責任という虚構

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130101080

作品紹介・あらすじ

責任という現象の構造・意味は何か。責任の根拠を問う。

感想・レビュー・書評

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  • ナチスドイツのホロ・コーストから「責任」について論じている。難解な内容だったために全てを理解することは難しく,しかし印象的な箇所がいくつかありそれに面白さを感じたので星5とした。
    以下
    ・外界から影響を受けずに自律する自己など存在しない。互いに拮抗する多様な情報に包まれて自己の均衡は保たれている。
    ・官僚体制は分業によって成り立っており,ナチスドイツの虐殺も分業にすることで各プロセスを担う者の心理的負担を軽減させた。これは日本の死刑制度にも同じ構造が見られる。
    ・ユダヤ人の虐殺に携わった人間は特別残虐さを持っていたわけではなく,一般的で凡庸な人間であった。

  • 責任という虚構があることによって社会に出来た傷を回復することが出来る。人間に出来る傷を癒す役割を虚構が担っているのかもしれない。

  • 素晴らしい本である。
    難解な内容を素晴らしい文章で分かりやすく説明している。

    責任とは何か。
    ホロコーストから死刑制度、冤罪、ホッブズやルソーの考察など、歴史学・政治学・哲学・社会学・心理学と横断的な分野からアプローチしつつ、かつ主題を散逸させずに纏められている。
    ホロコーストはどのようにして普通の人々により遂行されたのか、死刑制度に抑止力がないと証明されているにも関わらず廃止されないのは何故なのか、銃を撃って死んだ場合と偶然死に至らなかった場合で罰に軽重の差が出るのは何故なのか。
    人や企業や責任を負うことはできるのか。そもそも責任とは何か。

    最後の章では、伝統社会の階層制度もある意味では社会秩序維持の仕組みとして機能していることが書かれている。
    平等とは何か。貧困削減とは何か。No one left behindとは何か。

    読むほどに知的好奇心が刺激され、考えの糧を得ることができる。読むのに時間はかかるが、満たされる。

  • 私には難しかったです。

  • ホロコーストの分析、ミルグラムの実験、近年の脳神経生理学を基に自由意志に基づく行為の存在を否定し、それと同時に意思に基づく責任という一般的な主張を著者は斥ける。一方、対立意見として主張される決定論に基づく自由の否定とも距離をとる。
    これらの2つの責任論とは別の第3の責任論とその考えに基づく自由について論じているこの著作は我々の認識を一変する力を持っている。
    1〜3章では既存の責任論が矛盾を孕んでいることを示すための具体例としてホロコースト、死刑制度、冤罪の大きく3つのテーマに焦点を当てる。4章ではそれらをベースに既存の責任論を否定し、自由とは何か、刑罰はなぜ正当化されうるのかについての意見を述べる。5章では本書の核とも言える責任とは何かについて論じ、続く6章では責任に止まらない虚構の遍在性について述べる。

    最後の結論に代えてにおいて筆者も述べているようにこの本は責任とは?に対する答えを示すものではなく、責任は人間や社会の中でどのように機能しているのかについて見ていく内容となっている。

  • 基本的に自由意志を認めない立場の筆者が論じる社会とは何か。歴史とは何か。とてもスリリングな展開で小気味よい。特に結びの6章、社会秩序と<外部>が最も興味深い。
    「倫理判断は合理的行為でなく、一種の信仰だ。それゆえに道徳・社会規範は強大な力を行使する。」
    社会規範と宗教の類似性、そして集団とは何か、個とは何かを巡る骨太の格闘がここにある。

  •  大変な力作である。
     事件や事故が発生すると、われわれは特定の個人に責任を押し付けようとする。しかし「責任」とは何だろうか。
     責任を正当化するためには、行為者の自由が保証されていなければならない。その「自由」がいかに不確かな概念であるかを、さまざまな心理実験を参照しながら小坂井はまず論証する。しかしそのことは必ずしも決定論を導かない。「自由とは因果律に縛られない状態ではなく、自分の望む通りに行動できるという『感覚』である」と小坂井は言う。
     では犯罪とは何か。「犯罪とは行為の内在的性質によって規定されるのではない。社会規範に違反することが犯罪の定義だ」と小坂井は答える。絶対的な善悪に従ってルールが定められるのではなく、定められたルールに違反することがすなわち悪なのだという論理は、永井均の道徳哲学とも親和性が高い。
     ルールは虚構である。しかしルールが虚構であることと、その虚構によって社会が成立することとのあいだに矛盾はない。貨幣というフィクションによって市場経済が成立しているのと同じように。小坂井はそう解説する。
     罪よりも先に罰がある。然り、罰したいという欲望がある。しかしそれこそが原罪であるという考え方は成り立たないだろうか。殺人が罪であることは、ルールの制定以前の必然ではないだろうか。言語と相即的に発生し成立する「同情」に、ルールの根拠を求めることはできないだろうか――等々、数々のインスピレーションがわき起こり、ページをめくる手が止まることもしばしばであった。
     著者はフランスに在住し、フランス語での著作も多数あるという。確かに緻密さと息の長さは日本人離れしているが、美しい日本語は論旨も叙述も実にクリアである。ゾレンを含まない客観的な叙述は類書にありがちな啓蒙主義とは無縁であり、圧倒的な論域の広さも含め文句なしの名著である。

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  • 前半は「実際に人間はどう行動するか」として、ホロコーストや現在の死刑制度、冤罪が生まれる構造、それらの共通点の解説。後半は責任という社会現象について、自由意志論や責任の概念構造から云々。後半部分は十分理解できたといえないので、またいつか読み直したい。なので今回は引用して終わり。
    「本書は規範的考察ではない……実際に人間はどう行動するのか、責任と呼ばれる社会現象は何を意味するのか、これが本書の課題である(p.ⅲ、はじめに)」
    「死刑制度を可能にする無責任体制に目を向けたのは、死刑制度日批判したり、廃止を呼びかけるためではない。ホロコーストや戦争犯罪のような悪だけでなく、我々が必要と認める制度も実は同じメカニズムに支えられている。善と悪の境界は想像以上に曖昧だ。地獄への道は善意で敷き詰められている。この警句の意味を我々はもう一度よく考えるべきだろう。(p.256、結論に代えて)」

  • 常識変わった。目から鱗。でも「責任」について考えたことなかったらここまで驚かなかったのかな?どうなんだろう。「責任」に関するあらかじめあった説を知ってたから固定観念があって、逆に新鮮なんだろうか。
    ホロコーストや社会心理学実験、死刑執行人の話など多岐にわたる分野の知見がたくさん紹介されているところが読み物としてもとても面白い。

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著者プロフィール

小坂井敏晶(こざかい・としあき):1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部准教授。著者に『増補 民族という虚構』『増補 責任という虚構』(ちくま学芸文庫)、『人が人を裁くということ』(岩波新書)、『社会心理学講義』(筑摩選書)、『答えのない世界を生きる』(祥伝社)、『神の亡霊』(東京大学出版会)など。

「2021年 『格差という虚構』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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