歴史と国家: 19世紀日本のナショナル・アイデンティティと学問

  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130201568

作品紹介・あらすじ

明治政府の歴史編纂事業は,歴代正史との接続による伝統の強調,国民意識の形成,西洋学問の導入という三つの目的がせめぎあう場となった.その舞台となった東京大学史料編纂所の歴史から語り起こし,国家との関わりにおける歴史学の役割を問う.

感想・レビュー・書評

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  • 明治時代の史学史について、すっきりとまとめ上げた大著。著者がドイツの方という事でドイツとの比較などがなされる。解説にある通り、この時代に近代歴史学がどのように日本に形作られていくか、見通すことができるのは貴重。

     国民国家を作り上げていく中で、歴史学はよく利用された側面を指摘されることがある。この本ではそのようないわゆる国民国家論を念頭に置きつつ、批判に対しては抑止的に丁寧に著述されている印象を受けた。
     日本の場合もやはり官主導で、国史の編纂がスタートしようとした。江戸時代の塙保己一や水戸藩の『大日本史』の流れで始まった官選修史の事業は、漢文で書かれていた。
    日本の知識階級の伝統には漢学が存在し、明治初期に国学と漢学の対立が存在した。これを止揚するべく、なんどか脱皮を試みる事業だが西南戦争や明治14年の政変を受けて縮小していく。最終的に重野「抹殺博士」批判や久米事件を通じて、政府は修史事業を手放し、帝国大学史料編纂所に引き継がれていくことになる。
     日本の史学はその後、研究と教育で「純正史学」と「応用史学」と分離し、相互に連関を持たないことが暗黙の了解となり、その間隙に平泉(東大教授だが)の皇国史観の登場を許した。

     といったところだろうか。201pの「客観性への逃避」という言葉が、日本近代史学のあるいみでは悲劇的な運命を象徴する言葉だと思えた。

  • 著者:マーガレット メール
     訳者代表:
    千葉功
    松沢裕作
     訳者:
    江下以知子(株式会社文化財保存計画協会 主任研究員補)
    加藤悠希(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)
    小林延人(秀明大学学校教師学部准教授)
    千葉 功(学習院大学文学部教授)
    鄭ニョン(〔韓国〕西江大学国際人文学部非常勤講師)
    中野弘喜(東京大学出版会)
    松沢裕作(慶應義塾大学経済学部准教授)
    三ツ松誠(佐賀大学地域学歴史文化研究センター講師)

    【書誌情報】
    ISBN:978-4-13-020156-8
    発売日:2017年11月20日
    判型:A5ページ数:296頁
    価格:税込6,264円(本体5,800円)
    在庫僅少

    明治政府の歴史編纂事業は,歴代正史との接続による伝統の強調,国民意識の形成,西洋学問の導入という三つの目的がせめぎあう場となった.その舞台となった東京大学史料編纂所の歴史から語り起こし,国家との関わりにおける歴史学の役割を問う.

    ※本書は,著者の博士論文 Eine Vergangenheit fur die japanische Nation. Die Entstehung des historischen Forschungsinstituts Tokyo daigaku Shiryo hensanjo (1869-1895) (Frankfurt am Main etc.: Peter Lang, 1992)に加筆修正し英訳した,History and the State in Nineteenth-Century Japan. Basinstoke and London: Macmillan, 1998)を翻訳し,その後の研究状況を増補したもの.
    http://www.utp.or.jp/book/b313429.html


    【目次】
    日本語版への序文
    序文

    第一章 序論

    第二章 政府事業としての修史
       第一節 明治維新と政府による修史事業再興
       第二節 中央集権化と歴史課
       第三節 大阪会議と修史局
       第四節 一八八一年の政治的危機と修史館の再編
       第五節 明治憲法への道――政府の部局から帝国大学の機関へ

    第三章 修史部局の活動
       第一節 一八八一年までの組織と職員
       第二節 一八八一年以降の組織と職員
       第三節 「応用史学」
       第四節 修史部局とそのライバル

    第四章 官撰修史の体裁
       第一節 明治維新を記録すること
       第二節 史料の収集と歴史の記述
       第三節 官撰修史の文体
       第四節 西洋の方法論を学習すること(一)――ゼルフィ
       第五節 「大日本編年史」

    第五章 学問としての歴史学
       第一節 学問的伝統
       第二節 帝国大学における歴史学
       第三節 西洋の方法論を学習すること(二)――リース
       第四節 歴史学の「アカデミズム」学派

    第六章 対立する歴史学とイデオロギー
       第一節 歴史と公衆
       第二節 国学対漢学
       第三節 「抹殺博士」
       第四節 「久米事件」
       第五節 官撰修史の終わり
       第六節 学問対教育――一九一一年の教科書論争

    第七章 結論
       第一節 遺産――一八九五年以降の史料編纂掛
       第二節 ドイツと日本における歴史学と国民

    解説(松沢裕作)
    あとがき(千葉 功)

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