市民を雇わない国家: 日本が公務員の少ない国へと至った道

著者 :
  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130301602

作品紹介・あらすじ

日本は公務員の多い国なのか少ない国なのか.国際比較において日本は公務員数の少ない小さな政府であることを明らかにし,政治と経済の絡み合いの中で行われた1960年代の行政改革に光を当てつつその理由を解明する.公務員制度改革にも貴重な示唆を提供.

感想・レビュー・書評

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  • 日本の公務員数が諸外国と比べて少ないことを明確にしたうえでその少ない要因を明らかにした本。イメージでついてしまっている誤解を、丁寧に読み解いていく一冊だった。

    福祉国家、行政改革という文脈と公務員数は直接関わりはなく、最も影響を及ぼしているのが公務員の給与を政府がコントロールできるか否かなのである。

    そもそも、安定した地位でそこそこの給料をもらっている公務員は、何かと目の敵にされやすい。そうした中で、「公務員数を削減するという行政改革」は、何となく納得されやすい政策だろう。しかし、そもそも公務員数は諸外国と比べて少なく、そうした改革は的外れな可能性がある。

    では何故少ないのか。ある意見では、「日本の公務員数が少ないのは、日本の行政が効率よく運営されているからである」という。しかしながら、それは公務員数が少ないという状態の説明にはならない。日本の公務員数が少ないのは、公務員数の増加が止まったことによる。

    では何故止まったのか。それは、日本の公務員の人事制度にある。日本の公務員の人事制度は、歴史的経緯から人事院が公務員の給与を民間と合わせて決める制度となっており、政府が直接官公労組とやりとりして決めている訳ではない。国際収支問題で、政府支出を抑える必要が生じた際に、公務員の定員を抑えたのである。他国では逆に、公務員の給与を抑えるルートもあった。

    何となく、日本の公務員の労働権利については、労働基本権が制限され、給与が人事院によって決められている、というのは試験勉強的に習ったが、それが当たり前の前提ではなく、そうした制度が公務員数の抑制につながっているのは、目から鱗だった。

    すごく安直な感想になってしまうが、単純に、人を減らせば良いものではないだろう。サービスを受けたいのであれば、それ相応の体制、それ相応の金を払うべきである。確かに「金」が関わると、金も数も減らせばいいという感情になりがちだが、そんなことはない。まず、本当に減らすべきなのか。どのような経緯でそうなっているのか、を冷静に考えるべきだと感じた。

    また、筆者がこの本で述べている、事実(fact)と出来事(event)と異なるの関係性も面白かった。事実は静止画のようなものであり、出来事は動画。事実は説明するのが難しい。日本の公務員数が少ないという事実に対し、日本の行政の効率がいいという事実で説明しようとする論に対して、日本の公務員数が少ないという事実に対して、日本の公務員数の増加が止まっていったという出来事で丁寧に説明していく論調が非常に腑に落ちた。出来事と事実の定義は難しいかもしれないが、非常に「それっぽい」論理が出てきた時に、一歩立ち止まって考察するための手掛かりになりそう。

    あと、そもそも思ったのが、日本の公務員と諸外国の公務員の業務の違いが気になった。日本の公務員というか行政は、確かに外部委託がかなり多い。公務員数が多い国と日本を比較して、どこまで民間委託して、どこまで公務員が業務の範疇として捉えているのか、その違いがこの本の論拠をさらに補強するものになるのではないだろうか。

  • なぜ日本では公務員が嫌われるのか、がよく分かった。
    一部を切り取って批判することの恐ろしさが分かった。

  • ☆労働人口に占める公務員の割合は世界でも極端に少ない。

  • 自分の考えを代弁してくれているように感じるからこそ、厳しい目で再読する必要があると感じた。

    結論の部分は推論に過ぎないため、今後の研究成果が待たれる。

  • ちょっと #nhkr1 の朝の情報番組 ( #マイあさラジオ )の中で、日本は?…実は悪い意味で中途半端な型(大型小型‥及び中型も問え無い!(芳(かんば)しく無い!意味では?…)不明‥乃至(ないし)は、新型の型だと国際的にも?…苦慮されてる!のですが、先月の熊本の震災とか沖縄の事件の対応の、バリエーションの拙(まず)さを考えると?…やはり、此(こ)の書籍の電子版化に拠(よ)る!、書籍の拡販化が必要そうですね?‥。

  • 【中央図書館リクエスト購入図書】☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/cgi-bin/opc/opaclinki.cgi?ncid=BB16705560

  • なぜ日本では公務員の数が少ないのか?
    緻密な政治学的分析にくわえ、経験分析からこの問題に極めて明快な論理を立てて答えを導き出している。

    おそらく、政治学のテキスト扱いになるレベルの作品。
    一度は読んでもらいたい作品。

  • 日本の肥大化した官僚機構を改革せよ!こう息巻く言論が世に溢れている。だが、日本の官僚機構は本当に膨大なのだろうか?実際には小さな政府の代表格とされるアメリカよりも日本の公務員数は少ないという。この反直感的事実に向き合い、その原因を考察している著書になります。
    日本の公務員数が他国よりも少ないのは何故なのか。本書では、経済発展の早い段階で行政改革に着手したことが最大の原因とされています。一度拡大した公共部門を縮小するには政治的な困難が伴います。しかし拡大を早期に抑制すれば、民間委託などの間接的な手段を駆使しながら公務員数を低水準に保つことが可能です。このメカニズムの妥当性が国際比較を通じて検証されています。
    論旨明快で論証の過程も読み取りやすい文章です。公務員を目指す方にとっても一読の価値ありではないでしょうか。
    (ラーニング・アドバイザー/国際 OYAMA)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1631198

  • なぜ日本の公務員数は他の先進国に比べて少ないのか、という問いについて、制度論に基づき、論じられている。結論としては、人事院勧告を中心とする給与制度によって人件費の膨張を防ぐための政策手段が公務員数の抑制に限定されることになった政府が、経済発展の早い段階で行政改革に着手し、公務員数の増加を抑制したためであるというものである。
    本書は、そもそも公務員数が他国より少ないという問題の前提が妥当かという検証から始まり、他国の事例との比較も行い、結論の妥当性を確認するなど、非常に緻密な論理で組み立てられている。
    第2章で述べられている、「事実」を「事実」で説明することには限界があり、その「事実」の背後にある「出来事」を探さなければならない(「である」ことを「になる」ことに変換する)という指摘は目から鱗であった。

  • 公務員の員数に偏った行革への疑義

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著者プロフィール

東京大学教授

「2023年 『権力を読み解く政治学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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