきたことが、今回のような結果を生んだと言える。そして、今回もまた同様の結果となる可能性が高いのではないだろうか。

    本書では様々な事例が引かれてたいへん参考になる。最終章にリスク・リテラシーという言葉が挙げられているが、まさに、だれもがこのリスクに対するリテラシーを向上していかなければならないとおもう。また、世界的な感染症モニタリングシステムの構築など、対策として様々な提言が記されている。たとえば、携帯電話の普及を前提としたテキストメッセージをつかった危機報告システムの提言などだが、これは、SARSの経験を生かした台湾ぐらいだったようで、我が国のSARS以来の諸施策屋COVID−19に対する対策をみると、Cocoaはその典型であろうとおもうが、本書でふれられるようなことは考えられたとは思えないことがわかる。さらにいえば、我が国のみならず各国も濃淡はあるものの事前に対応してきたことは、おそらく不十分であったかと思われる。

    本書が優れているところは、専門的な用語を最小限にして誰にもわかるように描かれているということだろう。まさに、リスク・リテラシーの必要を踏まえて政策立案者・制作実行者のみならず、我々一般の人々にも理解が進むように描かれているといえよう。ロックダウン下のイギリスでは、ネットでブームに火が付いたことを理由に、2020年になって日本でも復刊され、多くの人が読んだことは、まさに、ホットなトピックであったことが知れる。しかし、「緊急復刊」されること自体、まさに、本書で述べられていることが実践されておらず、さらにはリスク・リテラシーの向上が見られなかったことの証左であると思われる。

    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000203.000018219.html

    本書では、ウィルスが生命であるかどうかの議論をおいて細菌やウィルス(遺伝子を持つが他の生物の細胞内で自己複製をする)、プリオン(タンパク質の一種で遺伝子をもたない)もふくみ、感染症を引き起こす存在全てが、取り上げる対象となる。人間はややもすると、自身が自律的に生きる生物であると思いがちだが、腸内菌叢を例に上げるまでもなく、一人では生きてはいけないこと(物質的にも、精神的にも)を忘れがちである。同様の意味で感染症の原因となる細菌やウィルスやプリオンもまた、他の生物との関係の中で存在していると位置づける。

    ウィルスは他の生物の細胞に侵入して初めて次世代を残すので、いかにして細胞内に入り込むかが、彼らの次世代の再生産にかかわる。そのために、細胞の受容体(レセプター)と適合する部位(スパイク)を持つことがキーポイントとなる。レセプターを鍵穴、スパイクを鍵と考えたらわかりゃすい。細胞の持つ免疫反応は、異物の侵入に対して同様の機序をもち、単純化して言えば、レセプターを作り変えることによって、異物の細胞への侵入をふせぐ、あるいは、異物を排除する特別な細胞(たとえば、キラーT細胞)があえて、異物とレセプターを通じて結合して排除する(分解する)といった一連反応が免疫反応といえるだろう。しかし、ウィルスは遺伝子の変異性を利用して、再侵入をこころみる。ウィルスが再生産されるとき、スパイクの形状が様々な形を持つ多様な変異をもつ次世代が誕生する。昨今、COVID-19の変異型の感染が新たな感染の波を引き起こしていることがまさにその典型といえる。

    次に本書で取り上げられるのは、人類の進化史の問題である。人類は霊長類の一員であるが、最も近い親類である霊長類はチンパンジーとボノボだが、彼らが熱帯の密林を生息域としているのに対して乾燥したサバンナに生息域を移したのが我々の祖先である。密林はいわば、感染症の巣窟(感染源が多様に存在するということ)であるのに対して、乾燥しているサバンナは感染源は相対的に少ない。乾燥した地域に出たことが、感染源に接触することを減少させ、免疫反応によって多様な感染源に対応する機会を減らせることになった。チンパンジーとボノボ、そして人類は他の動物を狩猟する雑食性のどうぶつである。他の動物の血液や体液と接触することになる狩猟は、他種の病原体からの感染のリスクも大きい。人類は、乾燥地帯に出たあと火を使うことを知った。加熱は食物に付着する微生物を殺すので、さらに、感染の機会を減らした。また、環境変化による人口のボトルネックをへて、人類は遺伝的多様性を減らした。

