大腸菌 〜進化のカギを握るミクロな生命体

  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140814031

作品紹介・あらすじ

ヒトが一生を通じて"おつきあい"する身近な存在でありながら、みんなに嫌われるばっちい細菌…。しかしその実態は、豊かな個性や生態をもち、進化のしくみをとくカギとなるユニークな生命体だった!数々の分野の研究者にノーベル賞をもたらし、古今東西の科学者たちを魅了しつづける大腸菌-エシェリキア・コリ。いままでの悪役イメージをくつがえす、科学と大腸菌の"愛"を描いたサイエンス書。

感想・レビュー・書評

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  • 大腸菌に沢山の種類があること、人間にとって有害、無害様々であることは知っていても、社会性があることは知らなかった。大腸菌の生き方?を知ると、生命とは何かを考えざるを得ない。人間という一つの動物個体も、大腸菌のバイオフィルムと同様に多数の細胞がそれぞれの生存戦略のために同種の細胞と協業している組織と思えてくる。ウィルスとの関係もそう。どこまでが自己でどこからが他者なのか?ミトコンドリアが他所の細胞だっていうのは知っていたけど。
    DNAの無方向的な突然変異が環境で淘汰されて、進化するという話の割に、進化で大きな変化を獲得する時間が短い(例えばキリンの首が伸びるとして、中間的な姿の化石は見つからないというような話)という話があるが、進化圧があると(環境からのストレスが強いと)進化速度が上がるという話に納得。

  • 写真も絵もほとんどない。

  • 大腸菌についての本というか、大腸菌という扱いやすい生物を利用して生物学やバイオテクノロジー、そして生命がどのように進歩してきたのかの本。
    とにかく弄られまくる大腸菌(E・コリ)によってDNAの働きが解明される
    創造論(インテリジェントデザイン論)の証拠にE・コリを提出したが、むしろE・コリは進化論を示すものであり、盛大な自爆になっていたのが笑った
    ミクロサイズなのに精緻な構造をしているのは事実だが、結局のところ長い長い時間をかけて進化してきただけなのだ。あるいはウイルスによって形を変えた場合もある。
    E・コリに当てはまることはゾウにも当てはまるとは作中の科学者の言葉だが、それは人間にも当てはまる。
    ウイルスによる性質獲得、自然淘汰による進化、プログラマブルなDNA・・・
    人間は特別な生物なのだろうか?

  • 大腸菌
    1990年代、ノーベル賞の受賞者はのきなみ分子生物学の分野であった。彼らの研究対象はおもに「エシュリキア・コリ(E.コリ)」、つまり大腸菌である。その大腸菌について、さまざまな角度から迫った解説書。

    ・O-157
     出血性大腸菌、として人を死に至らしめる病原菌としておそれられている。
     人の腸管に潜伏すると、腸壁に穴をあけて潜りこみ、出血を引き起こす。
     人にとってはかなりの脅威だが、じつは牛や羊の常在菌(約30%は持っている)。このおかげでガンや病気にかかりにくいとの報告もあるが実際の効果はまだ不明。
     感染例として報告されているのは、いずれも生焼けのパテなど。
     きちんと処理すれば問題ないが、とさつ時に直腸を傷つけたりすると、人に移るようになる。

    ・E.コリの「個性」
     早く大きくなる、ゆっくり大きくなる、乳糖を分解できる、できない・・・など彼らは集団ごとに様々な個性を見せる。
     彼らの変異の原因は、遺伝子のミスコピーが原因の「突然変異」(ダーウィン説)なのか、あるいは環境による圧力が「形質遺伝」として伝わる(ラマルク説)のか。
     1940年代のイタリア人学者、ルリアの実験でダーウィンの「突然変異」説に軍配が上がった(スロットマシンのジャックポット式)。
     同じような環境の圧力(耐性を持たないウィルスへの感染)をかけたコロニーをいくつか作る。
     そのなかでダーウィンが正しければ、「大当たり(ジャックポット)」が出るはずで、ラマルクが正しければ、みな同等に生き残るものが出てくるはず。
     結果は「大当たり(ジャックポット)」であった。これにより、細菌の変異もダーウィンが正しいとされた。
     しかし、一方でそれに当てはまらない振る舞いも散見された。「進化 (具体的に言うと抗生剤への耐性の獲得)」が早すぎるのだ。
     まるで遺伝子が個体の壁を越えて、あちこちに飛び回っているかのように・・・
     これらの伝播の方法は「水平遺伝子移動」と現在では呼ばれている。
     実際は、プラスミドやウィルスが個体から個体へ「気軽に飛び回」っているのだ。
     これらの事実は、ダーウィンの進化論とともにもうひとつの「進化の系統」があることを示唆する。
     人間のミトコンドリアがかつてまったく別の生き物で、いつの頃か等か人間の細胞に共生し、酸素呼吸からの高いエネルギーを供給するようになったことは有名だ。
     それと同じことが数限りなく起こっていたことになる。
     地球環境という広大な実験室の中で磨き上げられたハイエンドなシステムをもつ生物(ウィルス、細菌、その他・・・)が、我々の細胞に「感染」する。ふつう、それは一代限りのものだが、中にはそこから「出てかない」という変異を起こし、共生を選択したものもいる、という可能性だ。
     「種の壁を越える」というのは以外に頻繁に起こっていることのようである。
     実際に、98000を越えるウィルスと、150000のウィルスの変異体の名残をヒトゲノムにみつけてきた。この中には、胎盤のように人間になくてはならないものとして機能しているものもある。

