アルカリ色のくも 宮沢賢治の青春短歌を読む

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140162804

作品紹介・あらすじ

歌人9人が短歌を鑑賞し賢治の心情に寄り添う。賢治短歌の成立についての論考も収載。

賢治短歌は、のちの文学的開花に至る若書きと考えられてきたが、大胆な分かち書き、独創的な表象をモチーフにした歌など、特異な個性に満ちている。そしてその魅力は評者の経験や文学的感受性により多様な詠みができることである。
15歳盛岡中学入学の折より詠み始め日記がわりにノートに書き留めたというが、詩情あふれる表現は中学生のレベルを超えている。卒業後、生家にもどるしかなかった賢治は、入院もし先行きのない不安になやまされる。この時期の歌風は内省的な心情が色濃く反映されている。一年の浪人の末、盛岡高等農林学校に入学した賢治は、文芸誌「アザレア」という発表の場を持つ。それまでの自閉的作品からは一線を画した後の児童文学、詩を想起させるような作品を生み出す。短歌はいうまでもなく一人称詩型を基本とするが、賢治短歌は現実の自分を超えた架空の自分を創出していく。さらに高校卒業後、肋膜を患いつつも土壌調査を続ける中で詠まれた連作群がある。31文字には収まり切れないと言わんばかりの緊迫感をもった連作である。短歌という文学手段から散文へと移行してゆく離陸期とも捉えられよう。
こうした賢治の思春期、青年期と、短歌の鑑賞を併せ読むことにより、賢治短歌にあらたな地平を広げる一書である。   鑑賞する歌人は、内山晶太、大西久美子、尾﨑朗子、梶原さい子、嵯峨直樹、堂園昌彦、土岐友浩、吉岡太朗。賢治短歌研究の第一人者である佐藤通雅氏の論考「賢治短歌の成立」も収載。

第1部
宮沢賢治の短歌鑑賞
1 盛岡中学校時代
2 懊悩の時代
3 盛岡高農林時代
4 卒業以後の時代
第2部
賢治短歌の成立 佐藤通雅

感想・レビュー・書評

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  • ひとびとは/鳥のかたちに/よそほひて/ひそかに/秋の丘を/のぼりぬ 
     宮沢賢治

     擬音語・擬態語を多用し、音楽性豊かな童話や詩を残した宮沢賢治。同郷の石川啄木の影響もあり、盛岡中学校(現盛岡第一高校)で寄宿舎生活を送っていたころから、短歌を作り始めたという。

     その数、900首余りと大量だが、これまでは本格的な創作前の習作と評価されることが多かった。けれども、歌人・評論家の佐藤通雅は、〈賢治短歌〉という新たな呼称を冠し、その再評価をうながしている。一般的な「短歌」という枠組みの中で読むのではなく、青年期の賢治の独特な感じ方、自然の把握の仕方に着目しようというのだ。

     なるほど、冒頭の6行書きの歌も独特だ。まず人間が鳥を装うという発想が非凡である。翼を持たない人間が、少しでも空に近付こうとあこがれを抱き、秋の丘にのぼる。「ひそかに」という表現に神聖さもありそうだ。

     この坂は霧のなかより
     おほいなる
     舌のごとくにあらはれにけり

     3行書きのこの歌は、坂の擬人化が特徴的である。霧の中から現れた坂が、得体の知れない巨大な人体の「舌」のようだとは、おもしろい。20歳ころに東京に行き、神田の坂を見て歌ったものだそうだが、宮崎駿監督のアニメーションのような幻想力だ。

     視覚・聴覚と連動した、独特な〈賢治短歌〉。賢治の青春を追体験してみたくなる。
    (2021年10月24日掲載)

  • 賢治ワールド、炸裂。

  •  宮沢賢治が800首もの短歌を残していたことに、まず驚きました。その短歌群に、一首、一首、短歌の実作者の方が解説と鑑賞をつけるという企画が実行された結果の本です。
     ノンビリ、ぼつぼつ読みながら、まあ、「暇だから読めるんだよな」とかつぶやいていました。短歌そのものが、賢治の若いころの作品で、なかなか、評価が難しそうですが、高校の国語の教員とかなさっている方にはいいかもしれませんが、「宮沢賢治が好き!」とかいう感じで読むと投げ出しそうですね。(笑)
     ブログにも内容を少し紹介しました。覗いてみてください。
      https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202105080000/
     

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著者プロフィール

一九四三年・岩手県生。東北大学教育学部卒業。個人編集誌「路上」を刊行し、現在に至る。歌集『昔話』(いりの舎、二〇一三)、評論『宮柊二 柊二初期及び『群鶏』論』(柊書房、二〇一二)他。

「2016年 『日本人はなぜ、五七五七七の歌を愛してきたのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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