春を恨んだりはしない - 震災をめぐって考えたこと (中公文庫 い 3-10)
- 中央公論新社 (2016年1月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122062160
作品紹介・あらすじ
薄れさせてはいけない。あの時に感じたことが本物である-罹災者の肉声、災害と国民性、ボランティアの基本原理、エネルギーの未来図…。被災地を歩き、多面的に震災をとらえて大きな反響を呼んだ唯一無二のリポート。鷲尾和彦による写真十六点を収録。その後の東北をめぐるエッセイを新たに付す。
感想・レビュー・書評
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本書は、池澤夏樹さんが東日本大震災に寄せたエッセイ、コラムを再構成したものです。
表題は、ポーランドの作家ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩集からの引用とのこと。
本書では、被災者や困難と闘った人に光を当てたり、ジャーナリズム向けに書いたりするのではなく、単に震災の全体像を描こうとしたようです。
動揺、哀しみ、怒り、希望などが綴られ、思考を重ね練り上げた良質な言葉が並びます。池澤さんの様々な想いが行間から立ち上がるようです。
印象的だったのが、池澤さんの日本人観と震災後の日本の歩みの記述でした。先日読んだ、外国人ジャーナリストのルポの視点と同様だったためです。
良くも悪くも「諦めのよさ、無関心等の姿勢」の指摘、そして、被災地の復興の具体の希薄さ、日本の電力事業の再編の遅さ・逆行など、改めて自分自身への戒めを含めて、考えさせられました。
被災直後の中学校の卒業生答辞に「天を恨まず」という言葉がありました。「天が与えた試練というにはむご過ぎる」けれども、「運命に耐え、助け合って生きていくことが私たちの使命」だと。
単なる美辞麗句との捉え方もあるでしょうが、本書のタイトルに通じ、個人的に絶賛肯定します。
喪失を受け入れ、傷を癒すための時間(言い換えれば記憶の忘却)は必要で、しかしこれは記憶の風化との戦いでもありますね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東日本大震災直後から半年くらいにかけて書かれた本。あの当時、日本はジワジワとながらも変わっていくのだろうと思っていた。みんなが「誰もが幸せになれば良いのに」と考えていたはずだ。いつしかその思いも薄れて、復興五輪の名が躍る。原発についても同じだ。あの時、あんなに大騒ぎをし、怖いと思ったはずの原発は今、また再稼働しようとしている。本当にこれで良いのだろうか。
あの頃を思い出す必要はないか。封印してはいないか。よく考えて政治を見ていかなくてはならない。 -
いま読めば、なんだか懐かしいような、高揚感とともにある震災直後の語り。そして、苦いあとがき。
いま書かれたら、あとがきはさらに苦いはずだ。 -
今年の三月は東日本大震災関連の本を読んでいこうと決めて、いとうせいこうの『想像ラジオ』、荻上チキの『検証 東日本大震災の流言・デマ』に続いて3作目。
タイトルの通り作家の池澤夏樹が震災をめぐって考えたことをつづったエッセイ。タイトルに偽りない。
こうした作家やジャーナリストが記録や作品を残すことで記録や記憶を残すことは大切なことだと思う。でもなんだろう、この作品は時々被災者の方にインタビューしているもののほとんどが作者の脳内のことを綴ってあって、あまり被災者の生活ぶりなどは伝わってこない。自分が勝手に期待していたものと方向が違っていた。
自然や文明に対する考えや宮沢賢治とボランティアのところなど納得したところもある。 -
この本の文庫版後書きからは五年、震災からは十年。新コロナ禍の只中、国はさらに酷薄になって。
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日本人の天災、災害との向き合い方。
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東日本大震災を解剖するように語った本。
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あの日から忘れられない記憶…
東日本大震災の被災地を巡り、被災者に触れ、著者が想うこと、考えたことを綴った作品。鷲尾和彦による写真も収録。震災から半年後に出発された単行本の文庫化。文庫化にあたり、『東北再訪』を収録。
あの日からの記憶が蘇り、あらためて、あの日のことについて考えるきっかけになった。 -
被災地の肉声、生き残った者の責務、自然の脅威、国土、政治、エネルギーの未来図…。旅する作家が持てる力の全てを注ぎ込み、震災の現実を多面的にとらえたリポート。その後の東北をめぐるエッセイを加えて文庫化。〔2011年刊に「東北再訪」を新たに収録〕【「TRC MARC」の商品解説】
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https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40272464 -
【収録作品】春を恨んだりはしない/東北再訪