「持たざる国」への道 - 「あの戦争」と大日本帝国の破綻 (中公文庫 ま 42-2)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122058217

作品紹介・あらすじ

なぜ日本は世界を敵に回す戦争を起こしたのか?今の日本人は、その意味を正しく捉えられているか?わかりやすい「欺瞞的な説明」を排し、軍事面や外交面にとどまらず、政府や日銀の政策を軸に「あの戦争」を再考。財務出身官僚が、新たな視点で描く戦前日本の「失敗の本質」。

感想・レビュー・書評

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  • 最近ふと思うのは、今日本は「戦時下」にあるんじゃないかと。
    また日本は再度、無謀な「戦争」へと突入しているのではないかと。
    以前の戦争は「敵]がいましたが、今回の戦争は、「敵」がいません。

    今の「戦時下」という状況は、以前と様相がかなり違います。
    以前は、ABCD包囲網より、物資がありませんでしたが、
    今は、外国に依存しながら、物資があります。
    しかし、多くの人が「何か」が足りないと感じています。

    以前は、みんな貧しく、国から好き嫌い関わらず、
    団結するように強制されましたが、
    今は、国民間で経済的かつ心理面での2極化が急速に進み、
    もう互いに助け合うことも、繋がることも、団結することもできなくなりつつあります。

    以前は、国のために命まで捧げていましたが、
    今は、自分のために、他人の命を犠牲にするようになりました。

    このあまりに違う「二つの戦時下」ですが、方向性は同じです。
    それは、着実に日本は「崩壊」へと向かっていることです。

    以前は、300万人以上の犠牲者を出しましたが、
    今は、生きていることに絶望感を感じている人がどんどん増えていっています。
    ある見方では、以前より、今のほうが、より深刻かもしれません。
    なぜなら、「苦しみ」が長期化しているからです。

    黒船来航から日本は外部からの圧力により「変化」せざるを得なくなりました。
    日本は自力で「変化」するのを得意としていません。
    かならず、外部要因で「変化」する国です。
    日本は、明治維新を経て、日清、日露戦争に突き進み、絶望的な太平洋戦争に、
    進みました。多くの人が、あの戦争に反対しました。
    なぜなら、「必ず敗ける」と、多くの首脳部が知っていたからです。

    そして多大なる国民の命と財産を犠牲にして、
    再度外部からの強制的圧力で日本は「変化」しました。

    今、日本が最後に「変化」してから、70年以上経ちました。
    そして、最近再度「外部圧力」が起こりました。
    東日本大震災による福島の原発事故です。

    原子力発電は、戦後日本の経済発展と技術の象徴です。
    その象徴が実は国民の安全と生活を脅かす、凶器とわかりました。

    この「原発事故」が、日本にとって、「変化」する機会でしたが、
    どうやら、日本はもう「変化」できないのかもしれません。
    それは、自力で「変化」することを、
    日本人は、絶望的に得意としていないからです。
    それは、端的に言えば、「変化」することが、怖いからです。

    日本は今「戦時下」にあります。
    行先は、国の破綻、崩壊です。
    これは、もう避けようのないことかもしれません。
    「そんなことはない!」と言う人は、
    多くが自己利益のため「だけ」に発言しています。

    歴史を振り返るのならば、
    日本人は、再度、「外部の圧力」が訪れることを、
    黙って待つしかないのかもしれません。
    でも、今度「外部の圧力」来るのは、いつになるのでしょうか?
    それまで、この「戦時下」を耐えられるのでしょうか?

    自分たちは、再度、太平洋戦争の突入しているときのように、
    絶望的な状況で、その状況を、「おかしい!」と声に出すと、
    それは、「言ってはいけないこと」「良くないこと」と「自動的」に判断されます。
    それは、日本の空気となっています。

    この状況が「戦時下」でなくて、いったいいつが「戦時下」なのでしょうか。

    事実を事実として、発言し、客観的な分析を加えながら、意思決定をし、最適解を見つけるのは、
    「変化」する上での適切な方法です。
    しかし、この「方法」を行おうとすると、
    以前と、同じようにように、言った人は「非国民」扱いされます。

    あまりに似ている「今」と「以前」、
    その「以前」を知る上でも、
    この本は、非常に有益だと思います。

  • 解説が一番わかりやすい。
    理解しやすいが欺瞞的な理由と、理解しにくい真因。
    満州は経済的価値が少なく、リスクリターンで考えれば、リスクが大きかった。アフリカに投資するようなものか。
    中国全体との貿易で得られる利益が高い。
    当時は英米強調だった。