    そうした人類が、定住をはじめ、家畜を飼い始めた。ボノボやチンパンジーと分岐して依頼歩んできた道とは逆方向に向かい始める。定住による集住は感染蔓延の機会を増やす。家畜を飼うことによって動物からの感染症の機会を増やす。いわば、人類は、せっかくの感染の機会の現象をわざわざ増やす道へと戻っていったのだ。

    著者は、モニタリングのリソースとして、世界のハンターたちの感染状況をつかっているという。そのことを通じて、いち早く、新たな感染症の発生を完治し、対処法を見出すだけでなく、世界に警告を発するそうしたシステムを構築することが願いだという。

    しかし、世界各国の政府は、そうした立場に立たない。むしろ、場当たり的な対応をとってしまう。コストとリスクの帳尻を考えるからだろうか。また、政府の科学的なリテラシーも不足しているし、とうぜん、一般の人々のリスク・リテラシーも不足している。コロナ禍は起こるべくして起こったとしか言いようがないかもしれない。

    今からでも遅くはないとおもう。本書を読んでリスク・リテラシーをたかめ、政府の施策を変えさせなければならない。

  • ウイルスの大規模感染が巻き起こす「嵐」の予兆を感じ取る

    パンデミックとは感染症が世界的規模で大流行することを指す。
    インフルエンザやSARSがニュースを賑わすことも多い昨今、ウイルス大流行を防ぐにはどのような手立てがあるのか。
    ウイルスとヒトの関わりから、流行の予兆をいち早く検出する試みまでを解説する、エキサイティングな1冊。

    ウイルスは自らの増殖のために宿主の細胞系を利用する。
    ヒトの体にも動物の体にも多くのウイルスが存在する。こうした「常在性」のものは通常、いきなり宿主を死に至らしめたりしない。極端な流行を引き起こすのは、往々にして、別の生物種から病原体が入り込んだ場合である。
    感染症を考えるときに、「致死性」と「感染力」を考慮することが重要である。感染しても「致死性」がゼロで、症状もさほどひどくなければどうということはないし、一方、たとえ「致死性」が極端に高くても「感染力」がなければ、流行することはなく、(感染者は気の毒だが)集団への大きな脅威とは言えない。

    人間への感染因子としての病原体を考えるとき、5段階があるという。「動物のみの感染」「動物からヒトへの感染」「動物からヒトへ、およびヒト間の感染(限定的)」「動物からヒトへ、およびヒト間の感染(長期)」「ヒト間の感染」である。
    以前に比べて、現代では、人間の移動は飛躍的に増加した。1933年の航空路線が数えられる程度であるのに比較して、現代の幾重にも張り巡らされた路線はすさまじい。こうした環境では、ヒト間で感染する疾患がひとたび流行し始めると、止めることは困難になる。

    著者やその他の研究者たちは、ウイルス大感染を「予兆」のうちに見つけ出そうとさまざまな試みを行っている。
    アフリカ等の地域では、生きるために野生動物を狩って食べる人々も多い。そうした人々に依頼をし、動物の血液試料を集めている。
    またこちらはまだ着想段階のようだが、例えば携帯電話の位置情報を元に病院に運ばれる人が急激に増えているといったデータや、販売管理システムを元に薬局で解熱剤が急に売れ始めているといったデータを集め、感染症流行を予測するというのも1つのアイディアだ。
    人々の間で「リスク・リテラシー」(=感染症についての正しい科学的知識)を高めることも大切だろう。
    著者らの集団は手法よりも目的、すなわち感染症の動向と動きに関する情報をいち早く掴むことに重点を置いている。「世界ウイルス予測(GVF)」と名付けられたこの集団は心に留めておきたい。


