新版-犬が星見た-ロシア旅行 (中公文庫 た 15-9)

著者 :
  • 中央公論新社
4.17
  • (19)
  • (20)
  • (7)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 407
感想 : 24
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122066519

作品紹介・あらすじ

生涯最後の旅と予感している夫・武田泰淳とその友人、竹内好とのロシア旅行。星に驚く犬のような心と天真爛漫な目を以て、旅中の出来事、風物、そして二人の文学者の旅の肖像を、克明に、伸びやかに綴った紀行。読売文学賞受賞作。解説・阿部公彦

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 初めは、淡々と事実を羅列していく描写に抵抗があったけど、だんだん癖になって来た。日々少しずつ読み進めるのに丁度良かった。
    面白くないものを面白くないと書く辺りが素直で良い。変に飾らず、良く見せようとせず。なのに登場人物がみんな味わい深くて、魅力的に見えてくる。言語化が難しいけど、なんかすごい本な気がする。

  • 不思議に魅力的な本。ドライで、別に目眩く面白さがあるわけでもない気がするのにページを繰ってしまうし、いつの間にか武田百合子という人に魅入られている。この人は文章に考えを差し挟まない。なのに、ロシアや中央アジアの地から、心で何かを受け取っているのが読んでいてわかるのだ。その心のありようが、天衣無縫で憧れる。
    あるとき私は、これを読みながら無意識に夜のような気分になり、目を上げたら朝の読書だったことを思い出してびっくりしたことがある。10代以来、小説でもこんなふうに静かに入り込んでしまった本があっただろうか。淡々と書かれているからこそ、想像力が泳げるだけの行間があるのだと思う。

  • 読み終わってしまった。もう何往復もしてほしい。
    しかしよく酒を飲む人たちだ。うらやましい。

  • 旧ソ連から北欧へと至る旅行記。
    日記の形式で綴られる。
    かなりドライでウィットに富んだ内容。
    50年前のソ連はこうだったのかと思わされる。ソ連からスウェーデンに行き、不便な生活から便利な社会に変わったはずなのに。
    筆者はソ連の方がたのしんでいたように思う。
    なかなか破茶滅茶な珍道中。

  • 紀伊國屋書店笹塚店の岸本佐知子さん選書フェアで購入。
    すごく面白かった。ただの旅日記ではない。見たものはさらりと、かつ克明に記されている。そして際立っているのが、ただぼんやりとしていては見逃してしまい、文字にならないようななんでもない光景を捉えている部分。道端の花、匂い、人々のなにげない仕草など。特に良かったのが人の会話。日記に、こんなに周囲の人間の発言を書くものだろうか。個人的には銭高老人のインパクトが強くて好き。一見わがままで傲慢な人なのかと思いきや、周囲への気遣いや物を見て感動する純粋な感性が、著者の文章からうかがえる。
    全体を読んで武田夫妻のやりとりが気になった(「やい、ポチ」と妻を呼ぶところとか)ので、『富士日記』も読んでみたくなった。
    それにしても、「面白いか」と訊かれて「まだわからない。これから面白くなると思う。」と答える著者は凄い。

  • 高山なおみさんの『ウズベキスタン日記』に頻出してたので気になって購入。ウズベキスタン旅行に持っていったのだが、なんだかんだで殆ど読めなかった。でも今読んで良かった。とても鮮明に想像できるし、現在との違いも分かるから。
    書かれたのは約四十年前、産まれる前である。

    名文だ名文だと耳にしていたので、いつ素晴らしい情感豊かな文学的表現が現れるかと思いきや、無い。そんなものは無い。いや少しはある。天山山脈を上から見たときの地球のシワと書かれた部分とか。だけどこの日記文学の名作たる所以は、あった事見たことそのまんまが活写されてる点。嘘や衒いが無い点。文を書くうえで実はとっても難しい事を全編通して成し遂げている。

    「ウルグベクさんは優れた天文学者だったが、ほかの人はバカだったので」には吹き出した。ガイドさんの説明はおおよそこうだった。「1年の長さの計算を現代の技術の2秒差という正確さではじき出したにもかかわらず、亡くなった後は後継者問題で揉めてみんな忙しくて観測を誰も継げなかった」…をいをい…だけどこの地は為政者が民族ごと代わるのだ。壊しては積み上げ壊しては積み上げ。天才は天才だけでは成り立たず。

    銭高老人の憎めなさ。口癖の「わし知っとった」が聞こえてきそう。でも遺跡を余裕を持たせて曲げて建たせてたって本当かなぁ。多分仕上げが雑なんだと思うんだけどなぁ。ことごとく曲がってたのよね。
    旦那さんは無類の海老好きのようですが、腐った海老を食べても当たらなくて本当に良かったこと。皆忠告聞かなすぎて、自由人すぎてガイドさんたちは大変でしたろう。「あなたはしんからブスね」はちょっとスッとしたけどイヒヒ。お茶目だなぁ。

    長い長い旅に一緒についていったような気持ちになる自然体な旅行記。今頃また皆で合流して旅行してるのかもしれないですね。楽しかった。スパシーバ、百合子さん。

  • なぜ今まで武田百合子を読まなかったのだろう、
    人やモノや季節などなどの観察眼、描写力、感性、素晴らしい!
    銭高老人の口癖の描写は読みながら笑わずにはいられない。
    あっと言う間に読了。すぐ本屋へ富士日記を買いに走りました。

  • 百合子さんも泰淳もみんな楽しそうでよかったなあ

  • 武田百合子さんは、「富士物語」と本書においては、ただただ天賦の才能としか思えない天才的な文章を買いています。

    本書も随所に「信じられない…どうしたらこんなことが書けるんだ…」と感嘆するような表現があるのですが、ひとつ際立った箇所をあげるとすれば、著者のあとがき。とにかく彼女のあとがきを読んでください。何度読んでも、いつ読んでも、鳥肌が立つ。

  • 「富士日記」の番外編。武田夫婦と竹内好の三人のソ連、北欧の珍道中。独自の淡々とした描写がこちらでも魅力。

    出版されることを想定していなかった記録だからこその魅力。子供の絵と同様、変な邪念がないのが良い。

全24件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

武田百合子
一九二五(大正一四)年、神奈川県横浜市生まれ。旧制高女卒業。五一年、作家の武田泰淳と結婚。取材旅行の運転や口述筆記など、夫の仕事を助けた。七七年、夫の没後に発表した『富士日記』により、田村俊子賞を、七九年、『犬が星見た――ロシア旅行』で、読売文学賞を受賞。他の作品に、『ことばの食卓』『遊覧日記』『日日雑記』『あの頃――単行本未収録エッセイ集』がある。九三(平成五)年死去。

「2023年 『日日雑記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

武田百合子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジュンパ ラヒリ
テッド・チャン
ミヒャエル・エン...
アンデシュ・ハン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×