- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784130362689
作品紹介・あらすじ
日中の対立は不可避なのか.靖国問題,東シナ海の海洋権益の問題,中国製冷凍餃子中毒事件などの食の安全の問題,尖閣問題などをめぐって緊張が高まる日中関係について,米国知日派の研究者が日本側の動向を中心に冷静に分析し提言する.Sheila A. Smith, Intimate Rivals: Japanese Domestic Politics and a Rising China (Columbia UP, 2015)を全訳する.
感想・レビュー・書評
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刺激的な本です
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東2法経図・6F開架 319.1A/Sm5n//K
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日中関係というより、対中政策を通して見る日本政治・政策の分析だった。筆者自身「中国の台頭が日本政治に与える影響を分析した本書」と述べている。概ね2013年までの時期について、靖国、経済的な海洋権益、食の安全、中国の海洋進出(漁船・活動家・公船・軍を全て含む)という4つの事例を扱っている。尖閣諸島については2つ目と4つ目で重複・分裂しており、この点は少し読みにくい。また、日本専門家ではない読者も対象としているのだろう、経緯は丁寧に記述している。
筆者の結論をざっくり述べるとこうだ。今や日本の政策決定において中国の影響力が大きくなっている中、日本政府の対応は官僚中心の漸進的な政策調整(「adaptation」)にとどまっている。一方で政府や財界といった従来のプレーヤーのみならず運動家や利益集団、野党政治家も政府の対中政策に声を挙げるようになっており、政府の妥協・順応の余地は狭まっている。そして筆者は、日本政府は政策立案・実行能力の増強が必要だと抑制的ながら批判的に述べている。
日本国内でのナショナリズム・反中意識の高まりが日中関係に及ぼす影響は漠然と思っていたが、筆者はそれをある程度認めつつも、広範な社会運動や政策分野の垣根を越えた結集はなかったとしている。この指摘は新鮮だった。
また、原題の「rival」を「宿敵」と訳した意味を考えた。現在の日中は、ライバル・競争相手という語では軽いと感じる日本人も少なくないだろう。一方で「宿敵」は、絶対に妥協不可能な、不倶戴天の敵という語感もある。日本にとって中国はどちらなのだろう。
なお、食の安全で扱われる冷凍餃子事件を「中国の台頭への対応」の一つに入れるのには当初違和感を感じたが、それだけ中国産食品が日本の生活に行き渡るようになっている故だと考えれば納得がいく。一方、東日本大震災後の中国での日本産食品の輸入制限は、まさに中国の経済発展=台頭が背景にあると言っていいだろう。 -
原題:Intimate Rivals: Japanese Domestic Politics and a Rising China (2015)
著者:Sheila A. Smith
訳者:伏見岳人、佐藤悠子、玉置敦彦
【版元】
価格:4,800円+税
出版年月日:2018/03/23
9784130362689
A5 336ページ
日中の対立は不可避なのか.靖国問題,東シナ海の海洋権益の問題,中国製冷凍餃子中毒事件などの食の安全の問題,尖閣問題などをめぐって緊張が高まる日中関係について,米国知日派の研究者が日本側の動向を中心に冷静に分析し提言する.
http://www.utp.or.jp/smp/book/b345345.html
【目次】
日本の皆さんへ/序文/謝辞
第1章 日中激突
1 緊迫する日中関係
2 解決策の模索
第2章 対中外交と利益集団
1 日中関係の新たなダイナミクス
2 和解から互恵へ
3 変容する中国論
第3章 旧帝国軍人の戦後
1 争点――首相の靖国参拝をめぐって
2 利益集団と運動家
3 靖国をめぐる新たな政治力学
4 靖国神社の未来
第4章 東シナ海の境界画定
1 争点――海洋権益をめぐって
2 利益集団と運動家
3 新たな政策枠組みをめぐる交渉
第5章 食の安全
1 争点――冷凍餃子の輸入をめぐって
2 利益集団と運動家
3 法規制の調整
第6章 島嶼防衛
1 争点――中国の挑発と尖閣防衛をめぐって
2 利益集団と運動家
3 戦略的調整
結論
1 変化する中国論
2 漸進的な問題解決
3 変容する中国への適応
4 政策的含意
解説(久保文明)/訳者あとがき(伏見岳人)