自動人形の城(オートマトンの城): 人工知能の意図理解をめぐる物語
- 東京大学出版会 (2017年12月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784130633680
作品紹介・あらすじ
勉強ぎらいでわがままな11歳の王子.彼の浅はかな言動がきっかけで,邪悪な魔術師により城中の人間が人形に置き換えられてしまった.その絶望的な状況に王子はどう立ち向かうのか? そして,城の人たちは無事帰還することができるのか? 「人工知能」と「人間の言葉」をテーマとして,『白と黒のとびら』『精霊の箱』の著者が創作する新たな世界.
感想・レビュー・書評
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2019記。電子書籍版に投稿した内容の転載。
魔法使いの弟子が呪文を学ぶ、という形でコンピュータの概念を語るシリーズの続編的作品。
ある王国のわがままな王子。魔法使いの策略で、家臣団が「なんでも言うことを聞いてくれる」人形に置き換えられてしまう。ということで、「自然言語による命令を受け、それを実行する機械を実現しようとするならば、多かれ少なかれ、避けては通れない問題」(P268)に直面することになる。
「おなかがすいたんだけど」と言えばすべてしつらえてもらえていた勉強嫌いの王子が、「食べ物を作れ」という命令の伝わらなさにさんざん苦労する。過去にプログラミングで遊んだ人ならわかる「あるある」的失敗談が結構笑える。そして城の混乱を知った謀反の動き。衛兵たちに「敵」を定義して「守らせる」こと。こうしたプログラミング技術的な話から始まって、「勉強」とは何か、人はいかにお互いの知識や信頼関係を前提に言葉をはぶいているかなどを説明していく。
キッチンからテーブルにスープを運ばせるときに「この皿をテーブルへ」というだけでは、こぼさないようにそっと動かすことをしないのが機械。「あとでこのスープをおいしく食べるため」という目的・本質への理解なくしては、指示は狙い通りの効果を生まない。こうしたことから王子がいつしか、「共感」「感謝」、さらには「自己と他者」の関係を知っていくプロセスは感動的。
過去の著作に比べると断トツの読みやすさ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
近頃のAIの進化は凄まじく、特に今年(2023年)に入ってからはニュースやネットでchat某の話題を見ない日はないくらいだ。でも、その評価は「ピンからキリ」まで。私は使ったことがないし、その“本当の凄さ”も分からないけれど、この技術を生かすも殺すも使うひと次第なんだな、と言うことだけはわかる。それにしても相手(AIであれ生身の人間であれ)に自分の意図するところを間違いなく伝えるのはむずかしい!ルーディメント王子のように試行錯誤しながらも学んでいくしかないのかも。
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高校生のビブリオバトルにて紹介されていた本です。
AIについてのブックトークの本の候補として読みました。
主人公は、勉強嫌いでわがまま放題の王子ルーディメント。口うるさい教育係パウリーノや、自分の想いを察してくれない召使たちにイライラさせられどおしです。
ある日、またもや彼らの「指示」に腹を立てていた王子に「聖者ドニエル」と名乗る道化がでてきます。
彼は王子の望みをかなえる、と言い、城の召使を「王子の言うことを聞く人形」に変えてくれました。
ところが、人形となった召使は王子の発言を「言葉の通り」に受け取り、「人間としての常識」からは大きく逸脱した行動をとるようになります。
さらに、人形と猫(教育係パウリーノは「猫」に帰られていました)だけになった城に、王位継承をたくらむ王弟(ルーディメント王子の叔父)が現れ、王子は絶体絶命のピンチにさらされます。
「聖者ドニエル」が邪神「アトゥー」を崇める悪い魔法使いであったこともわかり、人形と取り換えられてしまった城の召使たちがドニエルの元に囚われていることも明らかに。
王子は城を守り、また召使たちを無事に元の世界に戻すことはできるのか……。
王子の成長を描くファンタジーとしても十分に楽しむことができますし、人形に変えられてしまった召使たちに仕事を教える姿はAIのプログラミングにも通ずるものがあります。
どちらの側面からも十分に楽しむことができる、よい作品でした。
王子が人形(AI)との会話に苦心する姿を通して、人間が言語以外で伝えているコミュニケーション情報がいかに多岐にわたっているかということや、人間の「心情」がどれほど複雑で尊いものかということ、そして「言葉」のもつ力の強さをひしひしと感じることができました。 -
物語目当てでもかなり面白かった。
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物語として書くことが腑に落ちたと後書きにあって、納得。
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人間と人形の間にある感情や常識、暗黙知…このあたりがAIが解釈不可能な壁だ。
CHAT-GPTと仲良くしていく必要のある我々だが、いまいち仲良くなれてないなぁって頭をひねる人はこれを読むとAIの立場? が少し分かるかもしれない。
対人間も対AIも相手側に立つことがコミュニケーションの第一歩なのかもしれない。 -
サブタイトルに「人工知能の意図理解をめぐる物語」とあるように、「人工知能にとっての意図理解」に対する理解が深まる物語になっています。
巻末にある「解説」に、「人工知能にとっての意図理解の仕方は、発達障害の人に似ている(かも)」といった感じの補足のようなものがあります。
自分には、発達障害をもつ人が身近にいまして、「人工知能にとっての意図理解の仕方は、発達障害の人に似ている」と常々思っています。
それゆえ、(川添愛さんの他の多くの本と同様に)本書も、発達障害の人とのコミュニケーションに役に立ちそう、と思いながら読み進めることになりました。
結末は若干強引な気がしますが、あくまでも「意図理解」が主題の本ですので、許容範囲ですかね?
個人的には、「ありよりのなし」と思っていますが(笑)。 -
「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」「言語学バーリ・トゥード」が面白かったので川添愛さん3冊目。
魔術によって、王子と教育係以外のすべての人間が自動人形に置き換わってしまった城。
人形たちは王子の命令に従うが、なかなか思ったようには動かない。言われていないことはやらない、曖昧な命令は間違って解釈する、指示代名詞がわからない、意図を理解しない。王子の成長とともに、言葉がわかるとはどういうことか、が少しずつつまびらかになっていく。
AIの自然言語処理がイメージできるよくできた寓話。命を狙われ敵に攻められハラハラの冒険譚。しかーし、ドジッコアレルギーの私は、当初より王子のウジウジに腹がたちすぎて、いまひとつ王子を応援できない。部下たち心が広すぎる。
物語としては前作のイタチのほうが好きかも。 -
課題で読んだ。面白い。