  • はじめに
    第1部 持たざる国への道
     第1章 あの戦争はなんだったのか
     第2章 日本の孤立を招いた上海事変
     第3章 中国戦線の実態
     第4章 「持たざる国」への道
     第5章 予算制約の有名無実化
     第6章 誤算による日米開戦
     第7章 先の戦争が残したもの
     第8章 軍部の暴走を許したもの
    第2部 軍部が理解しなかった金本位制
     第1章 江戸の通貨制度
     第2章 江戸の金銀複本位制から明治の金本位制へ
     第3章 金本位制の番人だった日本銀行
     第4章 英米の中央銀行―悩み多き金融制度の守護神
    おわりに
    参考文献
    関連年表 

  • 東2法経図・6F開架:342.1A/Ma81m//K

  • "「あの戦争」と大日本帝国の破綻"について、とてもよくまとまっている。
    特に財務官僚という著者の経歴を活かした金融・財政的側面からの考察は一読に値する。
    明治はもとより江戸時代の通過システムから解きほぐしており、歴史というものは連綿とつながっており、様々な要因が折り重なった上に起きているのだという当たり前のことを改めて知らしめられた。


    <blockquote>国民総生産が三倍にもなった第一次世界大戦景気が生んだバブルや国民総生産1
    の三分の一が灰燼に帰した関東大震災のもとで生じた様々な門外が、あの戦争への道の背景にはあった(P.204)</blockquote>

    「理解されやすいが欺瞞的な説明」と「理解されがたいが構造的な真因」という対比。2.26事件時の日本は、持たざる国ではなく、世界的に羨ましがられるほど経済的に持てる国であった。にもかかわらず、持てる国が持たざる国に窮乏していったのは、財政を無視した軍部の独走であった。それが「持たざる国へ」陥ったのは、軍の独走による財政破綻を対外的な問題にすり替えた結果だった。

    <blockquote>国民生活を窮乏化させた真因は、「軍部による経済的な負け戦」であったのに、「英米の敵対性k作のせいだと思い込んだ国民は、英米への反感を強め、実はそれをもたらしている張本人である軍部をより一層支持するようになっていった」</blockquote>

  • 金融の面から見たあの戦争への歴史。
    とても勉強になりました。

  • この本は、財務省の広報誌『ファイナンス』に、平成16年4月から平成20年1月まで連載された財政に関する論文を、平成22年に大蔵財務協会から『高橋是清暗殺後の日本』として出版し、さらにそれを改訂したものです。

    内容はまさに、大蔵省財務省から見た日本財政史・日本金融史ということです。
    財政や金融に疎い者(明治維新政府や軍部)の政策や戦略により、日本が「持たざる国」へと転落し、そして戦争に突入していく流れが書いてあります。
    大蔵省財務省から日本がどう見えるのか?を考える際の参考になる本だと思います。

    【参考】
    松元崇氏 の略歴 Wikipediaより引用
    1952年 - 誕生。
    1973年 - 東京大学漕艇部全日本選手権エイト整調。
    1976年 - 東京大学法学部卒業。
    1976年 - 大蔵省入省。
    1980年 - スタンフォード大学経営大学院修了。
    1982年 - 広島県尾道税務署長
    1983年 - 大蔵省証券局総務課課長補佐。
    1986年 - 大蔵省主計局主計官補佐。
    1991年 - 熊本県庁企画開発部部長。
    1993年 - 大蔵省銀行局金融会社室室長。
    1994年 - 大蔵省主税局総務課主税企画官。
    1995年 - 大蔵省主計局調査課課長。
    1997年 - 大蔵省主計局主計官。
    2001年 - 財務省主計局総務課課長。
    2003年 - 財務省大臣官房参事官・審議官。
    2004年 - 財務省主計局次長。
    2007年 - 内閣府政策統括官(経済社会システム担当)。
    2010年 - 内閣府官房長。
    2012年1月- 内閣府事務次官。
    2014年1月- 退官。

  • なぜ日本は世界を敵に回して戦争を起こし、滅亡の淵に到ったのか? 昭和の恐慌から敗戦までの歴史を、現役財務官僚が〈財政〉面から鋭く分析する。

  • なぜ日本は無謀とも言えるあの戦争に向かって行ったのか。軍事面、外交面ではなく経済の観点からの研究は珍しい。
    1930年代、高橋是清による経済再建に成功した日本は、NY株式大暴落の余波に苦しむ欧米諸国よりも遥かに繁栄し、植民地への輸出額は英国を抜いて世界一に達していたという。したがって「持たざる国」を欧米が追い込んだ結果の戦争、という考察には不自然さがある。むしろ「強い元老と弱い首相」を規定していた明治憲法下の政府が、元老の引退やテロによる殺害に依って無力化し、軍部の暴走を押さえられなくなったこと、そして軍部の主導で拡大した中国戦線が日本の好調だった経済をも食いつぶしていったことが望まぬ対米開戦へと繋がっていたのだと考えられる。二・二六事件で凶弾に倒れた高橋是清が、誰よりもこの国の落ち行く先を見通していたのかも知れない。無念である。