    *著者の師は、『火の賜物』のリチャード・ランガム。著者は、ジャレド・ダイヤモンドとも研究者仲間として議論を交わしている。『銃・病原体・鉄』をおもしろく読んだ読者ならば、本書もおそらく楽しめると思う。

    *余談として挟み込まれている話題だが、行動に影響を与えるウイルスや宿主の生存に協力的なウイルスもなかなか興味深い。この辺りはもっと知りたいと思うならば別の本を探すべきだろうが。

    *話し上手な著者は、TEDカンファレンス
    http://ja.wikipedia.org/wiki/TED_%28%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B9%29でも講演し、好評だったようである。
    http://www.ted.com/talks/lang/ja/nathan_wolfe_what_s_left_to_explore.html
    (TEDカンファレンスは、NHK教育でも「スーパープレゼンテーション」
    http://www.nhk.or.jp/superpresentation/index.html
    という番組名で紹介されている。この著者のものは、番組HPには見あたらなかったが。)
    この講演では、どちらかといえばメタゲノムについて語っている。個々の種を解析するというよりも、遺伝情報をざっくりと俯瞰する形だ。解析していくと、既知の生物種には当てはまらない遺伝情報が何割か含まれるという。この未知のものを「生物学的暗黒物質(biological black matter)」と呼んでいる。さて、この中に未知の生物種が混じっているのかどうか、これはこれで興味深いところだ。

    *現在、中国で流行しているインフルエンザは「H7N9型」で従来、問題視されてきた「H5N1型」とは殻の表面についている分子(ヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N))が少々異なる。顔つきがちょっと違うという感じだろう。H7N9はこれまでヒトの感染事例は報告されていなかったが、今回の株は感染しやすく変異しているという研究結果も挙がってきているようだ。
    http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130403/t10013633821000.html

  • この本を読むと、見えないものが見えてくるというこの表現が比喩的でなくあてはまります。
    ちょっと専門的になりますが、微生物というくくりを説明すると「顕微鏡でしか見えないあらゆる有機体」と著者は書いています。この中にはウイルス、細菌、寄生虫、プリオンなどが含まれるのですが、この本ではその中で最も小さいウイルスを取り上げています。ウイルスは「地球上でもっともすばやく進化する有機体」であり、他の有機体に依存し進化を遂げているので、副題にあるようにウイルスを研究することは人類の進化を知ることにつながるわけです。
    著者のネイサン・ウルフはもともと中央アフリカで野生のチンパンジーを対象とした研究を計画していて、感染症の研究はその付随として始めたとのことですから、あの「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレット・ダイヤモンドも研究仲間として登場します。人類の共通祖先と考えられるチンパンジーが、狩りをする能力を持っていたことにより、獲物となったサルが持っていたウイルスが種を超えて移動した出来事などは、とても興味をそそられる内容でした。
    この本は、この先起こりうるパンデミック(感染症が世界的規模で流行することで、特定の地域や集団での流行はアウトブレイクという)の脅威は、想像しうる最悪の火山噴火やハリケーン、地震の脅威より大きいとして、それを予測、予防するための方策まで示しています。しかし、パンデミックの脅威を必要以上に煽るというような記述ではないため、著者の予防活動にも感心しましたが、微生物の知らざれる世界により惹かれました。人間の目に見えるか見えないかで判断される世界の何と狭いことか、またウイルスを有害なものとして見がちですが、多様性という物差しで見れば、ウイルスはどの生態系でも細菌がそこで支配的とならないような「独禁法の取締官」の役割を演じているということでしたので、これもあらたな知見でした。だいたい、人間の体を考えると細胞の数で言えば、約10パーセントが人間にすぎなくて、ほかの90パーセントは皮膚や腸内、口の中で繁殖する大量の細菌やウイルスで占められるという記述に多少なりともショックを受ける方が大半でしょう。微生物の世界は<新世界>であり、地球でまだ知られていない生命の最後のフロンティアという表現が印象強く残りました。

  • まったく便利な時代になったものだと思う。どこにいてもネットにはつながるし、様々なデバイスから目的のファイルにアクセスできる。重いPCを持ち歩かなくても作業は行うことはできるし、シェアも簡単。まさにクラウドさまさまである。