  • E.コリを狂言回しに、分子生物学の発展、進化論、遺伝子操作、生命の起源をあざやかに鳥瞰していく。水平遺伝子移動が進化に果たす役割の大きさが興味深い。K-12やプラスミドといった最近(個人的に)馴染み深くなってしまった言葉も登場。E.コリがそんなに分子生物学の立役者的存在だったとも知りませんでした。

  • 旦那さんに「また大便の本か・・・」といわれたのですけれども、全然違います!そんなちんまい話ではありません!
    大腸菌を舞台にした、進化と分子生物学の本です。
    生物・遺伝子・医療・宇宙開発・・・あらゆる分野で、大腸菌は大活躍している。

    用不用説と自然淘汰説、決着をつけたのは大腸菌だった・・・とか、知らなかった。普通の生物は進化を観察するなんてことは無理だけれども、30分で一代増える大腸菌なら可能になる。
    「突然変異は偶然だけれど、自然淘汰は偶然ではない」偶然起こった形質は、環境によって受け継がれやすさが決まる。用不用説も、あながち間違ってはいなかった。それも大腸菌が教えてくれたこと。

    大腸菌は、小さな小さな体で、どれだけ人類に大きな貢献をしてきたことか。
    そしていまや、遺伝子を操作され、大して見返りもないのに自身の生存に不必要な蛋白質を作らされ、人間の為に働かされていることを思うと、彼らの偉大さはもっと知られてもいいのではないか、と思った。

  • 大腸菌の研究史はすなわち生命化学研究史。歴史が学べる上に、新しい知見にも言及している。良書。
    同じ遺伝子集団であるコロニー内でも反応の異なる大腸菌が存在する。それは、応答のゆらぎによるもので、それが生存戦略となっているというのが興味深かった。しかも、それが遺伝するように見えるというのは、エピジェネティクスというやつか。
    大腸菌が老化するというのも言われてみればなるほど。確かに端っこは古くなるわけである。
    長く研究されているとはいえ、まだまだ大腸菌には謎が残されている。大腸菌を扱うのも将来のためによいかも。

  • 1 生命の軌跡
    2 E.コリにあてはまることは、ゾウにもあてはまる
    3 細菌単体としてのシステム
    4 自然界での社会生活
    5 絶え間なく流れる生命の川
    6 存続を賭けての戦略
    7 進化のスピード
    8 オープンソースの遺伝子マーケット
    9 生命の起源にさかのぼる
    10 生命を人工設計する
    11 さて、地球外の生命は?

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著者プロフィール

アメリカを代表するサイエンスライター、『ニューヨーク・タイムズ』紙の科学コラムニスト。
著書はスティーヴン・ジェイ・グールド賞をはじめ、数々の賞を受賞している。新型コロナウイルスの世界的流行について報道する『ニューヨーク・タイムズ』紙のチームに加わり、その記事は2021年のピュリッツァー賞(公益部門)を受賞した。イェール大学分子生物物理学・生化学科の客員教授も務めている。彼の知るかぎり、条虫の種と小惑星の両方にその名がついたただひとりの著作家でもある。
『カラー図解 進化の教科書』(共著、講談社)、『進化 生命のたどる道』(岩波書店)、『ウイルス・プラネット』(飛鳥新社)など著書多数。

「2023年 『「生きている」とはどういうことか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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