  • 戦前、何度も首相候補と目されながらついに首相になれなかった宇垣一成陸軍大将の回想に・・・
    『その当時(1936年2・26事件頃)の日本の勢というものは産業も着々と興り、貿易では世界を圧倒する。英国をはじめ合衆国ですら悲鳴をあげている。この調子をもう5年か8年か続けて行ったならば日本は名実共に世界第一等国になれる。だから今下手に戦などを始めてはいかぬ』状況だった、とある・・・
    そんなに好調だった日本経済は・・・
    2・26事件の翌年の、盧溝橋事件以降、日中全面戦争の泥沼にハマリ、次第に行き詰っていった・・・
    そして・・・
    持たざる国、日本は・・・
    持ってる国々、英米などにブロック経済でジワジワと追い込まれていき・・・
    窮地に立たされた結果・・・
    真珠湾を奇襲し、事前に勝てる見込み無しと何度もシュミレーションされていた対米戦争へと突入・・・
    破滅へと突き進んで行った・・・
    ・・・
    というのが通説・・・
    よく聞いた話・・・

    でもね、と著者は言う・・・
    英米が悲鳴をあげ、もがき苦しんでいる中、すっげー好調だった日本経済が、いきなり持たざる国になって窮乏化していったのではないよ、と・・・
    そうではなくて、経済原理を理解しない軍部の満州経営や経済的な負け戦となった華北経営こそが日本経済を国際的な孤立の中で、ジリ貧に追い込んでいき、その結果持たざる国になってしまったのだよ、と・・・
    でもでも、それを英米の陰謀だと、英米のせいだと思い込んだ国民は、英米への反感を強め、実はその窮乏化をもたらしている張本人である軍部をより一層支持するようになっていったんだよ、と・・・
    そんな状況下で、本来戦う必要のなかった米国相手に戦争を起こし、国土をヒドイ焼け野原にされて敗戦を迎えたのがあの戦争だったんだよ、と・・・
    と、そんな感じに・・・
    経済、財政面からあの戦争を振り返る・・・
    前に読んだ本によると、あの戦争を主導した陸軍にも途中までは諸々一応の戦略があったようだけども・・・
    その戦略のベースでなければならない、経済面での戦略が、まったくなってなかった・・・
    ダメだった、というのが本書を読むとよく分かる・・・

    満州事変や上海事変(実はこっちの方が致命的)などで、国際資本市場からの資金調達ができなくなり、満州経営は、日本国内の経済を犠牲にしまくっての発展であった上に・・・
    さらに!華北における軍主導の無理な円ブロック化政策によって人為的に金(外貨・正貨)が流失・・・
    無理なレートで円と華北の法幣という通貨を固定したため、法幣を円に換えるとそれだけでドンドン利ザヤが稼げて、その分だけ金が華北へ流失し、その金が打倒すべき敵の蒋介石政権の戦費調達を助けちゃうというアホな展開に・・・
    満州で無理をし、華北地域では中国に経済的に敗北し、敵を助けるという大失態を犯す・・・
    そらぁ好調な日本の経済も沈んでいきますよ、と・・・
    しかも、その流れを止めようとした池田成彬蔵相(近衛内閣)も、国内の円ブロック化政策の下、華北への輸出で潤いまくってる中小商工業者の方々に邪魔され、潰されてしまったという・・・
    持たざる国になっていったのは英米のせいじゃなく、日本を主導していた軍部の誤った戦略による自滅のせいである・・・
    しかし、そんな小難しい話には耳を傾けない国民は国家に乗せられちゃって、(そっちの方が話として分かりやすいこともあり)英米のせいだと思い、反米英の感情を強めていき・・・
    今度は国家が、その昂ぶった国民感情の暴走を止められなくなり、合理的な判断を封印せざるをえなくなり、あの戦争に突入していく、という何とも言えない展開になっております・・・

    経済を理解しない方々が国を主導することの危うさ、そしてそういう方々に何となく乗っかっちゃう国民の危うさが、この本にはギッシリ詰まっておるので・・・
    さらに、膨大な資料を元にあの戦争についても細々と書いてありますので…
    これはオススメでごぜます・・・

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著者プロフィール

第二次安倍政権で内閣府次官を務め、アベノミクスの旗振り役として活躍したエコノミスト。

「2019年 『日本経済 低成長からの脱却』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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