    しかし、人類に先駆けること何百年も前に、同じような環境を手にしている生命体がいた。それがウイルスである。彼らは人間同士が相互に接続された世界を、まるでクラウド・コンピューティングのように利用し、自分自身をビットのように複製してきたのだ。

    かつてパンデミックを引き起こしたスペイン風邪ウイルスや、HIV(ヒト免疫不全ウイルス=エイズウイルス)のような悪性のウイルスは世界中を席巻してきた。また、2009年に豚インフルエンザウイルスが人類を脅かしたことも、記憶に新しいことだろう。

    このような猛威に対し、人類だって手をこまねいて見ていたわけではない。突発的なウイルスを絶滅するべく、強力な医薬品を開発してきたのだ。だがウイルスもまた、さらに強力な進化を遂げて対抗する。その関係は、まるでイタチごっこなのである。しかし、約800万年に及ぶ人類の長い歴史の中で捉えると、このような関係になったのは、ごくごく最近のことであるという。

    著者のネイサン・ウルフは、行動力あふれる気鋭の生物学者。小さすぎて肉眼では見えないが、どこまでも広大なウイルスの世界に乗り込み、パンデミックの拡散防止に勢力を注いできた。ついた呼び名が、ウイルスハンター界のインディー・ジョーンズ。

    本書の前半部では大部分のページを割いて、長い進化の歴史における人類とウイルスとの関係、その変遷を生物学的に読み解いている。

    両者の運命的な出会いは、人類の祖先が狩りを始めた約800万年前に始まった。ひどく汚れ、血も流れる狩りという営みは、一つの種から別の種へと感染因子が移動するために必要な条件をすべて備えている。

    それは獲物となる動物との接触が増えただけではなく、獲物の持つ微生物との接触が増えることも意味していた。狩りは、人類の祖先にとって画期的な出来事であったのと同じくらい、微生物世界にとっても重要な出来事であったのだ。

    次にターニングポイントを迎えるのが、森からサバンナへ移り住むという出来事である。それは決まったテリトリーでの生活から遊動民の生活に移ることであり、そうした変化に伴い新しい状況に対応するということは、さぞやきつい体験であったことだろう。あまり知られていないが、人類の祖先にはその数を大きく減らした時期があり、絶滅寸前にまで追い込まれていたのだという。

    人口が減るということは、微生物にとって大きなビジネスチャンスである。数が減り、同質性を増した集団になることは、保持する微生物の多様性が減ることを意味するのだ。これは一見良いことのようにも思えるが、諸刃の剣である。人類が、病気と戦う防御戦術の一部を奪われたという側面もあるのだ。さらにそこへ、熱を使って食べ物を料理するという歴史的変化も起こる。これら二つの要素は結果的に、人間と接するウイルスを、よりエンパワーメントされた状態に仕立て上げることとなった。

    だが、最も決定的な役割を果たしたのが、1万年から5千年前にピークを迎えた飼育・栽培革命である。この革命が人類の祖先に与えた大きな影響は、大規模な定住型コミュニティを築けるようになり、かつては一過性のものだった微生物も長く存続できるようになったということだ。

    その後の人口の増加と、相互に接続された世界は、私たちをパンデミックの時代へと押しやることとなる。都市化、交通手段の発達に加え、移植や注射なども広く行われるようになり、病原微生物が拡散し、被害を与えるためのまったく新しい経路が開かれたのだ。

    このような一切合切が、ウイルス視点で考えると、クラウド環境が急速に整備されていくということにほかならない。人間による移動手段の革命は、微生物にとって接続性の革命でもあったのだ。これらのテクノロジーが作った結びつきは、人間の感染症の性質を永久に変えたし、それが広まる効率も決定的に変えたのである。

    そして現在争点となっているのは、これらのパンデミックをどのように阻止することが可能なのかということだ。本書の後半部では、この点に関しての詳細な解説がなされている。

