かたちだけの愛 (中公文庫 ひ 30-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 46
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122058415

作品紹介・あらすじ

事故による大怪我で片足を失った女優と、その義足を作ることになったデザイナー。しだいに心を通わせていく二人の前に立ちはだかる絶望、誤解、嫉妬…。愛に傷ついた彼らが見つけた愛のかたちとは?「分人」という概念で「愛」をとらえ直した、平野文学の結晶!

感想・レビュー・書評

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  • 恋愛物が苦手なのだが、「マチネの終わりに」が良かったので読んでみた。

    タイトルが「かたちだけの愛」とあるので、結局最後別れてしまう話かと思っていたが、どうもタイトルの「かたち」は義足という形あるものをめぐる「愛のかたち」についてを示しているような気がする。

    この作品はプロダクト・デザイナー相良郁哉は、雨の日に職場の近くで起こった交通事故で女優・叶世久美子を助けるが、片足を切断してしまう。偶然にも相良と過去取引がある病院に入院し、病院経営者・原田紫づ香から、久美子の従来の概念を覆すような義足のデザインの依頼を受け、義足制作の中で恋愛に進展するという内容。

    実は、久美子の相良への態度や会話が駆け引きの恋愛のように感じられ、久美子をあまり好きにはなれなかった。
    好きになった人に自分の気持ちを素直に伝えることができない不器用さというより自分のために何もかも投げ出してくれる人か否かを測っているように常に感じる。確かに、事故により突然、昨日の自分とは異なり障害者になり、今まで憧れの目で見られていたのが一転し、哀れみの目で見られるようになるのだから、この駆け引きの態度が事故以降であれば、致し方ないことではある。が、以前からではないかと思ってしまう。こう感じることも久美子を好きではないからであろう。

    また相良にしても、久美子と自分の母とを重ねている理由をわかっているのに、久美子を愛することができるのは、少年時代に叶わなかった母への、母からの愛からなのではないだろうか。

    片足を失った久美子と、相良が制作する義足で繋がった愛のように感じ、儚く感じる。このふたりが同じ思いで互いを必要とするのであればそれも愛かと考えてしまう。私には少し重かった。

  • 平野作品は「分人」という概念でよく言われますが、この概念を特に持ち出さなくても、愛することに揺れ動く主人公の気持ちや考えが丁寧に描き出されています
    無理のない、時にハラハラさせるストーリー展開で、ページがどんどん進みます
    悲惨な事故に遭った女性が、愛されることでそれを乗り越えていく・・・純粋な気持ちでラストでは涙が溢れました

  • 平野作品読了するとかいつも、考えや感情を言葉で表すことの難しさを痛感する。

    作中にも何度か触れられているが、久美が女性には受け入れられにくいということ。これは現実にも多々あることだが、確たる理由も見つからず後付けの理由で人を好きになれないことがある。個人的には感覚で判断していることなんだと思うけど、正に最後までその感覚をもって久実を好きになることができなかった。

    ただ物語でこの感覚・感情を煽られたことに非常に驚いている。じわじわと蝕まれるような気持ちの悪さを味わって欲しいと思うけれど、現実世界で久美みたいな女性に惹かれてしまう人はまた全く別の感想を持つんだろうなぁ。そっちの気持ちも味わってみたいな、と。

  • 平野先生の作品の中では、「決壊」が一番好きだったが、今日から「かたちだけの愛」が一番好きな作品になった。

    「決壊」や「葬送」に比べると話のテンポが早く、物語にどんどん引き込まれ1日で読み終えてしまった。

    こんなに美しい小説を読んだことが無い と感じる程、文章が美しい。

    「あわや だいさんじ」登場の度にクスっと笑ってしまった。

  • 事故で片脚を失った女優と義足デザイナーの間に生まれた愛を描く

    設定も登場人物もそこまで好きになれなかったけど(それも計算のうちかも)、はっとさせられる表現に出会えるから平野さんの本はやめられない

    話としてはシンプルだけど繊細な心理・情景描写でドラマの中に入り込んだ気分になれる

    ✏技能とは、何であれ、その人の時間の使い方の果実である
    ✏愛とは、相手の存在が自らを愛させてくれること
    ✏ひとは純粋な欲望だけでなく、純粋な思いやり、つまりは親切だけでも交われるが、それを愛と錯覚し続けるには少々繊細すぎる

  • ⚫︎受け取ったメッセージ、感想
    印象的なフレーズは、
    「自分勝手に、自分の欲するまま見せること
     =遠慮のなさで愛を示す事」。
    自分では思い至らず、ハッとさせられた。
    遠慮する、気を遣うというのは、
    時にその距離を見せつけられているようで
    寂しい時もある。
    どうしても欲しい!と激しく求める潔さの美しさ
    みたいなものもあるよなぁと思った。



    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    事故による大怪我で片足を失った女優と、その義足を作ることになったデザイナー。しだいに心を通わせていく二人の前に立ちはだかる絶望、誤解、嫉妬…。愛に傷ついた彼らが見つけた愛のかたちとは?「分人」という概念で「愛」をとらえ直した、平野文学の結晶!

  • 穏やかだったり、ゴツゴツしたり激流だったりと色々な流れで読めた。表現も美しく、全て映像となって心に残りました。
    ただ、分人や愛の形についての説明のような所が引っかかりました。
    あえてしっかり書いて伝えたかったのか。
    何となく読者の心に伝わる方が私は良かったと思いました。

  • 平野さんの本も三冊目。

    前回読んだ本が結構私の中ではSF的だったので
    今回は、普通な設定(そうでもないけど)で良かった。

    形だけの愛というか、女の、女優のプライドというか理解できないけど、いろんなことを足し算したりしながらする恋愛っていうのは、やっぱりなんだかね~と思いながら聞いた本だった。

    面白かったけど展開はかなりゆっくり。

  • マチネの終わりにが良かったので2作目。
    単純な恋愛や痴情ではなく、痛々しさや思いやり、自他への愛情など様々な感情が描かれている良作だと思った。
    障がいを持った方の生きづらさと言う社会的課題を作品の軸に据えている点はマチネ…と同様に平野さんの見識の広さを感じた。

  • ありきたりな言い方しかできないけど、ほんとに本当に、読み応えのあるすごい小説です。
    「ドーン」も、宇宙開発から米大統領選まで、すごい壮大な話でありながら、最終的には「愛」のストーリーだったことに驚かされたけど、これはタイトルからしてもちろん「愛」の話です。
    「愛とは何か」っていう究極の問いから書かれた小説なのか、分からないけど、お腹に「ずん」と来る読み応えのある場面が随所に出てくる。

    事故の場面、事故にあった女優をたすけた主人公の“相良”が、彼女に会いに行く場面、彼女と体を重ねる場面、「魔性の女」と言われた彼女が縁を切れなかったヤクザな男との対決場面・・・。
    あと、いい小説は、脇役のキャラが良い。興奮して自分の言うことに「ええ!ええ!」と相槌を打ちながらしゃべる「曾我」、小さなことでも大きなことでも驚きを「マジっすか」で表現する「緒方くん」。義足を作る装具師の「淡谷大三治(あやわだいさんじ)」。

    「かたちのない愛」「かたちだけの愛」「愛のかたち」。
    相良を導いた女性が言う、「愛にはかたちも大事ですよ。単なる恋とは違うんですから」。
    うーん、深い!!!

    平野くんは、たまたま小説家になったけど、もしかしたら宇宙飛行士になっても医者になってもデザイナーになっても一流なんじゃないかな、と思った。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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