岸信介証言録 (中公文庫 は 69-1)

制作 : 原 彬久 
  • 中央公論新社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122060418

作品紹介・あらすじ

戦後日本最大の政治ドラマ、安保改定。首相として交渉の先頭に立った岸は、何を考え、どう決断したのか。改定準備から内閣退陣までを岸の肉声で再現する本書は、側近、政敵らの証言をも収録し、戦後政治の一つのクライマックスを重厚で濃密な政治過程として描き出す。オーラル・ヒストリーの先駆的な業績としても知られる、第一級の文献である。

感想・レビュー・書評

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  • 岸信介と著者の対談集。
    同じ著者の「岸信介: 権勢の政治家 (岩波新書)」とセットで読む。(こちらが後)
    この読み方は理解を深める上では良かったと思う。

    当然のことながら、満州での資金調達等、”裏の部分”は登場しないし、本人が語りでの歴史の事実認定をどこまでできるのか?という思いはあるが、第一線を退いた時期のインタビューなので、本音の部分が出ていて、それらを知る、理解する価値はあると思う。

    岸信介は、思想等、重層的で理解が難しい側面もある一方、コアになる信念は戦前、戦後変わっていないことに一種の驚きを感じる。

    また、知識人でもあり、頭脳明晰であることは間違いなく、懐は深い。
    特に巣鴨の3年間の読書量は彼の後世にベースのところで影響を与えていることが良く分かる。
    政治家の好き嫌いが赤裸々に語られているのだが、このベースがあるので、国を先導する首相の器、その価値観は確りと思っているのだろう。(批判的だった吉田の愛弟子の池田を後継に考えていたところを含め)
    この点で田中角栄を批判的に評価しているところは面白い。

    本著で面白いと思った事項は以下の通り。
    (含む新たな発見)

    ・二大政党制を志向し、当初、その観点で社会党に入党を試みたこと。
    「思想的に交わるような政党が二つできると、議会制民主政治を行っていく上では僕は非常に望ましい姿だと思っているんです」
    「二つの政党間に大きな距離があって相交わっていない場合には、一方が勝って一方が負ければ、社会革命ということになりますよ」
    もともと、戦前も国家社会主義を唱えていた訳で、北一輝の影響もそうだが、岸は新自由主義者ではないと認識した。

    ・「天皇制との間合いを計りつつ二大政党による政権交代システムを目指して「保守合同」に奔走していったのは、実は民主主義と「国家主義」との折り合いを岸氏が戦後いち早く模索しようとしたからにほかならない。しかもその「国家主義」は、「独立の完成」を掲げて戦後日本の「被占領的体制」からの脱却を追求するという形で表現されていくのである」(筆者)

    ・山口(長州、吉田松陰等)からの影響。

    ・自らを「国粋主義者」としているが、これは日本の伝統や価値観をベースにしている。
    戦前の軍閥は導いた国民の自由を封殺するような社会は明確に否定している。
    この「自由」が「反共」に繋がっているのだと思う。
    抑圧的な国家主義以上に「自由」の希求は巣鴨プリズンでの3年3カ月が影響を与えているようだ。

    ・新安保条約は、岸の思いとしては、米国植民地からの脱却であった。ある部分では成功したのだろうが、現状、米国が日本を拠点としてアジアに睨みをきかせている。つまり、米国のアジア戦略に日本を組み込むベースを作ってしまったことは岸にとっては皮肉な結果なのではないか。

  • [一里塚を振り返って]戦前に革新官僚として頭角を現し、戦後は戦犯として収容されるものの、釈放後わずか5年あまりで総理の座に昇りつめた岸信介。「昭和の妖怪」とも称された男は、55年体制の成立や安保改定という分水嶺でどのように考え決断したのか。編者であり聞き手は、岸信介に関する著作を多数世に送り出している原彬久。


    活字でありながら岸信介の「凄み」がびしびしと伝わってくる作品。安保改定の舞台裏だけでなく、その舞台裏の決定的役割を担った人物が、どのように当時の国外・国内情勢を認識していたかが非常によくわかりました。日本現代政治史の一級史料であるため、その分野に興味を持つ方に対してはもちろんのこと、今日的にも絶対的重要性を誇る日米安保の基礎を考える上でも多くの方にオススメしたい作品です。

    〜安保条約の前提は、みずからの力でみずからを守るという防衛体制を強化することであり、それを基礎に置いて日米対等の立場における日本の安全保障を確立することだと思うんです。日本自身を防衛するということは、何も軍事的な自衛力増強ということだけではないと思うんですよ。それよりも、むしろ国民的な防衛に関する意識、並びにみずからの力をもってみずからの国を守るというね、独立の精神的基盤を確立することが一番大事なんです。しかしこれが、本当はまだ確立していないと僕は思います。〜

    文庫化のタイミングが素晴らしい☆5つ

  • “昭和の妖怪”、岸信介へのインタビューをおさめた本。
    岸氏の視点から、1960年の安保条約改定をヤマとした、戦前・戦後
    の日本が語られる。
    岸氏は、我妻栄とのつながりの印象が強いので、秀才タイプかと
    思っていたが、発言からは豪胆な人物像が浮かんだ。

    吉田松陰、北一輝、大川周明、上杉慎吉と美濃部達吉、保守合同、
    統制経済、反共、満州…。
    岸氏を知る上で様々な人物、キーワードを挙げることができるが、
    ”安保改定をやり遂げるのは日本で俺一人しかいないと思っていた”、
    “安全保障こそ政治の要諦である”と述べ、"自国を自国の力で守れない
    ことは、国民の精神に悪影響を与える"と説く部分に、やはり彼の思想
    の核があらわれていると感じた。

    岸氏が様々な政治家に対して下す評価の仕方も興味深く読んだ。
    総理と総裁は、求められる能力が異なる/田中角栄は決断力・行動力
    はあるが教養がないから日本の顔に相応しくない/鈴木善幸は見識がない
    /宮沢喜一は(頭が良く見識もあるが)人の世話をしないから、政治家
    としては微妙/安倍晋太郎は評判が良すぎてリーダーとしてはダメ、等々
    率直に様々な政治家を評する部分は、リーダー論として読んでもおもしろい。

  • なるほど政治とはこういうものなのか、と。
    また、岸信介という人はこうだったのか、と。

    自分は若い世代ですが、今の日本の政治から感じることと、この岸さんの時代の政治から感じることには大きな隔たりがあるように感じます。なぜか昔の日本に真剣さを感じるのは気のせいでしょうか。

    よく聞く改憲議論について、いろいろと理解できてきたように思います。

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