    答えの一つに、デジタル疫学というものがある。たとえば、情報機関がどのようにテロ行為を予防するのかということを想像してみると分かりやすい。もっとも有効なツールは、見張り役となる小集団にフォーカスを絞込み、会話を傍受するということである。そのノウハウを疫学に活用するのである。

    住んでいる場所や活動が理由で、どうにも微生物に感染しやすい人々というのが存在するのだという。アフリカやアジアの一部で、今なお狩りと獲物の解体に従事する野生のハンターたちである。彼らを注意深く観察することで、ウイルスの異変をすばやく検知することができるのだ。

    検知の次は、感染経路をどう予測するかということになる。代表的なツールの一つに、GIS(地理情報システム)があげられる。テキストメッセージを利用した単純なシステムを築き、すべての重要な医療情報を位置情報とともに可視化・共有化することで、劇的な効果を産むことができるのだ。これらのツールを総合的に使えば、アウトブレイクを監視し、防止する方法を根本的に変えられるかもしれないというところまで来ているそうだ。

    将来的には、アウトブレイクの検知をクラウドソース化するのが、理想であるという。各感染者から送られてきた少量の情報を集めて、アウトブレイクの発生とその後の拡大をリアルタイムに描ける日も、そう遠くはないだろう。

    こうして見ると、ウイルスと人間とのせめぎ合いが単体同士に閉じた話ではなく、ネットワーク同士の問題となっている様子が伺える。そこに立ち向かうべく、著者が模索しているシステムは、まさに「地球規模の免疫系」を作るような試みとも言えるだろう。

    よくよく考えてみれば、これほど見事なソリューションも稀有ではないだろうか。監視や予防という観点に立つことにより、生命科学の問題に対し、社会科学的なアプローチで答えを出せるということなのだ。

    人間同士が結び付くことによって引き起こされたパンデミックを、更なるつながりを持って解決する。結果的に本書は、人間同士が相互に結びつくことの功と罪を、ウイルスを起点に描き出しているのだと思う。人類最古のパートナーは、やはり奥が深い。

  • Premium Selection vol.7

  • 感染力と致死性が高いウイルスは、人間にとって脅威だ。この微生物は、一体どのようなものなのか?なぜパンデミックを引き起こすのか?気鋭の生物学者が、ウイルスの謎に迫る書籍。

    ウイルスは、19世紀後半に発見された。ウイルスはラテン語で「毒」を意味し、既知の微生物の中で最小である。110年前に発見されたばかりなので、まだわからないことが多い。

    ウイルスは、あらゆる細胞生命に宿っており、海にも陸にもどこにでもいる。その数は膨大で、海水1mlあたり2億5000万のウイルスがいた、との研究報告がある。

    ウイルスは、既知の生物の中で最も頻繁に変異する。そして大量の子孫を作ることで、親よりも強い子どもが出てくるチャンスを増やす。それによって、新薬に勝つ可能性が高まり、種の異なる宿主に飛び移る能力も獲得しやすくなる。

    SARS(重症急性呼吸器症候群)は、2003年に香港を訪れた中国・広東省の男性(スーパースプレッダー)から拡散した。香港の人口密度は高く、野生動物を食べる習慣のある広東省からの交通の便も良い。
    このような、高い人口密度、野生動物などが持つ微生物との接触、効率的な交通網が重なる時、新しい病気が現れやすい。

    現在の畜産は、大規模な飼育場に多くの家畜を詰めこむ形で行われている。この「工場畜産」は経済効率がいい反面、微生物に大きな影響を与え、パンデミックのリスクを高める。

    これからはパンデミックの脅威がますます強くなる。これまで出会わなかった微生物同士が遭遇し、遺伝情報の組み換えが行われ、新しい病原微生物が生み出される可能性がある。
    新しい感染症の波を予測し管理する方法を学ばなければ、私たちは手ひどく打ちのめされるだろう。

  • 2021年9月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00504198

  • 日本人のお辞儀とマスクの習慣に感染を防ぐ一定の効果が期待できるとある。P.288

  • 肉を食べにくくなった。

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